【インタビュー】AKi、4年ぶり3rdアルバムにありのままの姿「シドの物語のスピンオフであり俺のストーリー」
■僕にとっては辛かったメジャーデビュー
■その時の気持ちを初めてここまで書けた
──2曲目の「ODYSSEY」は疾走感に満ちたロックナンバー。どのような想いから生まれたのですか?
AKi:曲自体は割とストレートなロックで、このままシングルカットできそうな曲でもありますね。アルバムの表題曲とは別の、もう一曲強い楽曲というか盛り上がる曲をつくりたいなと思って。
──歌詞もストレートで、“♪自分自身を無くさない様に” “♪衝動的なフレーズ忘れてないかい? そこにいつも答えはある”といったフレーズは、決意表明のように聞こえます。スムーズに書き進められたのでしょうか?
AKi:ストーリーが見えていたので、書きやすかった曲ではありますね、時間が掛かっていなくはないですけど。シドでメジャーデビューして以降、ベストアルバムが1位になったとか、東京ドーム公演をしたとか、「モノクロのキス」(メジャー1stシングル/2008年10月)がめっちゃ売れたとか。そこだけを見ると“ただただ上手くいっているバンド”みたいに思われるかもしれないですけど、その裏では、僕にとっては割と辛かったメジャーデビューで。せっかく本当のステージに立ったのに、“俺、何もできてねぇや”みたいな。そんな悶々とした日々が実は続いていて、その時の気持ちを書いたものです。だから、出だしの“モノクロ”とは「モノクロのキス」のことで。シドのストーリーのスピンオフというか、俺のストーリーみたいな歌詞なんです。
──そのような葛藤や無力感を作品として表現したことはこれまでなかったんですか?
AKi:シドだと歌詞を書くのは僕じゃないので。インタビューとかで答えたことが、WEBとか本とかに載ったことはあるかもしれないですけど、ここまで書けた歌は初めてですね。
──このタイミングで書けたのは何故だと思われますか?
AKi:うーん、なんででしょう? 曲に呼ばれたんですかね。エネルギーのある曲だから、そういう気持ちをどこかで思い出したのかなと思います。
──内面の深い部分を、曲に乗せてファンの皆さんに伝えることにためらいがない、今だったらできるということもありますか?
AKi:そうですね。冒頭に言った「こういうことを書いたらカッコ悪いかな?」みたいなことがなくなって、いい意味で“俺は俺だし”と開き直っているというか。そうすると一気に視界が晴れて、使える言葉が増えていったんですよね。今まではどこかロックの様式美みたいな、カッコ良く聴こえる言葉を選びがちだったので。もちろん、未だに僕はそういうのも大好きですし、それはそれでいいと思ってますけど。
──自由というものの幅が広がったということですよね。「Devotion」は最後につくられたということですが、幕開け感のある神秘的な曲です。
AKi:曲を並べた時に“1曲目がないな”と思って、オープニング感を意識してつくりました。
──生々しい姿を1曲目でいきなり見せるのではなく、ヴェールをまといながら始まるのがいいですね。
AKi:まさにそうです。サウンドもデジタルな世界観との面白い融合性ができたかなと思っていて、イントロは結構気に入っています。
──冒頭はシンセを駆使していますね?
AKi:はい。その後でギターが入るんですけど、ギターもちょっと変な加工をしてみたり、変なワウを掛けてみたり。そんなトリッキーな曲です。
──「Devotion」だけではないですが、歌詞は全編英語の曲です。
AKi:まずイメージを日本語でつくって、英詞にしていただける先生と一緒につくっていく感じですね。
──アルバムを締め括る「Only One」は、2023年にツアーで披露されたロッカバラード。ドラマティックで、特別な想いが込められていると窺えます。
AKi:コロナ禍で生まれた曲でした。無観客ライブをしなければいけなかったり、ライブに来てもらっても頭を振っちゃダメとか声を出しちゃダメとか、キャパの半分しかお客さんを入れられない状況が続いて。手を広げて隣の人とぶつかる距離がダメだったりする制約の中、それでも応援しに来てくれた人たちの気持ちがすごく伝わってきて。それを思って書いた曲です。
──今ではコロナ禍のライブ会場の規制が撤廃され、失われていた自由を取り戻したわけですけれども。AKiさんは不自由だったコロナ禍の3年間に、ファンの方たちとの心の距離を縮め、結び付きを強くしたのでしょうか?
AKi:そうですね。コロナ禍で変わったこと、逆に生まれたこともあるなと思っていて。コロナ禍で配信ライブをよくやらせてもらって、すごくスキルアップにも繋がったんですよ。スタジオというライブ環境だとか、目の前にファンがいない中でのライブ運びだったり、MCでは画面の向こう側で観てくれている人たちに向かって、何をしゃべるのかだったり。初めての経験だったけど、あの時にいろいろチャレンジしておいて良かったな、と今思います。僕のオンラインサロンもコロナ禍があって始めたことだし、そういう意味では、奇しくも自分の進化に繋がった3年だったなと思います。
──AKiさんの歌声は、ソロ1stアルバムの頃からエモーショナルだった印象ですが、情感がより豊かになっていると感じます。ヴォーカリストとして今作でチャレンジしたこと、意識なさったことはどんなものですか?
AKi:歌っている以上は、“ヴォーカリストだ”という気持ちが自分にちゃんとなきゃいけないってもちろん思うんですけど、“ヴォーカリストだ”と僕が言うのは、ヴォーカリストの方々に対しておこがましいところもあって。日々鍛練、もうそれだけです。練習もそうですし。要は楽器を知るのと一緒で、“どこまで歌い込めば自分は一番いい声が出る瞬間を迎えるんだろう?”っていうところを探したりとか。例えば、歌って1時間後が良い状況になるんだったら、本番でそこにピークを持っていくようにメンテナンスするので、そういうことも含めてですね。逆に“どこまでやったら壊れちゃうんだろう?”とか、やっぱり自分の持っているいろいろなものを知ること。必死に勉強するということしかしていないです。
──ヴォーカル&ベースとしてのステージングは華麗ですし、それこそギターソロを飛ばして聴かれるなど、ロックバンドの肩身が狭い世の中に対して、“こういう楽しい世界、楽しい音楽があるよ”と体現されていると感じます。
AKi:うん、そうですね。そういうところに我々のこだわりは詰まっているので。
──レコーディングにおいて、ベーシストとしてこだわった点や挑戦したことは何ですか?
AKi:サウンド面では、ザックリ言うと、より良い音。振り返った時に“衝動がある音”を目指しました。“俺、こんなベースの音を聴いて“バンドやりてぇ!”って思ったんだよな”みたいな。そういうカッコいい音を目指して、自分の中にある音を忘れないように意識して。まずそうやって音をつくってから、自分のスキルとか自分の気持ちいいポイントをどんどん見つけていくという感じでしたね。今回は影丸(-真天地開闢集団-ジグザグ)くんがドラマーで、MOTOKATSU (ex. THE MAD CAPSULE MARKETS, ACE OF SPADES)さんも叩いてくれているんですけど、彼ら二人のニュアンスとかグルーヴをいっぱい掴んで、良いテイクを出せるように心掛けました。
──ギターに関してはどうでしょうか?
AKi:今回も加藤くんが全部弾いています。彼とはシドよりも長い付き合いなんですよ。
▲アルバム『Free to Fly』
──ソロ活動は2015年に始まり、10年目に突入しています。ソロを通してAKiさんが得ているものは何だと思われますか?
AKi:広く言うと、今、音楽的な部分でのストレスが自分の中になくて、ゼロなんですよ。音楽とかライブもそうですけど、いろいろなことを経験してきて。シドだけだと、“もっとこういうことを試したい”というアウトプットが自分の中に足りないということもある。シドとは別に、自分が思うものを吐き出すためのもう一つのアウトプットがソロなんですね。やりたいこととか試したいことは、もちろんシドとかいろいろな場面でも試したりするんですけど、やっぱり自分のソロでもできることによってフラストレーションがなくなってくる。逆に言えば、ソロで“これいいな”とか“すごい発見だな”みたいなことをシドにどんどん持っていく、という感じですね。
──ソロ活動が、シドに良いフィードバックを与えている、と。
AKi:細かいことを言えば、僕の音とかShinjiの音とか「もっと良い相性のサウンドって、お互いないのかな?」みたいな話をしたり。それはソロでいろいろなギタリストとやるからこそ、「こういうギターだと、こういうベースサウンドを出したら相性がいいんだ」とかの発見があったり、機材も含めて細かいところまでいろいろな経験や追求ができるからで。バンドってメンバーが決まっているじゃないですか。それはもちろん素晴らしいことなんですけど、やっぱり外に出て勉強することは、ミュージシャンにとってすごく必要だなと気付きましたね。
──シドというバンドを客観的に観ることも、大きなものだったでしょうね。
AKi:自分が歌うようになってから、マオくんの気持ちというか、ヴォーカリストの気持ちとか置かれている環境が、もっともっと理解できるようになりましたし。ソロをやったことで自分のバンドへのリスペクトが非常に高まりました。“あ、自分のバンドってすごいんだな”ということが改めて分かるというか。自分にとって、ヴォーカル&ベースという場面もあれば、ベーシストという場面もある、ということが非常にバランス良くて、幸せです。いちベーシストとしても表現できる場所があって、自分がバンマスで歌も歌詞もメロディーも全部つくって、ベースも弾きながら歌うバンドもある。ミュージシャンとしてはとてもバランスがいいと思ってます。
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