【インタビュー】​タグチハナ(Lilubay)、「自然の中で活きるような、温もりのある音楽を作り続けて行きたい。」

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シンガーソングライターのタグチハナと、⻄村“コン”(きのこ帝国)、バンビ(可愛い連中、ex.アカシック)の三人からなるLilubayが、2023年3月にコンセプチュアルな2nd EP「Home away from home」をリリース、同月19日には久しぶりとなるワンマンライブを下北沢440にて行った。タグチハナのデビュー当時、いや音楽に自ら能動的に接し始めたときからの「温もりのある音楽」を届けられる、彼女にとって唯一無二のバンドと言えるかもしれない。そんなLilubayのフロントマン、タグチハナに話を聞いた。

◆タグチハナ(Lilubay) 関連画像

■スマパン、マイブラ、ジザメリ……
■その辺りがルーツといえばルーツ

──BARKSに登場するのは2015年〜2016年以来になりますね。

タグチハナ 2014年の年末にタワーレコードのオーディション番組があって、そこでグランプリをいただいて、優勝特典が賞金と全国流通権だったんです。それとタワーレコードの主都市インストアツアーで回るみたいな。なので、当時はレーベルだけ付いてくれた形で、そのプロモーションの一環でお世話になったかと。

──タグチさんは、どんな音楽を聴いて育ちましたか?

タグチハナ 自分の力で聴いたのが多分小学校3年くらい。シンガーソングライターのYUIちゃんにハマりました。ちょうどデビューしたてくらいで、あぐらをかいてアコースティックギターで歌っているのを『Mステ』で初めて観て、「なんだこれは!」と思って……女の子がこんなにタフで、ひとりで、アコギ一本でパフォーマンスをして、しかも可愛いし、声もいいし、“ひと聴きぼれ”というか(笑)。そこからアコギ一本で自分でやりたいなと思い始めたんです。

──音楽一家だと思いますが(父は元JET SETSの田口亮、母は元ガラパゴスの狩野環、伯父は布袋寅泰、伯母は歌手・女優の今井美樹)、小さいころは家ではどういう音楽がかかってましたか?

タグチハナ もちろんいろんな音楽がかかってたんですけど、レッチリとかレディオヘッド、ベックなんかは車でよく流れていて、だれかはよく知らないけど、曲は知ってて歌えるみたいな感じでした。いろいろ聴いていた中でも、母がスマッシング・パンプキンズ、マイ・ブラッディ・バレンタイン、ジーザス&メリーチェインあたりが好きで、自分も聴いていて楽しいと思って……そのときは受け身で聴いてましたけど、ジャンルどうこうじゃなく、その辺りが、いま私が作る音楽のルーツといえばルーツになってますね。それに日本の音楽に詳しくなかったので、それこそジャニーズから聴き漁ったこともありますけど、やっぱり女性シンガーソングライターが好きだった。YUI、綾香、Superfly、宇多田ヒカル、椎名林檎……そういう方たちのCDを買って自分で歌ってみる、そういうことをしてました。

──ではギターを手にしたのは……。

タグチハナ それも3年生かな? グループを作って、出し物をなんでもやっていいよ的な、お楽しみ会があって……ヴァイオリンが弾ける子、サックスが吹ける子、ピアノが弾ける子がいて、クリスマス近辺だったので、「きよしこの夜」をみんなでやろうと。で、「ハナのうち、ギターあるよね?」と。そこから母に教えてもらうんですけど、コードのFが弾けずに、「もう弾けない!」「いや弾ける!」と母と大喧嘩になったり(笑)。結果なんとか弾けるようにはなりましたけど。

──それからはズーッと、歌とギター?

タグチハナ そうですね、特別に習いに行くようなことはなかった。中学生になると、家の前が公園だったので部活終わりに行って練習したり……。最初はYUI、miwa、アヴリル・ラヴィーンのコピーばっかり。

──今のスタイルになったのはそのときからってことですね?

タグチハナ そうですね。アコギ以外は、あまり寄り道してないですね。

──自分で曲を作り始めたのは?

タグチハナ 中学生になったときに歌詞を書き始めて……ロマンチストなので(笑)。その前に小学生ころから詩は書いていて、中学生のときに親から「ふたつか三つのコードがあれば曲は作れるよ」と聞いて、そういう書き溜めた歌詞に曲をつけたのが始まりですね。

──では、ライブに出るのは?

タグチハナ ライブは高校生から。それまでは部活(バスケットボール)がメインで、家に帰ったらギターを弾くという生活。高校では軽音部に入ってズーッと音楽で、当時はエレキを持ってギャルバンしてました。そのころですね、学生イベントとかでライブハウスに出入りするようになったのは。

──オリジナル曲は中学生のころから作り続けてるってことですか?

タグチハナ 出す場所があるわけでもなかったので、一曲作れているかというとアレですけど、取り組んではいました。

──当時はどんな感じの曲を作ってました?

タグチハナ そのときは完全に「YUIになりたい!」って思ってたので、そういうテイストの曲を書いてたし、フル尺で作ってたわけじゃなくて、ワンコーラスだけとか破片みたいなもので、むしろそこから一曲作るようになる材料みたいなものがたくさんあります。


■グッドミュージックを作るにあたって
■この三人で出せる一番いい方法は何か

──で、デビューするのが先ほどおっしゃっていたオーディション後?

タグチハナ デビュー前ですけど、実は高校2年生のときにライブハウスで売りたくて、ギャルバンとは別にひとりで自主CD(五曲入りのEP)を作ったことがあるんです。母のバンドメンバーだった方がエンジニアをしていて、「作りたいんだけど、どうしたらいいですか♡?」とお願いしたところ、「うちにおいで〜」と。その方のスタジオで全部録らせてもらって、「ちょっと魔法をかけて〜♡」とアレンジをお願いして(笑)。

──クオリティの高いものができたわけですね(笑)。

タグチハナ そうなんです。キチンとしたものを作らせてもらったので、友達にデザインを頼んで、歌詞カードも手作りで、初めてキンコーズに行ってパッケージ印刷して……ホントに手作りの、いまだに一番思い入れのある作品ですね。それを持っていろいろなところでライブをしました。今度は全国流通のCDを新しく作るにはどうすればいいかを考えてたときに、ちょうどオーディションの話があって、「優勝するとイケるっぽいぞ?」と。で、勝ちました(笑)。

──それでデビュー?

タグチハナ インディーズデビューですね。当時のレーベルの方がA&R的なお仕事で付いてくれて、マネージメント的なことも、ライブ制作的なことも一緒にやってくれてたんです。仲も良かったし、タワレコのインストアツアーも東京、大阪、名古屋、仙台、福岡など一緒にまわって。で、デビューしたてで当たり前ですけど福岡なんてお客さんがだれもいなくて、人が全然いないのでCDショップで路上ライブみたいなことをして……凹むじゃないですか? ライブハウスでだれも聞いてくれない日は修行だと思ってやってましたけど、ツアーしてそれだとさすがにかなり凹んで、泣きながらモツ鍋食べたりして(笑)。
 
──そのデビューからSHIBUYA CLUB QUATTROのワンマンライブ(2016年3月29日)まで、あまり時間が経ってないですよね?

タグチハナ オーディションでリリースが決まったわけですけど、新譜を作ることなって、高校三年生だったので卒業式の日にリリースすることにしたんです。高校生活最後の証、みたいな。で、リリースライブもしたんですけど、そのライブ当日に、マネージャーから「○○○と●●●と□□□だったらどこでライブやりたい?」って言われて。「そりゃ全部でやるのが夢ですよ〜。でもSHIBUYA CLUB QUATTROでやりたいな」って言ったら「そこで決めましょう」と。で、その日にQUATTROワンマンが決まって、その日のライブで発表してと……もう何が何だか分からなくて(笑)。

で、発表したから元には戻れない。ワンマンまで時間はあったんですけど、プロモーションをどうするのか決まらなくて、とにかく人を集めなくてはとノイローゼ気味でした。そこで、そのころは毎日ライブハウスにいて仲良くしていただいている先輩方がたくさんいたので、皆さんにコメントをいただいて、先輩方のファンの人たちにも観てもらおうと思いついて。それがカウントダウンメッセージになったんです。みんな応援してくれて、もちろん実券でソールドアウトは無理なのは分かってましたけど、希望していた集客はクリアできて、いま考えると無謀なところはあったけど、無事着地はしました(笑)。

──その後にバンド(add / 2021年10月に改名)を組むことになる?

タグチハナ QUATTROワンマンのときのバンドメンバーがいつもやってもらっていた人たちで、ギターの君島大空とはデュオのライブもやってたり、小林侑矢(B)も学生時代からの付き合いで、それがサウンドの核としてあった。私自身それで行くのかなと思ってたんですが、各々の活動があって、いつもそのメンバーでできるわけじゃないし、私は基本ひとりで自由にいろんなことをやれる状況で……キャリアは少しずつ伸びていくけれど、新しいことをしたい、どうしたいかなと思っていた時期でした。そのタイミングで、声をかけてもらって。

ズッーと憧れていて大好きだった、きのこ帝国。ボーカルの佐藤千亜妃さんとはソロで一緒にライブをやらせてもらうことがあって、それにメンバーの方も私のライブを観てくれて、それで覚えていてくれた。きのこ帝国が活動休止になるときに(2019年5月)、私のことを思い出してくれて、誘ってもらえたわけなんです。ある日の自分のライブのときに「会場に、きのこのドラム(西村“コン”)がいる! なんで!?」となったんですけど(笑)、ライブが終わったら、コンさんが一緒にやりませんか?と。その日は帰ってからズーッとベッドで飛び跳ねてました(笑)。

──ズーッとひとりでやっていて、改めてバンドを組むことに抵抗はなかったですか?

タグチハナ 学生時代にガールズバンドをやったときに、人とやるのはいろんなことを考えてやらなくてはいけないし、考え方も違うなというのはあって、どちらかと言うとひとりの方が向いてる人間だろうなって自分では分かってる(笑)。迷いましたけど、声かけてもらった時点で、先輩だし、ズッと観ている人たちだし、“付いて行きたいな”という気持ちが生まれたんです。今までは自分が引っ張らないといけない、自分が何かを始めないといけない。じゃないと何も生まれない状況だったけど、初めて、付いて行っていいんですか?という気持ちになったんです。

──自分が先頭に立つのではなくメンバーと一緒に動く?

タグチハナ 結成当時は完全にそんな感じでした。勝手が分かってなかったので、教えて教えて、どんな感じでやるの?と。今は変わってきて、自分が主導になったわけでもなく、メンバーで定期的に話す話題ですが、三人組で、ふたりは私より8〜9歳上の同世代で、人気バンドを組んでいた人、私はその後輩で、彼らが体験してきたことを知らないし、どういうメソッドがあるのか分からないけれど、ふたりはすごく優しくて穏やかで、グッドミュージックを作るにあたってこの三人で出せる一番いい方法は何かを探していこうというタイプ。なので、私もアイディアを出したり、もうちょっとグイグイ行ってもいいのかなと思ってます。

──では結成当時とは、曲作りや演奏の仕方が変わったところはありますか?

タグチハナ 曲作りは基本的に変わってなくて、私が弾き語りで作って、そのデモに演奏を載せてもらうことが主流で、ドラムのコンちゃんがトラックを作ることもあるので、それに私が歌詞を載せたりとか、だれが作ってもいいシステムではあるので。こういうスタイルは一貫して変わらずですね。

──それでみんなでああだこうだ言いながら作っていく?

タグチハナ みんなそれぞれ個性派で、私の作ったシンプルなデモを投げても、すごく新しい、自分にないアイディアをくれるので。弾き語りのときはミュージシャンの方にこうしてほしいっていうのを伝えて演奏してもらうんです。今はどんな感じに思ったか演奏してみて、と。いったん聞いてみて、もう少しこうしたいってのはあるけど、基本的は「そんなふうになるんだ、すげー楽しい!」と(笑)、丸投げすることが多いです。

──先日のライブ(3月19日@下北沢440)についてはどんな感想ですか?

タグチハナ 楽しかったですね。久しぶりに自主企画/ワンマンをやったので、かなりドキドキ感はあったんです。サポートに(馬場)庫太郎さん(G)も呼ばせてもらい、さすがだなというか……Lilubayの今の方向性を打ち出すEPで、それが全部マッチした、時間と場所とメンバーとでできたので。一回きりではなくこういうことを続けていくことが大事なんだなと思いました。

──メンバーにあえてギターを入れないのは……

タグチハナ いや、全然欲しいっス(笑)! どう考えても私、エレキが大好きなので画策中です(笑)。一昨年くらいまでは大先輩の沼能友樹さんに弾いていただいて、プロデューサーがSUNNYさん。ふたりは一緒にお仕事することが多くて、いわば私たちに教えてくれる立場というか、全部吸収するぞ!という感じですごく勉強させてもらっていた何年間かがあって。それを踏まえて自分たちで地に足をつけて、自分たちの力で何かを作るということを意識していきたいねと、今回初めてセルフプロデュースをして、私たちが好きなミュージシャンとして庫太郎さんを呼ばせてもらったわけ。世代も割と近くて、相談しながらやらせてもらえて、すごく新鮮で、かつ自由で伸び伸びと制作させてもらった。こういう温度感で、素敵なギタリストと制作もライブもできたらいいなと思ってます。

──将来的にLilubayはどんなバンドにしたいですか?

タグチハナ コンセプチュアルな音源を作ろうとなったのも、私たちはいろいろな音楽が好きだし、いろいろなことができもする。けど、せっかくこの三人が集まってやるなら、この三人だからこういうふうにやろうと思える方向を決めたかった。各々の持ち前のものを考えたり、好きな状況を考えた結果、すごく“チルいヴァイブス”が出せる自覚があって、自分の持つ声、ふたりの持つ柔らかさもそうだけど、屋外とか海、山、湖、そういう自然のある場所に合う音楽にしたい、合うバンドにしたいというのが共通認識であります。そのためには、そういう場所で聴いてて気持ちいい音楽を作ろう。そういうイメージを持ってもらって、そういうところに呼んでもらえるような存在になりたい。それを分かりやすく提示して行きたいと思って、今回のEPがある。ゆくゆくは自然の中で活きるような、温もりのある音楽を作り続けて行きたい。歳を重ねても、あのバンドはああいうところで観たいよねって言ってもらえるような、息の長いバンドになりたい。

──タグチハナとしてのソロ活動は?

タグチハナ いま、ソロで活動をしているのは定期的なライブだけで、音源を作ったり、ツアーしたりは何年もやってない……決めているわけではないですけど、いまは曲を作ったらバンドでやりたいし、新しいものを生み出したからこの形でやりたいという思いが強い。弾き語りとバンドで分けて曲を作ることはしないので、どちらも自分の曲で、この曲は私のギターと声だけで届くなとか、これはもっと音楽性を広げて行きたいなとか、あとで思うんです。でも、いまは自分の作ったものをLilubayで出していきたいという気持ちに自然となっているんです。

インタビュー・文:編集部

■Lilubay ライブ情報


KADOMACHI「カド・マル・サンカクツアー」東京編
2023/04/19(水) @shibuya eggman
■OPEN/START : 18:00 / 18:30
■ADV/¥2,500 DOOR/¥3,000(+1D)
チケット取り置
Lilubay.band@gmail.com

■出演
KADOMACHI
SPRINGMAN
メレ
Lilubay


「Utopian Jam vol.3」
2023年4月26日(水)@ duo MUSIC EXCHANGE
■OPEN/START : 18:00 / 18:30
前売:¥3000(+1d)
e+ https://eplus.jp/sf/detail/3841260001
weekend session weekendsession.shop-pro.jp/?pid=173676827

■出演
ITAZURA STORE
RINNEEE
三阪咲
Lilubay


2nd ep 「Home away from home」

2023年3月1日(水)
ECHR-008 DL¥255 / ハイレゾ¥365
各主要音楽配信サービスリンク
https://orcd.co/lilubay

■Tracklist
1. mani・ cure
2. Home away from home
3. わがままな私と、子どもみたいな君
4. Knock
5. rainy day

◆Lilubay オフィシャルサイト
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