【インタビュー】高瀬統也、アジア圏へ広がる精力的な活動の現在地「『愛℃』で出した人間味をもっと出していきたい」

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■ 僕がさよならを伝えたときの、相手の顔を思い出しながら曲を書いている

──今作には「日日」「HONEY」「愛アイス」「愛℃」のようなJ-POP的アプローチも、「つまんない」「poisonous “B” 」「V.I.P」のような海外のクラブミュージックの系譜にある楽曲も収録されていますが、音楽性のバランスはどのように考えていますか?



高瀬:特に後者のパターンでは、いつも一緒に制作をしているRINZOさんと作詞のサポートをしてくれているDJのRaytuckerの手腕が生きてますね。RINZOさんは流行をちゃんと追いかけている人なので、その上でどんなふうに時代に乗るのか、攻めていくのかを提案してくれるんです。Rayは日本とイギリスの血が入っているので、僕が詞で書きたいイメージを伝えると、それをキザな言い回しの英語に変換してくれるんですよ。それが効果的な差し色になっていると感じます。「つまんない」「poisonous “B”」「V.I.P」はライブで盛り上がるし、自分もすごく好きな曲。「愛℃」みたいな曲は、美味しさが保障された定番メニューですね。

──いま“差し色”という言葉が出ましたが、4人のボーカリストをフィーチャリングしているのもその一環だと思います。

高瀬:愛に特化した楽曲が揃っているので、それを横に広げたいなとも思ったんです。自分だけでは見られない景色は、自分以外の尊敬する好きな人と一緒でないと見つけられないじゃないですか。一生名前を背負いたい、背負っていける自信がある人と作品を作るのがいちばんだなと思うんです。今回参加してもらった4人はそういう人ですね。

──香港の音楽グループ・MIRRORのメンバーであるアンソン・コンさんをフィーチャーした「白愛」はなぜ全編日本語詞になったのでしょうか。同じく香港のアーティストであるN.O.Aさんが参加した「TWI LIGHT」で、N.O.Aさんは英語で歌唱していましたよね。


高瀬:もともとアンソンは日本の文化が好きなんです。僕の強みがいちばん活かせるのは日本語詞だし、広東ポップシーンの人がJ-POPを歌うなんてこと、なかなかないじゃないですか。アンソンは「どうして」きっかけで僕を知ってくれて、カヴァー動画をアップしてくれてたんです。行動力の鬼である僕はそれを知って2日ぐらいで曲を作って、それが「白愛」です。アンソンはあんなにバラードが似合う声なのに、バラードの持ち曲がないんですよ。「アンソンにこういう曲を歌ってほしい」というイメージが瞬時に湧いたんですよね。

──高瀬さんのプロデュース脳がフル稼働したと。

高瀬:アンソンからは“グループのメンバーへの友情の歌詞を書いてほしい”と言われたんですけど、ラブソングにしました。というのも僕は、友情や家族への思いを曲にする必要がないと思っているんですよ。友達や家族にはすぐ気持ちを伝えられるし、お互い死なない限りは会えるけど、恋愛は物理的に届けられなくなる。



──“会えるなら曲にしないで実際に伝えればいい”という理論ですね。そういう観点にも高瀬さんの人間味が出ている。それだけの自我の強さがありながら、自分を“君”に置き換えて歌詞を書いているのは面白いですね。

高瀬:自分本位野郎なので、それくらいの距離感がちょうどいいんです。あと失恋曲ばっかりですけど、僕自身はまったく失恋してないんですよ。僕がさよならを伝えたときの、相手の顔を思い出しながら曲を書いているんです。

──お相手の感情が動いた瞬間の“表情”から曲が生まれる。

高瀬:誰かと対面しているときの自分の表情を、直接見ることってできないじゃないですか。僕は自分の目で見ていないものを書けないし、楽しかったときの感情がなくなったからさよならを告げるので、なくなった感情は書けないぶん幸せな曲も書けないんですよね。だからもしいつか失恋したら、幸せだったときのことを書くんだと思います。自分の目と心で見たものを書きたいんです。……そういう意味では、“愛”と“藍”と“哀”だけでなく“eye”もあるかもしれないですね。実際れんと作った「でも、」がそういう曲なんですよ。


──「でも、」は高瀬さんとれんさんの歌唱パートがあって、恋人同士それぞれの視点なのかなと思ったのですが。

高瀬:というよりは、れんも僕も同じ対象を歌っている、ふたりが同じ目を持っているイメージです。同じ景色を見ても、違う目だから何を見ているかは全然違う。だから僕は“君”、れんは“あなた”と歌っているんですよね。なぜそういう手法を取ったのかというと、れんと僕が似たタイプの声だからなんです。一緒に歌う上でマイナスになる面をプラスにしたかったんですよね。“白”と“ホワイト”の違いが出ればいいなと思ったし、実際に僕の作った1番のメロディと、れんが作った2番のメロディは全然違うものになりました。

──今作で最も異質なのはWHITE JAMのSHIROSEさんが参加した「カレンダー」ではないでしょうか。この曲が流れるたびに、自動再生でほかのアーティストの曲が始まったのかなと思うぐらい、毛色が全然違って。でも絶対SHIROSEさんの曲だとは言い切れない、不思議なニュアンスだと感じました。

高瀬:それはやっぱり、ゼロからイチを作ったのがSHIROSEさんだからだと思いますね。SHIROSEさんは僕の青春の1曲を作っている方で、すごくリスペクトしているんです。どんなセッションになるんだろうなと思っていたら、えげつないぶつかり方をして……。まじで二度とやりたくねえって思った瞬間もありました(笑)。ゼロからイチがSHIROSEさんで、イチから10まで作ったのが僕なんですけど、ゼロイチの偉大さを実感しましたね。“作りたくて作った人”と“完成させた人”は違うんだなと。

──高瀬さんもそういう制作をご所望だったんですか?

高瀬:というよりは単純に僕の腰が重すぎた結果ですね(笑)。“お互いデモを作って、先にできたものを完成させよう”と話していたら、完全にSHIROSEさんが早くたくさん作ってきて……。早すぎっすよ!って言いました(笑)。SHIROSEさんは完成形のつもりでデモを作ってたんです。でも僕はこれを土台にしようと思って。

──“えげつないぶつかり方”を仕掛けたのは高瀬さんだったんですね。

高瀬:制作をスムーズに進める気遣いよりも、世の中に出たら一生残るから妥協しないことが大事なんです。あとまず尺を半分に、Bメロを半分に削りましょう。サビの長点を2回から4回にしましょうと提案したら、SHIROSEさんは長点は最初と最後だけでいいというタイプで、まずそこでぶつかりましたね(笑)。じらしたものよりはパッと聴いて気持ちいいものにしたかったんです。イントロも全部削って、歌い出しの《君の脱いだ靴下を 片付けるのはもうわたしじゃない》という歌詞を《返品を受け付けるのは/君が放ったさよならだけだよ》に変えて、すぐに別れの歌とわかるものにして。



──なんてハイカロリーな制作。

高瀬:でもいちばん難しかったのは歌割りですね。どうやって割り振ろうかなと思ったんですけど、ゼロイチを作っているSHIROSEさんにAメロから歌ってもらいました。普通なら1番から交互に歌っていくと思うんですけど、SHIROSEさんと僕の声はヴォーカルが頻繁に入れ替わると聴いているほうも忙しくなってしまう。だから1番は全部SHIROSEさん、2番は全部僕が歌っているんです。あと、SHIROSEさんと僕は気にしているところも全然違うんですよ。

──気にしているところ?

高瀬:SHIROSEさんは自分の個性がどれだけ出るかを大事にしていて、僕は曲が良ければなんでもいい。だからお互いがお互いを変わり者であり天才だと思っていました(笑)。でも天才と言っても、SHIROSEさんは“天災”で僕は“転採”。ころころ転がりながらいろんなものを美味しいとこ取りしていくんですよね。ほんとSHIROSEさんは天才でした。あんなサビの始まり方、僕は絶対に思いつかない。

──それはSHIROSEさんが自分の個性を大事にしてきたからこそ確立されたものでしょうね。

高瀬:だからほんと、あの人は天才ですね。曲を作るときはまじで天災です(笑)。いい意味でカロリーを使った制作だったし、いつもと違う筋肉を使いましたね。「カレンダー」1曲の制作でフルアルバムを作ったような感じというか。僕からすると12曲のフルアルバムと1曲のフルアルバム、まったく違う2枚組みたいな感覚です(笑)。「カレンダー」の制作を経て、SHIROSEさんと僕の制作への愛は深まりましたね。

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