【インタビュー】Cö shu Nie、人を惹きつけて吸い取る「Artificial Vampire」の世界
Cö shu Nieの新曲「Artificial Vampire」は、バンド随一のダンス&ポップチューン。しかし、そこはさすがCö shu Nie。単なる口当たりのよさだけには留まらないエッジの立った質感が、音にも歌詞にも表れている。
AIが人間に「ご機嫌いかが?調子はどう?」と問いかけてくる…そんなイメージを連想させる歌詞はフューチャリスティックであり、考えれば考える程にホラー染みてもいるが、でも、どこか救いや対話の余地が残されているようで、「no future」や「Burn The Fire」といった直近のシングル曲たちがそうであったのと同様、まるで合わせ鏡のように、私たち自身の存在の本質に問いかけてくる曲である。制作中であるという、来たるアルバムがさらに楽しみになる。
この「Artificial Vampire」についてや、さらに2023年から始まった自主企画イベント<Cö shu Nie presents ”Underground”>についてなど、中村未来と松本駿介に話を聞いた。
中村未来
──3月にリリースされた新曲「Artificial Vampire」は、ダンスミュージック的なサウンドがCö shu Nieの血肉として咀嚼されている新機軸の楽曲ですね。どのようにして生まれた楽曲なのでしょうか?
中村未来:アメリカにいる時に作った曲なんですけど、LAの友達の家に行って、近くの公園で日向ぼっこをしながらブレインストーミングをしたんです。「自分が今、書きたいことはどういうことか?」って。なので、公園でサンドイッチを食べながらできた曲ではあるんですけど(笑)。
──(笑)。
中村未来:この曲はブレインストーミングで作ったので、いろんな連想からできた曲ではあるんです。なので、どこから話始めるか…いつも迷うんですよね。なんというか、今は情報化社会で、みんながたくさんたくさん、いろんな情報を仕入れるじゃないですか。ジャンクな情報もたくさん。その間にも、自分が情報を覗いているつもりが、こちらの情報を抜かれていたり、SNSも自分仕様に勝手にカスタマイズされて、与えられる情報だけを咀嚼することになっていく。そうやって与えられたものだけを摂取して、ジャンクを貪り続け、自分の心地のいい場所に連れ込まれ、いつの間にかArtificial Vampireという存在にいろんなものを吸い取られているかもよ…という物語を思いついて。
──ヴァンパイアという存在は、中村さんの中で想起するものがあったんですか?
中村未来:ヴァンパイアは、血を吸うじゃないですか。AIの研究をしている友達に話を聞いたことがあるんですけど、AIって動物の写真からその動物の名前を割り出せるようになっているらしいんです。その話を聞いた時点では、まだ猫と狐の差はわからないと言っていたんですけど、この先どんどんと人間から出る情報を吸収したら、猫と狐や、狐と犬の違いもわかるようになる。そういう話からも着想を得ました。自分たちは楽しんで情報を得ているつもりでも、結局は向こうに自分のことを吸い取られて、成り代わられる可能性がある。最近、学習したアーティストの声そのもので歌うAIも存在しますよね。そういう感じで人間は吸い取られて、エネルギーを吸い取ったAIは成長していく。その感じが、すごくヴァンパイアっぽいなと思ったんです。
──物語が生まれた時、サウンドのイメージも同時に湧き上がってきましたか?
中村未来:この曲はまさにそうでした。「Artificial Vampire」は、キャッチーで、ポップであるからこそ意味があると思ったんです。「人を惹きつけて吸い取る」というイメージなので、どこまでもポップスであること。そして、ダンスチューンでノリがよく、踊り出してしまいそうな曲であることに意味があると思いました。
──曲のテーマを共有された時、松本さんはどのように感じましたか?
松本駿介:めちゃくちゃ面白いし、自分にも思い当たる節があるなと思いましたね。ただ、なかなか是非を付けるのが難しいテーマではあるので、どこに落としどころを持って行くかは難しい部分でもあると思っていたんです。でも見事に包み込むような、納得できる歌詞だったので、「なるほど」と思いましたね。「この曲で躍らせてみてえ」と思いました。
──レコーディングはどのように進んでいきましたか?
中村未来:いつも通り、ほぼ完成形のデモを作って、ベースだけ弾き直してもらって。ベースも含め、ほぼ宅録でやりましたね。しゅんす(松本)は、プレイの仕方をかなり考えて持ってきてくれていたよね?
松本駿介:うん、めちゃくちゃ考えた。拍のニュアンスはこういう曲のノリにおいて重要だし、プラス音色も重要だから、ピックと指で2パターン、それに加えて、力加減やグラデーションで何パターンか用意していました。
中村未来:「もうちょっと後ろで弾いて」と言ったら、本当に狙った「もうちょっと後ろ」になるんです。そういう正確さがあるし、しゅんすは楽譜で話すより、グルーブと野生の勘があるので、そこが活かされた曲になったと思います。ほぼベースとドラムしかないようなセクションもあるし、本当にベースが重要な曲だから。しゅんすだからやり切ることができたと思う。
──加えて、クレジットには「Groove Advisor」としてKaz Skellingtonさんがクレジットされています。Kaz Skellingtonさんはミュージシャンであり、今回の「Artificial Vampire」や前作「Burn The Fire」のミュージックビデオのディレクションも手掛けられている方ですよね。実際、今回の楽曲制作にはどのように関わられたのでしょうか?
中村未来:私はもともとロックやクラシックがルーツなので、コードやメロディの人だと思うんですよ。ドラムもフレーズとして捉えていて、「音符をどこに置けば一番美しいか?」という感覚でやってきたんです。でも、「踊れる」って結構ルールが決まっていることなんですよね。今回、音符の短さを変えたり、音色を変えたり、自分で何回も繰り返して試したんですけど、あと一歩踊れるものにならないんです。「ダンスロック」っぽいビートになる。別の曲ならダンスロックでももちろんいいんですけど、今回は、自分的にどうしてもダンスロックではダメだったので。そこで、Kazくん(Kaz Skellington)はファンクの曲を作ってラップをするというスタイルでやっている人なので、「あなたのビートのここは何を意識してどう作っているの?」と聞いたんです。いろいろとアドバイスをもらいました。自分で作れるようになるくらい教えてもらったので、かなり財産になりましたね。
──Kazさんとの出会いはどういったものだったんですか?
中村未来:そもそもはライブ会場で出会ったんですよね。私はアクティブに人と関わる時期と、ひとりでいたい時期で落差があるんですけど、その時はアクティブな時期で。友人に連れられてサンダーキャットのライブに行ったんです。その時に出会って友達になりました。作っているもののテーマ性が私たちと近いところがあると思うんですよね。何に関しても、角度によって見え方が変わる、部分ズバッと言い切れないところがあると思うんですけど、その中でもがきながら、自分の言葉を、答えを、探し続けているし、冷静にバランスを取り続ける姿勢を持っている。そういう部分で共鳴したのだと思います。
松本駿介:あと、Kazくんは言い切らないこと、聴き手に余地を与えることを大事にしているし、そこはCö shu Nieとしても同じ感覚だなと思いますね。何に対しても「大切にする」という部分が僕らと一緒というか。聴き手へのリスペクトがあるし、ちゃんと聴き手を一人ひとりとして受け入れている。これって、結構難しいことではあると思うんですけど、話していると同じように考えているなと思う。
松本駿介
──「Artificial Vampire」のミュージックビデオのYouTube上のコメント欄にKazさんご自身がコメントを残されていましたが、そこでは「全シーンに意味を込めた」と書かれていましたね。
中村未来:「Artificial Vampire」自体にはひとつのお話の筋はあるけど、その中にも無数の道筋があって。MVで表現しているのはあくまでもひとつの筋で複数の意味を込めた曲だし。そこは解釈の余地になりますよね。それに、私たちがお客さんに言われてハッとすることもありますから。
──作り手自身が意識していなかったことが、作品から浮き彫りになることもある。
中村未来:曲を書くのって、いつも曲に置いていかれる感覚があるんです。いつも、作品になんとか追いつこうとしているし、自分から出てくる言葉をなんとか理解しようとしている…そんな感覚があって。作品は先走っちゃうから。だからこそ、そこに触れた人各々にそれぞれの理解をしてもらえるということは、私にとっても意味があることだと思います。
──歌詞は繰り返しを基調に書かれていますが、その中で日本語と英語が混ざったり、フラットな言葉と敬語が混ざり合っています。そうした言葉の凹凸加減も、AIっぽさを感じさせる部分です。歌詞を書くうえで意識されたことはありますか?
中村未来:キャラクター性を重視しました。Artificial Vampireの一部であるアバターが喋っているという感覚。ある程度機械的でありたいがために、敬語を使いました。
──歌詞は「ご機嫌いかが?調子はどう?」という疑問符で始まりますが、現状、テクノロジーの側から私たちに言葉が問いかけられることってほとんどないと思うんです。それでも、「もし、こんな感じで問われるようになったら……」と思うと、少しばかりの恐怖心も感じます。
中村未来:例えば、ゲームを起動した時に起動音が鳴って、怒るでもなく、「○○○日ぶりの起動です。」とか言われたりするじゃないですか。ああいう時に、ちょっとドキッとするんですよね。電源を切ってたはずが、同じ時間を生きてるような不思議な感覚で、それを私なりに表現して、「ご機嫌いかが?調子はどう?」となりました。
──この曲のアイディアはLAで生まれたということですが、LAではいいインスピレーションがたくさんあったということですかね。
中村未来:ありました。あと、向こうにいると身体の調子がよかったです。カラッとした空気と強い太陽の日差しは身体に良いんでしょうか。こういうダンスミュージックをつくるにはうってつけでしたね。地元の箱を観に行ったのもいい経験でした。最近は日本でも良くジャズのライブを観ていますが、その頃はあまりディープなものを観る機会がなかったのでわたしにとっては非日常だったけど、日常に音楽が溶け込んでいて、すごく自由で、スケー ルアウトが当たり前という現代ジャズの現場にワクワクしました。そういう空気感の中にいると、やったことがないことに挑戦することにもオープンになりますよね。いろんなライブを観に行きましたよ。
──特に印象的だったライブはありましたか?
中村未来:そうですね…チキータ・マジックという友達のライブを観に行った時 に、一緒にそのライブに出ていたサンダーキャットのドラマーでもあるジャスティン(・ブラウン)と、Ambrose Akinmusireを観たんですけど、必然という感じで、あれは形容しがたいです。緊張感があって、その場のすべてが音楽になっている。あれは打ちのめされました。とにかく美しくて、あっという間の時間だった。
──「no future」「Burn The Fire」、そして今回の「Artificial Vampire」と、ここ3作のシングルのジャケットにはすべて、椅子に座った中村さんが映し出されていて、どこか共通するイメージを感じさせますが、恐らく今回の「Artificial Vampire」も、現在制作中のアルバムに紐づくものなんですよね?
中村未来:うん、そうですね。
──アルバムの制作はどのくらい進んでいますか?
中村未来:最近ピアノを買ったので、そのピアノの音で曲を書きたいと思って進めている曲があります。他にも「みんなを驚かせたい」と思って進めている曲もあるし、今は曲作りを進めている感じです。まだ全部は出揃っていないんですけど、すべてイメージはあるので、時間の問題でできると思います。
松本駿介:結構、予想外のものが出てきているんですよ。僕もまだ聴いていない曲があるし、みんなと同じくらい楽しみにしている段階ですね(笑)。あと「no future」「Burn The Fire」「Artificial Vampire」と、それぞれでかなり特殊スキルを求められたんですよね。新曲ができるとまた新しいスキルを求められると思うので、しっかりと自分を高めていかないとなと思います。修行です、本当に。
中村未来:しゅんすならできると信じてる。
──2023年から始まった自主企画イベント<こしゅあん>こと<Cö shu Nie presents ”Underground”>についても聞かせてください。1月の回では、中村さんのソロとCö shu Nieの対バンをやられたんですよね?
中村未来:はい。でも、私のソロというか、2曲はしゅんすと一緒にやったんです。インディーズの頃に「曲は作るから、しゅんすのベースソロのアルバム作らせてよ」としゅんすに提案したことがあって。でも本人が前に出るのを嫌がったので、何故か私名義で出した「ベースをフィーチャーした曲たち」があったんです。そのうちの1曲がCö shu Nieでも出した「iB」で、それをしゅんすと一緒にやったり。他にも新しい曲や、今別でやっているプロジェクト用に作った曲で使わなかった曲をやりました。結構、雑多な感じがいいなと。友達のイッキュウ(中島イッキュウ/tricot)にゲストで参加してもらって、イッキュウに提供した曲を一緒に歌いました。なので、ソロでガッツリというよりは、「みんなが楽しいだろうな」と思えるようなイベント性のあるライブという感じで。
松本駿介:驚いたのは、そのスタンスですね。めちゃくちゃラフだったんです。きっと海外での生活も大きいと思うんですけど、ソロだからキメきるというより、むしろ「取り合えず、集まって音出そうよ」というノリの延長線上で構成されたソロステージで。今まではきっちり作り込んで、その場の空気で変えるものもありつつ、基本的には、しっかり作り上げたものを表現していたと思うんです。でも、あの時のソロはもっとミュージシャンらしいスタンスというか、純粋に音楽を楽しんでいる感じだったんですよね。その瞬間に鳴っている音を楽しむ、というスタンスだった。それはかなりビックリしました。「この人、海外ミュージシャンになってる」と思って(笑)。もちろん関係性ありきだと思うけど、イッキュウを呼ぶ時もすごく軽いノリだったし。新しい扉が開いた感じはしましたね。「こんなにラフに楽しめるんだ」と思って。
中村未来:Cö shu Nieではしっかりと世界観を作り上げてやっているし、ミュージシャンとしては「やったことがないことをやりたい」という気持ちがあるので。ヒリヒリしていたいし、ドキドキしたいし。
松本駿介:そう、ラフとは言いましたけど、緊張感はエグいんです。「その場で自分を表さなければいけない」という…なんなら、Cö shu Nieのライブよりも緊張するくらいのヒリつきはあったんですよね。自由だからこその緊張感。そういう意味でも、ハラハラしたし、面白かった。
──「やったことがないことをやりたい」というのは、本当に「中村さんだなあ」という感じがします。
中村未来:緊張したいんです。この間も『オールナイトニッポン0(ZERO)』をひとりでやらせてもらったんですけど、2時間半のひとり喋りなんてしたことないし。でも、「やったことないことをやれる」と思って。そういうこと、好きなんですよね。
──チラッと話が出ましたが、松本さんはご自身のソロアルバムは嫌だったんですね。
松本駿介:いやあ、「ベースのソロアルバムは荷が重い」と思って(笑)。
中村未来:絶対、ありでしょ。
松本駿介:まあ、ベースソロアルバムは野望のひとつかもしれないけど…。
中村未来:お、マジ?
松本駿介:でも、今は「ソロで活躍したい」というよりは「バンドの一部でありたい」という信念があるから。そこの折り合いはついていない、という感じがします。だから一番いい形ではあるんですよね、中村未来の楽曲でベースをフィーチャーしてもらって、その楽曲の中に生きるというのは。
──5月の<こしゅあん>は、ブランド「Pull Qus」のデザイナーでありアパレルショップ「fenrir」のディレクターでもある桑原守さんとのコラボということですが、桑原さんはどのような繋がりがある方なんですか?
中村未来:大阪にいた時から好きで、服を買いに行ったりしていたんです。友達になってずっと縁が続いていて、今はグッズを作ってもらったり、<こしゅあん>のフライヤーを作ってもらったりしています。今は、いろんなアーティストに衣装提供しているみたいで、大活躍の人です。見応えのあるライブになると思いますし、「なにこれ?」ともなると思います。「初めて見る」って。
松本駿介:Cö shu Nieをはじめてすぐの頃からの知り合いだから、歴も長いし、人間的にもノリが合うんです。大阪でライブをすると時間があれば絶対に来てくれるし。そういう間柄だからこそできるイベントになると思います。
中村;普通に友達だからね。
松本駿介:うん。一般的にイメージする服のブランドとのコラボをするのとは違った、関係性ありきのイベントができるんじゃないかと思います。
取材・文◎天野史彬
配信限定シングル「Artificial Vampire」
配信URL https://smar.lnk.to/kRYqBB
<A Cöshutic Nie vol.4 in Billboard Live TOKYO and OSAKA
1st Stage Open 17:00 Start 18:002nd Stage Open 20:00 Start 21:00
【チケット】http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=14773&shop=1
〈大阪〉2024/4/27(土)
1st Stage Open 14:00 Start 15:002nd Stage Open 17:00 Start 18:00
【チケット】http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=14774&shop=2
◆Cö shu Nie オフィシャルサイト
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