【インタビュー】LUNA SEA、RYUICHIが語る『MOTHER』『STYLE』と30年「何を失って何を得たのか」

ポスト
no_ad_aritcle

■やっぱり型破りですよね
■新録してみて改めてそう感じました


──一歩引いて、全体を見渡す眼差しが加わったセルフカバーなわけですね。

RYUICHI:たぶんメンバー全員そうだと思う。ただ、そういうふうに俯瞰で見ながらも、自分たちならではの化学反応というか、“ヒリついてピリピリしたスリリングな空気感をLUNA SEAは持ってるよな”ってことを思いながら音楽を作っているので。それによって生まれているのが、最初に言ったような、規則性が無い、見たこともないような彫刻というかね。もう少し分かりやすく言うと、ちゃんと譜面を理解してアレンジしていくと、どこかで聴いたことのあるアレンジに近付きやすいんですよ。コードだってもう世の中に出揃っているわけだから。だけど、LUNA SEAの曲って誰もルート(※コード構成音の基礎となる音。一般的に和音の一番下の音)を弾いていないことがよくあるんですよ。だからこそ斬新に聴こえたりするんですね。余談ですけど、ライヴの音響チームがガラッと変わった時に新しいスタッフの方も驚いていたんですよ。「RYUICHIさん、どの音を聴きながら歌ってるんですか? どのパートをモニターに返したらいいのかわからない。僕らには理解できないんですけど」ってよく訊かれましたね。「じゃあ、バンドの音は全部返しといてください」って答えるみたいな(笑)。

──そう考えるとRYUICHIさんは、ヴォーカリストとして特殊な環境で鍛えられてきたわけですね。

RYUICHI:でも、バンドマンってそういうことなのかもしれないですよね。セオリーからはみ出していくというか。SUGIZOはずっとヴァイオリンをやっていたし、お父様もお母様もオーケストラの方なので、譜面的なことも一番熟知してるんです。でも、それ以上に“俺はこうしたいからこうしてるだけ”みたいなアバンギャルドな面が強い。LUNA SEAにはそういうメンバーが揃っているので。 結局、「音楽理論上、本当はこうでしょ」と言っても、特にインディーズとか初期には「いや、それはカッコ悪い。こうだよ」ってメンバー自身が思っていたし、 僕自身もそうだったし。そういう意味では、やっぱり型破りですよね。今回、新録してみて改めてそう感じました。


▲<LUNA SEA DUAL ARENA TOUR 2023>10月8日@横浜公演

──「RA‐SE‐N」の新録版は、今のLUNA SEAだからこそ醸し出せる、ひたひたと迫り来るようなスリルと高揚感が表れているように感じました。ライヴでの起爆力もまた凄まじくて。

RYUICHI:「RA‐SE‐N」は特にライヴのとき、リミッターを超える瞬間をイメージして歌っているところもあるので。人間の中にある理性とか、“これはやっちゃいけないこと/これはやってもいいこと”っていう管理……ホワイト化されている今の時代では特に、少し足を踏み外すだけでもみんなから注意されたり、社会で認められない人間になってしまいやすいじゃないですか。でも、ステージ上の空間で、ある曲の中だけで理性を失うことは、今でも自由で。理性が邪魔をして出せないような声も出すことができる。狼が吠え、赤ん坊が泣くように、自分の雄叫びがそこに存在していればいい、シャウトしていればいい、魂が震えていればいい、という世界観なんです。そういうスイッチを押してくれる曲でもある。だけどレコーディングで僕は、むしろ少しマット(matte)に仕上げたいなと思っていました。ライヴでのブーストスイッチを封印することで、逆にこの曲が重く説得力を持っていくみたいな認識。その瞬間にしか現れない感情とか理性を超えた声が録音されると、それは何度も聴けるわけで。それは違う気がするんですよ。

──それこそ記録して残しておきたい、という発想ではないと。

RYUICHI:そう。ライヴテイクは残っていくし、ライヴ放送がアーカイブ化されて作品になっていけば、当然みんなには届くわけですけど。ただ、やっぱりファンのことをメンバーだと呼んでいるように、みんなで作り上げていく空間だったりシチュエーションだからこそ、出てくる声でもあると思うので。

──ライヴでは本能のままに、という表現になるわけですね?

RYUICHI:そういうところをすごく大事にしているし、“毎回変わってもいい”と思いながら歌っています。その日、自分の心や魂から出てきたものに、できるだけバイアスを掛けずコントロールせずにステージから出したいという気持ちはありますね。

──それくらいライヴという一回きりの場を尊く考えられている、ということですか?

RYUICHI:そう思います。レコーディングされたものって……たとえば、とても素敵なレストランに行って、一流ソムリエが出してくれるワインとか一流シェフの調理によるメニューを頼んだ時に、“毎回味が違う”ではちょっと残念じゃないですか。僕にとってレコーディングとかアルバムというものは、そういう位置付けなんです。その一方で、もっと創作的だったり、その場のファンと作る感情的な渦に巻き込んでいくのがライヴだと思うので。そこはメニューと違うものが出てきても、いい意味の裏切りであれば、そのほうがいいと思っています。


▲<LUNA SEA DUAL ARENA TOUR 2023>10月8日@横浜公演

──「FOREVER&EVER」のJさんの語り部分は、2023年ヴァージョンになって、言葉の説得力が飛躍的に増していると感じました。RYUICHIさんはどう聴かれましたか?

RYUICHI:母国語ではない言葉をあそこまでのシリアスさと重さを持って表現したことが素晴らしいし、きっとチェックも厳しかったんじゃないかなと思うんですよ。スティーヴにとっては母国語なわけだから。だけどJは、ミュージシャンとして海外の人間とも長くやってきたし、 そういう意味では、経験値も何もかも当時とは全てが違うんじゃないですかね。

──Jさんの歌声以外にも、たとえば「FACE TO FACE」などにはINORANさんのコーラスも加わっていますよね?

RYUICHI:そうです、いっぱい入っています。

──ヴォーカリストであるRYUICHIさんとしては、そういったコーラスの存在感の高まりについて、どう受け止めていらっしゃいますか?

RYUICHI:もちろん素晴らしいことだと思います。たとえば、ビートルズやイーグルスもそうですけど、洋楽を聴くとメンバーのコーラスがバキバキに入っているじゃないですか。SUGIZOもJもINORANもみんなソロ活動で歌っているし、そういう要素はLUNA SEAに積み重なってくるんですよ。だからアレンジの幅も広がるし、再現力も高まっていく。もちろんバンドは生がメインですけど、最近はレコーディングデータのコーラスチャンネルを同期させる…たとえば3本入っているコーラスのうちの2本を同期させてライヴで流して、残りの1本を生で歌うとか、いろいろなヴァージョンが存在するわけですよね。ライヴでストリングスがいなくても音が流れてくるのもそう。そういうことができるようになって、音源の再現度も高くなってきている。ところがLUNA SEAはそんな中で、同期に頼らない。実際にソロでも歌っていて、歌うことが楽しいと思っているメンバーがバンドに増えているというのは、やっぱり良いことですよね。


──『MOTHER』『STYLE』の新録盤が完成した今、改めてRYUICHIさんとしてはオリジナルと何が変わったと感じられますか?

RYUICHI:僕自身、それを探したり感じたくてレコーディングしていた部分もありました。何を失って、何を得たのか。さっきも言いましたけど、今回はスティーヴがアンカーとして、オリジナルよりもロックにしてくれた。VRという話も少ししましたけど、本当に立体的な音像になって、低音の迫力とかパンクな暴れ方とかもめちゃめちゃカッコいい。 そういう意味では、前作と聴き比べてもらっても、今回のほうがより音圧があるんじゃないかな。まず、そこは失わなかったし、そういう音にスティーヴがした。よりパワフルになっているという驚きがありました。あとはメンバー個々の経験値。さっきのJの語りにしてもそうだし、僕のヴォーカリゼーションにしてもそう。メンバー1人1人の音が太くなっている。だから、それほどオーバーダビングをしなかったと思うし、音に説得力が増していると感じました。LUNA SEAのレコーディングって、ドラムとベースによるリズムセクションが出来上がって、そのうえにバッキングギターが入って、そこから歌を録り始めることが多いんです。その後でギターソロが入ったり、ストリングスパートやコーラスが追加されたりっていうふうにオーバーダビングしていくんですね。だけど今回は、“もうこれで充分じゃん?”というのはレコーディングの随分手前の段階、シンプルなバンドサウンドのところで感じましたね。大人っぽくなるんだろうけど、それって丸くなっちゃう感じなのかな?と思ってたら、結果、スティーヴのミックスはロックだった。後輩ミュージシャンに内緒で何曲か聴いてもらったんですけど、「めちゃめちゃロックな音像ですね!」という声が多くて、“あ、やっぱりそういう聴こえ方をしてるんだ”という。

──円熟味を増しながらも、落ち着いてしまわないのはLUNA SEAらしいですね。

RYUICHI:同じ音量で聴けば、昔のアルバムのほうがしっとり聴こえると思いますよ。音像として考えると、今のほうがいい意味でザラザラしていたり、分離感があったりするので。1人1人がやっていることが明確に聴こえてくるし。

──はい、すごくクリアに一音一音が聴こえて心地よかったです。真矢さんのシンバルが、静寂の中でさざ波のように聴こえたのも印象的でした。

RYUICHI:スティーヴはリバーブの使い方がめちゃくちゃ上手いんですよ。ただ単にドライなだけではないのに、なぜ一人一人の音がこんなにも聴こえるんだろう?って。小さなスピーカーで聴いても結構しっかりとベースやバスドラムが聴こえるので。やっぱり、見えている景色や音像が違うんだろうなと思います。もしかしたらそれが洋楽と邦楽の違いなのかもしれない。もちろん邦楽がダメということではなくて、日本で生まれ育った音の文化と、アメリカやイギリスで育った音の文化とでは全然違うというのは感じましたね。

◆インタビュー【4】へ
◆インタビュー【2】へ戻る
この記事をポスト

この記事の関連情報