【インタビュー】Cö shu Nie、新しいロック「Burn The Fire」で示す闘う姿勢「道標でありたい」

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■ 新しい形での精神の示し方。そういう意味でのロック

──新曲「Burn The Fire」は、「怒り」や「欲望」がテーマになっているようにも感じました。「no future」とは一見、対照的な曲という感じもしますが、発端にある部分……「どう自分と向き合うか?」「どう生きていくか?」という点をリアルに歌っている点はやはり通じていますね。「Burn The Fire」は、どういったモチーフから生まれましたか?

中村:理不尽なことって多いけど、もうそろそろ、その理不尽に対してぶつかってもいいんじゃないかと思って。真っすぐぶつかるし、嫌なものはものは嫌って言うし。そういう感じの曲ですね。<うんざりしてる>と歌い出すんですけど、歌詞は結構早い段階でできたんです。そこから肉付けしていった曲で、絶対に骨太ロックにしたかったし、最後には絶対ブレイクダウンしたかったという。その中で焦燥感を出すためにブレイクビーツを使ったり、「揺蕩うように突き進んでいきたい」という気持ちも表現するために、ジャングルビートも使って。でも、そんなことをやっていたら「この曲のドラム、誰が叩けるんや?」となってきて(笑)。最初は打ち込みのまま出そうかとも思ったんですけど、ダメもとでSNSを通して見ていた海外のドラマーの方にオファーしてみたんです。

──Russell Holzmanさんですね。

中村:その方がCaroline PolachekのバンドメンバーとしてFUJI ROCKに出演していたので、そのライブも観に行って。しゅんす(松本)とも、ベースのことはかなり話し合いましたね。

松本:話し合ったのは、特にニュアンスの部分ですね。僕としては、ピックでしか出せない歪み感や音の繋ぎ合わせがあるし、最初はピックでやったらいいんじゃないかなと思ったんですけど……。

中村:私はロウ感がほしかったから、「指がいい」と言って。

松本:この認識のズレというか意見の違いって、珍しいんですよ。「あ、そっち?」っていう。そこが今回、面白かったところですね。今回は、曲をライブで先にやっていたのも大きかったかもしれないです。ライブの感覚を音源に落とし込もうとするなら僕のプレイスタイルになっていたかもしれないけど、音源としてこの曲を表現することをメインに考えたら、監督のアイディアの方がいいかもなって、納得して。

配信シングル「Burn The Fire」ジャケット


──あくまでもレコーディング作品としてどう作り上げるか、という点ですよね。

中村:私は(ライブと音源を)まったく別物として考えていて。この曲は、ライブではピック弾きの方がハマっていたんです。ライブはギターをがっつりと2本弾いているし、それとの兼ね合いとしてもピック弾きの方がよかったんですけど、音源は、ロックでありながらも違う方面も見せることのできる、もっとジャンルとして幅の広いものにしたくて。ロウ感を大事にして、空間の広い音楽にしたいというのもあったし。なので、(指弾きにしたのは)完全にスピーカー芸術のためですね。

松本:僕の中にもそのチャンネルはあるものだったし、「なるほど、そういうことか」と思って。それでも若干、ピックのニュアンスは出しちゃいましたけどね(笑)。

──この「Burn The Fire」は、サウンド的に本当に、「新しいロック」という感じがします。

松本:そう思います。

中村:ロックでありながら、ロックじゃないもの……新しい形での精神の示し方。そういう意味でのロックですね。本当にいろんなものが混ざっている曲になったなと思う。ただ、サビのノリをLimp Bizkitのようなブラックな感じにするかは凄く悩んだんですけど、結果的には隙間のある、大きなロックのノリに聴こえるものにしました。それが一番、メッセージがズレなく伝わると思ったので。

──焦燥感や揺蕩いなどの、状態や精神性を表すものとしてブレイクビーツ的なものを取り入れていくのは、面白いですよね。

中村:そうなんですよね。私はクラシックから来ているから、本来的にコードとメロディの人なんだと思うんです。変拍子とかは大好きなんですけど、ビートに乗ってトリップするような曲をこれまで作ってきていないのは、そういうことなのかなって。歌謡曲でもファンクなものっていっぱいあるから子供の頃から聴いているし、体には入っているはずで。でも自分が音楽を作り始めたのはクラシックでロックだから、「Burn The Fire」は原点に立ち返ったなと。音楽カルチャーは面白いので、学んでいろいろ作ってみたいですけどね。次はダンスビートで曲を作ろうと思っているんです。

──あとはやはり、Russell Holzmanさんをドラマーとして招いている点には、この曲も「no future」同様、「人が奏でる音であること」のこだわりを感じますね。

中村:そうですね、素晴らしいプレイヤーでした。音もいいし、マイクの数は最低限で。シンプルだけど必要なところに音がある。素晴らしいプレイヤーがひとり入ると、やっぱりグレードって上がるんですよね。

松本:感覚的な部分を表現できるのは生ならではだし。もし自分がドラマーだったら、「この曲のドラム叩きたい!」って思うだろうなぁ。

中村:めっちゃムズいと思うよ?(笑)

松本:難しいけど、絶対に面白いと思う。でもね、監督が作ったこの曲のデモの打ち込みのリズムもすごくカッコよかったんですよ。

中村:最初にエンジニアの人にデモを聴いてもらったら、「これで完成され過ぎているから、ミックスの必要なし。終わり」って言われて(笑)。「いやいや、これからドラムを生に差し替えるんです!」って。私の理想はこっち(音源)ですからね。これが完成版。

──中村さんが生音や人が生み出すアンサンブルにこだわる理由って、どこにあるのだと思いますか?

中村:やっぱり、バンドが好きなんでしょうね。何を生み出して何を残していくかという点で、こしゅの音楽は打ち込みで部屋で作り上げる音楽ではないし、自分が育った文化的にも、私が作るものはライブハウスで鳴って然るべきものだし、人と鳴らして然るべきものですし。それに、偶然性が好きなんだと思います。自分が思う完璧なものって自分で作れちゃうけど、もっと予測不能なものに触れたいというか。変な話をしちゃうと、宇宙の神秘とか、新しい生き物が発見されるとか、そういう体験なんですよ、私にとって人と音楽をやることは。そういうことを体験していたいです、常に。そこは知的好奇心みたいなものだと思う。だからこそ、誰とやるかはすごく吟味しますし。

松本:自分から生まれるものは自分の範囲を越えないもんな。

中村:そう。それは広げてはいけるけど、自分にとって意外ではないから。ひとりで作ってひとりで完結させることを目的としているなら、それでいいと思うんですよ。でも私の目的はそこではなくて。私は遊びに来ているから。だから遊ばせていただかないと。素晴らしい音楽は生まれ続けるし、それに私は影響を受け続けるし、ずっと同じではいられないから。私はさらに素晴らしくなりたいし、それなら素晴らしいプレイヤーともやりたい。絶対に私がなれないものってあるんですよ。それは、しゅんすのようなベーシストもそうだし、Russellのようなドラマーもそうだけど、ひとつの道に懸けてやっている人たち。そういう人と自分が交わったときに何が生まれるのか……そのワクワク感。それは予測がつかないもので、だから、いいんですよね。

──さっき「Burn The Fire」を「新しいロック」と言いましたけど、「新しい」ということはやはり創作においてすごく大事なことだと思うし、Cö shu Nieは、自分たちにとって新しいものを生み出し続けていると思うんです。同じものを再生産し続けるということをしない。その原動力になっているものは、何なのだと思いますか?

中村:単純な気がします。見たことがないものを見たいっていう。私たちが日本で育って、こういうルーツを辿ってきて、不思議なことに、普通のインディーズバンドだったところから急にアニソンをやらせてもらうことになったりして。この感じって、面白い経歴だと思うんです。だからこそ、私らにしか生むことができないものがあると思う。……確かに、こうやって話していると、視野が広い感じがしますね(笑)。

──します(笑)。

中村:視野が広くなっている感じがする。世の中にこれだけいろんな音楽があって、それがどこで誰に聴かれているかもわからない環境で、その中で自分が何を残すか?って凄く純粋な問いだと思うし、それを私は、自分の魂からひっくり返して出したいんですよね。それなら、自分にはもっと何かあるんじゃないか?って考えるし、自分をパターン化したくないと思うし、もっと自分の経験したことない体験をしたい。要は、「面白い方がいいじゃん!」っていう感じですね(笑)。

──松本さんはどう思いますか?

松本:僕はどちらかというと、受動的なんですよ。チャレンジをするしかないような状況に追い込まれているというか……。

中村:ふふふ(笑)。

松本:「よっしゃ、チェレンジするぞ!」じゃなくて、「これを表現するには、やるしかないな」という感じですね。なので、ありがたいことに監督に引っ張り上げてもらっている側ですね、僕は。ただ、「監督の曲を100パーセント以上に出したい」という欲求をずっと持っているからこそ、チャレンジすることに前向きなのかなと思います。

中村:何にせよ、純粋なものが一番残っていくと思うんです、絶対に。そこを信じるのがクリエイターだと思う。

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