【インタビュー】日本のアーティストへ送る、TuneCore Japanの熱きエール
TuneCore Japanが、日本の音楽アーティストを世界に発信するべくサウス・バイ・サウスウェスト(SXSW)とコラボレーションし、<SXSW 2025 Music Festivalコラボオーディション>をスタートさせた。
これはアメリカ・テキサス州のオースティンで開催される<SXSW 2025 Music Festival>(2025年3月7日~15日)への出演をかけたオーディションへの参加を、TuneCore Japanがサポートするというものだ。
Apple Music、Spotify、TikTok、Instagram…ネット上に広がる音楽再生の場へ、広く様々な音楽家/ミュージシャンの音源を世界へ配信すると同時に、アーティスト活動のサポートをも手掛けるTuneCore Japanだが、彼らのウェブサイトに行くと、まず目に飛び込んでくるのは「あなたの音楽でセカイを紡ぐ」というスローガン。そしてその精神性と姿勢は、クリエイティブな人々の目標達成の支援や多様な才能の発見と育成を願い、コミュニティとともにイノベーションを起こすSXSWの理念・活動とも合致するという。
世界を視野に活動を広げるアーティストにとって見逃せない両社の取り組みは、どのような経緯で生まれたのか。TuneCore Japanの全マーケティング活動を担当する堀巧馬氏とUI/UXも含めたウェブディレクションを担当する佐藤裕香氏の両氏に話を聞いた。
Anna Hanks from Austin, Texas, USA, CC BY 2.0
──TuneCore Japanの「あなたの音楽でセカイを紡ぐ」という言葉、素敵ですね。
堀巧馬:TuneCore Japanの根幹はディストリビューションサービスと言われているもので、ここがレーベルさんと全く違うところなんです。弊社はディストリビューションを軸に利用していただくアーティスト全員がそれぞれの音楽活動において確実に役立つ様々な機能を提供するwebサービスであることがベースにあります。より多くの日本に存在するアーティスト…バンドはもちろん、トラックメーカー、シンガーソングライター、ボカロP…ジャンルや形式問わずに幅広く多くの音楽クリエイターが自身の楽曲を世界中に配信できるインフラを整わせることが、弊社のサービスです。
──それがディストリビューターという業種ですね。
堀巧馬:インディペンデント・アーティストの誰でも、音源を世界でリリースできるようにすること。さらに言えば、それが継続的に続くことですよね。しっかりアーティスト活動が行えるような社会になる…そんな環境作りも大事ですよね。音楽活動ってそもそも楽しんでやるところが根底にあると思いますので、楽しみながらしっかり収益化もできるということが、我々が目指すべきのところかなとも思っています。まずはそのインフラ部分が、ディストリビューションサービスなんです。
──間口は誰にでも開かれているのですね。
堀巧馬氏(TuneCore Japan)
堀巧馬:はい。でも大事なのはインフラを整えたその次のステップです。配信したらみんながみんな売れるようになるのか、自分の音楽が聴かれるようになるのかというわけではない。アーティストも色んな方がいて、自宅のPCで音楽を作ってそれだけで活動している方もいれば、企業のバックアップを受けている方もいる。活動の幅はかなり広いわけですが、やっぱり企業からピックアップされないと音楽で生活できなかったり、世界に出ていくにもいろんなハードルがあってどうしても難しいということもあるんです。
──現実はそうですね。
堀巧馬:実態としてそうです。クリエイターって物づくりにこだわるわけですが、そこに企業なり第三者のバックアップがあることによって、活動の幅はより大きく広がっていくんです。今までだったら絶対に知り得なかった人たちと繋がれたり、イベントに出られたりして、ステップアップするんですね。そういうきっかけや出会いは、インディペンデント・アーティストにはできないんだっけ?っていうところこそ、弊社が着手していくべきところなんです。
──なるほど。
堀巧馬:今回のSXSWとの取り組みもまさにそれです。<フジロック>の「ROOKIE A GO-GO」ステージ出演オーディションとか、<LuckyFes'24>への出演権をかけた「Battle to LuckyFes」オーディションの開催とかもそうですね。ラジオ局やメディアと弊社がハブになって、アーティストの楽曲がいろんな人たちと繋がり、それが最終的にひとつの大きなうねりになる。そういうことを目指しながら、いい感じに余白を残しつつ、いろんな方々やアーティスト、楽曲が繋がることによって、次の科学反応が起こっていく。そういうところに「あなたの音楽でセカイを紡ぐ」というコピーがあります。
ROOKIE A GO-GO
「Battle to LuckyFes」オーディション
──なんかワクワクしてきました。
佐藤裕香 :そういう気持ちになってほしいと私たちも思いながら、いろんな活動やプロモーションをしているんです(笑)。
──自分の活動の輪が、色んな人を巻き込むことによってどんどん大きくなっていく…そういう状況を肌で感じられるのは、アーティストのメンタルをより健やかで強力なものにしてくれますし、それこそが素晴らしい楽曲を生み出す最高の活力剤ですよね。
堀巧馬:おっしゃる通りと思います。本当にね、楽しむことを忘れちゃうと、音楽活動ってどんどん苦しくなってくるんですよ。
──好きで楽しくて始めたのに、なぜ苦しくなっちゃうんでしょうね。
堀巧馬:音楽って、もともとはやっぱり芸術で、正解のないもの。一方でビジネスとしての側面もあるので、そうなってくると、自分がやりたいことと世間から求められるものとのバランスを取るのが難しいですよね。
──アートかエンタメか…難しいですね。
堀巧馬:そこのバランスが取れるようになるのって、やっぱり人との繋がりとかいろんなチャンスだったり、視界が広がるきっかけですから、「音楽が楽しいな」とか「生涯音楽活動をやっていきたい」と思えるような、そんな一助になればいいなって思います。
──そういう意味でも、<SXSW 2025 Music Festivalコラボオーディション>のスタートは必然的なものですね。
Anna Hanks from Austin, Texas, USA, CC BY 2.0
堀巧馬:そもそもSXSWとは2017年からいろいろな取り組みを行なっていたんです。2020年のコロナの影響で数年間の空白があったのですが、やっぱり日本の音楽が世界に出ていくことを大事にしたい。SXSWはリスナーや海外の業界の人と濃密なコミュニケーションが取れる入り口ですから、そこへ参加するまでの敷居をどれだけ下げられて、なおかつそれがより多くのアーティストに伝わって、みんながエントリーできるチャンスが得られるのであれば、その窓口はTuneCore Japanがやるべきだよねと思っています。
──言語の問題もあってか、日本には海外進出に苦手意識をもったアーティストも少なくないですよね。
佐藤裕香 :SXSWへの挑戦は、エントリーの段階から 当然ながらすべてが英語なんです。ですので、今回の取り組みの一環で、応募要項などを日本語化してエントリー費を無料にしました。本来SXSW公式からエントリーすると35ドルかかるんです。私たちが間にクッションになることで、ちょっとでもハードルが下げられたら良いなと思いながら。
──TuneCore Japanからエントリーするだけで35ドルが無料になるのか。
佐藤裕香氏(TuneCore Japan)
佐藤裕香 :そうなんですよ。もともとエントリーだけでもお金がかかるので、今回「日本のアーティストでよかった」って思ってもらえるかな(笑)。それこそエントリーに受かったら、ビザとか渡航や宿泊の準備などいろんなことを準備しなきゃいけないんですけど、まずは「応募する」っていう第1歩を踏み出すことが大事だと思うんです。無料ですから。
──それでもし受かったら、きっと世界が変わりますよね。
佐藤裕香 :すごく変わります。「自分にもこんなチャンスがあったんだ」という。可能性をちゃんと掴むためには、まず1歩踏み出さなきゃいけないんだなっていうのを、多分実感していただけるかなとは思います。
──エントリー条件は、TuneCore Japanから楽曲を配信していることになりますか?
佐藤裕香 :いえ、今回はTuneCore Japanでの配信楽曲はなくても大丈夫なんです。アカウントの登録だけは必要ですけど、楽曲の登録がなくても自分のプロフィールだけで応募ができます。なので、SNSやホームページをしっかり構築したり、自分の魅力をきちんと伝える作業が大事になるんです。
──「こいつ面白そうだな」って思ってもらえるように。
佐藤裕香 :そうです。やっぱりパフォーマンスを評価されますので、動画をちゃんと見られる環境を整えておくとか、メディアに取り上げられた記事や活動履歴などもエントリーの時に入れておくことも有利に働くポイントになります。本国も同じ条件でエントリーを受け付けているので、全世界同じ条件で闘っている感じですよね。
──押さえておくべきポイントやヒント、アドバイスなどはありませんか?
佐藤裕香 :エントリーに関しては、英語が苦手でもGoogle翻訳とか使って、しっかり自分をアピールすることです。SNSの情報だったり、任意ではあるんですけど持っているなら日本語でもプレスリリースの記事やオフィシャルサイト などのURLとかも入れたほうが良いと思います。あとは、アーティストとしての活動歴…「何年活動してます」「どういうところでやってました」「どれぐらいのキャパは埋められます」とか「こういうアーティストと対バンしてました」とか。あと「SXSWに出ることで達成したい目標 」を入力する項目もあるんですよ。自分たちが世界に対してどう思ってるかとか、SXSWをきっかけにしてどうなりたいのかビジョンを持ってるかどうかも、きっと見られるはずです。英語が流暢じゃなくても、そこはちょっと頑張って書いてほしいです。熱意はしっかり伝えてもらえた方が良いので。
──ミュージシャンとしての履歴書ですね。
堀巧馬:「こいつ面白そうだな」と思ってもらう視点ですね。やっぱり音楽家は、自分が楽しい・自分がやりたいことを突き詰める方がいいですけど、同時にどこかでそういった目線を持っておくのもすごく大事かなと思います。例えば自分がその履歴書を出された時に、こいつめっちゃ面白そうだなって思うかどうか。
──ええ。
堀巧馬:情報は多ければ多いほどいいんですけど、やっぱり「見せ方」ですよね。逆にあんまり活動歴がなくて実績で闘えないのであれば、どういった要素が自分にとって面白いと思ってもらえるポイントなのかを創意工夫するのも大事なスキルなのかなと思います。全然活動歴が長くなくても、見せ方次第では十分闘えると思うので、尻込みせず改めて客観的に自分の履歴書を見た上で「こいつ面白い」って思えるかどうかに着目してほしいです。
──自分を客観視してみるだけで、新たな気付きもあるかもしれない。
堀巧馬:ほんとそのとおりですよね。
──アーティストはみんなエントリーに挑戦したほうが良さそうだ。
佐藤裕香 :SXSWでは1200組以上のアーティストがパフォーマンスしますけど、そのうち日本のアーティストって、2023年だと20ちょっとくらいなんです。もっと増やすことができたら、我々がその一助になれたら夢があるなと思います。
Ako at the 2024 SXSW Music Festival Photo by Jon Currie
The fin. at the 2024 SXSW Music Festival Photo by Abigail Cook
──新人やインディペンデント・アーティストのみならず、再評価の波が来ている1970~1980年代のレジェンドアーティストなどにも、いろんなチャンスがありそう。日本のコンテンツは世界的にも注目度が高いわけだし。
堀巧馬:行動に出てほしいですよね。今はデジタルの時代ですから、ストリーミングの回数や再生数などすべてが数値化されているじゃないですか。数字に敏感になると小さな数字には気に留めなくなると思うんですけど、例えば、日本のアーティストが8~9割近くが国内で聴かれているとなった場合、残りの1~2割に目を向けるべきだなとも思うんです。数字上は少ないんだけどそこには意味があるはずで、例えばその1~2割で「やたらジャカルタで聴かれてる」のであれば、1回ジャカルタに行ってストリートライブをやってみればいい。現地と交流して、なんで自分を好きになってくれたのかを感じてみる。そこで活動していたら、知らない間に日本に逆輸入されていたっていうパターンもあるんですから。
──確かに。
堀巧馬:TuneCore Japanでも、台湾で火がついて逆輸入のかたちで日本で活動を始めるアーティストがいます。数字が見えるのであれば、大小じゃなくて「そこに反応があった」という事実をすごく大事にするべきで、そこを深掘りする行動力が大事なのかなと思います。
──勉強になるなあ。
佐藤裕香 :「ジャカルタの人ありがとう」ってSNSのレスだけで終わるのはもったいないですね。それこそ可能性ですから、そこには可能性が詰まっているので。
──尻込みしていると損しますね。
佐藤裕香 :SXSWの話を聞いていても、日本の音楽はオリジナリティーがすごく幅広いと評価されていますよね。日本のなんでもポップスを集めたガチャポップみたいなプレイリストができたり、日本の音楽ってだけで、海外の人が面白がってくれたりもする。注目度がすごく高い状態なので、ここでやっぱり日本として「世界を魅了するオリジナリティのある音楽がたくさんあります」と言い続けていきたいですよね。
堀巧馬:ボーカロイドの文化も日本特有だと思いますし、日本で作られて今では世界中で愛されている。アニメの文脈でのアニソンがジャンル化されているじゃないですか。BPM120以上で疾走感のあるちょっとロック調のものがアニソン、みたいな。そういう状況を見ても、僕はすごく可能性を感じますね。
佐藤裕香 :初音ミクは2024年の<コーチェラ・フェスティバル>でステージに出てますしね。日本の文化も闘えるんだなって思います。
──アーティストからTuneCore Japanにどんな声が届けられるか、とても楽しみですね。
堀巧馬:本当に楽しみですね。「何かが起こるかもしれない」っていうところをアーティストと一緒に楽しみたいと思っています。
取材・文◎烏丸哲也(BARKS編集部)
Ryan Mattson from The city named for St. Francis, CC BY-SA 2.0
「SXSW 2025 Music Festival 出演オーディション」
※TuneCore Japanでアカウントを持っている全てのアーティストが応募可能です。レーベルの所属や年齢、性別、演奏スタイル、個人・グループ、ジャンル等は問いません。
■応募資格・注意事項
・ショーケースの行われる2025年3月7日~15日の間いずれの日程・時間帯でもパフォーマンスを行うことができる方。
・SXSW2025事務局との英語でのやりとりが可能な方。
・渡航費・滞在期間中の宿泊費や飲食費、およびビザの取得費など出演するための費用を自己負担できる方。SXSWはアーティストへ旅費や宿泊費を負担したりすることはありません。渡航費や宿泊費含めて、費用がかかります。
・ご自身で出演のためのビザ(商用ビザやESTA)を取得することができる方。
※米国居住者ではないアーティストは、米国入国およびパフォーマンスのためのビザを自分で確保する責任があります。詳細については、海外アーティストに関するよくある質問をご覧ください。
■ 応募方法
・上記特設ページページより、応募に必要な情報を入力のうえご登録ください。
・楽曲データは必要ありませんが、応募に当たっては、最新の、アーティスト写真、WebサイトやSNSのURL、サブスクリプションサービスのURLで登録ください。
・応募情報はすべて英語で入力ください。
・SXSWからメールが届く場合がございます。@sxsw.com のメールアドレスを許可し、確認ください。
※今回の出演オーディション特設ページから応募すると、通常エントリー時にかかる「$35」のエントリー料が、「無料」(その他出演時の諸費用はかかります)で応募可能。
※よくある質問・お問い合わせはSXSWのミュージックショーケースFAQもご確認ください。
◆海外アーティストに関するよくある質問(SXSW)
◆SXSWのミュージックショーケースFAQ(SXSW)
◆「SXSW 2025 Music Festival 出演オーディション」特設ページ