【インタビュー】現役大学生 津軽三味線奏者・中村滉己、「音で人の心を動かしたい」

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■伝統は進化させて継承させるべき

──一方で、中村さんは民謡の名手でもあります。そちらはどんな世界なんですか?

中村滉己:津軽三味線に比べるとまだ未開発な部分があるので、伝統を重視されている方が多い印象です。そのままじゃまずいなと思ったので、僕がYouTubeにあげている「ホーハイ節」なんかはかなりアレンジしてみたんです。これ、原曲聴いたら、そりゃ民謡好きしか聴かないなとなりますから。



──確かに。ガチの「ホーハイ節」はなんというか、ちょっとよくわからないです……。

中村滉己:それがリアルな感想だと思いますよ。

──民謡の魅力は、どこなんでしょう?

中村滉己:時代やその土地のことを知れるという意味で、ひとつの歴史の教科書だと言えると思うんです。僕も古典すごい苦手だったんですけど、民謡やってたおかげでなんとなくわかるようになったり。歴史や日本を知るという意味で、とてもいいんじゃないかな。特に音楽が好きな人は、歴史を学ぶときに民謡使ったら面白いんじゃないかなと思います。

──J-POPとかとは、やはり発声から違うんですか?

中村滉己:全然違いますね。民謡はちょっと苦しんだような声がエモかったりするんですよ。例えば「あー」じゃなくて「あ〜〜」とか。そういう感じで哀愁を出すっていう感じなんですけど、J-POPとかって結構お腹から思いっきり「あああ〜」みたいな感じなんで、全然発声は違います。

──民謡の、上手・下手の聴き分け方も知りたいです。

中村滉己:うーん。難しいけど、こぶしじゃないですかね。民謡って、ビブラートじゃないんですよ。ビブラートはほぼ使わなくて、「あ〜(↑↑)〜(↓)あ〜〜(↑)」ていうこぶしを使うんです(要確認)。最近僕は洋楽にチャレンジしているんですけど、根本から違うので結構苦労してます。民謡の歌い方でJ-POPや洋楽を歌うとキツいんです。「っうっっっ」ってなっちゃう(笑)。

──民謡と三味線ってセットなんですよね?

中村滉己:そうですね。津軽三味線は民謡の伴奏楽器なので、基本はセットです。最近津軽三味線が独立してきた感はありますけど。


──ここまでお話を伺ってきて、とても丁寧に教えてくださるし、中村さんのような方が敷居を低くしてくれることで、若い人も和楽器の文化に入りやすくなりそうだなと感じています。

中村滉己:もちろん守らなければいけない部分もあるんでそれは大切にしつつ、入口は広げていかないと、と思っています。僕が小さな頃は本当にド体育会系の厳しい世界だったんですけど、僕らの世代くらいから、若い人が入りやすいように門を広げてあげないといけないよねという話は同期でもしますし、ひと周り上くらいの先輩方ともします。

──守りたいものと革新していきたいものが両方ある。そして、それを俺が担っていく、という。

中村滉己:はは(笑)。それくらいの気持ちで頑張っていきたいなとは思います。

──そういう思いがあるからこそ、オリジナル曲やカバーにも積極的に取り組んでいらっしゃるんですね。

中村滉己:僕のモットーが、伝統は進化させて継承させるべき、ということで。これを大事にしていて、そういうこところから、曲作りにも励んでますね。

──曲についてもお聞きしたかったんですが、作曲ってどうやっているんですか?

中村滉己:三味線と、パソコンで。僕、楽譜は使わないタイプなので、GarageBandに適当なリズムを入れて、そこに三味線をどう入れるか考えていくって感じです。



──民謡や伝統的な津軽三味線の楽曲と、ご自身で作曲される現代曲は、全く違うものですか?

中村滉己:構成も全く違うものですが、「じょんから」なんかの基礎力は活きますね。間の取り方とかは割と応用できますし、延長線上なのかもしれないですね。

──<桜梅桃季>では伝統的な民謡曲とオリジナル曲、どちらも披露されていましたが、やはりオリジナル曲の方が聴きやすかったんですよ。正直なところ、民謡ってなかなか素人には難しくて……。

中村滉己:そうですね。そこを理解してもらうために、コンサートでは解説を1回1回入れたりとか、そういう工夫もしてます。逆に今度は解説をパンフレットに書いて、演奏を聴くだけというのも考えているんですけど、民謡の良さを理解するのは確かに難しいと思います。

──解説に加え、コンサートでは拍手するタイミングをレクチャーしてくれたり、三味線という楽器の豆知識を教えてくれたりしていましたよね。あれがあることで、初めてでも戸惑うことなく楽しめたんですよね。

中村滉己:お客様に理解していただくために、解説を入れている方は多いと思いますよ。

──終演後にサイン会もあったりして、ファンサも行き届いているなと(笑)。

中村滉己:ははは(笑)。来てくださった方には楽しんで欲しいですよね。

──実は会場に行くまでもちょっとハードルが高くて。曲も知らないし、楽しみ方もわからないし……って。でも実際公演を見たら、とてもわかりやすかったし、曲を知らなくても津軽三味線の良さを感じることができた。このことを多くの人に知ってもらいたいなって思いました。

中村滉己:そう言っていただけると嬉しいです。だからやっぱり、魅せ方や聴かせ方っていうのはこれからもずっと研究していきたいなと思っています、ハードルの高さを下げることは、演者が工夫することだと思っているので。そこは頑張っていきたいなと思ってます。とはいえ、一番は音色でみなさんの心に訴えかけたい。あくまでどこまで行っても音楽なので、音で人の心を動かしたいと思っています。

──素敵です。ちなみに、和楽器ってとても不自由な楽器じゃないですか。もろに湿気の影響を受けたりして。<桜梅桃季>のときも予期せぬタイミングで糸が切れていましたよね。でも2本の糸で演奏を続けていて、びっくりしちゃいました。

中村滉己:それこそ、最年少日本一とった時も本番中に切っちゃったんですよ。それから、2本でも弾けるようにしています。結構、糸って細いんですよ。なのでああいうハプニングは想定内。……なんか、三味線ってペットみたいな存在なんですよ。実際全部が絹だったり木だったり皮だったり、生物からできているので。デリケートだからこそ、手入れもちゃんとするし。手入れが餌やりみたいなもんなんですよ(笑)。いま3丁あるので、3匹ペット飼ってる感じです。

──へぇ! その発想はなかった。

中村滉己:不自由さは確かにあるんですけど、たぶん、自分の子どもだったらどんだけ泣かれても可愛いじゃないですか。あれと多分一緒なんだと思います。

──ちょっと気になるんですけど、おいくらくらいするものなのでしょうか……。

中村滉己:いまメインで使っているものは、買ったときで550万くらい。いまは木がもっと高騰してるので、いま買うと700万ぐらいになりますね。

──えっ!

中村滉己:よく見てもらうとわかるんですけど、木肌がきめ細かいんですよ。きめ細かいほどいい木なんですけど、これは割と年代物で100年くらいの木です。紅木という木なんですけど、これが希少価値が高くて。木の良さでだいぶ音も変わってきますね。バチの下の部分は、象牙だと30万〜60万。今日持ってきてるものは水牛なので20万くらいですけど、最近メインで使っているものは初心者も使うようなプラスチックのもので5万円くらいです。上の部分は亀の甲羅なんですけど、亀の甲羅って大部分が茶色くて。一部に黄色いところがあるんですけど、黄色い部分を多く使っていればいるほど希少価値も値段も高いです。全体真っ黄色で象牙を使っているバチだったら、100万くらいするものもあります。


──うぅ……。しかも消耗品なんですよね?

中村滉己:消耗品です。僕のも、角が丸まってます。やっぱりいい物の方が音がクリスタルサウンドなんですよね。皮も消耗品で、だいたい2年くらいで破れちゃいます。早ければ半年で破れちゃったこともあります。

──やっぱりなかなか敷居が高いですね(汗)。

中村滉己:まあ、こだわろうと思えばいくらでもこだわれるということですよ(笑)。最近は人工の皮も出てきて、それだと破れにくいし雨の中で弾いても大丈夫です。もちろん、ちょっと人工的な音がしちゃうんですけど。

──弾く、ということについても教えて欲しいんですが。まず、ギターなどと違って、フレットがないのが大変そうだという印象があります。

中村滉己:そうですね、弦を押さえる位置は体が覚えています。全部感覚で、なんとなくここだな、というのがわかるようになるんです。最初はシールをつけて覚えるんですが、だんだん見なくても弾けるようになりますよ。


──演奏を見ていて、曲が始まってから糸巻きを触って調弦しているのも不思議で。

中村滉己:あれは津軽三味線独特。僕はあれのことをあの助走区間って呼んでるんですけど、曲のリズムを決めたいんですよ。今日どれぐらいのスピードで弾こうかなと思った時に、いきなりジャンジャン!って弾き始めたらもう戻れなくてそれで行くしかないんですけど、この助走区間があることで。「いや、今日早いかな。ちょっと遅くしようかな」という調整ができるんですよね。もちろん弾き始めてからの音の調整という意味もありますけど、僕は速さを考える時間にしてます。

──実際問題、津軽三味線を始めたとしてどのくらいで弾けるようになるものですか?

中村滉己:うーん……ゴールのない楽器なので。三味線は入射角によって全然音が出なくなるので、自分が出せる音の角度を見つけるために3年くらいかかるかもしれない。もちろん弦を叩くだけならもう少し早くできますけど、ちゃんとした自分の音を出すのには時間がかかると思います。基本的に、左手は練習すれば誰でもできるんですよ。抑えれば音が出るので。でも右手の叩きって、スポーツで言うと野球のバッターのスイングと一緒。本当に答えがなくて、本当にずっと修行です。僕もまだ実は確立はされてないです。2022年と今年では全然叩き方違うし。重いバチを使って手首から叩いていたんですが、いまはスナップきかせてバチン!という叩き方にしています。

──そこは自由にやっていいんですか?

中村滉己:あ、全然いいです。だって腕の形とか手の形とか腕の長さとか、人によって違うし、先生も「こうしなさい」と言えないと思います。叩きは何年かかっても正解はないです。なんなら、スランプの原因も全部それなんです。

──そうなんですか。

中村滉己:わかんなくなるんですよ。音も出なくなるし、何回も腱鞘炎になりましたし。多分三味線やっていく上では、もう叩きとは離れられないんで、一生戦っていくものです。


──かっこいい。津軽三味線といえば、速弾きの印象もあると思うんですが、そこもポイントなんでしょうか。

中村滉己:民謡においては、速くない方がいいんですよ。津軽民謡は特に。間で聴かせるので。「秋田荷方節」だけは早いですけどね。

──あ、そうなんですか? むしろ速さが売りかとも思っていました。

中村滉己:それ、クライマックスだけでいいんですよ。最初はゆっくり入って、クライマックスにかけて速く盛り上げると、そのギャップが良いので。僕はほんとゆっくり弾きます。僕の「歩み」というEPに入っている「津軽じょんから節」も、初心者が最初に弾く曲のリズムと一緒なんですよ。

──やっぱり、「間」なんですね。

中村滉己:間を無視しちゃうと、まじで全部一緒に聴こえますよ(笑)。それこそ「津軽じょんから節」と「津軽よされ節」という曲なんて、押さえてるとこ一緒なんですよ、全部。もう3拍子か4拍子かの違いなんですけど、間がないと本当に一緒に聴こえるんですよ。

──じゃあご自身で作曲されるときも、そこは大いに意識されるポイントになるのでしょうか。

中村滉己:そうですね。いまは新曲を編曲しているところです。コロムビアに所属する前に作っていた曲を、「ホーハイ節」のアレンジをしてくれた方に依頼していてブラッシュアップしてもらっています。11月の<風華秋色>で初お披露目できたらいなと思っています。

──楽しみです。ここまでたくさんお伺いしてきたお話の全てを、<風華秋色>でまた体感したいと思います。本公演に向けての意気込みをください。

中村滉己:初日の11月17日、誕生日なんですよ。20代初日の幕開けとなる日なので、いい1日にしたいですね。この日は、津軽三味線にいろんな可能性があることを皆さんに知ってもらいたいと思っています。津軽三味線にはワールドミュージックのような要素もあるので、三味線を通して、いろんな国とか分野の音楽を知って欲しいなという思いもあります。

──ということは、この日はいわゆる民謡のようなものだけではなく?

中村滉己:民謡を、他の分野の音楽と合わせてワールドミュージックにしたりとか。今回はクラシックホールではないので、電子音を入れたりPAを入れたりして、前回の<桜梅桃季>とはかなり度違うものになります。三味線、歌、また別の音楽という3本立てでやろうと思っているので、またより若い方にもお楽しみいただけると思います。ピアノの高橋さんにも入っていただいて、何曲かやる予定です。ピアノとの融合というのも見て欲しいポイントですね。

──予習しておいた方が良い曲などはありますか?

中村滉己:津軽三味線と津軽民謡の歴史をチラッと予習しておいてもらえると、聴きやすいかもしれませんね。特に一部の方は。二部の方は多分何も知らなくても入ってきやすいと思います。「labyrinth」と「南部酒屋もとすり唄」という2曲は初公開なので、それも楽しみにしておいてください。



──わかりました! 最後に、今後の展望もお聞かせください。

中村滉己:僕、コロムビアに入ってからすごい思ってるのが、 アーティストとして認められるようになりたいということなんです。民謡の歌い手、津軽三味線奏者としての“芸人”であることも大事にしつつ、アーティスト・中村滉己として認められたいです。

──具体的にやってみたいことはありますか?

中村滉己:日本を出て、海外の音楽を生で聴いてセッションしたいなと思っています。20代までに達成したかったことなんですけど、コロナ禍なども重なってできなかったので。三味線を持って海外に行って、いろんな人とコラボして、いろんな国籍の人に三味線を聴いてもらうのが目標です。これまでもいろんなお話があったんですけど、どれも潰れちゃってとても悔しい思いをしたいので。近い将来には絶対達成したいです。

──応援しています。


中村滉己:肩の力を抜いて、三味線っていうものに触れてほしいので、 敷居高いかなとか、わからないかもって思ってる方でも大歓迎です。むしろそういう人に来ていただきたいので、身構えることなく、この日本の伝統っていうのを楽しんでいただければと思います。どんな方でも、大歓迎です! コンサートも、フェスに来るような感覚で自由な格好で、自由に楽しみに来てください。

取材・文◎服部容子(BARKS)
写真◎釘野孝宏

<中村滉己 津軽三味線・リサイタル「風華秋色」>

■ 開催日時
2023年11月17日(金)19:00開演(18:30開場)
東京 草月ホール(東京都港区赤坂7-2-21 草月会館)

■ 出演
中村滉己(津軽三味線奏者・民謡歌手)
高橋優介(ピアノ)

■ 演奏予定曲⽬
津軽じょんから節(青森県民謡)
津軽よされ節(青森県民謡)
南部酒屋酛すり唄(岩手県民謡・編曲:中村滉己)
ホーハイ節(青森県民謡・編曲:中村滉己)
Labyrinth -迷宮-(作曲:中村滉己)
歩 -AYUMI-(作曲:中村滉己)
糸命 -SHIMEI- (作曲:中村滉己)
神々の詩(作曲:姫神)
涙そうそう( 作詞:森山良子・作曲: BEGIN)
ほか

■ チケット
全席指定
一般前売 5,000円(税込)
※未就学児のご入場はお断りしております。
※車椅子席をご希望のお客様は、必ず公演の2営業日前までに MITT TICKETにてお電話でチケットをご購入頂きますようお願い申し上げます。お連れ様がご鑑賞される場合もチケットは必要です。<ご連絡先>MITT TICKET 03-6265-3201(平日12:00〜17:00)

■ 発売
一般発売:6/30(金)〜

<中村滉己 津軽三味線リサイタル>東京公演

■ 開催日時
2023年10月13日(金)

■会場
電気文化会館 ザ・コンサートホール

■時間
18:45(開場 : 18:00)

■プログラム
歩―AYUMI―(作曲 : 中村滉己)
津軽よされ節(青森県民謡)
津軽あいや節(青森県民謡)
仙北荷方節(秋田県民謡)
秋田荷方節(秋田県民謡)
津軽じょんから節(旧節)(青森県民謡)
津軽じょんから節(新節)(青森県民謡)
秋の山唄(宮城県民謡)
糸命ーSHIMEI―(作曲 : 中村滉己)
ホーハイ節(青森県民謡)
神々の歌(作詞・作曲 : 星吉昭)
花(作詞 : 御徒町凧・作曲 : 森山直太朗)

■チケット
3,000円 (税込・全席指定)

アイ・チケット
0570-00-5310
https://clanago.com/i-ticket
チケットぴあ
https://t.pia.jp/ (Pコード243-990)
ローソンチケット
https://l-tike.com/ (Lコード40321)
e+(イープラス)
https://eplus.jp/
芸文プレイガイド
052-972-0430 (愛知芸術文化センター内)
CBCチケットセンター
https://www.funity.jp/cbc-ticket/

<きらり!アフタヌーンコンサート 中村滉己 津軽三味線・リサイタル>

■開催日時
2023年12月1日(金)

■時間
【開場】13:00 
【開演】13:30

■チケット
全席指定 800円

■チケット発売日 2023年9月1日 
 窓口9:00~ 電話予約13:00~

■演奏予定曲
津軽じょんがら節/青森県民謡
南部酒屋もとすり唄/青森県民謡・編曲:中村滉己
Labyrinth-迷宮-/作曲:中村滉己
歩=AYUMI-/作曲:中村滉己 ほか

<中村滉己 津軽三味線リサイタル>大阪公演

■開催日時
2023年12月8日(金)19:00開演(18:30開場)
大阪 あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール

■出演
中村滉己(津軽三味線奏者・民謡歌手)
高橋優介(ピアノ)

■演奏予定曲⽬
津軽じょんから節:青森県民謡
秋田荷方節:秋田県民謡
竹田の子守唄:京都府民謡
神々の詩:作詞作曲:星吉昭(姫神)
花:作詞:御徒町凧 作曲:森山直太朗
ほか

■チケット
全席指定
一般 4,000円(税込)
フェニックスホール 友の会 3,500円(税込)

■発売
プレイガイド先行:7/14(金)12:00〜7/23(日)23:59[イープラス・ローソン・ぴあ]
一般発売:7/28(金)10:00〜

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