【インタビュー】Sound Horizon、「この世の中のものってすべてにロマンがある」
■ 音楽を中心として、絵馬が奏でる「ロマン」とは
──現代日本が舞台なので、音楽的にも和楽器が多用されています。そうなると、選べる音楽のパターンがおのずと決まってきたりしますよね。たとえばそれが、楽曲を作る上での制限として働いたりもしませんでしたか?
Revo:雅楽みたいなものはやりたいなという思いはありました。ただ、そこから作品作りが始まったかって言ったら、そうではないんですよ。あくまでも先に「絵馬」っていうものがあり、絵馬を軸として物語が進んでいくと考える。そして、じゃあその絵馬はどこにかかっているかと考えると、やはり神社だから。そうすると神社でどんな音楽が流れててほしいかなといえば、それはロックじゃなくて、雅楽だ、ということになるんですよ。
──まず最初に「絵馬」が重要だったというのが面白いですね。『絵馬に願ひを!』という作品タイトルも、まさにその思いが反映されたものになっていますが、そもそも、なぜ最初に絵馬をクローズアップしようと思ったのでしょうか。
Revo:現代日本に近い世界観で物語をやろうと思ったことと、絵馬が結びついたという感じでしょうか。単に「現代日本」というだけだったら絵馬にしなくても、たとえば手紙とか日記とかに思いを託すという物語でも描けたかもしれない。今までに「本」なんかを登場させた作品もわりと作ったことがあります。しかし絵馬は、今の世の中にあって、人の本当の願いとか、その人の人生って何なんだろうってことが浮き彫りになるもので、すごく面白いと思ったんですよ。絵馬には願いが書かれていますが、なぜそのように書かれるに至ったかというところにロマンがあるし、またその願いを受けて、物語がどうなっていくのかというところにもロマンがある。つまり絵馬というものにはロマンしかないんですよね。
──「絵馬にはロマンがある」とRevoさんがおっしゃると、過去作を聴き続けているものとしては、だからこれが選ばれたのだと深く納得できます。
Revo:しかし18年ぐらいメジャーで、いや、自主制作時代から考えると20年以上か。そのくらいSound Horizonで物語音楽をやってきて思うのは、極端に言うと、たぶんこの世の中のものってすべてにロマンがあるし、すべて音楽にできるんだろうなということなんですよ。それをこちらがやるかどうかだけの話なんです。当然、全部やるには時間が足りないのですが。絵馬だからできるんじゃなくて、他のものでもなんでもできるんだけど、自分の感性でグッとくるものが、絵馬にはあったと。神と向き合うことで人間というものが浮き彫りになる。
──たしかに、絵馬にはその人の思いが直接反映されますものね。
Revo:まあ、絵馬に嘘を書いてる人もいるかもしれないけど(笑)。しかしそれでも、わざわざ絵馬に思いを書くことを考えると、その人の真実みたいなものがそこには含まれてて、絵馬の数だけ物語があって、人生があると思える。そう考えると、神社は願いが集まる場所みたいなもので、めちゃくちゃエモいんですよね。そのくらいのものだから、これは物語音楽にしない訳にはいかんだろって思ったのが今だった。今じゃなかったとしても「これはやらない訳にはいかん」って題材のひとつではあったかな。
──先ほどのお話では、それをやるにあたって導き出された音楽が雅楽であったと。
Revo:しかしロックも好きなので、もちろんロックを全くやりたくないわけでもない。そういう意味ではPrologue Editionなんかは、ロックもやりたくて、雅楽もやりたいみたいな感覚で作ったところがありました。
──ということは、Full Editionだとまた違う発想があったのでしょうか?
Revo:今回は、もうそれだけだとつまらないので、自分の中でもう一段階、進めたいという思いがありました。つまりロックと雅楽がもっと融合するものを作りたいな、と。あるいはロックじゃなくても、現代の音楽シーンに存在する何か他のジャンルの音楽と、雅楽の要素が溶け合うものを作りたいなと思いました。
──雅楽や和楽器が出てくると、儀式とか宗教性が感じられるんですが、それもまた、それありきで作った訳ではないんですね。あくまでも物語が先にあって、そこから必然的に音楽が決まった。
Revo:そうですね。舞台が神社なので、おのずと儀式感は求めました。逆に言うと、和っぽいものなら何でもいいという訳でもない。たとえば、和楽器と言われたときに真っ先に出てくる三味線は一切出てこないんですよ。なぜなら、神社は三味線が登場する前の時代からあったから。
──ツアーのメンバー紹介の際に、少しだけ使われている楽器の話もされていたのがすごく楽しかったです。これは薩摩琵琶で、とか。
Revo:本当は、雅楽には薩摩琵琶じゃなくて、雅楽用の楽琵琶ってのがあるんです。けど、今回の楽曲に求められる技術があまりに難しすぎるって話になって、薩摩琵琶でも難しいんだけど、熊田かほりさんならやっていただけるんじゃないかってことになり、レコーディング方法も考えて進めていきました。
──笛ですごく難しい楽器があるんだ、って話もされていましたよね。
Revo:篳篥(ひちりき)っていう縦笛なんですけど、音を出すだけでもすごく難しい楽器で。何気ない音階でも、素人には絶対吹けないものなんですよ。息をどう吹き込んでどういう風に音階を作るかっていうのも曖昧なんです。民族音楽って、その世界観の中で調和が取れてるようにできてればいいので、現代の音楽からすると曖昧な楽器が多いんです。
──ピアノのように、近代的な楽典・楽理を考えて作った楽器ではないですもんね。
Revo:それを現代の楽器と一緒に鳴らすなんてことも、むろんですが、その当時誰も考えてない訳です。だからそれが不便だとか言うのは筋違いなんですけど、少なくとも今の音楽ジャンルの楽曲で一緒に鳴らそうとすると、実は相当な困難がありますね。しかし伝統楽器だからといって年配の方ばかりではなく、西洋の音楽教育もしっかり受けてるような若い方々に演奏をお願いできたので、課題をクリアするためのコミュニケーションは取りやすかったと思います。感謝です。
──なるほど。ツアーはもちろんですが、レコーディングの時から大変だったのですね。
Revo:そうですね。そもそも、スタジオで奏者に一人で吹いてもらっても、それはレコーディングスタジオの音でしかなくて、その楽器の聴きなじみのある音にはならないんです。普段聴いてる音は、同じパートを何人かの人が同時にやってたりもするんですね。バイオリン一人が弾いたところでオーケストラの音はしないみたいなものです。かといって、同じ人の演奏を同じように多重録音で重ねてみてもダメなんです。重ねる前提で吹いてもらったり、マイクを立てる位置を変えてみたり。そもそも神社で鳴っている音って、だいたいは遠くから、ふわーんと回り込んだ音を聴いてるので、楽器の真横で聴いたような音では同じように聞こえない。だからレコーディングでは、どういう世界観として聴こえてほしいかでデフォルメしたり、調整しながら音を作っていきました。まあそれは和楽器に限った話ではなく、求める音楽と向き合うには日常茶飯事の仕事ですが。
──奥深い作品ですから、物語全体がどういうものなのか、ネタバレしながら語り合いたい人もいますよね。何日間はネタバレNGとするかについて、コンサートの際に観客の皆さんへ挙手を求めて多数決で決めていました。ああいう人の手触り、温かみが感じられるところが、どこかSound Horizonらしくていいなと、僕は思ってしまう部分でした。
Revo:どのくらいの期間にすればいいのか、作る方はもう内容を知っちゃってるから、よくわかんなくなっちゃうんですよ。だから、皆さん自身にネタバレの期限を決めてもらって、学校や仕事がある中で、毎日ちょっとずつ作品を楽しんでもらえればと思いました。このインタビューが解禁されるのもその頃なのかな? 楽しんでもらえてると嬉しいです。
──作品には「参道の記憶」という、言ってみればパスワード機能のようなものが搭載されています。過去に再生した曲順を記憶するようなものだと思うのですが、なぜあの機能が付けられたのでしょうか?
Revo:今回のコンサートでもそうでしたが、そもそもこの作品は、16周とかして選択を繰り返してもなお、全貌が見えてこないような内容なんです。しかしそれを何度もやるのはとても大変ですから、できれば途中経過をセーブしたい。だけど、Blu-rayの仕様上セーブをするっていうことが難しいらしくて。ノーセーブで何周もしてもらうことが許されるのか? あまりにもひどいんじゃないか? と考えた結果、『ドラゴンクエスト』シリーズの「ふっかつのじゅもん」形式であれば、できなくはないかも、ということになったんです。
──Sound Horizonの作品のボリュームが上がった結果、途中経過を記録しておく必要が生まれたというのは、まさにファミコンが通った歴史と同じですね。つまり1回のプレイで終わるようなものじゃなく、数時間以上かかるものなので、状態を記憶するパスワードが必要になった。
Revo:しかし今回ははじめての試みなので文字数も少ないですが、もし次があるとすれば、さらに作品の仕掛けが細かくなって、『ドラクエ2』(最大52文字)くらいの大変さになってしまうかもしれません。「だったら、セーブ機能つけてくれよ、令和だぞ」って言われると思うので、その時はまた別の方法を考えます。ただ今の時代は、入力するのはめんどくさいけど、メモを取るのはスマホのカメラで一瞬でできるんですよね。昔のように、手書きでメモして書き間違えることはない、という。
──なるほど。「ふっかつのじゅもん」的な要素もまた、Revoさんが今までご覧になった「いいな」と思った作品から引っ張ってきた部分ということかもしれないですね(笑)。
Revo:たしかにファミコン時代の『ドラクエ』をやってなかったら、今回の参道の記憶には結びついてないでしょうね。人に説明するときも、意思の疎通がけっこう簡単でした。「ふっかつのじゅもん」だよと説明すれば、アラウンド昭和の人達はみんな理解できる。若い人はめんご(笑)。
──そういう部分も含めて、今までの音楽ソフトとは全く違う「遊び方」ができるタイトルですね。膨大な情報量を、どこまでも掘り下げて聴くことができますし。
Revo:それについては、意地悪に思う人もいるかもしれないですが、何曲入ってるかは明かさないことにしているんですよ。CDだと、プレイヤーに入れただけでおのずと曲数がわかってしまったり、最後の曲から聴くこともできるんですが、今回の作品は基本的にそういうことができなくなっています。だから「この作品のすべてを見た」と思っても、そうじゃないかもしれないし、まだ隠されてる要素があるかもしれない。どれだけ入ってるか容易にはわからないし、見るのがけっこう困難なやつも中には入ってるので。正規ルートで、特定因子の組み合わせ状態からの○○を○○しなければ、ジャミングされて聞き取れないトラックがあるとか、その時のパスを利用しないと至れない○○○○に偽装されてるトラックがあるとか、引きますかね? でもまあ、違法行為でそこに至っても詰まらないでしょうから。大多数の人には関係ないので、ここはカットしといてください(笑)。見るのがけっこう困難なやつも入ってるので。とにかく全部見ようとすると、たぶん皆さん、時間が足りなくなる。別のことをしたり、別の娯楽にも触れないといけないし、また何年か経つと作品に対する印象も変わるかもしれない。末永く楽しんでもらえたらと思うんです。自分が飽きるまで、この作品が終わることはないですから。呪いみたいなものですけど、一生呪われてください。あ、その頃はもう再生出来る機械ないか(笑)。
取材・文◎さやわか
写真◎江隈 麗志(C-LOVe CREATORS / Your Agent Tokyo)
7.5th or 8.5th Story BD『絵馬に願ひを!』(Full Edition)
令和伍年 弥生 拾伍日 水曜日 降臨2023年6月14日(水)降臨
詳細:https://shaxvanniv.ponycanyon.co.jp/release/index.html#bd_ema_fe
総参詣時間:約 弐佰肆拾分(※Prologue Editionの陸倍以上)
壱道筋乃参詣時間:大凡 弐拾陸分
【『絵馬に願ひを!』(Full Edition)録音時参加者】
※今作では「歌い手」として表記されている参加者も時には語り部に、「語り部」として表記されている参加者も時には歌い手になっている場合がございます。
[歌い手]
井坂泉月、石田彩夏、市川裕之、大原よしの、木内栞、香西愛美、佐藤真大、清永大心、SAK.、神社関係者、能楽関係者、灰野優子、ハセガワダイスケ、ピコ、廣瀬真平、水野雅和、山川達平
[語り部]
Ike Nelson、伊東健人、大塚明夫、岡本信彦、梶裕貴、茅野愛衣、黒沢ともよ、沢城みゆき、飛田展男、深見梨加、森久保祥太郎、悠木碧、Revo
[楽器奏者]
五十嵐宏治(Key)、井上俊次(Fg)、大塚惇平(笙, 鉦鼓)、大橋英之(G)、熊田かほり(琵琶)、弦一徹(Vln)、纐纈拓也(龍笛, 楽太鼓)、淳士(Dr)、庄司知史(Ob)、鈴木正則(Tp)、髙桑英世(篠笛,Fl)、中ヒデヒト(Sax,Cla)、西山毅(G)、長谷川淳(B)、三浦元則(篳篥, 鞨鼓)、本間貴士(箏)、由有(太鼓, 神楽鈴, 鼓)、与野裕史(Dr)
弦一徹ストリングス
鈴木正則ブラスセクション
内藤貴司ホルンセクション
髙桑英世木管アンサンブル
Voces Tokyo(合唱指揮:木場義則)
すずかけ児童合唱団
■特装盤(完全受注限定生産)
特大狼欒神社絵馬型桐箱仕様
※特装盤の受注期間は終了
■通常盤
品番:PCXP-50900
価格:22,000円(税込)
封入特典:「連動幸運券〜弐分乃弐〜」
(※Prologue Editionに封入されていた「連動幸運券〜弐分乃壱〜」と2枚揃えると応募券になる。詳細発表)
予約(国内):https://lnk.to/SH_StoryBD_Ema_FE_j
予約(海外):https://lnk.to/SH_StoryBD_Ema_FE_w
・通常盤 予約購入先着特典
Amazon.co.jp:狼欒神社 点袋(伍枚組)+『絵馬に願ひを!』(Full Edition)L判絵札(弍枚組)
その他法人:狼欒神社 点袋(伍枚組)
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