【インタビュー】ASKA、デイヴィッド・フォスターとの共演が映像作品化「これは僕の音楽活動、音楽史の記録」
■オープニングは「SAY YES」に決めていた
── では、また映像の話に戻りますが、ステージ上でお二人が共演した1曲目として「You Raise Me Up」をカヴァーした理由は?
ASKA:デイヴィッドが「この中から歌わない?」って僕に4〜5曲候補を送ってきて、映画『セント・エルモス・ファイアー』のテーマ曲(「セント・エルモス・ファイアー(マン・イン・モーション)」もあったんだけど。
── ASKAさんの大好きな映画ですよね。
ASKA:そう。でも、あの曲はリズミカルな曲だから、誰でも歌えば盛り上がって形になる。せっかくの機会だから、デイヴィッドにちゃんと“歌”を聴いてもらおうと思って、僕は「You Raise Me Up」を選びました。
── うわー! カッコいい。
ASKA:一緒にステージで共演するなら、シンガーとして認識してもらいたいからね。
── そうですね。
ASKA:「You Raise Me Up」ってデイヴィッドのオリジナル曲じゃないんだよね。
── デイヴィッドのヴァージョンは、彼に見出されたジョシュ・グローバンがこれを歌い上げてブレイクしましたよね。ASKAさんも歌唱するにあたってジョシュの歌唱は意識されたんですか?
ASKA:彼はオペラみたいな感じで歌い上げてたから、僕はそっちには行かずソウルフルに歌いたいとは思ってた。だから、リハーサルで歌ったときにデイヴィッドがビックリしてたよ。全然(ジョシュの)歌唱と違ったから。
── ライブで聴いたときも衝撃を受けました。
ASKA:ありがとうございます。前回のツアー(<ASKA Premium Concert Tour-Wonderful World-2023>)中盤くらいまでは、まだBlu-ray化は決まっていなかったから、「あの日の再演」ということでセットリストに入れました。
── ご自身のツアーの映像を撮って残しておこうと。
ASKA:ところが、そのツアー中に薫がロスに行って、リリースが決まった。
── なるほど。薫さんは、デイヴィッドとのステージにゲスト参加された後、ASKAさんのツアーでも数本ゲスト出演されていましたが、同じステージに立ってみて感じたことは?
ASKA:僕はずっと、薫の歌声には大きなステージが似合うと思ってたんです。なのに、本人の中では大きなステージを思い描いていないなと思ったので「でっかいステージを経験しときな」ということで、デイヴィッドとの公演にゲストヴォーカルとして招いた。実際そこで大役を果たしてくれましたから、本人の中にも新たな扉が見えてきてるのではないでしょうか。
── 大きなステージのイメージが描けていないと、作る楽曲や歌の届け方も違ってきますよね?
ASKA:大きなステージが良いということではなく、単純にステージで描く自分の光景は違うでしょうね。それが楽曲にも表れます。
── ASKAさんもチャゲアス時代、セールスと並行して大きな会場に立つことを前提に楽曲を作っていた時期もありましたか?
ASKA:僕らは世間知らずの新人だったからさ、最初からコンサートというのはホールでやるものだと思い込んでた。周りはみんなライブハウスからスタートしてたのに、そういう時期がないままデビューしてしまった。アマチュアの手順を踏んでいないんです。
── まず、始まりがホールクラスだったと。
ASKA:そうですね。そこから始まって、例えば「BIG TREE」なんかは大きな会場を見据えた曲ですよね。ロンドンに居たときにドラマ(「振り返れば奴がいる」)の主題歌の話が決まり、「YAH YAH YAH」ができたときは「これ、サビは歌詞いらないや。ここでライブ会場、めちゃくちゃ盛り上がるな」と思いながら作ったし。楽曲作りにおいて、会場で盛り上がる曲の作り方は自分なりに手法として持ってるつもりです。大きな会場でやることがアーティストのステイタスだなんてことは、今更思ってないです。演出という意味では両方経験してこそというのがある。大きな会場だからこそ、ポツンとした楽曲がめちゃくちゃ目立ったりすることもあありますからね。以前、大きな会場の真ん中に円形ステージを作って、ギター1本で「帰宅」を歌ったんだけど、あの感覚だよね。
── なるほど。経験ということで言うと、ASKAさんはデイヴィッドの音楽に出会ったとき「太刀打ちできない」と思うぐらいの衝撃を受けたとおっしゃっていて。そこで、「自分にはバリエーションという武器がある」と思い、立ち直っていったとブログで告白されていましたが。
ASKA:「どういう音楽をやってるんですか?」と聞かれたとき、僕の場合は(明確な答えが)なかったから。それがバリエーションに繋がったかな。この“バリエーション”っていうものが、自分の武器じゃないかなと思った時から「バリエーション」という言葉をよく使うようになりましたね。裏を返せば、何かひとつのサウンド、ジャンルを追求することが下手なんでしょう。飽きる。向いてない(笑)。
── 作るのに飽きちゃうんですか?
ASKA:作るほうも歌うほうも。だから「このアルバムを作ったから次はもっとここを追求して」じゃなくて、まったく違うものを作りたくなる。昔から、「マンネリこそ最高の武器であって、アーティストのカラーを出すために似た曲を作り続けることが売れ続けることなんだよ」と言われてるのは知っていたけど、すべて本人の満足の問題でしょう?僕は、いろんなタイプの曲を作っていきたい。
── ASKAさん世代で、バリエーションで勝負している方って珍しいですよね。
ASKA:ユーミンは、どれも“ユーミン”という感じの曲だよね。桑田(佳祐)さんも矢沢(永吉)さんも長渕(剛)さんもトータルカラーがあるけど、僕はないな。と、答えてるだけで、周りから見ればそれなりにあるのだろうけど。
── トータルカラーがないことに悩んだ経験はあるんですか?
ASKA:デビュー当時にね。ないのではなく、無理に作ってしまったことからの変更に時間がかかりました。結局、その時間もバリエーションには十分手伝ってはくれたのでしょうね。
── それが、バリエーションが自分の武器であるというところに繋がっていったのですね。
ASKA:これは自分で言う事ではないんだけれども、周りの人が「何を歌ってもASKAになるよね」って言ってくれたからね。どんな曲を作っても最後に「これはASKAだね」って言ってくれるんなら、十分幸せです。
── それをポリシーと言えるのも、バリエーションある楽曲を全部歌いこなせるシンガーASKAがいてこそ、なせる業ですよね。
ASKA:いやいやいや、生涯変化です(苦笑)。
── 例えば、今作に収録されるライブでASKAさんが会場を自分の空間にしてしまうために仕掛けた技とは?
ASKA:それは1曲目に「SAY YES」を演ることでした。僕のことを知ってくれてる人もデイヴィッド・フォスターを観に来た人も、この2人の共演を観に来た人も、1曲目がこれだったら「始まった」という感覚になってくれるでしょう?最初からオープニングはソレに決めてました。
── こういうお話を聞くたびに、こんな風に、どんな人をも納得させられるだけの楽曲を持っている人が、今の音楽シーンにどれだけいるのかと考えちゃいます。
ASKA:時代です。そのようなことを言ってもらえる時代で音楽をやれましたから。でも、今の若い世代には、また違う音楽との触れ合い方があるわけで、その時代、時代を象徴する音楽は常に現れますよ。そういうことを語ってる僕たちが古いだけです。
── あはははっ。
ASKA:楽曲をセールス枚数で表さなくなった。「再生回数」で表すようになった。ディスクなんてものは、欲しい方のグッズのようなものです。しかし、そのグッズの出来具合がアーティストを語るツールになる。重要ですよ。
── 当時とまったく規模が違いますからね。セールスも注目度も社会的バリューも。
ASKA:そう。だから、世代を超えて誰もが知るという楽曲を求めることが時代にあってない。でも、作品は求められる。しっかり応えて行くだけです。
── 「SAY YES」はもう20年近くも── 。
ASKA:ごめん、30年(※30年以上)(笑)
── 30年もの間、世間に愛され続けている曲です。今サブスクでヒットしている曲がこのあと30年愛されるのかなと思うと、そこは疑問なんですよね。
ASKA:だから、そこに疑問を持つことが世代観の違いなんです。
── 「SAY YES」が消費されず、時代を超えて、今も愛され続けている理由はなんだと思います?
ASKA:それは、常々いろんなところで流れてたり、カラオケの力も大きいと思う。昭和の歴史、平成の歴史を振り返る番組では、必ずと言っていいほどフィーチャーしてもらえてるので、そういうところもあるんじゃないかな。
── なるほど。当時、社会現象にまでなったヒット曲だからこそ、曲の威力はこうして今も広がり続けている訳ですね。
ASKA:今、僕は京都に住んでるじゃない? 東京にいる時には感じなかっった時間の流れ方の違いを体感してます。ゆったりしてる。
── ASKAさん、なんで京都に引っ越したんですか?
ASKA:もう4~5年前に決めてましたね。ステージでも公言しました。「いつかは京都に住むことになるから」って。そこから時間を経て、今年の5月の終わりから防音工事をやりだして、6月から京都の今の家に住みだした。独特の文化ですね。本当にそう思う。
── 今度はぜひ京都で取材したいですね。
ASKA:ぜひ、です。
── 住まいが変わると作る曲も変わるんですか?
ASKA:そんな気はしないかな。
── そうなんですね。
◆インタビュー(3)へ