【インタビュー】deadman、“道徳の系譜”を意味する19年ぶりアルバムに混沌と美「矛盾や嘘はない。それこそ20年前から」
■今、僕が話していることも
■僕の言葉じゃないかもしれない
──アルバムの幕開けとなる1曲目「in the cabinet」で、まずインパクト抜群でカオスな始まりがあって、聴き進めていくにつれて今度はずっしりと、歪みが体に溜まっていく感じがある。そんなアルバムだなと思います。
aie:今の音楽の聴き方で考えると、若い子は特にですけど、10曲目まで辿り着く人って少ないと思っているんです。これがサブスクだとしたら、1曲目がよかったら2曲目、続いて3曲目と聴いて、そのままいっても4曲目くらいかなと思ってて。であれば、ファーストインパクトとして1曲目に選んだのが「in the cabinet」。また毛色の違う2曲目や3曲目があって。それ以降はきっと好きな人しか聴かないだろうから。
──そんなことないと思いますけどね(笑)。
aie:ははは。なので、ライト層も視野に入れた曲順にはしたかなと思います。好きな人は最後まで聴いてくれるから。そういう並びかな。まぁ、だとしたら、1曲目は「in the cabinet」じゃないと思うんですけど。
眞呼:ははははは。
aie:ただ、これは“この曲がダメなら、あなたはきっと最後までもたないから、ここでさよなら”と言える曲だし。なので、ドレスコードみたいなものというか。
▲aie (G)
──「in the cabinet」はまさにdeadmanのいろんな要素を詰め込んだ曲ですね。オルタナ、ハードコア、トライバルビートや、独特の世界観が襲いくるもので。これはどの段階でできた曲ですか?
aie:もう最後のほうでしたね。
眞呼:考えすぎちゃって、僕のメロディや歌詞がまったく進まなくなっちゃったんです。
aie:ゴリゴリの変拍子ですからね。
眞呼:特にメロディは考えすぎちゃいましたね。私の尊敬する方が奇人すぎて、その曲を聴いちゃったんですよね。で、“これではあかん。これじゃダメだって”と思って(笑)、何回も作り直しました。
──その尊敬する方というのは?
aie:Merry Go Roundです。これは我々がよくやるパターンで、僕のイメージするものが仮タイトルになってたりするんですよ。例えばそれが「BUCK-TICK」のときもあれば、今回なら6曲目の「the dead come walking」の仮タイトルは「THEE MICHELL GUN ELEPHANT」。1曲目「in the cabinet」の仮タイトルは我々の先輩のバンド「Merry Go Round」。「我々は直属の後輩だからMerry Go Roundをイメージした曲を作る権利がある!」と言いながらやりました。
眞呼:すごいバンドですからね、とにかく衝撃を受けた。
aie:我々なりのMerry Go Roundリスペクトというか。リスペクトを込めたオマージュもあるし。というのが今回は多いかな。
──「in the cabinet」の歌詞には想像力をかき立てられます。いろんなイメージが散りばめられた言葉が綴られていて。音も言葉としても、“これは一体何を歌っているんだろう”と混沌としていく感じもある。
眞呼:そうですね、人格がいろいろある。人格が分裂している人の立場のことを書いているんです。統合失調症であったり、寄生してる思考だったり。自分じゃない人の思考が、自分のものだと誤認して言葉を発している状態というか。自分じゃないものと、いろんな人格がひとつにまとまっている…そういうテーマのもとに歌詞を書いているんです。
──なるほど。
眞呼:幻想だったり、幻聴だったり。でも、その声が聞こえるっていうっていうことは、本当は幻想じゃないのではないかって。聞こえている、言葉を発しているという意味では、少なくともその人にとっては現実だから。そういうところからアプローチした歌詞ですね。今、僕が話していることも、僕の言葉じゃないかもしれない。本来の僕の考えじゃないかもしれない。誰かに言わされているという場合もあると思う。それを自分のなかから出した言葉だって自分が信じているだけで。
──では、人格とはどこにあるのかという。
眞呼:という、カオスな歌詞になっていますね。
──それはアルバム全体を貫いている感じもありますか?
眞呼:そうですね、そうなってしまったのかもしれない。いろいろな人の考えを僕が拾ったからかもしれないし。でも、事実として書いている。
──となると、このアルバムのタイトル『Genealogie der Moral』は、ニーチェの著作でもある『道徳の系譜』がとてもしっくりときます。道徳なり善悪なり、正しさとは何かなど、いろんなものがせめぎ合ったり時に、それが反転していったり。現代はその判断がつかない世界になってきているようにも思いますし。
眞呼:明確なものが薄れてきているというかね。発した人間がいないですから。本当のことを言っている人はいるんですけど、やっぱり届かない。全員がそれを吟味して噛み砕いていない。わかりやすく言うなら、キリストだったり、釈迦だったりの言葉って、全部が全部、その人の言葉がそのまま伝えられているとは思えないんです。きっとどこかで改ざんされているし、その集団に都合のいい解釈をするように、言葉を変えているはずなので。
──操作されているわけですね。
眞呼:だから矛盾も出てきている。“ここではこうなのに、こっちでは違うことを言ってるんじゃないかな”という矛盾。その矛盾こそ、ある時点で作り替えられているんだろうなという点で。そうなると、道徳も一緒。道徳だって、権利や利権を持った人の考えに沿って改ざんすることができる。昔からある教えや道徳というのは、現時点ですごくボヤッとしているというか。場所も変わって状況も変われば、正義も悪も変わってきますからね。
──立場が変われば、ですね。その善悪を糺す(ただす)ということではなく、サウンドや歌でまざまざと見せられている感じがあるから、より掻き乱されるんでしょうね、このアルバムは。
aie:…嫌ですねえ、俺たち。
眞呼:はははは、そうなの、嫌なんですよ。
aie:知らなきゃよかったーっていう(笑)。
──そうですよ(笑)。見ないようにしていた暗部が、ポップに明らかにされてしまうというか。ちなみにポップ性や鋭さ、キャッチーさということでは、「零」は他の曲と佇まいが違うなと感じますが、どういうふうにできた曲ですか?
aie:これはもともと眞呼さんのデモテープがあって。
──眞呼さん発の曲だったんですね。
aie:そうです。デモを聴いて、俺とkazuくんで「こういうビート感でこういうアプローチにしようか」とか、その日の夜に飲みながらアレンジを話していたんです。それで「明日、試してみましょう」ってやってみたら、わりとすんなりと決まった感じで。
眞呼:イメージしていたアレンジにピッタリだったというのももちろんあるんですけど、それぞれの解釈で、自分の音でやってくれれば一番いいんですね。私も最初の歌メロとは全然違うものになっているし。つまり、みんなの音を聴いて、歌も変わってくる。それがすごくよかったなと思います。
aie:他の曲と違って、メジャースケールな感じなので。そこをぼやかすのか、前面に打ち出すのか、どちらにしようかというのはあったんです。イメージは僕の中では、BUCK-TICK。「BUCK-TICKの突き抜けたポップさというか、そっちの方向でアレンジしていきましょう」って酒を飲みながら喋っていた気がします。あと、このアルバムには他に、BARBEE BOYSもあるんですけどね(笑)。「the dead come walking」はオケがTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTで、歌がBARBEE BOYSっていう。
眞呼:Bメロなんて杏子さんが歌ってるんじゃないかっていう(笑)。
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