いい音爆音アワー vol.140「だから♪雨の名曲」

ポスト
爆音アワー
いい音爆音アワー vol.140「だから♪雨の名曲」
2023年6月14日(水)@ニュー風知空知
今年も梅雨がやってきましたね。この時期、ラジオや音楽配信サイトではさかんに「雨の歌特集」が展開されていることでしょうが、この「いい音爆音アワー」でも、2013年6月(vol.31)以来、10年ぶり2回目の雨特集です。
「エスキモーは雪を表す言葉を50個も持っている」と言われますが、生きていく上で雪が非常に重要だからでしょう。日本は雨が多いので、やはり雨を表す言葉や表現が多いし、必然的に昔から、雨が登場する歌も多いですね。
雨の光景は昔も今もあまり変わりません。この、AIが進化し過ぎてやばいというような時代になっても、相変わらず、雨が降ったら傘をささないといけないし、スニーカーには水が染み込む。雨の日に出かけるのは嫌だし、野外ステージも運動会も雨は避けたい。長雨はジメジメして気が滅入るし、ウチのカミさんは僕を雨男だと言ってからかいます。
でも、だから、雨は様々なドラマを生むんです。そしてそのドラマが名曲を生みます。ゆえに、日本には雨の名曲が多いのです。今回の選曲もだいぶ日本の曲のほうに比重が偏りました。

ふくおかとも彦 [いい音研究所]
  • ①Gene Kelly「Singin’ in the Rain(雨に唄えば)」

    ジーン・ケリーという歌って踊れる俳優さん主演の映画「雨に唄えば」(1952年公開)の主題歌だと思っていたら、実はこの歌が先にあって、これを中心にミュージカルをつくろう、ということで映画が制作されたのでした。この歌は1929年に公開された「The Hollywood Revue」という映画で使われ、クリフ・エドワーズ(Cliff Edwards)という人が歌って、その時もヒットしました。
    作詞:Arthur Freed/作曲:Nacio Herb Brownで、そのアーサー・フリードがやがてMGM映画のミュージカル部門の責任者になって、映画「雨に唄えば」をつくることを企画したんです。
    映画は大ヒットして、アメリカ映画協会発表の「ミュージカル映画ベスト」(2006)で1位、この主題歌は「アメリカ映画主題歌ベスト100」(2004)で3位にランキングされています。

  • ②The Cascades「Rhythm of the Rain(悲しき雨音)」

    これは10年前も選びましたが、やはり何度聴いても雨の名曲なんで。メロディもいいですが、歌詞がすばらしい。特に1行目の「Listen to the rhythm of the falling rain」という言葉はスコーンと頭に入るし、この言葉が載ることで、メロディがぐっと生き生きして、よく聴こえます。
    曲はリードボーカルのジョン・ガンモーが海軍にいた頃、雷雨の日に窓から外を眺めながらつくったもので、演奏はレッキングクルーと呼ばれたLAのセッションミュージシャンたち、ドラム:ハル・ブレイン、ベース:キャロル・ケイ、ギター:グレン・キャンベルといった人たちが担当しています。

  • ③西田佐知子「アカシアの雨がやむとき」

    ここで歌われているアカシアはホントのアカシアではなくてニセアカシア(ハリエンジュ)だそうです。明治時代に先にニセアカシアが輸入されてアカシアと呼んでいたので、一般的にはすっかりこちらがアカシアになりまして、札幌の「アカシア並木」は有名だそうですが、ニセアカシアだし、歌謡曲や小説に出てくるアカシアはほぼニセアカシアらしいです。
    西田佐知子の13枚目のシングルですが、歌詞の内容がとても暗い。発売は1960年4月。この年日米安保条約の最初の改定がありまして、今ではちょっと考えられないくらい反対運動が盛り上がったんだけど、結局改定は強行採決され、デモに参加していた東大学生の樺美智子さんが死亡するという事件もあって、いつの間にかこの歌が安保闘争敗北の記念ソングのようになりました。

  • ④小川知子「銀色の雨」

    小川知子さんの6枚目のシングルで1969年9月に発売された「銀色の雨」です。オリコン最高17位ですが、「夜のヒットスタジオ」などで、何度も聴いた記憶があります。作詞:松井由利夫/作曲:鈴木淳で、鈴木淳さんは有名ですが、松井由利夫という人は知らなかった。もう亡くなっておられるんですが、氷川きよしを発掘した人だそうです。で、氷川さんにはもちろんいっぱい書いておられますが、それまでも基本的に演歌の人で、いわゆる歌謡ポップスは少ないし、小川さんにはこの「銀色の雨」1曲だけみたいです。どういう経緯でこの曲だけ松井さんにお願いしたのかは不明ですが…。

  • ⑤ちあきなおみ「黄昏のビギン」

    タイトルに雨は入っていませんが、雨降りの黄昏の街の思い出の歌です。この曲、最初は水原弘さんの2ndシングル「黒い落葉」のB面として1959年10月に発売されました。作詞:永六輔・中村八大/作曲:中村八大ですが、実は詞も全部八大さんが書いたと永さんが明かしています。
    で、そのままずっと忘れ去られていたのですが、30年以上も経た1991年、ちあきなおみさんがスタンダード曲のカバー・アルバム『すたんだーど・なんばー』をつくり、その中でこの曲を取り上げ、シングル・カットもしました。ただ、その時もあまり話題にはならず、その翌年、夫の郷鍈治氏の死去とともに、ちあきさんは歌手をスパッと引退してしまいました。
    それから1999年になって「ネスカフェ」のCMで流れ、改めてちあきさんに注目が集まり、本人不在のまま2000年2月にシングル「かもめの街」のB面として再発売され、オリコン86位にチャートインしました。その後は、さだまさし、中森明菜、稲垣潤一、岩崎宏美、鈴木雅之、薬師丸ひろ子などなどいろんな人がカバーして、今ではすっかりスタンダード曲となったという、珍しいパターンの名曲です。

  • ⑥石川セリ「Midnight Love Call」

    これもタイトルに雨は入っていませんが、雨が嫌いな女性が夜中に電話している歌です。
    石川セリさんは井上陽水さんの奥さん。1985年以降は活動停止状態で、ちょっともったいないのですが、95年に武満徹さんのポップソングを歌うというスペシャルなアルバム『翼〜武満徹ポップ・ソングス』を出したりして、わが道を行ってる人ですね。
    「Midnight Love Call」は、1977年6月5日に発売された、彼女の3枚目のアルバム『気まぐれ』の1曲として、南佳孝さんが提供しました。佳孝さんも1980年のアルバム『MONTAGE』でセルフカバーしています。この曲、サビでさりげなく変拍子=7拍子×3回になるところが、カッコよくてとても好きです。アレンジは矢野誠さん、矢野顕子がエレピを弾いています。

  • ⑦キリンジ「雨は毛布のように」

    キリンジは堀米高樹と泰行の兄弟で、1996年に結成されました。最初から5枚目のアルバム『For Beautiful Human Life』(2003年9月)まで冨田恵一がプロデュースですが、最初はまだ冨田もまだ無名で、キリンジとともに売れていったという感じですね(2000年にMISIAの「Everything」でドカン)。
    2013年に弟の泰行が抜けて、6人組のバンドになるんですが、この曲は彼らの7枚目のシングルで、まだデュオの時代、2001年6月発売。堀込高樹のe-guitarの他の楽器はすべて冨田恵一が打ち込んでいて、aikoがコーラスに参加しています。

  • ⑧ヨルシカ「ヒッチコック」

    “キリンジ”とカタカナ4文字つながりってことで、“ヨルシカ”の「ヒッチコック」ですが、ちょっとこれは「雨の名曲」と言っては語弊がある。雨は冒頭に1回しか登場しない。しかも「雨の匂い」だけ。でも最近のアーティスト代表として選んでしまいました。
    プロデューサーのn-buna(ナブナ)と女性ボーカルのsuis(スイ)のユニット。顔は出さないので意味不明なマークがアイコンです。2017年デビュー。18年5月に発売された2ndミニアルバム『負け犬にアンコールはいらない』に、この「ヒッチコック」が収録されました。メロディやサウンドもポップでいいですが、詞が面白いです。ヒッチコックの他にニーチェやフロイトも出てくる語彙の幅がすごいし、「幸」という漢字はひとつ線を抜けば「辛」になる…というのはどこかで見たこともあるけど、“「¥」を含むのは何でなんでしょうか”という一節もあって、その発想はユニークですね。

  • ⑨山下久美子「雨の日は家にいて」

    私が昔、担当ディレクターとして関わった作品です。作詞:康珍化/作曲:岡本一生/編曲:伊藤銀次で、結果的には自分でも大好きな「雨の歌」になったんですが、実はその裏に、まだ新米の私の大失策がありまして。アルバムを制作するのに半分を石田長生さんのサウンドプロデュース、もう半分は某ギタリストをまとめ役としてバンドっぽくリハーサルをしてヘッドアレンジでつくっていこうと考えたんです。この「雨の日は家にいて」という曲はそちらに入っていました。ところがリハーサルを重ねても、どうもいい感じにならない。でももうレコーディングのスケジュールは組んであるし、ここで白紙に戻したらたいへんなことになる。どうしよー、と私の頭が白紙になっちゃって、先輩プロデューサーの木﨑賢治さんに相談したんです。そしたらすぐに、伊藤銀次さんに連絡をとってくれて、たまたまスケジュールがOKで引き受けてくれた。某ギタリストのチームはキャンセル料を払って、謝って、バラして。
    日程はもう迫っていたけど、スケジュールも元のままで、銀次さんはやってくれました。そんなバタバタだったのに、イメージ通りのすごくいいアレンジでした。

  • ⑩よしだたくろう「たどり着いたらいつも雨降り」

    この頃はひらがな表記でしたね。3rdアルバム『元気です。』はオリコンで通算15週1位という特大ヒット。歌謡曲とは対極の、青年の鬱屈した思いを普段着の言葉で語るというスタイルでしたから、若者にはもう革命的というか衝撃的でしたね。拓郎をヒーローにしたし、フォークの時代の到来を告げたアルバムでした。
    「たどり着いたらいつも雨降り」は歌詞もとても好きでしたが、実は拓郎が広島商科大学の学生だった時につくったバンド“ザ・ダウンタウンズ”のレパートリーだったそうで、その頃は歌詞が違って、タイトルも「好きになったよ女の娘」だったと。モップスから依頼されて、歌詞を替えて提供したのを、このアルバムでセルフカバーした形ですが、モップスが頼んでくれてよかったですねー。

  • ⑪吉田美奈子「RAINY DAY」

    『MONOCHROME』という、吉田美奈子が初めてセルフプロデュースに挑んだ7枚目のアルバムに「RAINY DAY」という曲が収録されています。このアルバム、他はすべて自身の作詞・作曲ですが、この曲だけ作曲は山下達郎。で、達郎が自身のアルバム『RIDE ON TIME』にも収録しているのですが、それが1980年9月19日発売、こちらは同年10月21日発売と、1ヶ月達郎のほうが早い。でも、美奈子版がカバーというわけではなく、言ってみれば「競作」って感じですかね。どちらも切々と染み渡るようなナイス・プロダクツですが、美奈子版のほうが、スケールの大きさでやや勝っているかな。

  • ⑫Supertramp「It's Raining Again」

    前作『Breakfast in America』(1979)が世界で1800万枚というすごい売れ方をして、それまではけっこう苦労しているんですが、そういうバンドがいきなり大ブレイクすると、たいていその後がギクシャクするんですね。で、3年間空いての次作がこの7thアルバム『...famous last words...』ですが、この翌83年に、ソングライティングの半分を担当し、リードボーカルだった、つまりバンドの顔だったロジャー・ホジソンが抜けてしまいます。
    このアルバムからの第1弾シングルが「It's Raining Again」という雨の歌。ホジソンの曲です。最後の方で子供の歌声が聞こえてきますが、これはイギリスの童謡「It's Raining, It's Pouring」とのこと。

  • ⑬Carpenters「Rainy Days And Mondays(雨の日と月曜日は)」

    カーペンターズの7枚目のシングルで1971年4月に発売されましたが、前年リリースされた「We've Only Just Begun(愛のプレリュード)」と同じく、Paul WilliamsとRoger Nicholsのコンビがつくった曲です。チャート成績も両シングルとも全米2位、AC 1位でした。
    アルバムとしては3枚目の『Carpenters』、こういう小麦色の封筒みたいなジャケットだったんで、ファンはビートルズの「White Album」に対抗して「The Tan Album(小麦色のアルバム)」と呼びました。この「Carpenters」ロゴを初めて使ったのもこのアルバムです。「雨の日と月曜日は憂鬱だ」っていう歌詞です。

  • ⑭Neil Sedaka「Laughter in the Rain(雨に微笑みを)」

    ニール・セダカは50年代末からソングライターおよび歌手としてポール・アンカと並ぶ人気者になりますが、ビートルズ以降、ブリティッシュ・インヴェイジョンでイギリス勢に押されて低迷。しかしそれから約10年後、1974年に、エルトン・ジョンが立ち上げたばかりのロケット・レコードから、「Laughter in the Rain(雨に微笑みを)」をリリースしたところ、62年の「Breaking Up Is Hard to Do(悲しき慕情)」以来、12年ぶりの全米1位を獲得しました。
    「傘も持ってないのに突然どしゃぶりの雨に打たれたけど、恋人といっしょで逆に彼女の温かみを感じられてうれしかった」というような歌詞です。

  • ⑮シュガー・ベイブ「雨は手のひらにいっぱい」

    シュガー・ベイブの唯一のアルバムに収録された雨の歌です。このアルバムとシングル「DOWN TOWN」はともに1975年4月25日発売で、大瀧さんのナイアガラ・レコードの最初の商品でした。一応六本木のCBSソニー・スタジオとかも使ってるんですが、ミックスダウンは大瀧さんが“笛吹銅次”という名前でやっているので、おそらく大瀧さんの自宅スタジオ「Fussa 45」だと思うんですが、それにしてはとても音がいいと思うし、サウンドもおしゃれです。1994年の再発CDのライナーの中で、達郎さん自身も「アルバムのベストテイクだと思っている」と語っています。続けて「当時、このアルバムに対するメディアの評価があまり芳しくなく、落ち込んでいた時に、ある先輩ミュージシャンがこの曲を誉めてくれ、ずいぶんとなぐさめられた」とも書いてあるんですが、wikiにはその先輩が「浅川マキ」と明記してあって、「“バス”って言葉がいい」と誉めたとしてあります。そこを誉めるか?サウンドとかメロディじゃないんかい!、と思ったし、そんな誉め方されてなぐさめられるかなー、とも思いました。信憑性が怪しいですね。

  • ⑯荒井由実「雨の街を」

    ユーミンは「荒井時代」の4枚のアルバムにはすべて、1曲ずつ雨の歌が入っています。「松任谷時代」になるとグッと減ってしまうのですが、そこに何か理由があるのかは不明です。ともかく、4曲ともいずれ劣らぬ名曲ですが、今回はデビューアルバム『ひこうき雲』から「雨の街を」を選びました。「歌がまだ未熟で、何度も何度も歌ったのでアルバム完成までに1年以上かかった」と、ディレクターの有賀恒夫さんが語ってます。たしかに初々しい感じはありますが、すごく丁寧に歌っていて、そこに好感が持てます。

  • ⑰大滝詠一「雨のウェンズデイ」

    さて今回のトリは大滝さんの『A LONG VACATION』から「雨のウェンズデイ」。81年6月に「恋するカレン」のB面として、シングルリリースされましたが、その約1年後、82年5月に今度はこちらをA面、「恋するカレン」をB面にひっくり返して再びシングル発売されました。アルバムの中でこの曲が唯一、細野晴臣さん、松任谷正隆さん、鈴木茂さん、林立夫さんというティン・パン・アレイによる演奏で、実は別のメンバーで一度録ったらイマイチで、彼らを呼んでやり直したとのこと。
    雨の名曲特集なので詞のことを話すと、と言いながら雨とは関係ないんですが、1行目の「壊れかけたワーゲンの」を「ワゲンの」と歌っているところがいきなり、いい意味で気になりまして、それ以来、ワーゲン・ビートルを見るとこの歌を思い出します。

次回の爆音アワーは・・・

                        
この記事をポスト

この記事の関連情報