【インタビュー】清水美依紗、新曲「Wave」に込めた感情の波と挫折と躍進を語る「小さな幸せは一輪の花からでも受け取れる」
ディズニー『アルティメット・プリンセス・セレブレーション』テーマソングの日本版「Starting Now 〜新しい私へ」の歌唱で一躍注目を集めたシンガーが、清水美依紗だ。2022年にメジャーデビューを果たし、現在はアーティスト活動のほか、『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』などミュージカルの場でもその歌唱力を発揮している。
◆清水美依紗 画像 / 動画
7月2日に配信リリースされる新曲「Wave」は、TVアニメ『僕の妻は感情がない』のエンディングテーマであり、自身初のアニメタイアップソングとして届けられる。自身の感情をかたちにすべく作詞作曲に深く関わり、丁寧に作り上げられたサウンドは心地良い。それらサウンドとビートの中で柔らかに響く歌声は、これまでのシングルとは異なる新鮮な質感も持つ。アニメ『僕の妻は感情がない』の世界はもちろん、多くの人の心に優しく寄り添うはずだ。
歌手を目指したきっかけから、ニューヨーク留学とコロナ禍での挫折を経ての躍進、「Wave」に込めた想いまで、じっくり語ってもらった。まっすぐのびやかな歌声に秘められた、繊細な心と熱い信念を感じてほしい。
◆ ◆ ◆
■私は音楽にすごく救われてきたので
■絶対に楽しむことを忘れない
──まず、音楽や歌と出会いから教えてください。
清水:もともとヴァイオリンとピアノをやっていて、歌より楽器が最初なんです。母がクラシック好きで、家ではクラシック音楽か、'80~'90年代の洋楽とか、ディズニー音楽がよく流れていたので、それが入口になりました。歌を始めたのは、中学で合唱部に入ったのがきっかけです。合唱コンクールにたくさん出るような学校だったので、そこでソロパートをもらったりして、人前で歌を披露するようになりました。
──合唱部で歌う楽しさに目覚めたと?
清水:それは、また違うタイミングがあって。歌とダンスとお芝居のワークショップに参加した時に、一人でソロを任されてミュージカル『レ・ミゼラブル』の「On my own」を歌ったんですけど、その体験が歌手になりたいと思ったきっかけです。そこから自分が好きな音楽や歌のジャンルをたくさん聴いて、歌を練習するようになりました。高校で声楽を学びつつ、学校外でアマチュアの大会に出たり、カラオケで歌ったり、動画チャンネルにアップしたりして、基本的には独学でやっていました。多ジャンルの歌を歌えたらカッコいいだろうなと思って、ジャンルに縛られずに練習していましたね。好きなアーティストさんの真似をしたり、曲を聴いてどうやって声を出しているのか研究しながら毎日歌っていました。
──歌を歌うのが好きというのもありつつ、歌の研究も楽しめるタイプ?
清水:そうなんです、歌オタクでした(笑)。“どうやったらこういう高音が出るんだろう”とか、“どうしたらこんなふうにリズム良く歌えるんだろう。グルーヴを出せるんだろう”って研究するのが好きで。もし、ちゃんとしたボーカルコーチについて学んでいたら、自分の音楽性も変わっていたかもしれない。独学である程度まで追求できたのはいい財産になっています。
▲「Wave」ジャケット画像
──ちなみに、その頃に憧れてたアーティストというと?
清水:一番はアリアナ・グランデですね。キャラクター性も好きだし、もともとミュージカルをやっていたというキャリアにも共感できるし。彼女は今もずっと憧れの存在です。
──声楽を学んだ高校卒業後は、ニューヨーク留学(ニューヨーク・フィルム・アカデミー・ミュージカル・シアター)に行ったんですよね。
清水:はい。今言ったように音楽の技術的なものを追究しすぎて、表現力が足りないんじゃないかと感じていて。『レ・ミゼラブル』の「On My Own」をきっかけに歌手を目指したのであれば、原点であるミュージカルの本場で学んでみたらどうだろうと思って挑戦しました。いわば歌手になるための過程のつもりだったんですけど、実際にニューヨークでミュージカルを勉強してみると楽しくかったんですよ。自分の技術や表現力を使って役を演じる楽しさに気づいて、ミュージカルもやりたい!と思うようになりました。
──ニューヨークは、世界中からいろんな人が集まってくる厳しい世界というイメージもありますが。
清水:もちろん何度も心が砕けましたし、打ちのめされました(笑)。やっぱり歌もお芝居もできて当たり前な人が集まっているので、その中で“あなたにどんな個性があるの?” “あなたは何がスペシャルなの?”という部分が審査基準になるんですよね。個性をすごく大切にしていて、そこは日本との大きな違いを感じました。
──価値観が大きく変わる経験だったんですね。
清水:本当にそうですね。あと、ミュージカルを学んだことによって、歌詞がいかに大事なものなのかを知りました。ニューヨークに行くまでの自分は、あまり歌詞のことを考えず、歌の技術だけで歌っていたんですよ。歌詞を喋るように意識すると、表現力が全然変わってくるのがわかって。今、自分がオリジナル曲の歌詞を書く時にも役立っています。
──ニューヨークから帰ってきたあと、ディズニーの『アルティメット・プリンセス・セレブレーション』テーマソングの日本版「Starting Now 〜新しい私へ」が大きな話題になりました。どういういきさつで抜擢されたんですか?
清水:ニューヨークから帰ってきたのが2020年で、ちょうど世界中がコロナ禍に入ったタイミングだったんです。自分が学んだことの意味や未来がまったく見えなかったし、ニューヨークで打ちのめされた経験もあって、気持ちが完全に落ちてしまって。もう歌はやめようとまで思っていました。でも、お母さんが「先のことはわからないけど、自分が楽しいと思うことは続けてもいいんじゃない?」と言ってくれて、「歌を届けられる手段ならSNSがある」ってTikTokを勧めてくれたんです。それで、TikTokにアリアナや自分の好きな曲のカバー、それこそディズニーソングを歌っていたら、ディズニージャパンの方がその動画を見てくれたみたいで。「テーマソングに」と声をかけていただいたんです。
──すごく運命的ですね。コロナ禍は音楽を目指す人にとって大きな衝撃でしたけど、逆にSNSでの活動に注目が集まって、才能が世に出た印象があります。
清水:夢がありますよね。今まで、歌手になるにはまずオーディションを受けたり、事務所やレコード会社と契約してから、みたいな壁がありましたけど。SNSの時代になったからこそ、その時代を生きている人たちが素直に求めている音楽を聴くようになったんだと思います。SNSを勧めてくれた母に感謝していますし、歌を楽しむことを忘れなくて本当によかったです。もう諦めかけて、ホテルの清掃員のバイトをしてましたからね(笑)。一度、歌とはまったく違うことをしようと思って。
──そうだったんですね。SNSにアップした歌に反響が返ってきた時の喜びは大きかったですか。
清水:とてもうれしかったです。初めてバズった時、見たことのない再生回数になっていて。もともと高校生の時からミックスチャンネルなどのSNSはやっていたんですけど、はるかにすごい数字で驚きました。TikTokは一度動画が回り始めたらどんどん拡散されていくじゃないですか。いろんな人から「動画見たよ」「オススメに上がってたよ」って連絡がきました。
──まさかそれがディズニーにも届くとは!?っていう。
清水:そう、まさかですよね! お話を伺って、「もう、やるしかない!」って。絶対無理だと思いつつも、大丈夫だ!と信じて飛び込みました。
──「Starting Now 〜新しい私へ」はディズニー音楽や歌の力を感じる曲ですが、どんな気持ちで向き合ったんですか。
清水:私自身、ずっとディズニーが大好きで、いろんなプリンセスたちから勇気や夢をもらってきたので。それまで自分がもらっていた希望を今度は与える側になるわけですから、すごく責任感を感じました。しかも、「Starting Now 〜新しい私へ」を歌うことが決まった時、まだ日本語訳ができていない状態だったので、縁があって歌詞を訳させていただいたんです。13人のプリンセスたちのイメージや想いを日本語でどう入れ込むか考えて訳したんですが、本当に貴重な経験でした。どんなプリンセスも目的や信念がはっきりしているんですよね。歌うのは私でありつつ、プリンセスたちがみんなの背中を押してあげているというふうにもしたかったので、そういうところはこだわりました。
──実際、YouTubeのコメント欄などには“元気や勇気をもらえた”というコメントがたくさん書かれていて。しっかり届けられたという実感はありますか?
清水:リリースされてどんな反応がくるか、まったく想像できなかったので。いろんな番組などで歌わせていただく時、とにかくリアルタイムで今聴いている人たちがどう感じてくれるのかを意識して、音源以上に一つ一つのパフォーマンスを大切に歌ったんです。それをきっかけに、たくさんの人が音源にアクセスしてくれて、聴いてくれて…。ディズニーのファンの方以外でも、スポーツ選手の方が「Starting Now 〜新しい私へ」を応援ソングとして試合を流してくださったりして、幅広くこの楽曲に救われている方がいるんだと思うとうれしいです。
──メジャーデビュー以降のご自身の音源でも、美依紗さんの歌声は人に元気を与える声という印象があります。歌の力を信じて、楽しみながら歌っている感じが伝わってきて。美依紗さんご自身にとっても歌は元気をもらえる存在ですか?
清水:そうですね。今は職業として歌を歌って届けていますけど、何よりも、歌だけに限らず私は音楽にすごく救われてきたので。同時に、音楽を届ける側も楽しんでいるほうが、よりたくさんの人に届くんじゃないかなと思います。直前までプレッシャーを感じていてもいいから、ステージ上では絶対に楽しむということを忘れないようにパフォーマンスしています。
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