【ライブレポート】Lenny code fiction、ツアーファイナルで遂に迎えたハッピーエンド「終わってほしくない」
「終わってほしくない」
片桐 航(Vo,G)は2023年7月にリリースした2ndアルバム『ハッピーエンドを始めたい』をひっさげ、9月から5か月にわたって全国各地を回ってきた<2nd Album Release Tour『ハッピーエンドを贈りたい』>がこの日、終わってしまうことを惜しんで、ライブ中、幾度となくそう言った。観客達もきっと同じことを考えていたと思う。いや、1人1人に確かめたわけではないけれど、なくとも筆者はライブを見ながら、今まさに感じている“充足感”と言い換えることもできる幸せをもっともっと味わっていたいと思っていた。
ライブに足を運んでよかったと思うことはあっても、終わってほしくないと思うことは正直、年に1度あるかないか。この日、Lenny code fictionはコロナ禍を挟んで、この数年の間、メンバー達に訪れた心境の変化をセットリストに落とし込みながら、さらに磨きが掛かった曲作りとともにライブバンドとしての成長をまざまざと見せつけたわけだが、2022年7月に配信リリースした「TOKYO」で《耐えろまだ耐えろと歩いた》《腐っていられない》《共に耐えようぜ 陽の目みるまで》と歌っていたことを踏まえれば、このツアーファイナルはまさに臥薪嘗胆の成果。その思いがついに報われた歓びをバンドとともにいつまでも分かち合っていたいと思えば、ツアーファイナルの感動はさらに大きなものになる。
6曲目の「Enter the Void」が終わった時点で、「楽しいって感情と終わってほしくないという感情が戦ってます!」と片桐はライブの手応えを言葉にしたが、この日のライブはマイルストーンとしてLenny code fictionのキャリアに刻みこまれるに違いない。
「Lenny code fiction史上最長最多。これぞLenny code fictionってセトリを考えてきました!」(片桐)
SEが流れる中、順々にステージに出てきたKANDAI(Dr)、Kazu(B)、ソラ(G)がソロを繋げ、3人の演奏が一気に白熱したタイミングで、「Lenny code fiction始めます!」と片桐が声を上げなだれ込んだ1曲目は、2016年11月にリリースした2ndシングル「Flower」。ファンとともに歩んでいくデビュー当時の決意を謳い上げたアンセミックなロックナンバーだ。
「伝説の1日にしていこうぜ!」(片桐)── そこから観客がヘッドバンギングで応えたラウドロックの「脳内」、ファンキーなダンスロック・ナンバー「Psycho」と繋げ、あっという間にスタンディングのフロアを1つにしていったステージの4人の箍はすっかり外れてしまったようだ。さらにアンセミックな「Make my story」、そこからノワールな魅力もあるタフなロックナンバー「DURARA」とたたみかける勢いは、まさに怒涛の一言。そして、「まだまだ行ける!かかってこいよ!」と片桐が吠え、ソラが閃かせたエキゾチックなイントロからなだれ込んだ「Enter the Void」ではKazuのスラップ奏法とKANDAIの力強いキックに煽られるように観客全員がジャンプ。その光景を見たKazuは高々とベースを頭上に掲げ、早くも勝利宣言。
片桐は「すでに胸がいっぱいです!」と快哉を叫んだ。自分達のセットリストが「情緒不安定」と言われることに苦笑いしながら、「大丈夫。ジェットコースターみたいにね、上がったり下がったり、いろいろな感情の旅をしていきましょう」と片桐が言ったその言葉通り、序盤以上に曲の振り幅を見せつけた中盤は、弱さも含め素直な心情を飾らず、強がらずに言葉にすることを覚えた成果を、メロウなメロディとともにアトモスフェリックなバンドサウンドに落とし込んだ「花束」からスタート。その直前に片桐が語った「今日、俺が発する言葉、俺が曲として書いた言葉はちゃんと贈り物として受け取ってほしいという気持ちが一番あります。昔、決意だけを書き殴っていた頃とは全然違って、贈る力をこのツアーで、このアルバムで手に入れた。それは俺にとってめちゃくちゃ大事なこと。今日も一文字一文字、一言一言逃さずにしっかり心を込めて歌っていきます」という言葉を聞き、なぜこの日、2ndアルバムのツアーにはやや昔の曲に思える「Flower」を1曲目に選んだのか、その理由とともに、そんなある意味ストーリーテリングがLenny code fictionのライブに見どころとして加わったことを知る。
そこから片桐のラップ(とそこに重ねるKANDAIのハーモニー)、R&B調のアーバンな演奏が新境地を印象付けた「チープナイト」、ノワールともブルージーとも言える「Memento」、Lenny code fictionらしいクールでタフなロックナンバー「SEIEN」と繋げたアップダウンは、まさにジェットコースターの趣だ。しかし、そんな感情のアップダウンはまだまだ続く。
「バンドを今までやって来て叶ったことは実はめちゃめちゃあります。ただ、叶えたいこともまだまだめちゃめちゃある。みんながやってほしいと言うことは全部実現したい。このツアーで改めて思ったけど、そんな夢をみんなで見ている瞬間が一番自分らしい。終わらせたくないとか、あきらめたくないとか思うなんてダサいと思ってたけど、そんな時間にちゃんと名前を付けました」(片桐)
曲に込めた素直な思いをていねいに語ってから演奏した「夢見るさなか」はバラードともエモいとも言える歌をしっかりと聴かせながら、歌のみならず、KANDAIの軽やかなタム回し、歌の裏で曲の世界観を作るソラのサステインを生かしたギタープレイ、そしてダイナミックなグリッサンドからKazuが奏でたベースソロと演奏面でも聴きどころが満載だった。また、包み込むような歌とともにバンドが持つダイナミックなスケールを見せつけた「世界について」もこの日のハイライトの1つだったと言ってもいい。そして、新曲を作り始めていることに加え、その新曲を早速、初お披露目する恒例のファンクラブイベント「先行試写会」を4月27日に開催することを発表して、観客に歓喜の声を上げさせると、Lenny code fictionらしからぬ2ビートのメロディックパンク・ナンバーにもかかわらず、「先行試写会」におけるファンの反応があまりにも良かったため、「花束」のカップリングとして音源化した「それぞれの青」から後半戦がスタート。
「アゲていくぞ!」と片桐が声を上げ、バンドの演奏は一気にヒートアップ。UKガレージロックを思わせる演奏にシネフィルである片桐のフェイバリットムービーのタイトルを歌詞として幾つも載せた「【Lenny code fiction】」、バンドが一丸となって突き進む狂乱のロックンロール「Alabama」、そしてタフでファンキーなロックナンバー「TOKYO」とノンストップで繋げ、フロアを揺らしていく。「TOKYO」をこの日、セトリに組み込んだ理由はすでに書いた通りだが、早口で言葉をたたみかけ、観客を煽る片桐の背後ではソラ、Kazu、KANDAIが笑顔でアイコンタクトを取っている。
「最高の盛り上がりをありがとう!」(片桐)
以前の彼らだったら、その勢いのままラストまで駆け抜けて行ったかもしれない。しかし、観客を圧倒することは今現在の彼らが求めるものではない。では、何を求めているのか? それは、胸に染みるメロディとともにせつなさの中に宿らせた温もりが「花束」「夢みるさなか」同様にソングライティングの成熟を物語る「ビボウロク」のアウトロで片桐が語った言葉にはっきりと表れていた。
「今日、ちゃんと作った思い出を、持って帰る言葉を宝物でなくてもいいから、死にたくなった時にメモ用紙に残して思い出してほしい」(片桐)
なるほど、備忘録を意味するタイトルには、そういう意味があったのか。恥ずかしながら、筆者はこの日初めてそれを知ったのだが、「花束」を作る前に作ったこの「ビボウロク」の根底にも「花束」でようやく《言葉は花束》と言語化できた思いが流れていたのである。「ビボウロク」、本当に、いいタイトルだと思う。
「待ちに待ったツアーファイナルでした。大人になってから心を動かすことが少なくなってきた気もしている中で、正直に言うと、久しぶりにその日に向かって生きる感覚と言うか、ちゃんと言葉にすると、生き甲斐を味わえる日を、今日もらえてありがとうございます。そして何よりLenny code fictionが君の生き甲斐になっていることを俺は信じているし、もしかして今日初めて来たって人は帰り道、生き甲斐になることを願っています。過去を振り返って、思い出を整理して、幸せとは何かを『ハッピーエンドを始めたい』では言葉にしました。バンドにとって、そしてここにいるみんなにとって、幸せとは何かが言葉にできた。それは自分にとって大きな成果になりました」(片桐)
最後を飾ったのは、『ハッピーエンドを始めたい』でも最後を飾った「幸せとは」だった。「あっという間のツアーファイナルでした。人生もあっという間。楽しいことはすぐに過ぎてって、悲しいことはいっぱい残って、悔しくて、辛くて、意味わからんけど、その中でこうしてちゃんと出会ったこと、ちゃんと言葉にできたこと、ちゃんと大切な歌を作れたことを最後に歌いたいと思います。全員で一緒に歌えたら、今日のハッピーエンドは完成すると思います」(片桐)
片桐の思いに応え、観客が片桐の歌声に重ねたシンガロングが響き渡る。そして、ステージの4人が全員の思いをはばたかせるように疾走感あふれる演奏を繰り広げる中、決意を一方的に書き殴っていたLenny code fictionが臥薪嘗胆を経て、幸せとは何かを見つけた上で、本当の意味でファンと一緒に歩き出すというこの日、全19曲90分のセットリストで描こうとしたストーリーはついにハッピーエンドを迎えたのだった。
その手応えの中で片桐が“生き甲斐”という今後、歌うべきテーマを見つけたことも最後に記しておきたい。
「次は君の生き甲斐を言葉にするよ。そういう曲を書くよ。楽しみに待っていてください!」
その予告が近い将来、どんな曲に、そして、どんなライブに実るのか大いに期待している。
取材・文:山口智男
撮影:日吉“JP”純平
◆ ◆ ◆
■セットリスト
2024.02.11@渋谷 WWWX
1.Opening SE(2022)
2.Flower
3.脳内
4.Psycho
5.Make my story
6.DURARA
7.Enter the Void
8.花束
9.チープナイト
10.Memento
11.SEIEN
12.夢見るさなか
13.世界について
14.それぞれの⻘
15.【Lenny code fiction】
16.Alabama(Short ver.)
17.TOKYO
18.ビボウロク
19.幸せとは
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