【インタビュー】たどり着いた“lynch.らしさ”

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lynch.が6月26日に、最新作『FIERCE-EP』をリリースした。

◆撮り下ろし写真

2023年3月にリリースしたアルバム『REBORN』では、初めて作曲をするメンバーを含め各自2曲ずつを持ち寄って制作するという新たな試みを行ったlynch.。それを経て今回リリースされる本作は、“激しい”“獰猛”といった意味を持つ語をタイトルに冠し、その名の通りlynch.の持つ激しさを打ち出したEPとなった。

BARKSではリリースに寄せてメンバー全員にインタビューを実施。この2作の流れを中心に、いまのlynch.の制作スタンスを探った。そこにあったのは、揺るがないlynch.としての自信だった。



   ◆   ◆   ◆

◼︎コンパクトで、激しいもの。そういうシンプルなテーマでした

──さかのぼった話になりますが、2022年にlynch.としての活動を一時休止して、その時期にソロや別プロジェクトなど、メンバーそれぞれの活動をスタートさせました。その後、lynch.として活動を再開させ、2023年には約3年ぶりのアルバム『REBORN』を発表しています。以前は作詞も作曲も葉月さんがメインで作っていましたが、『REBORN』では各メンバー2曲ずつ作曲するという新たな試みもしました。時間が経った今、『REBORN』の仕上がりをどう捉えていますか?

明徳(B):新しい試みである反面、反省点がとても多かったんです。でも『REBORN』がなかったら次に行けなかったと考えれば、もちろん大きな意味はあった。ただ、個人的にはもうちょっとやれたなって気持ちがずっとあって。

──曲の煮詰め方が物足りなかった?

明徳:煮詰め方というか、作曲のもっと基本的なことですね。それで猛省して、次の曲を作り出したって感じです。

玲央(G):確か『REBORN』のときに、ある意味lynch.にとって1stアルバムみたいになるって話をしたんですよ。でも明徳が言わんとしていることもすごい分かる。もっとできたんじゃないか、と。ただ、新しいやり方を模索していくことが、すごく大事な時期でもあったんです。あのタイミングで、ああいった試みの作品を作って良かったと考えています。

▲明徳(B)

──シリアスなことを言えば、2022年あたりはバンドとして、相当、もがいていただろうと思われます。

玲央:模索していた時期でした。今後の自分たちを活かしていくために、どの手法をとったら一番いいんだろうと。頭の中でいろいろ考えても、結局、蓋を開けてみなければ分からないことだらけ。それがバンドというものだと思うんですよ。それで各々が監修した楽曲を入れた作品という、lynch.にとって大実験をしてみたんです。結果、こういった面は良かった、でもここは今度はこうしていこうかなど、ある意味、指針にもなりました。lynch.にとって新たなスタート地点という感じになったかなと思うんです。

──個人的な感想を言うと、演奏しているのは間違いなくlynch.の5人ではあるけど、各曲の方向性や色合いの違いがありすぎて、オムニバス・アルバムを聴いている感覚でした。

玲央:うん、その通りだと思います。

悠介(G):個人的な制作レベルは上がったかなってのはあって。シンセをより使ったソングライティングが、自分の中ではでかかったです。それまではギターだけでなんとかしようとしていた部分を、最初からシンセを使って、ギターでは出せない音で曲を作っていったんです。しかも楽しみながらやっていたんで。バンドを一度止めて、別の音楽活動をやっていったとき、シンセを使う機会も多かったんです。そのやり方をlynch.に落とし込んでみたらどうなるんだろうって。あと以前から自分が好きな洋楽の要素をlynch.に落とし込めないかなって考えも、ずっとあって。それをようやく『REBORN』のときに形にできたんです。いろんな意味でモヤモヤしていたものが、『REBORN』を作ったことでうまくはがれた感じで。

──突破口を切り開くことができたわけですか?

悠介:個人的にはそうですね。

晁直(Dr):いや〜、逆に俺はすごく猛省しなきゃいけない(笑)。作曲に関しては素人だったので。今でも素人に変わりないけど、作曲は経験を積まないと成長できないところもあると思うし。未だになにかを狙って曲を作るなんて無理ですけど、地道にやっていくしかないなって、あのときから今も変わらず思ってます。『REBORN』のときも、結局は葉月くんにアレンジを手伝ってもらったりしたんです。無事に完成させられて、ホッとしたっていう感じでしたね。

▲悠介(G)

──「THE FORBIDDEN DOOR」と「ANGEL DUST」は、ファンに好評だったじゃないですか。手ごたえは?

晁直:ないっす、ないっす(笑)。

──いろんな感想が出ましたが、もともとメンバーそれぞれ作曲してみようというのは、葉月さんが提案したんですよね?

玲央:葉月の提案という感じでもなく、みんなで決めたような気がする。

葉月(Vo):僕が提案したかは覚えてないんですけど、アルバムを作るならそういうやり方しかないよね、という感じでした。精一杯だったんですよ、当時の自分は。フルサイズのアルバムを作れるほどの曲数を、あの時期の自分は持っていけない状態だったし。でもレコード会社に所属している以上は、出さなきゃいけないタイミングというのがある程度決まっていて。アルバムを出すなら、今はみんなで曲を持ち寄るしか方法がないって。

──ソングライターとして煮詰まりを感じていた頃、ということですか?

葉月:いや、もう煮詰まり切った後の時期ですね、2022年は。しんどいなと思っていたのは、2020年のアルバム『ULTIMA』の時期。その頃が一番苦しんでいて、みんなに「ちょっともう厳しいんだよね」という話をしたのが、2020年10月ぐらい。それでいろいろ話し合って、2021年の活動をもってlynch.を休止して。活動を再開した2022年9月には、問題は解決していたはずなんですけど、フルサイズのアルバムを作れるほどのアイデアは自分には貯まっていなかったし。それでみんなで曲を作ろうかってことになったのが『REBORN』。ただ、言われたように、オムニバスアルバムのように感じてしまったりとか、いろんな感想があると思うんですけど、あのときはもうあれがベストなので。

──でもメンバーそれぞれが作曲と、その曲のプロデュースも担当しながら形にしていったから、身になることも多かったのでは。

葉月:今回の『FIERCE-EP』を作るにあたって、それぞれに曲出しをしてもらったんですけど、デモのクオリティが上がってましたからね。やっぱ、やってみるのは大切なんだなと。

玲央:どういったことが大変なことで、どれぐらい時間が掛かるかってことを、『REBORN』の制作を通して、身をもって経験しましたから。僕も含めて、みんなの意識は変わったと思いますよ。

▲葉月(Vo)

──2022年の活動再開、そして新たなスタートと言うべき2023年の『REBORN』があって、意識が変わった今があると。一方でみなさんはlynch.以外の活動も精力的に続けていますよね。lynch.以外の表現の場があるという捉え方もできますが、どういったマインドで続けているんですか?

葉月:それぞれ違うと思いますけどね。僕は意識的に切り替えなきゃって感じでもないんです。プレイする楽曲がけっこう違うので。もっと言えば、ソロはなんにも考えてない。lynch.では、今まで作り上げてきたイメージも大事にしていきたいんですよ。ぶっ壊して新たな挑戦みたいなものは、昔からlynch.に関しては求めていないっていうか。ソロに関しては思いついたことを全部やるっていう。だからスタンスから違うんです。

玲央:僕は完全にチャンネルを切り替えています。keinというバンドでもリーダーをやらせてもらってるんですけど、メンバーのタイプがlynch.とは全然違うんですよ。僕自身が「えっ、なんで!?」って思うことが多くて。lynch.での常識が、keinでは通じなかったりもするんですよ(笑)。これはいいとか悪いとかではなく、ね。まるで海外の方と接しているような、それぐらいの衝撃なんですよ。感性がこんなにも違うのかと。あとステージでの立ち位置も違うんです。keinでは僕は下手(しもて)なんで、悠介はいつもこういうふうに見えていたんだって分かったり。それに使うギターも、lynch.で使っているものを敢えて封印して、keinではごく一般的なスケールのストラトを使っているんです。lynch.では弾かないようなフレーズをプレイしているんで。だからkeinでは別人格にならざるを得ない(笑)。自分にとってlynch.以外の活動は、挑戦という意識が強いかもしれないです。

晁直:僕はサポートドラマーとしてdeadmanもやっていますけど、バンドが違うから曲も違うし、曲のスタイルも真逆で。そのへんは自分なりに考えてやってますけど。レコーディングのプロセスも真逆すぎて、気を使わないでいられるというか。lynch.はガッチリ固めてからレコーディングに臨むんですけど、サポートのほうはものすごいおおざっぱで(笑)。レコーディングで曲の尺を間違えても、「うん、それでいいよ。俺たちが合わせるから」って言われて。作曲ではパソコンを一切使わず、みんなでスタジオに集まってやるっていう。昔ながらのやり方で新鮮だったですけどね。

▲晁直(Dr)

──あと悠介さんは健康というプロジェクトをやったり、明徳さんはVIVACEというバンドや他にもサポートなどもやっています。いろいろやってみて、だからこそlynch.のおもしろさを再確認することも多いですか?

玲央:良さっていうのがよく分かります。ここは大事にしたいなとか、他にはないなとか。そういうことを思うときが多いですよ。基本的にlynch.のメンバーは真面目なんで、制作をするとなったとき、ちゃんと構築したものをそれぞれが持ち寄る感じ。その中ですり合わせして、さらに構築していくという。更地でここをどうしようかねってことが、まずない。みんな責任を持って期日までに仕上げてくるというのは、lynch.らしいなって。勤勉なんですかね、lynch.のメンバーは。

──勤勉で完璧主義なのは悪いことではないんですけど、歯車でいう“遊び”みたいなものはそこにあります?

玲央:僕からの視点になるんですけど、できるから遊べる──というのを最近の葉月からとくに感じる。できない人間は常にあっぷあっぷで、遊びすら見つけられない。ライブ中にアドリブを利かせられるのは、完璧にできるからなわけであって。葉月を見ていて、なるほどな、と思いましたね。ここ最近のライブでは、他のメンバーもレコーディングでは弾いていなかったアドリブをちょいちょい挟んでくるようになって(笑)。それは余裕のある人間だからできるわけですよ。

──自分のアドリブに他のメンバーも切り込んできてくれるだろう、という信頼感もそこにはあるはずですよね。

玲央:そうです。『REBORN』を作って、1ツアー経て、次に“無印ツアー”と呼んでいる冠のないライブハウスツアー<TOUR'23 THE CRAVING BELIEVERS>もやって。それがいまにつながっているんです。

──身になることの多いこの数年間だったわけですね。lynch.は作品を作るとき、コンセプトや方向性をカッチリと決め込むタイプだと思っているんですよ。『REBORN』に続く作品『FIERCE-EP』の制作にあたって、そういった話し合いも?

葉月:コンパクトで、激しいもの。そういうシンプルなテーマでしたね。わりと早い段階で話にあがってました。ミニアルバムのサイズで、激しい方向に片寄っているもの。敢えて作品全体のバランスを取らず。そういうものにしたいねって話していました。

▲玲央(G)

──今回の『FIERCE-EP』は、葉月さんが作詞と作曲をメインで手がけていて、『REBORN』以前の体制に戻ったとも言えますが。

葉月:自分が完全に作ったのは「UN DEUX TROIS」と「EXCENTRIC」の2曲ですけど。「REMAINS」は作曲が悠介。「斑」は原曲が明徳、「A FIERCE BLAZE」は原曲が玲央さん。『REBORN』がオムニバスアルバムっぽく聴こえたとおっしゃったじゃないですか? 「斑」と「A FIERCE BLAZE」に関しても、「lynch.としてやるなら、もうちょっとこうしたほうがいいよねってことを、僕がやっていいですか?」という話をしたんですよ。lynch.として出すなら、こういうほうが多分いいと思うんですよねってアレンジを。



──長年培ってきた核の部分ですね。

葉月:そう。他のアレンジャーに投げるよりも、僕がやるほうがlynch.らしくできるという自負もあるんで。やっぱり“lynch.らしさ”ってものをファンのみんなも望んでいるのかなと思っていたし、バンドとしてもそういうものを大切にして発信すべきという気がしていたので。そういう体制にしてもいいか、という話を去年のファンクラブ旅行中にみんなでして。

玲央:企画段階のときから、2013年にリリースした『EXODUS-EP』のような感じでした。あの『EXODUS-EP』は、葉月が監修で、他のメンバーも楽曲を持ってきてくださいねって話から始まったんですよ。そのときとミーティング内容もけっこう近いものがあったので、リンクするように、「タイトルは“なんとかEP”ってどうですか?」って僕が提案したぐらいだったんで(笑)。今回の『FIERCE-EP』は、以前までの良さと、『REBORN』のときにやった実験的な部分を、ハイブリッドな形でまとめられたと考えてます。

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