いい音爆音アワー vol.144「天高く♪ラッパ響く秋」

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爆音アワー
いい音爆音アワー vol.144「天高く♪ラッパ響く秋」
2023年9月13日(水)@ニュー風知空知
管楽器のアンサンブルにはブラス・セクションとホーン・セクションという2つの呼び方がありますが、何が違うんでしょう? 
ブラス=brassは「真鍮」という意味で、金管楽器のことを指します。なので金管楽器であるトランペットとトロンボーンだけのアンサンブルは「ブラス・セクション」と呼びます。一方、ホーン=hornは「つの」ですが、管楽器全般をいうので、たとえばトランペットとトロンボーンのブラス・セクションに木管楽器のサックスが加わると「ホーン・セクション」になるみたいです。
でもいわゆる「ブラス・バンド」には木管も入ってますし、略して「ブラバン」ですが、「ホーン・バンド」という言い方は聞いたことがありません。Blood, Sweat & TearsやChicagoのようなバンドを「ブラス・ロック」と言いますが、「ホーン・ロック」とは言いません。そういうところ、どうもスッキリしませんね。

そもそも、サックスも金属でできているのに、なぜ木管楽器なのかと思いますよね。実はサックスというものが登場する以前は、材質で区別していたそうなんですが、1840年代に開発されたサックスは、真鍮製だけど、唇の振動で音を出す金管とは違って、竹などのリードを使う木管の構造を持っていたので、木管楽器に分類されたそうです。それ以来材質とは関係なく、「リップリード」、つまり唇振動型の管楽器を金管楽器とし、そうでないものは木管楽器とすることになったとのことです。


ふくおかとも彦 [いい音研究所]
  • ①Otis Clay「Trying to Live My Life Without You(愛なき世界で)」

    オーティス・クレイが所属するハイ・レコードはテネシー州メンフィスに、1957年に設立されたソウルミュージック・レーベルです。多くの作品は、ウイリー・ミッチェルというプロデューサー&エンジニアが、“Hi Rhythm Section”と呼ばれたミュージシャンたちと、「Royal Recording Studio」というスタジオで制作されたので、サウンドはとても特徴的で個性的。同じくメンフィス生まれのスタックス(Stax)・レコードとともに、おもに60年代後半から70年代前半にかけて、「メンフィス・サウンド」と呼ばれる質の高いソウル・ミュージックを輩出しました。その特徴のひとつがホーン・セクション。“The Memphis Horns”と呼ばれたグループの演奏は、派手ではなく素朴でのどか、だけどツボはしっかり押さえているという感じです。
    Hiの代表的なアーティストはアル・グリーン(Al Green)、アン・ピーブルズ(Ann Peebles)、O.V.ライト(O.V. Wright)、そしてこのオーティス・クレイ。ゴスペル出身で、1971年にHiに移籍し、72年にこの「Trying to Live My Life Without You」をシングル発売。彼の代表曲となりました。

  • ②Al Green「Let's Stay Together」

    続いてはハイ・レコードの稼ぎ頭Al Green。プロデューサーのウィリー・ミッチェル、Hi Rhythm SectionとThe Memphis Horns、Royal Recording Studioとさきほどの「Trying to Live My Life Without You」と同じ制作体制ですが、この「Let's Stay Together」はミッチェルが作曲もやっていて、ドラマーのアル・ジャクソンが共同作曲者なので、おそらくドラムはジャクソンかと。「おそらく」というのはアルバム・クレジットにはドラマーとしてハワード・グライムスとジャクソンと、2人書いてあるだけだし、2人のドラム・スタイルは似ているので、確信はないからです。
    できあがった曲にアル・グリーンはわずか15分で詞をつけたそうですが、ボーカルの録音には何週間もかけたそうです。

  • ③Bruce Springsteen「Tenth Avenue Freeze-Out(凍てついた十番街)」

    "Roy Orbison singing Bob Dylan, produced by Spector"をコンセプトにつくったというブルース・スプリングスティーンの3rdアルバム 『Born To Run(明日なき暴走)』。そこからの第2弾シングル「Tenth Avenue Freeze-Out(凍てついた十番街)」は、R&B風のサウンドで、ホーン・セクションが活躍しています。“E Street Band”にはテナー・サックスのクラレンス・クレモンスしかいませんから、ランディ(tp)&マイケル(t-sax)のブレッカー兄弟とかデイヴィッド・サンボーン(b-sax)が参加しています。ホーン・アレンジはスプリングスティーンとスティーヴ・ヴァン・ザントがアイデアを持ち寄りました。

  • ④Van Morrison「Wild Night」

    ヴァン・モリソンがつくったR&Bソング「Wild Night」です。1971年9月にシングルとしてリリースされたのですが、なんと2022年1月にカナダのラジオのオンエアチャートで1位になったそうです。ライブでは必ずやってきたらしいし、マーサ・リーヴス(Martha Reeves) (1974)とかジョン・メレンキャンプ&ミシェル・ンデゲオチェロ(John Mellencamp and Meshell Ndegeocello) (1994)とかいろんな人がカバーをしているから、今も人気が衰えないんですね。
    たぶんヴァン・モリソンの中では一番ダンサブルじゃないか、と思うくらい陽気なノリですが、でもとても手触り感のある、味わい深いサウンドです。ホーンセクションはトランペットとアルト・サックス、バリトン・サックスのアンサンブルです。

  • ⑤The Boo Radleys「Wake Up Boo!」

    イギリスのウォラシー(リヴァプールの隣)出身の“ブー・ラドレーズ”の一発ヒット曲。ポップソング+ホーン・セクションですね。。一度録音してから、アレンジをやり直したとのことで、最初はもっとヘビーでまったりした感じだったみたいです。もっとポップにとレーベルからの要望もあり、“Style Council”を聴いてモータウン的なビートにしたと。リズム・セクションだけでも成立しているんですが、さらに派手にするためか、ラッパを入れました。トム・ジョーンズのバックの人たちで、“Tom Jones' brass section”と呼ばれているらしいですが、サックスも入っているので、ブラスではなくホーン・セクションですね。

  • ⑥The Buckinghams「Don't You Care」

    “ザ・バッキンガムズ”は一見、英国のマージービート系のバンドかと思うような雰囲気なんですが、シカゴ出身のバンドです。1966年結成で、おそらくポップロックにホーン・セクションを加えるというサウンドはこのバンドが初なのでは、と思います。デビューアルバムはビッグバンドのリーダーがプロデューサーだったので、そのようなサウンドにしたのでしょう。
    で、66年末にジェイムズ・ウィリアム・ゲルシオ(当時21歳)に出会いまして、彼がプロデュースとマネジメントを務めた67年にはブラス・ポップ路線でヒットを連発しました。ただ、意見がくい違うようになって、68年中頃に離れると、ヒットが出なくなり、70年に解散してしまいました。一方ゲルシオのほうは68年に“Blood, Sweat & Tears”、69年からは“Chicago”をプロデュースして、ブラス・ロックで大成功していきます。
    「Don't You Care」はゲルシオがバッキンガムズをプロデュースした最初のシングルでした。

  • ⑦Pigbag「Papa's Got a Brand New Pigbag」

    ホーン・セクションをメンバーとして持つバンドです。この後いくつかそのタイプを聴きますが、今回はあえて、“Blood, Sweat & Tears”と“Chicago”という代表的なブラス・ロックバンドを外しました。その分知る人ぞ知るでもぜひ知ってほしいバンドを含め、選んでいます。
    ともかく、英国のポスト・パンク、あるいはダンス・パンクとされる“ピッグバッグ”。1980年に結成して、83年に解散、と短命で、ヒットも1曲しか持っていませんが、それが非常によく知られていて、英国サッカーのアンセムとして、今でもよく流れたり演奏されたりするという「Papa's Got a Brand New Pigbag」という曲です。

  • ⑧村田陽一ORCHESTRA「Blues Connotation」

    セッションミュージシャン、そして編曲家、プロデューサーとして大忙しのトロンボーン奏者ですが、さらに“村田陽一SOLID BRASS”、“村田陽一HOOK UP”、そしてこの“村田陽一ORCHESTRA”と自身のバンドを3つ、並行して動かしています。
    “村田陽一ORCHESTRA”は1993年3月に結成。トランペット✕2、トロンボーン✕2、サックス✕3+ドラム・ベース・ギター・パーカッションという編成で、新宿Pitt Innを中心に活動してきました。2009年4月にこの『STANDARDS』、そして『COMPOSITIONS』という2アルバムを同時発売しました。タイトルから分かる通り、カバー集とオリジナル集です。

  • ⑨椎名林檎「公然の秘密」

    村田陽一は様々なアーティストに、ホーンセクションを中心としたアレンジで貢献していますが、その“お得意様”というか“ご贔屓筋”のひとりが椎名林檎です。
    椎名林檎の初めてのベストアルバム『ニュートンの林檎』に2曲だけ新曲が含まれていて、その1曲が「公然の秘密」なんですが、ホーンセクションとストリングスと、ティンパニー、チューブラベルズ、ヴィブラフォンといういわゆる打楽器のアレンジを村田陽一が担当しています。ホーンセクションはトランペット✕2、トロンボーン✕1、アルトサックス、テナー・サックス各1、フルート1という陣容です。

  • ⑩浅草ジンタ「Kappo」

    チンドン系と言いますか、まさにホーンやブラスよりラッパ・ロックというのが似つかわしいバンドです。浅草を拠点に海外にも積極的な活動を展開している“浅草ジンタ”。ポリシーは「ローカル&グローバル」だそうです。2000年から"百怪の行列"という名前で活動開始。2004年になんと、ロックバンドとして初めて「落語芸術協会」客員となり、三遊亭小遊三師匠から「浅草ジンタ」という名前をもらいました。
    私が彼らの音楽を知ったのは2013年の日本テレビの「ダンダリン・労働基準監督官」のサウンドトラックとして。和風な哀愁感とやんちゃなパフォーマンスのマッチングに惹かれました。オープニングテーマとして使われていたのが「Kappo」という曲です。

  • ⑪Third Coast Kings「West Grand Boulevard」

    今度は洋楽で、21世紀のブラス・ファンク・バンドを聴いてみましょう。「deep funk」というらしいですが、“サード・コースト・キングス”という、2007年に米国ミシガン州デトロイト近郊、アナーバーで結成されたバンドです。
    「third coast」というのは、East Coast、West Coastに次ぐ3番目の沿岸という意味で、五大湖沿岸とメキシコ湾沿岸の両方に使われるそうです。ミシガン州は五大湖のエリー湖に面しているので、こういう名前にしたんですね。
    2nd アルバム『West Grand Boulevard』のタイトル曲です。2014年の音とは思えない、いい意味で全然スマートじゃない音です。

  • ⑫The Ides of March「Vehicle」

    今度はかなり古いブラスロック・バンド。“アイズ・オヴ・マーチ”は1966年の活動開始ですから、67年に結成したシカゴより、ちょっと先輩になりますが、ホーンセクションをバンド内に持つのは67年から。で、彼らもシカゴのすぐ近郊のバーウィン(Berwyn) という町の出身です。先ほどの“The Buckinghams”もシカゴ出身で66年結成。シカゴはブルースとジャズのメッカですが、60年代後半にはブラスロックが生まれてくる何らかの環境があったのかもしれません。
    で、このバンドはシカゴではとても人気があって、「WLS」というラジオ局など彼らのシングルは必ず上位にランキングしましたが、それ以外の地域ではまったくでした。唯一全国的に売れたのが「Vehicle」という曲。シングル・チャートで全米2位になりました。作詞・作曲・リードボーカル・リードギターのジム・ピートリックは、この後、1978年に“Survivor”というバンドの結成メンバーになりまして、「Eye of the Tiger」などのソングライティングでも活躍しています。

  • ⑬Chase「Run Back to Mama」

    “チェイス”はトランペッターのビル・チェイス(Bill Chase)が中心となって、1970年に結成したブラス・ジャズ・ロック・バンドです。管楽器がトランペットのみ4人というユニークな編成で、デビューシングルの「Get It On(黒い炎)」(1971年4月)がいきなりヒットして、“BS&T”、“Chicago”に次ぐ人気ブラスロックバンドとなりました。
    で、先ほどのジム・ピートリックはチェイスの1stアルバムにも曲を提供していて、3rdにも曲提供およびそのボーカルで参加しています。
    ところが、その3rdアルバム『Pure Music』発売後のツアーの途中、1974年8月9日に、チャーター機が墜落して、ビルを含むメンバー4人が亡くなってしまいました。ピートリックもゲストでライブに帯同していたのですが、その時飛行機には乗らず、バスで移動していて助かりました。で、その後1978年、ピートリックがフランキー・サリヴァン(Frankie Sullivan)というギタリストとバンドをつくることになり、元チェイスのドラマー、ゲイリー・スミス(Gary Smith)とベーシスト、デニス・ジョンソン(Dennis Keith Johnson)を誘って結成したのが“Survivor”です。「Eye of the Tiger」のヒットの時にはもうゲイリーとデニスは辞めていましたが。
    ともあれ、チェイスの3rd & Lastアルバム『Pure Music(復活)』よりシングルカットされた「Run Back to Mama」という曲は、ビル・チェイスとピートリックの共作で、ピートリックがボーカルを担当しています。

  • ⑭和田アキ子「古い日記」

    チェイスのデビュー曲「黒い炎」は日本でもヒットして、洋楽の美味しいところはすぐ取り入れる歌謡曲には当然恰好のターゲットでした。筒美京平さんが作・編曲した欧陽菲菲の「恋の追跡」(1972年4月)が典型的で、それを選ぼうかとも思いましたが、和田アキ子さんの「古い日記」にしました。作曲・編曲ともに馬飼野康二さんで、プレイヤーは不明ですが、トランペットのセクションに、ストリングスも入って、カッコいいアレンジだと思います。

  • ⑮キャンディーズ「危い土曜日」

    今度は“Tower of Power”(以下「TOP」)のホーン・セクションを彷彿とさせるようなアレンジを導入した歌謡曲。キャンディーズの3枚目のシングルなんですが、3枚目にして、当時の女子アイドルではありえないくらい攻めています。チェイスは日本でも有名でしたけど、TOPは知る人ぞ知るという存在でしたからね。でも、さきほどのチェイス、和田アキ子、この曲はいずれも1974年発売、次のRCサクセションは1976年発売なんだけど実は1974年録音ということで、1974年はホーンセクションが旬だったのかもしれません。
    クレジットがないので、演奏者は分かりませんが、アレンジャーは竜崎孝路さん。どちらかというと演歌の仕事が多い方なんで、ちょっと意外です。

  • ⑯RCサクセション「ファンからの贈りもの」

    次はTOPを「彷彿とさせる」のではなくて、実際にTOPが参加した日本のロックです。RCサクセションの3rd アルバム『シングル・マン』。
    TOPが1974年末に来日した時に、このアルバムや、かまやつひろしの「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」に演奏やアレンジを提供していったんですが、その頃RCが事情により、マネジメント事務所だったホリプロに内緒でこれを制作していたことが理由で、1976年4月まで発売できませんでした。発売の際も、契約都合でクレジットされていないし、1年ほどで廃盤になってしまったこともあり、TOP参加のことはかなりあとになって明らかになったのですが。
    特に1曲目の「ファンからの贈りもの」がTOPらしさに溢れています。ホーン・セクションだけでなくリズム隊も参加しているらしく、ただ、ドラムは西哲也(元リリィ&バイバイセッションバンド、ファニー・カンパニー、その後ライブハウス「クロコダイル」の店長)が叩いていると。たぶんベースは、RCのワッショーではなく、TOPのロッコ・プレスティア(Francis Rocco Prestia)でしょうね。

  • ⑰Tower of Power「Maybe It'll Rub Off」

    ということで本家“Tower of Power”です。実は、この曲が収録された5thアルバム『Urban Renewal』以降、しだいに売上が下がっていきました。というのも前作のあと、最強のドラマー、デイヴィッド・ガリバルディ(David Garibaldi)が抜け、本作のあとには、ボーカルのレニー・ウィリアムズも辞めてしまうんですね。後任のドラマー、デイヴィッド・バートレットも充分うまいんですけど、ガリバルディの切れ味に比べてしまうと、やや見劣りしてしまいます。ただ、このバンドの創設者はテナー・サックスのエミリオ・カスティーヨとバリトン・サックスのステファン・"Doc"・クプカなんで、ホーン・セクションがこのバンドのカナメですし、そのパフォーマンスはやはりすごい。何がすごいって、ハーモニーがきれいなのにリズムが鋭いというところなんですが、おそらくクプカのバリトンがいいんだと思います。

  • ⑱Earth, Wind & Fire「In the Marketplace〜Jupiter(銀河の覇者)」

    “EW&F”のホーン・セクションは“The Phenix Horns”という、別バンドの形になっています。なぜか、テナー・サックスのアンドリュー・ウールフォーク(Andrew Woolfolk)だけはEW&F本体の所属になっているんだけど。彼らはTOPホーン・セクションのパーカッシブなプレイ・スタイルを参考にしたそうです。で、EW&FもPhenixもやはりシカゴ出身なんですねー。さらに彼らのホーン・アレンジを担当していた“Tom Tom 84”もシカゴの人です。シカゴ恐るべしですね。

  • ⑲Chaka Khan「We Can Work It Out(恋を抱きしめよう)」

    チャカ・カーンの3rdアルバム『What Cha' Gonna Do for Me(恋のハプニング)』からビートルズ曲のカバー「We Can Work It Out(恋を抱きしめよう)」です。
    1stからずっとプロデュースとアレンジをアリフ・マーディンが担当していますが、この曲のホーン・アレンジはラリー・ウィリアムズという人に任せています。自分でも全然できてしまうのに、あえて任せるということは、相当その人の能力を高く評価していたんだと思います。すばらしいアレンジだと思います。

次回の爆音アワーは・・・

                        
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