【ライブレポート】OAU、充実の『Tradition』ツアーファイナルで「ホントにOAUやってよかったな」
6月3日の札幌サンプラザホールから始まり、全国8カ所からなる<OAU Tour 2023「Tradition」>。ファイナルとなった7月8日の東京・昭和女子大学人見記念講堂でTOSHI-LOWは言った。「いいね、春には桜が咲いて、出会いや別れがあって。こんなところで歌を歌えるなんてうれしいなあ」。上品な一貫校だけに、会場入りの際にガードマンに何度も身分チェックされたことへの含みもあるようだが、今までになく音楽を演奏すること自体を楽しんでいる様子は、最新作『Tradition』を携えたツアーの充実ぶりを感じさせた。
オープニングはアルバムの1曲目でもある「Old Road」。まずドラムスのRONZIとパーカッションのKAKUEIが登場し、低音を利かせたどっしりしたビートを響かせた。続いて他のメンバーが登場、一際大きな拍手と声援の中でMARTINが落ち着いた声で歌い出す。歌いながら「TOKYO!」と呼びかけ、ラストのリフレイン「I would do it all again」を力強く締めた。次の「こころの花」では、TOSHI-LOWが “夏の海の横”と歌うところを “女子大の素敵なホール”と変えると、ワッと歓声が起こった。
MARTINが歌う「Family Tree」ではMAKOTOのアップライトが観客を揺らし、「世界は変わる」ではTOSHI-LOWが最前列の子供たちを笑顔にさせる。KOHKIのスライドギターがご機嫌な「Thank You」は途中でテンポを変えて盛り上げ、「セラヴィ -c'est la vie-」はMARTINのヴァイオリンがいい味を出す。「Whispers」ではTOSHI-LOWのアイリッシュ・ブズーキも活躍した。昨年から本格的に弾き始めたこの楽器の腕を確実にあげているようだ。
曲が進むにつれ、6人それぞれの楽器の音が存在感を増し、立体感のある音像を描き出したのには驚いた。アルバムでは、いいアクセントになるインストゥルメンタルがライブではさらに生き生きとした演奏で魅力のある曲になっていた。新曲の「Blackthorn's Jig」「Linden」だけでなく、「Bamboo leaf boat」や「Peach Melba」といったお馴染の曲も躍動感のある演奏により新鮮に感じられたのも、今のバンドの状態の良さを反映してたのだろう。
セットリストも秀逸だった。本編終盤で「Homeward Bound」「Again」と旅の歌が続いた後は、<New Acoustic Camp 2022>テーマ曲「Time’s a River」、同じく2014年のテーマ曲「Making Time」へ。ここでサプライズ! ダンサーのATSUSHIがステージに飛び入りしパワフルに踊り出した。OAUのライブに何度も登場しているだけに曲と一つになったフリースタイルのダンスは、しなやかにして華やか。途中でTOSHI-LOWにステージから押し出されたATSUSHIが通路で踊り、オーディエンスに溶け込んだのもビッグ・サプライズだった。
OAUが主催する<New Acoustic Camp>に参加経験があるらしき子供連れのオーディエンスも多く、子供達も通路で楽しそうに踊っている。こんなライブはOAUならではだろう。そんな光景を見ながらTOSHI-LOWが話し始めた。「いいね、通路で子供達が自由に走り回ってる。あなたたちの未来を考えるよ。今正しいと思ってるのが(未来では)そうじゃないのかもしれない。(中略)俺たちがつなぐべきは、今、目の前で言われてることじゃなくて、おじいちゃんのおじいちゃん、おばあちゃんのおばあちゃんが伝えたこと。争いじゃない、憎しみじゃない。歌を歌って、踊って、音楽を聴いて、絵を見て、豊かな文学を読んで、そうやって繋いでいきなさいと。大事なものは目の前に落ちてない。遠くからやって来るもの。どうやって手に入れて繋いでいくか。それが歴史と思っています」
この後に歌ったのは「This Song -Planxty Irwin-」。16世紀の盲目のハーピストによって作られた曲にTOSHI-LOWが歌詞をつけた曲で、最後の一節で“見えない幸せ 繋ぎ合わせるよ”と歌う。ブズーキの練習用に知った古い曲を蘇らせ新たな歌にしたのは、まさに歴史を繋いだことと言えるだろう。簡潔な曲をOAUは大きなスケールのドラマチックな曲にして聴かせ、本編の最後を飾った。
大きな拍手や歓声でアンコールを求める観客に応え、まずMARTINとTOSHI-LOWが登場。MARTINは「アンコールありがとう。うちら、こうやって全国回っていろんなところで最近作った音楽を届けにいく、最高だよ」とツアーを振り返り、TOSHI-LOWは「OAU始めるまでは、どっちかと言ったら俺の担当は酒と暴力(笑)。チョロンとくらいしか楽器やってなかったんだけど、ここがバンドの面白いところで、楽器すごいできる友達とか集めて自分ができないこともやってもらってさ、バンドという単位で(音楽が)できるんだよね。で、楽器を練習するようになって、すごい原始的な喜びというのが、ギター弾けて歌を歌えて、それをみんなに喜んでもらえること。しかも生楽器ってどこでもできるじゃん。ホントにOAUやってよかったな」と話した。
この後に、ツアー中の面白い失敗談をはさんでから、曲の説明なんていらないとも言われるけど伝わったほうがいいこともある、と「懐かしい未来」の背景を話し出した。東日本大震災で津波の被害にあった岩手県大船渡の越喜来にTOSHI-LOWが今年ラジオ番組の取材で訪れた際、震災直後にこの町の子供達に“未来の町”というテーマで絵を描いてもらったら、大人が思い浮かべるような近未来風の町ではなく、震災でなくなってしまったかつて自分たちが住んでいた町の光景を描いたのだという話を、成長した当時の子どもから聞いたという。このエピソードを知った後で聴く「懐かしい未来」は、穏やかで暖かく光る海を見ているような気持ちにさせてくれた。
ラストソングは「帰り道」。「またフェスやイベントでみんなの町に行くと思うんで、そしたら一緒に踊ったり酒飲んだり楽しんだりしてください。まだまだ続いて行くんで、応援よろしくおねがいします。ありがとう」──TOSHI-LOWの締めの言葉にいつまでも拍手が送られた。珍しくステージ前にぎこちなく6人が並んだフィナーレが、今も目に焼き付いている。
文:今井智子
撮影:阿刀 “DA” 大志
◆ ◆ ◆
■セットリスト
7月8日(土)@東京・昭和女子大学人見記念講堂
M1.Old Road
M2.こころの花
M3.Family Tree
M4.世界は変わる
M5.Thank You
M6.セラヴィ -c'est la vie-
M7.Whispers
M8.Blackthorn's Jig
M9.月だけが
M10.Bamboo leaf boat
M11.Change
M12.Without You
M13.Linden
M14.夢の続きを
M15.A Better Life
M16.Peach Melba
M17.Homeward Bound
M18.Again
M19.Time’s a River
M20.Making Time
M21.This Song -Planxty Irwin-
<アンコール>
懐かしい未来
帰り道
BD / DVD『Tour 2023 Tradition at 人見記念講堂』
【初回生産限定盤】
■BD:TFXQ-78247 6,600円(税込)
■DVD:TFBQ-18282 5,940円(税込)
01. Old Road
02. こころの花
03. Family Tree
04. 世界は変わる
05. Thank You
06. セラヴィ -c’est la vie-
07. Whispers
08. Blackthorn's Jig
09. 月だけが
10. Bamboo leaf boat
11. Change
12. Without You
13. Linden
14. 夢の続きを
15. A Better Life
16. Peach Melba
17. Homeward Bound
18. Again
19. Time's a River
20. Making Time
21. This Song -Planxty Irwin-
En
22. 懐かしい未来
23. 帰り道
■<OAU Tour 2023「Tradition」>
開場17:00/開演18:00
・6/7(水)大阪 サンケイホールブリーゼ
開場18:00/開演19:00
・6/9(金)岡山 ルネスホール
開場18:00/開演19:00
・6/14(水)愛知 名古屋市芸術創造センター
開場18:00/開演19:00
・6/23(金)宮城 トークネットホール仙台 小ホール
開場18:00/開演19:00
・6/30(金)福岡 電気ビルみらいホール
開場18:00/開演19:00
・7/5(水)新潟 新潟市音楽文化会館
開場18:00/開演19:00
・7/8(土)東京 昭和女子大学人見記念講堂
開場16:30/開演17:30
■<OAU Extra Tour 2023 Tradition>
開場18:30/開演19:00
・7/22(土)岩手 大船渡 KESEN ROCK FREAKS
開場17:00/開演17:30
・7/23(日)岩手 宮古 KLUB COUNTER ACTION MIYAKO
開場17:00/開演17:30
アルバム『Tradition』
2023年4月12日(水)発売
収録曲 全14曲
01. Old Road
02. セラヴィ -c'est la vie-
03. 夢の続きを
04. Time's a River (New Acoustic Camp 2022 テーマ)
05. 世界は変わる (映画「追想ジャーニー」主題歌)
06. Homeward Bound
07. Blackthorn's Jig
08. 月だけが
09. Whispers
10. Family Tree
11. Linden
12. This Song -Planxty Irwin-
13. Without You
14. 懐かしい未来 (J-WAVE「HEART TO HEART」テーマ)
初回生産限定盤(CD +DVD) ¥4,000(税抜)TFCC-81013~81014
初回仕様限定通常盤(CD) ¥3,000(税抜)TFCC-81015
完全限定盤(LP2 枚組 33 1/3rpm) ¥5,000(税抜)TFJC-38116~38117
初回生産限定盤DVD
・OAU「New Acoustic New Year 2023」Billboard LIVE TOKYO (2023/1/21)
1.Apple Pie Rag 2.Thank You 3.Hold Your Head Up High 4.Follow The Dream 5.夢の跡 6.世界は変わる 7.Peach Melba 8.Again 9.Time’ s a River 10.Making Time 11.This Song -Planxty Irwin- 12.Change 13.帰り道
全13曲
・OAU「New Acoustic Camp 2022」(2022/9/17)
1.Old Road 2.こころの花 3.Peach Melba 4.Making Time 5.Midnight Sun
全5曲
この記事の関連情報
OAU、ニューイヤー公演を東阪ビルボードライブで開催決定
【舞台裏インタビュー】<山人音楽祭2024>TOSHI-LOW、「いい歌を歌うのなんか大前提」
【PHOTO GALLERY】<響都超特急2023>OAU
OAU、<Tour 2023 Tradition>映像作品から「This Song -Planxty Irwin-」公開
OAU、<Tour 2023 Tradition>映像作品から「Peach Melba」「Homeward Bound」公開
【速レポ】<中津川ソーラー>OAU、現場判断で“0曲目”演奏「来ている人たちが一番偉い」
OAU、<Tour 2023 Tradition>映像作品から「夢の続きを」先行公開
OAU、<Tour 2023 Tradition>映像作品ダイジェストトレイラー公開
OAU、『Tradition』ツアーファイナルの模様を完全収録した映像作品リリース