【インタビュー】HANCE、大人世代を魅了する独自の音楽性の原点「一つ一つが必然だったんだなと思っています」

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■「夜と嘘」が150万回再生突破
■少しずつ広がっている実感があります


——2020年にシングル「夜と嘘」でデビュー。翌年5月に1stアルバム『between the night』をリリースしましたが、ここまでの活動の手ごたえはどうですか?

HANCE:率直に言いますと、すべて思い通りだったわけではありません。こういうスタイルで活動しているアーティストはあまりいないので、特に国内に関しては孤立している感じもあって。ただ、海外では予想外のことも起きました。YouTubeで150万回以上再生されている「夜と嘘」をきっかけに、フランス、ポーランド、スロバキアなどのヨーロッパ各国、あとは南米でも少しずつリスナーが増えていますね。最近、アルゼンチンのラジオ局から「あなたの曲を流したいからボイスメッセージを送ってほしい」という連絡がきたり、少しずつ広がっている実感がありますね。



——HANCEさんの楽曲にはロック、ブラックミュージック、ラテンなど様々なテイストが反映されているので、どこか無国籍な雰囲気もありますからね。

HANCE:海外のリスナーからはよく「J-POPっぽくないよね」と言われますが、自分としてはもともと好きだったエッセンスをまんべんなく入れている感覚ですね。ルーツ的には、90年代後半のロックシーンの影響は強いと思います。ちょうどフジロックが始まった時期ですが、邦楽も洋楽も関係なく、いろいろ聴いていました。30歳を超えたあたりからクラブミュージックを中心に、ジャズ、ラテン、ボサノバなども好きになって。幼少の頃から聴いていた歌謡曲なども含め、今はそれら全てが混在している感じだと思います(笑)。

——音楽性の広がりとともに、ボーカリストとしての表現力も必要になるのでは?

HANCE:そこは日々、葛藤していますね。HANCEとして活動を始めたときに、僕自身とHANCEの距離を置こうと思って。自分が歌うというより、「HANCEだったら、こうやって歌うだろうな」とか「こういう表現が求められるはず」という感覚もありますね。楽曲の世界観に合わせて、女性コーラスの方に参加してもらい、世界観を広げてもらうこともあります。


——なるほど。HANCEさんは大人のための音楽というテーマのほかに、“シネマティック・ミュージック”というコンセプトも掲げています。

HANCE:「どういうジャンルの音楽をやっているんですか?」と質問されると、すごく困ってしまうんですよ(笑)。聴いていただけるとわかると思うのですが、曲によってテイストや色合いが全然違います。どう説明したらいいのかな?と考えたときに“シネマティック・ミュージック”というキーワードが浮かびました。というのも、映画を撮るように音楽を作っている感覚があるんです。曲ごとに主人公がいるんですが、頭のなかに浮かんだ物語や世界観を曲や歌詞にして、ミュージックビデオに落とし込む。なので僕にとってのアルバムは、短編映画集に近いんですね。これもかなり稀だと思うんですが、音楽だけではなくて、MVを完成させるのがHANCEの活動の主な目的なんです。もともとMVは楽曲のプロモーションのために作られるようになったのが一般的だと思うんですが、僕にとっては音と映像が完全に一つのセットになっている。今回のアルバム『BLACK WINE』も12曲のうち10曲はMVを作ったんですよ。1曲目の「BLACK WOLRD」(インスト)と、6曲目の「或る人」以外はすべてMVがあります。

——曲作り自体も“映像ありき”なんですね。

HANCE:そうですね。そもそも映像が浮かんでこないと(楽曲を)作らないので。その原点は何だろう?と考えると、たぶん子供のときに好きだったアーティストさんの影響なんじゃないかなと。たとえば沢田研二さんもそうですけど、音楽よりも先に「沢田研二」という存在が前に出ていたじゃないですか。僕は昭和世代なので、そういう「個」としての存在に対する憧れが強いんです。今は逆ですよね。自分自身を後ろに引っ込めて、ビジュアルをイラストにしたり。

——“顔出し”しないで活動するアーティストも増えましたからね。

HANCE:多いですよね。それが今の時代の空気感だと思いますし、正解だとも思うんですけど、個人的にはちょっとした淋しさがあって。圧倒的な「個」としての存在感があった、昭和世代の先輩アーティストの方々に憧れていましたので。

——HANCEさんのMVは海外ロケも多いですよね。

HANCE:MVはいつもお世話になっている映像監督がいまして。いつも二人でロケに行ってるんですよ。海外に行って、街を歩きながら「ここで撮ろう」みたいな感じなんですけど、イメージに合う場所を見つけたときの感動は格別ですね(笑)「この曲のMVには絶対に月が映っていてほしい!」と思っていたときに、想像通りの月が出ていたりすると本当に感動しますね。

——それもHANCEさん自身がハンドリングしているから出来ることですよね。制作のイメージが明確で、関わっていくクリエイターとも直接やりとりして。

HANCE:“HANCEチーム”と呼んでいるんですけど、仰り通り、現在お手伝いいただいているチームメンバーは、全員一人ずつ僕自身が直接声をかけていきました。編曲はこの人、映像はこの人、プロモーションはこの人という感じで。まるで「ONE PIECE」のルフィさながらです(笑) ビジョンを共有し、熱量やセンスが近く、さらに尊敬も出来るプロフェッショナルな方々とご一緒できていることは、本当に幸せだと思います。自身の会社をマネジメントしていく感覚とそこは全く同じですね。



——なるほど。お話を聞いていると、いわゆるシンガーソングライターの枠にはまったく収まってないですね。

HANCE:そうなんですよ。正直、シンガーソングライターと言われると違和感があって。何かいい呼び方がないかなと思ってます(笑)。

——制作の段階で、ライブで演奏することは想定しているんですか?

HANCE:そこは正直、別物として考えています。クリエイティブに関しては、音源であれ、映像であれ、そのフォーマットに最善なものを作ることに振り切っていますので。「もしかしたらライブでやらないかもしれないな」という曲もあるし、ライブで演奏するにしても、音源を再現するのではなく、リアレンジするだろうなと。

——音源のアレンジを再現するのは大変そうですよね。

HANCE:曲によってはかなり音を重ねているので、完全に再現しようと思ったら何人編成になるかわからないですね(笑)。ただ、それはソロアーティストのメリットだと思うんですよ。固定のバンドの場合は編成がある程度制限されると思いますが、僕は初めからそこにこだわっていませんので。

——映像を駆使してステージはどうですか? 似合うと思うんですけど。

HANCE:それも難しいところなんですよね。MVを発表した時点で自分のなかでは完結しているし、むしろファンのみなさんと一緒に、ビールでも飲みながら大きなスクリーンで観たいくらいなので(笑)。もしくは映画館などでMVをまとめて観ていただいて、終わった後「どうでしたか?」みたいに登場するとか。舞台挨拶ですね(笑)。



——映画監督みたいに(笑)。

HANCE:そうそう(笑)。実際、短編映画を撮ってみたいという気持ちはずっとあるんです。僕がよくフェイバリットに挙げている映画監督はジム・ジャームッシュなんですが、彼の作品は物語の起伏で見せていくより、映像そのものから匂ってくる「圧倒的な世界観」が特徴だと思っていまして。MVを撮るうえでも影響を受けていますし、叶うことならいつか短編映画を撮ってみたいですね。

——ジム・ジャームッシュの映画には、トム・ウェイツをはじめ、ミュージシャンが重要な役割を果たしてますよね。

HANCE:まさに。トム・ウェイツ、大好きなんですよ。彼もまた「存在感」の人ですよね。



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