【インタビュー】TOSHI-LOW、成熟と変わらない価値観「音楽はカウンターカルチャー。世の中の正しい動きと同じでなんかなくていい」

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OAUが2年半ぶりの新作『Tradition』をリリースする。BRAHMANのTOSHI-LOW(Vocal, Acoustic Guitar)、KOHKI(Acoustic Guitar)、MAKOTO(Contrabass)、RONZI(Drums)の4人に、MARTIN(Vocal, Violin, Acoustic Guitar)、KAKUEI(Percussions)が加わり2005年に結成し、アグレッシブなロック・バンドBRAHMANとは対照的な、アイリッシュ・トラッドで色付けたアコースティック・サウンドで聴かせるバンドとして活動してきた。新作『Tradition』は、彼らがまた新たなステップを上がったことを感じさせる充実の楽曲と演奏が詰まっている。こんな時代だからこその歌と演奏について、TOSHI-LOWに語ってもらった。

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■ 結局“オリジナリティ”って、歴史の繰り返しの中にあったことに気づいた

── OAUは当初からアイリッシュ・トラッドに近いサウンド・スタイルですが、今改めてアルバム・タイトルを『Tradition』とするのは、伝承や伝統への再認識があったのでしょうか。

TOSHI-LOW:そもそもあらゆる面で、受け継がれてきたものの派生として自分たちが今いるわけだから、(音楽も)やればやるほど見えてくるものもある。つまり、若い時は自分のオリジナリティだけを追い求めていたけれど、結局“オリジナリティ”って、いろんな歴史の繰り返しの中にあったことに気づいたというか。それを冷静に見られる歳になってきたのかもしれない、というのはあります。



── 12曲目「This Song」(「This Song -Planxty Irwin-」)は古いアイリッシュの曲にTOSHI-LOWさんが歌詞をつけていますが、今おっしゃった、伝統を受け継いで新しい音楽にしていくことを象徴する曲でしょうか。

TOSHI-LOW:今回は楽器の編成がちょっと変わって、俺がアイリッシュ・ブズーキっていう楽器を弾いてるんです。ブズーキを始めて1年なんだけど、ブズーキって日本に練習する曲がないからアイリッシュ・トラッドの曲を自分でも探してた。それでこの曲の作者のTurlough O'Carolanの、また別の曲を俺が弾いてたら、MARTINが「なんで知ってるの?」って驚いたから、「もともと知ってたけどブズーキの練習で弾いてんだよね」って言ったら「知ってるんだ!それならこっちも知ってる?俺たちがカヴァーするならこういう曲がいいんじゃない?」って持ってきたのがこの曲。そこからカヴァーすることにして、歌詞もすぐ湧いてきた。

── そもそも、どうしてブズーキを弾こうと思ったんですか?

TOSHI-LOW:(2022年1月に)細美武士(ELLEGARDEN、the HIATUS、MONOEYES)と組んでるthe LOW-ATUSのツアーしてたら、細美さんがコロナになったからツアーが中止になって、自分も隔離しないといけなくなって、しかもそれが10日間とか長かった時期で。10日間も何もしないのもなーと思って、そういえば何年も前に(楽器メーカーの)ヤイリから、なんかあったら使ってくださいってブズーキをもらってたのを思い出した。ブズーキはMARTINはまあまあ弾けたんだけど、新しい楽器覚えるのも能力いるから、俺はほったらかしにしてて。で、この際だから覚えようかなと思って1曲か2曲ぐらい弾けるようにして、隔離明けのOAUのリハに持ってったんですよ。そこでボロンて弾いてみたら、みんなから「絶対こっちがいい。全部ブズーキに変えた方がいいんじゃない?」って言われて、「えー、また俺楽器覚えんの?」って(笑)。まあ、もともとOAUの音楽はアイリッシュに近いのも多いから、ブズーキと合うのは当たり前なんだけど、結局、全部の曲でギターの代わりにレコーディングして。ギターとまるで違う楽器だから音のコントラストがむちゃむちゃ出た気がしますね。

▲アルバム『Tradition』ジャケット


── 「This Song」は昨年4月16日に日比谷野外音楽堂で開催した<New Spring Harvest>で演奏していますね。その時に、曲の背景についてTOSHI-LOWさんは触れて「この曲ができた16世紀も戦争の多い時代だったが、その中で音楽家は音楽を奏でたんです」とおっしゃっていた。ちょうどウクライナ紛争が始まったばかりの頃で、そこに自分たちを重ねているのかなと思いました。

TOSHI-LOW:音楽って、絶対カウンターカルチャーなんで、世の中の正しい動きと同じにあるわけなんかなくていい。崇高な意味じゃなくて、音楽はアートの中の一つだと思ってる。じゃあなぜ人間がアートを求めるかというと、純粋なことだと思うんですよね。単に生きてくだけのために経済回したり毎日の日常を繰り返すだけでは人間には足りない部分があって、足りない部分を満たすのが絵であったり、音であったり、はたまた体を使った表現だったりする。世界情勢がどうなろうと、結局そういうのは自分たちに必要なもの。コロナになって、(音楽は)不要不急って言われたじゃないですか。俺の中ではそうじゃないから、不要不急と思う人たちがたくさんいるんだなって改めて思っただけ。

── この曲はアレンジもメロディの良さを生かしながら、余計なことを加えずOAUの楽曲になっていると思います。こういう曲に歌詞をつけるのは大変ですか?

TOSHI-LOW:元がインストの曲なんで、どこでブレス入れるとかは考えましたけど、メロディはほとんど崩してない。だってこういう曲が何百年も残ってるってことは、意味が既に備わっているわけだから、自分も素直にそれを感じ取ればいいのかなって思った。だから現代的な曲よりは、(歌詞のイメージを)想像しやすかった気がします。

── 『Tradition』は全14曲ですが、TOSHI-LOWさんが作詞し歌っている曲を中心に伺いたいと思います。まず2曲目に「セラヴィ -c'est la vie-」という曲があるんですけど、TOSHI-LOWさんからこういうワードが出てくるとは驚きました。

TOSHI-LOW:この曲は経緯がちょっといろいろあるんですけど、春の曲を書きたいって話になって。初めは曲調がよくある明るいJ-POPみたいのだったんだけどクソつまんねえなってことになり、だんだんバラードみたいにしたらしっくりきたから最終的にこういう形に落ち着きました。そしたらMARTINが「“セラヴィ”って言葉を入れて欲しい」と言い出した。春の曲っていうだけで俺は歌詞書くの嫌なのに、“セラヴィ”って言葉まで出てきちゃった。2個キーワードが出ちゃったんだけど、たまにはそういうお題があるのもいいかなって思って。じゃなかったら、俺が“セラヴィ”なんて言わないだろうな。

── 「夢の続きを」は音の作り方が面白くて、今まで使ってこなかったエフェクトをかけたりして、OAUのバンド・サウンドの新局面ですね。

TOSHI-LOW:そうですね。OAUの音楽は電子音楽にしたいわけじゃなくて、プリミティヴなところ、アコースティックなところから抜けようとは思ってないので、根本がトラッドな音楽性だとしても工夫すればいくらでも遊べるよ、という曲です。かといって、アコースティック・ディスコみたいな曲を作りたいわけでもない。当たり前だけど自分たちだって電気で音を増幅して音楽やってるわけだから、アコースティックとエレクトリック両方の要素をうまく融合できたらいいなと思いました。



── 「世界は変わる」は2021年の日比谷野音公演で演奏し、昨年のEP『New Spring Harvest』にも収録されています。2年前と今で曲の意味合いがTOSHI-LOWさんの中で変わったりしますか。

TOSHI-LOW:変わんないですよ。だって、そもそもコロナで変わった価値観なんて俺の中に一個もないんで。コロナ前から大事なものが大事で、コロナが明けようが、そうじゃないものはそうじゃない。自分の価値観を改めて知る時間の余裕があってよかったな、って思うだけ。


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