【インタビュー 前編】百足&韻マン、若きラップスターが語る「大事なのは、ステージを下りた時にその人がどんな人間か」

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■リリックに書いたらプラスになるのが
■ヒップホップの面白さだと思う


──以前のBARKSインタビューで百足と話した時、「俺も韻マンも普通の家の子だから」と言っていたのを思い出します。

百足:そうっすね。金のない一般家庭の子みたいな(笑)。ラッパーの人がよく言う、過去の壮絶なエピソードみたいなのは全然なくて。MCバトルをやってたから、知名度は普通の人とは違うけど、ステージを下りたら普通の人と同じ生活をしてたんで、気持ちは理解できると思うんですね。

──それはリリックを聴けば凄くわかります。

百足:ただめっちゃヒップホップが好きなんで、ヒップホップをやってるというか。別に、こういう過去があったからラップしかなかったんだ、とかじゃなくて、普通の過程に育ったんですけど、ヒップホップがめちゃくちゃ好きっていう、ただそこだけだと思います。


▲百足

──韻マンもそんな感じ?

韻マン:そうっすね。俺は高校は1ヵ月でやめちゃったんで、卒業はしてないですけど、高校卒業の年ぐらいまで携帯も持ってなくて、ガスも電気も全部止まってて。その時にラップを知って、ツイキャスでラップを始めたんですけど、金がなくても普通に遊んでたし、友達の家に泊まったりして。若かったんで、それをバックボーンとして壮大に語るほど、メンタル的にきてたわけでもなくて、金がないなりに楽しんで遊んでたんですけど。

──なるほど。

韻マン:ラップにハマって、韻を踏んで、韻マンになって、ちやほやされていくと同時に…その時は音楽をやりたいとか全然思ってなくて、その場のノリで“韻踏んだらお客さんが沸くから”という感覚でステージに出てたんですけど、ちゃんと音楽を自分で作り始めてから、生活面が変わったというか、それまでまったくお金がなかったんで。これやったら自分の性格にも合ってるし、“これで成功したら熱いな”って。だから壮絶なバックボーンとか、ドラッグがどうのこうのとかで、ラップするしかなかったというわけじゃなくて、自分の思い当たる中で、ラップでしか稼げるものがなかったっていう感じです。

──韻マンのリリックって、成功しても満足しないとか、金だけじゃないとか、そういうワードが多いから、共感を呼ぶのかなと思います。逆に言うと、どういうふうになったら本当に満足できるのかな?と。

韻マン:自分は10年間ぐらい、こういう生活ができればいいです。それ以上のことは、あんまり考えてないです。

百足:自分はとりあえず、音楽をずっと続けれていればいいかなって。ご飯は毎日コンビニ弁当でいいし、家もレコーディング機材が置けて、音楽が作れるならそれだけで全然いいし。それで数字も出なくていいというのは違って、数字は出てほしいですけど、別に金は…それこそ今、初めてこんなに稼がせてもらって、でも別にそれで満たされたことはあんまりないんで。ずっと金がないながらにいい曲を作って、ルンルンで帰ってた時のほうが、楽しかったなっていう感じです。

──金回りは良くなったけど、それは音楽をやりたいということにはほとんど影響してこない。音楽を作りたいという気持ちは変わらない。

百足:そうです。音楽はずっと作り続けたいです。


▲韻マン

──今回のEPに入ってる「ポートガン」の中で、百足が“音楽以外はただのカス”って歌ってますよね。

百足:自分は本当に、音楽以外はだらしなくて。音楽が全てって感じです。

──一方、「今ここ」の韻マンのリリックでは、“音楽だけが俺を写す鏡”って歌ってる。

韻マン:リリックでしか書けないんですよね。こうやって普通にしゃべる時に、あんまりしゃべられへん感じのこととかも、リリックに書いたらプラスになるのが、ヒップホップの面白さだと思うんで。

百足:基本、僕は今もコミュ障で、基本が根暗なんで。でもやっぱ、曲を書く時は別人というか、本当の自分が出せるんで。

韻マン:根暗の本心が。

百足:そうそう(笑)。ずっと黙ってたことをリリックで出しちゃう。

──でも百足のリリックには、怒りとか復讐とか、そういうものをあんまり感じないんですよね。基本、矢印が自分に向いてるというか、だから誰かをやっつけるとか、そういう方向にはいかない。

百足:それはしないです。たとえば自分がほかのラッパーからそういうことを言われたら、3日間ぐらい病んじゃうタイプなんで(笑)。だから言わないって感じです。攻撃的な、憎しみみたいなものは。

──でもバトルやってると、そういうイメージを持たれるじゃないですか。悪口が得意みたいな。

百足:みんな、ステージの上ではバンバン言うじゃないですか。でも大事なのは、ステージを下りた時にその人がどんな人間かだと思います。それを自分と韻マンが証明できればいいなっていう。

──今二人がやってるのはまさにそれで、バトルのステージを下りた時にどんな人間性を見せるのか、どんな音楽を作れるのか、それをちゃんとやってくれているから。今そこにいる子たちにはものすごい参考になると思います。バトル以降の生き方という点で。

百足:嬉しいです。

取材・文◎宮本英夫

■EP『MILLION』

2023年6月30日(金)配信開始
1. 今ここ
2. オオカミ
3. HIT MAKER
4. ポートガン
5. BABY
6. 君のまま
7. 止まない雨



▲EP『MILLION』


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