【インタビュー】由薫、1stアルバム『Brighter』に1年半の軌跡「“より輝きます”という決意を表明したかった」

■思いを解きほぐしながら曲を作る
■その制作過程が私にとって大事なこと

──そういった思いが、ラストの「brighter」に集約されていくわけですね。この曲は、由薫さんの作品に初期から携わっている野村陽一郎さんと制作したものです。インタビューの最初のほうで、「締切ギリギリで作った」とお話していただきましたが、どのように曲作りがスタートしたのですか？

由薫：アルバム収録曲を並べてみたときに、“足りないピースがあるな”と感じたことがきっかけでした。自分からそれをスタッフのみなさんに説明…「こういう理由で、きっと野村さんと一緒だったらアルバムを締めくくる1曲ができるんじゃないかなと思うので、もう少し制作したいです」という話をしたんです。いろんな方向を向いている曲たちを接着できるような1曲として。でも、できるだけ素朴に自分と向き合って作りたいと思って制作した曲です。

──サウンド面でもかなり生々しい音になってますね、この曲は。

由薫：びっくりするくらい生々しいですよね（笑）。録ったままというか。高音質のマイクが一個あって、そこに全部の音が拾われている感じ。普通はそこからもっと聴きやすい音にしたりとか、邪魔な音は消したりするところを、あえてあまりしていなくて。「もうちょっときれいでもいいかな」という話もしたんですけど（笑）。


──でも、この緊張感というか、その場の空気を封じ込めているのがいいんだと思います。歌もギターもヒリヒリしていて、曲の最後の最後で、“今なら歌える”という言葉や思いをリスナーにそっと手渡す感覚がある。

由薫：よかったです（笑）。サウンドは作り始めたときと全然違ったというか、最初はきらびやかで晴れやかなものになりそうな予感がしていたんです。でも、“いや、もっと向き合うということに忠実な、シンプルなものを作りたい”ということで、改めて私がコードをシンプルに直したりして。リバーブをかけて徐々に深みを帯びて、音に没入していって、最後はまたシンプルなギターとボーカルになっていく感じが、現実に戻っていくようで。夢を見ている感じと、そこから覚めていく感じとも似ているようにしたかったんです。

──ギターは野村さんですか？

由薫：そうです。レコーディングのときは一番いい音で録れるように、いつもは弦を新しく張り替えるそうなんですね。でも、「あえて弦を張り替えてないギターで、完璧じゃない音をレコーディングしてみたら、そのほうが合ってる気がした」と言ってくれて。だから、本当ならもっときれいに歌えるし、もっときれいなギターの音色も出せるし、もっと整えることはできた曲なんです。むしろその逆をいく感じにしたことで、本当に素の感じを出すことができました。


──タイトルにもなった“Brighter”という言葉は、アルバム制作段階からあったものですか？

由薫：ワンマンツアーを経て、夜が明けていくイメージがあって。その先にアルバムをリリースするとなったとき、どんなタイトルがいいのかを考えて。最初にスタッフの皆さんと話し合ったときは、“Bright”だったんです。明るいっていう言葉ですよね。けど、そこに“er”をつけたいなと思って。“er”には“より〜”という意味があるじゃないですか。ここからどんどん遠いところまで歩いていきたいという思いは自分の原動力ですし、そういうハングリーな部分も“er”で表現できるかなって。あと、完全じゃないということも大きなキーワードであるような気がしているんです。

──先ほどの言葉のように「素朴に自分と向き合って作りたい」という？

由薫：曲を作るなかで、自分はまだまだ発展途上で、もっともっとこれからリリースしていきたい曲があるわけで。“より輝きます”っていう決意を表明したかったというか。あと、「No stars」や「星月夜」「lullaby」とか、夜空を見上げるような曲が多かったので、そういった曲たちとも親和性のあるワードがいいなと思ったことも大きいですね。それで“er”がしっくりきたんです。「Rouge」や「Hangry」のような攻撃性のある雰囲気の曲も、“er”がそれを説明してくれると思ったので『Brighter』というアルバムタイトルにしました。

──”Bright“という言葉自体は、「Blue Moment」のなかにも出てくるんですよね。ずっと由薫さんの胸のうちにあった言葉だったりイメージだったんでしょうね。

由薫：ただ、「Blue Moment」の“Bright”と、「brighter」の“Bright”は全然違うことを思っているんです。「Blue Moment」の心境は解決した感じというか。そのときすごく自分自身が空っぽで…でもそういう悩みのなかにいるときに、周りの人が支えてくれたり、「空っぽなら“空っぽだ”って曲を作っていいんだよ」って言葉をもらったりして、それがすごく刺さって。すごく前向きな気持ちで「Blue Moment」ができたんです。


──なるほど。

由薫：そこからアルバムリリースまでには、いろんな気持ちの変化があって。自分の心の部屋にたくさんのものが溢れて、いろいろな自分に“どれが本当の自分なんだろう”ってわからなくなったということが、アルバム制作のなかであったんです。自分が1曲1曲を形にしていく、この自分の欠片たちの根本となる部分を「brighter」という曲で描きたいと思ったんです。

──「brighter」は、その思いが神聖さにも繋がっている感覚ですね。

由薫：大切にしている記憶を思い浮かべながら、誰かひとりに語りかけるような気持ちでしたね。私の話をずっと聞いてくれる野村さんと一緒に、思いを解きほぐしながら曲を作るその制作過程自体が、私にとって大事なことだったと思います。

──原点みたいなものでしょうか？

由薫：はい。今思い返すと、そもそも曲を作り始めたきっかけが、悩み…自分でうまく消化できないことや理解できないことに対して、ギターを持ちながら解きほぐしていったことで。そうすることで“今、私ってこういうことを思っていたんだ”っていうことに気づくという。その過程とアルバム制作過程って似ているなと思いました。だから、将来『Brighter』聴き返したときに“作ってよかった”って思うだろうな、というのが、完成したとき最初に感じたことで。自分のなかのひとつのパラグラフを1枚のアルバムにすることができたと感じています。

取材・文◎吉羽さおり
撮影◎野村雄治
衣装◎HATRA (ドレス／ベルト)　CHARLES & KEITH (シューズ)　トゥワクリム[エスタードジャパン] (ピアス／バングル)




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