【インタビュー】FINLANDS、メジャー1st EP『新迷宮』に「変わらないように変わってみるということ」
全曲の作詞作曲を手掛ける塩入冬湖(Vo, G)を中心にギター、ベース、ドラムスにサポートメンバーを迎え、精力的に活動を続けているFINLANDSが『新迷宮』と題したEPを3月13日にリリースした。
◆FINLANDS 動画 / 画像
2022年に迎えた結成10周年を経て、新たに組んだ徳間ジャパンコミュニケーションズからリリースした同EPには、ギターの轟音とともに持ち前のオルタナロックな感性を存分にアピールする表題曲を中心に、スウィンギーな「スーパーサイキック」、ハチロクのリズムが躍動する「HACK」、そしてバラードの「ひみつのみらい」といったそれぞれに異なる魅力を持った4曲が収録されている。
その4曲を作る際、塩入は“変わらないように変わってみる”というテーマを掲げたそうだが、それは徳間ジャパンのスタッフが言った「無理に変わらなくてもいい」という一言から思いついたものだというからおもしろい。迷う必要がない迷宮で敢えて迷うことを楽しもうとしている塩入に“変わらないように変わってみる”ためにどんなことを実践してみたのか訊いた。
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■日本の音楽を動かしている会社と一緒にやる
■そのアンバランスさがすごくおもしろい
──もし、「変わらなくていいよ」と言われていなかったら、変わろうとは思わなかったですか?
塩入:そういうことを考えるきっかけはなかったんじゃないかなと思います。「変わらなくていいよ」と言われたとき、私ってどう変わっていけるんだろうって逆に興味が湧いてきて。これまで曲を作ってきた中で、たとえば一人称はこの10年、ずっと“わたし”という言葉しか使わないようにしていたんです。たとえ何かフィクションを題材に作った曲だとしても、 その物語を見て、自分はどう思ったのかっていう自分自身の気持ちをすごく大切にしてきたので、その時の年齢の自分や女性である自分の目線で曲を書き続けてきたんです。それが自分の中の決め事だったんですけど、今回、変わっていくってどういうことだろうと考えたとき、その一人称の括りを、自分の中でいったんなくしてみたらどうなるんだろうって。それで、「スーパーサイキック」では“僕ら”という言葉を使ってみたりとか、「ひみつのみらい」では初めて男性の目線で書いてみたりとか、自分ではない人間の目線で曲を書いてみたっていう。これまで自分が決めていたことに対して、ちょっと括りをなくしてみたかったんです。それが私にとって変わっていくっていうことだったんですよね。
──徳間ジャパンさんは「好きなようにやっていいよ」という意味で、「変わらなくていいよ」と言ったと思うんですよ。
塩入:そうなんです。他のレコード会社や他のバンドのことはわからないですけど、そんなふうに言っていただけることって、本当に稀なことというか、本当にありがたいことだと思いながら、私は天邪鬼なので、“変わらなくていいわけない”みたいなことを考えてしまうんです。でも、それは自分自身に対して、まだやれるっていう期待があるからこそ思うことだったのかなって。
──徳間ジャパンさんと組むことで、FINLANDSとしてどんなことができると期待していますか?
塩入:正直、わからないです。バンドとして、ずっと小卒みたいな感覚でやって来たから、メジャーレーベルがどういうものなのか、メジャーに行ったらこういうことができるとか、逆にインディーズだったらこういう恩恵があるとか、そういう知識がないんですよ。だから、メジャー云々と言うよりも、FINLANDSをいいと言ってくれる人や手助けしてくれる人が増えていく中で、どういう変化をしていくのか、言い方は良くないかもしれないですけど、私も実験的に楽しみにしているところがすごく多くて。本当に、こういうことをしてくれるでしょとか、こういうところが厳しいんでしょとか、そういうイメージが全然ないんですよね。
──逆に徳間ジャパンさんから、「うちと一緒にやればこんなことができますよ」という具体的な提示はなかったんですか?
塩入:なかったです。そういう餌で釣られたみたいなことは一切ないですね。「おもしろそうだから」って、それだけなんですよ。FINLANDSって基本的に、わけのわからない活動をずっと続けてきたんです。奇を衒って、そうしたわけではなくて、結果的にそうなってしまったんですけど、そんなFINLANDSと徳間ジャパンさんっていう、演歌も含め、ある意味、大きな日本の音楽を動かしている会社が一緒にやるって、言ってしまえば、すごく不似合いだと思うんです。そのアンバランスさがすごくおもしろいと思って、ご一緒させていただけたらっていうところでしたね。
──ところで、一人称にこだわらない歌詞の書き方をしてみていかがでしたか?
塩入:「スーパーサイキック」はフィクションを題材にしながら、私の想像で書いた部分が多かったので、書きづらいということはなかったです。逆に、これまでずっと自分が普段使わない一人称で歌を歌うことにすごく違和感があったんですけど、「スーパーサイキック」は元々、楽曲としては存在していたもので、そこに“僕ら”っていう一人称が私はすごくマッチしていると思って、ちょっとドキドキしました。“僕ら”という言葉を使って、楽曲が出来上がっていくことに全然違和感がなかったんですよ。昔やれなかったことが突然できるようになっていた時のドキドキというか。私、自転車に乗れないんですけど、一度、うちの事務所の社長の自転車に乗ってみたことがあって。乗れないけど、ちょっと乗ってみようと思ったら、乗れたんですよ。止まれなくて、ちょっと事故みたいなことになってしまったんですけど、自転車に乗れないと思っていたのに乗れたっていう。その時のときめく気持ちとすごく似ている気がします。
──その「スーパーサイキック」は1曲目に持ってきただけあって、4曲それぞれに違うインパクトがある中でも特にインパクトのある曲なのですが、4ビートのジャジーな曲調が一際印象的でした。
塩入:うちのサポートドラムもサポートギターもジャズが好きなんですよ。彼らが生き生きしていると、曲作りがスムーズに行くというか、化学反応的なことが起こることが多いので。フルアルバムではジャズに限らず、ビートが跳ねるような曲は、私がそういう化学反応を見たくて、作るようにしているんです。
──はい。おっしゃるように、これまでもいろいろなリズムの曲を試してきたと思うんですけど、ここまで、いい意味でレトロな雰囲気もあるジャジーな曲はFINLANDSとしては新しいんじゃないかと思ったのですが。
塩入:実はこの曲が今回の4曲の中で一番古いんですよ。ずっと持ち続けていて、やっといい形で出すことができました。
──発表するタイミングを窺っていたんですか?
塩入:7〜8年ぐらい前に作ったんですけど、発表するタイミングを失ってしまったんです。それからずっと大切に持ち続けていたんですけど、今回、とある漫画にどハマりしている時、それをモチーフに書き上げてみたらどうだろうって思いついたところから一気に作り上げました。
──今現在の世の中に向けた辛辣な言葉とともに力強い愛を歌ったラブソングだと思いました。
塩入:曲の捉え方は、聴いていただく方の自由でいいと思うんですけど、『天国大魔境』という漫画が大好きで、外界から隔絶された島で子供達が衣食住に困ることなく教育を受けている、というところからはじまる物語なんです。そこの暮らしは外からの情報が一切ないんですよ。漫画とか、映画とか、もちろんテレビもない。大人はその施設にいる人達だけで、あとは同級生しかいないという状況なんですけど、それでも人を好きになったりとか、人を好きになった時にする行為…たとえば、手を繋いだり、キスをしたり、抱きしめ合ったりとかできるんだっていう。なんか、そういうことって見たり、聞いたりしながら、知ったり、学んだりしていくものだと思っていたんですけど、この漫画を読みながら、人を好きになるという感情は人間の初期設定として組み込まれているんだと改めて思ったんです。それが私は不思議で仕方ないと言うか、世の中に接することがなくても、人間はきちんと愛情や恋愛を構築していけるって、けっこう衝撃的なことだったんですよね。そういうところから作った曲なので、愛情っていうよりも、愛情の由縁みたいなところが題材になっているのかなと思いますね。
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