【インタビュー】ゲーマーからミュージシャンへ、一気に昇り詰めたd4vdのシンデレラストーリー
5月26日にデジタルリリースされたd4vd(デイヴィッド)のデビューEP『ペタルズ・トゥ・ソーンズ』が、7月12日に日本限定CDとなってリリースされる。通常盤とサイン・カード付初回限定盤の2形態での発売となるが、ボーナス・トラックとして収録されている「プラシーボ・エフェクト」と「バックストリート・ガール」のライヴ・バージョンの2曲は、日本国内でしか手に入れることのできない貴重な音源だ。
『フォートナイト』をプレイしながらゲーム配信をし、そのゲーム切り抜き動画をYouTubeにアップしていたという熱狂的なゲーマーだったd4vdだが、著作権違反にならぬよう動画のBGMを自分自身で作って公開したところ、そのオリジナル楽曲がバズるという現代のシンデレラストーリーを地で行く、現在18歳の若き才能だ。
オリジナルの曲は全てiPhoneで制作しており、今回のEP『ペタルズ・トゥ・ソーンズ』に収録されている曲も全て妹の狭いクローゼットの中で制作された楽曲だという。TikTok上では別バージョン楽曲をアップロードし、数百万以上の再生数を記録しているが、中でも「ロマンティック・ホミサイド」はSpotify USトップ50チャートで18位、Spotify USバイラルチャート/Spotifyジャパン・バイラルチャートで1位を獲得し、瞬く間にアーティストとしての才能を開花させることとなった。
幼い頃からたくさんの日本のアニメに親しみ、「日本の数々の素晴らしいアニメのように、自分の楽曲にもd4vdverse(d4vdの世界観)を展開し僕の世界観に入り込んでくれるような深みのある曲を書きたい」と語っている。世界の訪れたい国の1番に日本を挙げているが、2023年7月29日には<フジロック>に出演し、初来日の舞台をRED MARQUEEステージで踏むこととなる。
ゲーマーからミュージシャンへ一足飛びに飛躍したシンデレラストーリーは、どのように描かれたのか。話を聞いた。
photo by Fernando Maramoro
──もともとはプロのゲーマーを目指していたそうですね。
d4vd:そうそう。トップのゲームチームに入ってビデオゲームの世界で有名になりたいと思っていた。で、僕はYouTubeに動画を投稿していたんだけど、その動画でメインストリームの音楽を使っていたから、著作権侵害で削除されて収益化できなくなったりしたことがあってさ。そこで母親に相談したら「他の人の音楽を使って抗議されるなら、自分の曲を作ってその音楽を使ったらどうか」と言ってくれたんだ。
──なるほど。
d4vd:「確かにできるかもしれない」と思って、次の日にiPhoneでどうやって音楽を作るのかを調べたら、BandLabというアプリが出てきた。僕はプロ用のマイクも持ってないし音楽を作るための機材も持っていないし、MacBookしかもっていなかったから、最初はどうやって音楽をどうやって作ればいいのかわからなかったんだよね。でも、そのアプリはすごく使いやすくて、次の日には最初の曲が出来上がったんだ。それがテストトラックになって、2022年1月に2曲目を作った。「You and I」っていう曲なんだけど、その曲を使って作ったモンタージュを投稿したら、それがすごいことになってさ(笑)、著作権を気にしなくていいから、他のみんなも自分の動画に僕の曲を使い始めたりしたんだよ。
──いきなり凄い。
d4vd:「じゃあサウンドクラウドにもポストして、どうなるか様子を見てみよう」と思ってポストしたんだ。そしたら、それがまさかのサウンドクラウドのインディーズ・チャートのトップ50入り。「これは何かあるかもしれないな」とは思ったけど、僕の興味はそこじゃなかった。僕が一番気にしていたのはフォートナイトの視聴者数で、そっちはかなりクレイジーなことになっていたからさ。だから、それからも動画のために映画のサントラを作るように曲を書いていたんだよ。そしたら、サウンドクラウドのストリーミング数が10万回を達成するまでになってさ。それで音楽について真剣に考えなきゃと思うようになった。
──具体的には?
d4vd:まずTikTokで試してみることにした。でも、僕の場合はユーモアのセンスがクレイジーだから、ミームをやったらいいんじゃないかと思って、まずは人の曲をカバーすることから始めた。ただカバーするだけじゃなく、キーを超高くしてシマリスみたいな声にしてみたり(笑)。そうやってビヨンセやビリー・アイリッシュのカバーを投稿してたら、フォロワーが50万人くらいになった。そこまでファンやリスナーを獲得できた時点で、遂に自分の音楽を宣伝してみようと思ってポストしたのが「Romantic Homicide」。そしたら一晩でクレイジーなことになって、レコード会社からメールをもらったり、気が付いたらLAまで飛んでミーティングをしてた(笑)。携帯ひとつで作った曲が、ここまで広く受け入れてもらえるなんてビックリだよ」
──幼い頃は、ゴスペルばかりを聴いていたそうですが、ゲームの世界からいろんな音楽に触れたのですか?強い影響を受けたミュージシャンや音楽ジャンルはありますか?
d4vd:自分が今作っているような音楽を聴き始めたのは本当に最近の話。僕はクリスチャンの家庭で育ったから、幼少期から13歳くらいまで、ずっとゴスペルやクラシック、ジャズを聴いていたんだ。中学に通っていた時、誰かがバスでリル・パンプの「グッチ・ギャング」をかけてて、かっこいいと思った。サウンドクラウドで見つけたアンダーグラウンドのラッパーだって言っていたから、僕もサウンドクラウドからXXXテンタシオンやメンバーズ・オンリーを発見してラップを聴くようになったんだ。フォートナイトを始めてからは、誰かのモンタージュでザ・ネイバーフッドの「セーター・ウェザー」が使われているのを聴いて「このギターいい」って思って、そこからはバンドにハマっていった。音楽に対する見方がガラッと変わったんだよね。あれはクレイジーだった。
──どういうところに惹かれたんでしょうか。
d4vd:彼らの言葉の使い方。それまでに聴いてきた音楽はゴスペルだったから、内容の全てが神様についてだったんだよね。でもラップやバンド・ミュージックは、それとはかなり対照的だったんだよ。音楽の作り方も考え方も人それぞれっていうのを知った。そして音楽は、誰もが自分を表現できる普遍的な言語だっていうのを感じたんだ。
──d4vdというアーティスト名にした理由は?
d4vd:僕の名前は文字通り”David”で、Aを4に置き換えIを抜いたのがd4vdだけど、僕はこの名前でマルチバースや映画のような体験や世界を構築していこうとしているんだ。4という数字は、その世界に登場する4つの異なるヴァージョンの僕を表している。そのうちのひとつは、既にミュージックビデオに出ている、あの目隠しをして血の付いたシャツを着ている男。彼はその世界でメインの悪党であり、敵対者なんだ。僕は物語が大好きだから、音楽を書くときもチャプターに沿ってストーリーを組み立てていくのが好きなんだよね。あのキャラクターは、ミュージックビデオの世界を作っている存在で、ミュージックビデオの中でもEP『ペタルズ・トゥ・ソーンズ』の中でも僕を苦しめている。僕の人生を支配しようとしていて、何かをコントロールできずにいる僕が顕著に表れているんだ。これから異なる4つのバージョンが出てきて、映画のような世界が作り上げられていく予定だよ」
──楽曲は妹のベッドルームにあるクローゼットで制作しているとのことですが、そこはどんな環境なのですか?
d4vd:環境とまでは呼べないかも。僕は「箱」って呼んでて、本当に段ボール箱にいるみたいな感じなんだよ(笑)。クローゼットの中にはスーツケースや重なった服が入ってるから、それが音を吸収してくれて、歌った時に音が壁に跳ね返らない。すっごく小さなスタジオみたいな感じかな。これまでにできたベスト・ミュージックはそこでできてるから、これからも使い続けようと思うよ。
──なぜ自分のではなく妹のクローゼット?
d4vd:…って思うよね(笑)。ウォークインクローゼットは妹と両親の部屋にしかないから。親の部屋では録音したくないから妹の部屋ってことになるよね(笑)。家の中で音響の良い場所を探したんだけど、クローゼットが一番良いんだ。奥まった場所じゃないとマイクのハウリングが起きるからさ。それに、妹のクローゼットが一番静かで、あまり自分のものも置いてない。だから、「よし、ここを僕のスタジオにしよう」って思った(笑)。
──そこで作られた「Romantic Homicide」は、ビルボードトップ100にランクインしストリーミングチャートでも上位を獲得するヒットを記録しましたが、この楽曲はあなたにどんな意味をもたらしましたか?
d4vd:この曲を書いていた時、「恋愛で負けない」「悲しまない」ということを考えていたんだけど、TikTokを見ていて、その反響に驚いたよ。音楽に対する反応を見ていると、みんながそれを自分のことと繋げて解釈しているのがわかったんだ。僕が思いもよらないような様々な状況や生活に歌詞が適用されて、その人のヴァージョンになっていくという興味深い現象を目の当たりにした。音楽がどう機能するかって、素晴らしいよね。
──「Romantic Homicide」のMVは『東京喰種トーキョーグール』の世界をモチーフに製作されたそうですね。
d4vd:特定のシーンがあって、主人公の金木研が戦うシーンなんだけど、あのミュージックビデオは、そのシーンの背景と空間全体そのものなんだ。あの曲には暴力的な要素があったからトーキョーグールが頭に浮かんだ。あのシーンの美しい世界観を取り入れて、実際にビデオの中で形にしたいと思った。で、アリゾナにある廃墟をみつけてさ。そこで撮影をしたら、そのシーンと同じバイブスを作ることができたんだ。あれはすごくクールだった。
──続く「Here With Me」は、『カールじいさんの空飛ぶ家』の登場人物からインスパイアをされたそうですね。アニメや漫画の世界はインスピレーションをもたらしますか?
d4vd:かなりね。僕がやっていることのほとんど全てが漫画やアニメからインスピレーションを受けていると思う。漫画って登場人物に特徴をもたせることで、キャラクターをリアルで地に足がついた存在にしてるよね。そして、ファンタジーの要素も良い。現実的ではなくても、その要素を使ってキャラクターにより魅力的な特質を与えることができる。そういう面で、僕はアニメや漫画からたくさんインスピレーションを得ているよ。
──今後も楽曲を発表していると思いますが、音楽制作環境に変化はありましたか?
d4vd:僕にとって最高の音楽が作れる場所が妹のクローゼットなら、そこを使い続けるよ。今は友達何人かと一緒にスタジオも借りてるから、その使い方を学んでいるところ。でも、今はまだやっぱり携帯だから作れるサウンドってものがある気がする。だから、携帯を急には手放したくないと思ってるんだ。今回のEPも、全部スマホで作ったし。でも、改善の余地は常にあるし、これから色々なことを試してみたいと思ってる。今のところは、スタジオと携帯のミックスだね。
──その後リリースされた楽曲「Placebo Effect」「WORTHLESS」「Sleep Well」は、どれも「孤独」や「喪失感」を歌ったものばかりですが、「孤独」が楽曲制作の衝動なのでしょうか。
d4vd:そうだね。自分のクローゼット…あ、妹のクローゼットね(笑)、そこにひとりでいる時は自分と自分の脳しかないから、自分の考えに集中できる。でもたぶんそれをやりすぎなのかもしれないね。確かに孤独についての曲ばかりだから。でも、それが僕なんだよ。僕はただ正直に、リアルに自分の頭の中を話しているだけ。それがリスナーの皆に伝われば、僕は正しい仕事ができているってことだと思う。だからもしかしたら、今後もっとハッピーな曲を書くようになるかもしれないけどね。
──世界にたくさんいるさまざまな「孤独」を抱えた人に、支えたり、もしくは救うような音楽を作りたいという気持ちはありますか?
d4vd:すごくある。今までで一番感動したのは「Romantic Homicide」を聴いたあとに、「あの曲を聴いて自殺を思いとどまった」とメッセージをくれた人がいたこと。もしもそれが音楽が持つ影響力だとしたら、僕は明らかに何か正しいことをしているということになる。だから、それは絶対に続けたいって思ったんだ。その経験が「音楽が人を助けることができる」ということに気付かせてくれたんだよ。その力が必要な人たちがいると思う。特に2023年はそうなんじゃないかな。何が起こるかわからない時代だから。ヘッドフォンをつけて人々が繋がりを感じることができる何かをつくれるのなら、それは素晴らしいことだと思う。
──そうですね。それが音楽の力ですから。
d4vd:僕の音楽を聴いてくれている日本のみんなには、感謝してもしきれないくらい感謝してるよ。夏にみんなに会えるのが楽しみで仕方がない。みんなも、常に自分自身に正直であることを忘れないで。ありきたりな言葉かもしれないけど、多くの人から諦めろと言われても希望を捨てずに突き進み続けてほしいな。
取材◎松永尚久
編集◎烏丸哲也(JMN統括編集長)
d4vdデビューEP日本独自企画盤 『ぺタルズ・トゥ・ソーンズ』
※日本盤限定ボーナス・トラック2曲収録
UICS-9181サイン・カード付初回限定盤 / 2,700円(税別)/ 直筆サイン入りカード封入
UICS-1401通常盤 / 2,500円(税別)
1. スリープ・ウェル / Sleep Well
2. ヒア・ウィズ・ミー / Here With Me
3. ディス・イズ・ハウ・イット・フィールス(feat.レイヴェイ)/ This Is How It Feels(feat Laufey)
4.ドント・フォーゲット・アバウト・ミー / Don't Forget About Me
5.ワースレス / WORTHLESS
6.バックストリート・ガール/ Backstreet Girl
7.ユー・アンド・アイ / You and I
8.ロマンティック・ホミサイド / Romantic Homicide
9.ザ・ブリッジ / The Bridge
10.プラシーボ・エフェクト / Placebo Effect※日本盤ボーナストラック
11.バックストリート・ガール(ライヴ)/ Backstreet Girl(Live)※日本盤ボーナストラック
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