【インタビュー】Yukihide “YT” Takiyama、B'zや氷室京介でお馴染みのマルチミュージシャンの初ソロアルバムに理性と野性「少し壊れた部分があるほうが納得いく」
YTことYukihide Takiyama (滝山幸英)がソロアルバム『Tales of a World』を6月14日にリリースした。高校を卒業してすぐに渡米し、ボストンのバークリー音楽大学で編曲と管弦楽法を学び、ロサンゼルスで音楽キャリアを積んだ屈指のミュージシャンだ。
◆Yukihide “YT” Takiyama 動画 / 画像
2010年には氷室京介の目に止まり、アルバム『“B”ORDERLESS』にアレンジャーとして参加、ギタリストとして氷室京介のレコーディングでもライブでもその存在感を際立たせ、2017年以降はB'z楽曲のアレンジを手掛け、サポートギタリスト/ベーシストとしてB'zのライブツアーにも参加するという華々しい経歴を刻んでいる。
そんなトップ・オブ・トップのキャリアを築きながらも、ソロアルバムの制作/発表はこれが初めてとなるものだ。まさに“満を持して”という表現がピッタリの『Tales of a World』だが、ここにはYTのキャリアをもって納得のバラエティさが発揮されている。聴きどころは満載、全7曲はすべてが違った色合いと風合いを持ち、ひと味もふた味も加えられた変拍子やパラリズムを用いながらも、作為的な違和感を感じさせない高度な技術がサラリと散りばめられている。それでいてど真ん中に突き刺さるのは、ゴツくて荒々しくワイルドなギタープレイ。理屈よりも直感を信じ、理性よりも本能に身を委ねる精神性は、クレバーな音楽理論を蹴散らかすかのような爽快感をも生み出している。
YTという男は、何を求め、何を感じ、どんなアルバムを生み出したのか。話を聞いた。
▲ソロアルバム『Tales of a World』
◆ ◆ ◆
■ハートが大事っていうのは当然そのとおり
■だけど、理論はあったほうがいい
──特筆すべきキャリアを重ねながら、意外にもソロアルバムは、これが初めてとなるものですよね? なぜここまで発表を引っ張ったのですか?
YT:別に引っ張ったわけではないんですけれど(笑)、「ソロアルバムを出しませんか」というお話をいただけたので出せたというわけです。自分で“出そう”と動くところまでいかなかった…んですかね。
──曲作りは普段からされているんですよね?
YT:はい。それはずっとやってきていて、以前にもEPとかシングルをApple Musicとかに出したりしていますし、GOSPELS OF JUDAS名義でもリリースしてはいるんですけど、ソロアルバムとなると、なかなか楽曲が絞り切れないんですよね。今作『Tales of a World』は結構バラエティに富んでいますけど、これでも自分なりにまとめてはいるんです。それ以外の曲も聴いてみるとバラバラなんで、それをまとめるのが結構難しくて。あれも入れたい、これもやりたいと思うので。
──レーベルから、ある程度リクエストをもらったほうが作りやすい?
YT:…そうですね。自分のやりたいことを単に突っ込んでもアルバムとしてはバラバラですし、レーベルからリリースするとなると自分ひとりだけのことではないですから、ある程度何かのひとくくりみたいな、どこかでつながっているものがないと、初ソロアルバムとしてはあかんのちゃうかなって思います。
──初アルバムなのに、すでに何枚もソロアルバムを出してやっと到達できるような境地ですね。
YT:それはもう、それだけ時間かかったってことですよね(笑)。
──作品のイメージはあったんですか?
YT:タイトルの『Tales of a World』自体は漠然とした何でもありの世界で、それこそ動物の世界とか、宇宙のどこかの世界とか何でもいいんですけど、その世界の中でそれぞれの物語があるというのが頭の中にあったんです。その考えに至ったのはパンデミックのときで、何もできなかったりした中で、でも自分は音楽をやっているおかげで徐々に物事が進むようになっているのが見えてきたり。かといって、パンデミック前は自由に好きなように音楽をやってきていたという物語も自分の中にはあるので、それがきっかけで『Tales of a World』という世界観でまとめようと思いました。
──7曲中、歌もの4曲、インスト3曲というバランスは、意図したものですか?
YT:結果的にそうなった…んですよね。なんか決めましたっけ(笑)?
スタッフ:曲数の目安みたいなものはお話しましたけど、中身はあっという間に決められていました。
YT:自分の中では、ものすごく考えましたよ。はじめに候補で考えていたのは20曲くらいあって、それを10曲くらいに絞って、そこからすごく考えて“これは明らかに違うな”というものを省いていった感じです。
──残された7曲に共通したテーマや質感のようなものはあったのでしょうか。
YT:パンデミックになる前に書いた曲、パンデミック中に書いた曲、パンデミックが収まり出したときに書いた曲が自分の中で根本にあったんです。歌ものは入れたほうがいいとは思っていたので、パンデミック前の曲からは確実に「Nasty Creature」は入れたかった。で、歌ものがそれ1曲だけっていうわけにもいかないので、何曲か歌ものも選んで…っていう感じです。
──それにしても幅の広さに驚いた7曲でした。そもそも「Playground」のような楽曲を書くギタリストは、「Jaguar」みたいなモーターヘッド的リフは弾かんもん(笑)。
YT:そうですかね(笑)。あそこは僕の中では結構同じ感じ。「Playground」はジャズファンクとかの影響はあるんですけど、僕の中ではジェフ・ベックの影響もある。「Jaguar」のギターの音はかなり歪んでいますけど、ジェフ・ベックもああいう勢いのある曲とかやっていたりするじゃないですか。そういうところでのつながりってやっぱりあると思うんですよね。
──今作を客観視すると、バークリー音楽大学に行った影響はどう捉えますか?
YT:どうでしょうね…ないことはないと思います。ジャズ理論で有名な学校ですし理論的なことは影響が出ていると思うんですよね。ジャズっぽいものを聴くようになったのはバークリーに行ってからだし。でもバークリーに行ったのが露骨に出ているのはアレンジの部分だと思います。
──音楽大学に行ったことで、逆に失ったものやマイナスポイントは感じますか?
YT:ネガティヴな部分は、僕はないかな。バークリーに行く理由が、とにかくアレンジのことを学びたい、オーケストレーションとか管楽器のブラス系のことを学びたいというものだったので、自分の知らないことをどんどん吸収できたんです。だからマイナスになった部分はないかな。アレンジ専攻だったから、ギターのクラスはそれほど取ってないんですけど、僕は鍵盤をそんなに弾くほうじゃないので、アレンジは全部ギターでやっていたんですよね。ギターで音を探していたから、結局ギターはずっと弾いていて、そういった意味でもギターが弾けなかったということもないし。
──88鍵あるピアノに向かわず、弦が6本しかないギターでアレンジやオーケストレーションを学ぶというのは、なかなかの逆境と感じますが(笑)。
YT:もちろん鍵盤も使うんですけど、一番初めに音を探すときに鍵盤よりもギターのほうが早いんですよね。自分の頭の中で鳴っている音を探すときに、ギターだと“あのへんやな”ってわかるから。それを確認して、それに対してのハーモニーがどこに行くべきか、どこに来るかがギターだったらすぐわかる。ビジュアライズしやすいのもあって、ギターでだいたいやるんですよね。
──昔から“バンドに譜面は不要” “ロックに音楽理論は必要なし” “ロックはパッションだ”みたいな話がありますよね? すべてを経験してきたYTは、どう思いますか。
YT:理論が必要かどうかでいうと、別に必要ではないと思うんです。でも、理論って知っていて損はない。アレンジのときはそうですよね。理論を知っているおかげで、次の音をどの音にしたいかと探さなくてよかったりするんです。理論がわかっていると、この音に対して何を鳴らせるかがわかるので、ギターのロックバンドで演っているときも、曲を書いているときでも“次にどこ行ったらいいんだろう”ってときに、探さなくてもパッと次のアイデアみたいな簡単な案がひとつは出てくる。そこから“この音は違うかな” “こっちにしよう”とかできるんです。そこを知らないと結構探さなきゃいけないじゃないですか。探していて最終的に見つからない可能性もあったら、それはもったいない。だったら、知っていて試してどう行けるかをわかったほうがロックミュージシャンの幅も広がるし、その先の曲を作っていくプロセスでも幅が広がると思うんですよね。だから“ハートが大事”っていうのは当然でそのとおりなんですけど、理論はあったほうがいいと思いますね。
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