ボブ・ディラン、7年ぶり日本ツアー開幕

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ボブ・ディランの来日公演<「ラフ・アンド・ロウディ・ウェイズ」 ワールド・ワイドツアー 2021-2024>が4月6日、大阪・フェスティバルホールで初日を迎えた。そのオフィシャルレポートをお届けする。

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■ディランを追いかけて~菅野ヘッケル
感動の一夜:ボブ・ディラン
大阪フェスティバルホール
2023年4月6日

世界中を恐怖に陥れ、すべてのエンターテインメント活動を休止に追い込んだCOVID-19パンデミックの終わりが見え始めた2021年秋、ボブ・ディランは<ラフ&ロウディ・ウェイズ・ワールド・ワイド・ツアー2021-2024>をスタートさせ、2022年11月までアメリカ、ヨーロッパを回った。そして今年、2023年のスタートに日本を選んだ。ノーベル文学賞受賞後初めての、2016年以来7年ぶりの本格的日本ツアーだ。

4月6日午後7時10分、フェスティバルホールの明かりが消され、オーケストラによるクラシック音楽が場内に流れ始めると、暗闇のステージに6人のミュージシャンたちが姿を現した。その中に白い帽子を手に持ったディランがいる。

昨年までのアップライト・ピアノに代わって、ステージ中央にベイビー・グランドピアノが正面を向いて設置されている。おかげでボブの顔の表情もよく見える。左側にギターとドラム、中央奥にベース、右側にペダルスティールとギターと、5人のバック・バンドの中央にボブが陣取っている。

やや長めのイントロに続いてボブが歌い出した。オープニングの定番曲「川の流れを見つめて」だ。4か月の休養をとったおかげもあって、ボブのヴォーカルは実に力強く、明瞭に響く。しわがれた濁声は影も形もない。ボブは2021年にネット配信された<シャドウ・キングダム>で着用していたのと同じ、胸に刺繍を施した黒いカントリースーツの上下を着ている。手に持っていた白いカウボーイハットは被らずに、ピアノの脇に置いたまま。

昨年までステージフロア全体が白く光るように埋め込まれた照明に代わり、ステージ両サイドに置かれた強力なライトの明かりだけがステージを照らしている。頭上には照明装置はない。ボブの近年のステージに比べると明るい方だが、それでも一般的なコンサートに比べると、薄暗い。しかも曲によって明るさを変化させたりするわけでもなく、ただぼんやりとステージを照らしているだけだ。照明効果に頼るようなギミックは必要ない。あくまで、主役はディランの歌なのだ。

続いて「我が道を行く」と、よく知られた2曲が続いた後、いよいよニューアルバム『ラフ&ロウディ・ウェイズ』の収録曲が2曲続けて歌われた。「アイ・コンテイン・マルチチュード」「偽預言者」。観客は固唾を飲むように静まり返り、一言も聞き逃さないぞと聞き耳を立てる。不思議な緊張感が会場を包み込む。これもディランのコンサートの醍醐味の一つの要素だとぼくは思っている。

心地よい緊張感を和らげるように「マスターピース」が歌われる。ピアノにヴァイオリンとアコースティック・ギターが絡み、<シャドウ・キングダム>で聴かせた新しい歌詞が披露された。曲の後半はボブのピアノがリードするジャム・セッションのような演奏が場内に響く。

続いてニューアルバムから不気味な「ブラック・ライダー」と「マイ・オウン・ヴァージョン・オブ・ユー」が歌われた。死神を連想させるブラック・ライダー、フランケンシュタインを思わせる恐ろしい人造人間を組み立てる物語、ボブ特有の死と終末感が広がる。まるでボブが発することばに襲われるように感じた人もいただろう。ことばの意味が明確に理解できなくても、ボブのヴォーカルは襲いかかってくるのだ。歌が持つ魔力が感動を呼ぶ。

一転してヴァイオリンが奏でられ、ボブがゆったりと歌い出す。「アイル・ビー・ユア・ベイビー・トゥナイト」、今夜はきみのベビーになるよ、とセクシーなヴォーカルを聞かせるボブに、うっとりした観客を大勢いるだろう。81歳、魅力は衰えを知らない。曲の後半は、椅子から立ち上がって踊り出したくなるようなホンキートンク調の楽しい雰囲気に変わる。

ニューアルバムから「クロッシング・ザ・ルビコン」がヘヴィーなブルース調で歌われ、ヴァイオリンを聴かせた明快な「トゥ・ビー・アローン・ウィズ・ユー」に続く。これも<シャドウ・キングダム>で披露した新しい歌詞で歌われた。

いよいよ今夜のハイライトの1曲、「キー・ウェスト」が始まった。壮大なシネマを見ているような光景が脳裏に浮かんでくる。理想のパラダイス、キー・ウェストに思いが馳せられ、だれもが歌の世界に引き込まれたはずだ。10分を超える大作を歌い終えたボブは、初めてピアノを離れ、ふらふらとステージ中央に歩み出てきた。何かことばを発するわけでなく、ただ、反応をたしかめるように観客を見回すと、すぐにピアノに戻って行った。おそらくボブ自身、満足感に浸っていたのだろう。いかにもボブらしい。

次はボブのシングル・ヒット曲「ガッタ・サーヴ・サムバディ」。さすがに観客もノリノリだ。一転してニューアルバムから美しいラヴソング「あなたに我が身を」が歌われた。この曲はボブの歌のうまさが際立っている。多くの歌手がカヴァーする「メイク・ユー・フィール・マイ・ラヴ」のような歌になるかもしれない。

ボブが卓越したヴォーカリストであることを照明したアメリカン・ソング・ブックの中から「ザット・オールド・ブラック・マジック」が続いた。この曲はボブのバック・バンドのすばらしさを味わえる仕上がりになっている。次はニューアルバムから「マザー・ミューズ」が歌われた。ドラムレスといってもいいほど、ボブのピアノとトニーのストリングベースだけで、流れるような美しい曲になっている。観客の夢見心地が膨らむ。

いよいよラストが近づく。ボブの得意なシカゴ・ブルースでニューアルバムから「グッバイ・ジミー・リード」が歌われた。昨年まではここでメンバー紹介をして、ステージを去り、間をおいてアンコールに戻っていたが、今夜は違った。そのまま「エヴリー・グレイン・オブ・サンド」が始まった。よく知られた美しい代表曲の調に観客は酔いしれる。この曲で初めてハーモニカを演奏した。歌い終えると今夜初めてボブが「サンキュー」と喋った。観客が沸く。続けてボブがメンバー紹介を始めた。「ドラムはジェリー・ペンテコスト、ギターはボブ・ブリット。もう一人ギターはダグ・ランシオ。ペダルスティールはドニー・ヘロン。ベースはトニー・ガーニエ」 

ボブが紹介を終えると、脇に置いてあった白いカウボーイハットを被り、ステージ前方に歩き出る。ボブを挟んでミュージシャンたちが横一列に並ぶ。しばらく観客を観察するように場内を見回しただけで、何も告げずにステージから姿を消した。ファンにはお馴染みとなった、最後の儀式が終わり、異次元のような100分の感動のコンサートが終了した。

出口に向かう観客から「すごかったな」「よかった」「最高!」といった感想がぼくの耳に聞こえてくる。

友人が「ボブというジャンルの音楽だ」と漏らした。その通りかもしれない。ロック、フォーク、ポピュラーといった従来のジャンルで括れない、芸術、ボブ・ディランというジャンルだ。ボブと同時代に生きているぼくたちは幸せだ。

文◎菅野ヘッケル

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■<“ROUGH AND ROWDY WAYS” WORLD WIDE TOUR 2021-2024>セットリスト
1. 川の流れを見つめて|Watching the River Flow
『ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット 第2集』

2. 我が道を行く|Most Likely You Go Your Way and I'll Go Mine
『ブロンド・オン・ブロンド』

3. アイ・コンテイン・マルチチュード|I Contain Multitudes
『ラフ&ロウディ・ウェイズ』

4. 偽預言者|False Prophet
『ラフ&ロウディ・ウェイズ』

5. マスターピース|When I Paint My Masterpiece
『ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット 第2集』

6. ブラック・ライダー|Black Rider
『ラフ&ロウディ・ウェイズ』

7. マイ・オウン・ヴァージョン・オブ・ユー|My Own Version of You
『ラフ&ロウディ・ウェイズ』

8. アイル・ビー・ユア・ベイビー・トゥナイト|I'll Be Your Baby Tonight
『ジョン・ウェズリー・ハーディング』

9. クロッシング・ザ・ルビコン|Crossing the Rubicon
『ラフ&ロウディ・ウェイズ』

10. トゥ・ビー・アローン・ウィズ・ユー|To Be Alone With You 
『ナッシュヴィル・スカイライン』

11. キー・ウェスト(フィロソファー・パイレート)|Key West (Philosopher Pirate)
『ラフ&ロウディ・ウェイズ』

12. ガッタ・サーヴ・サムバディ|Gotta Serve Somebody
『スロー・トレイン・カミング』

13. あなたに我が身を|I've Made Up My Mind to Give Myself to You 
『ラフ&ロウディ・ウェイズ』

14. ザット・オールド・ブラック・マジック|That Old Black Magic
『フォールン・エンジェルズ』

15. マザー・オブ・ミューズ|Mother of Muses 
『ラフ&ロウディ・ウェイズ』

16. グッバイ・ジミー・リード|Goodbye Jimmy Reed
『ラフ&ロウディ・ウェイズ』

17. エヴリィ・グレイン・オブ・サンド|Every Grain of Sand
『ショット・オブ・ラヴ』
(ラストにBand member introduction)

Bob Dylan (Vocal, Piano, Harmonica)
Bob Britt (Electric guitar)
Doug Lancio (Electric guitar, Acoustic guitar)
Donnie Heron (Pedal Steel, Lap Steel, Violin, Electric mandolin)
Tony Garnie (Upright bass, Electric bass)
Jerry Pentecost (Drums)

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<“ROUGH AND ROWDY WAYS” WORLD WIDE TOUR 2021-2024>

2023年
4月6日(木)大阪・フェスティバルホール 開場18:00/開演19:00
4月7日(金)大阪・フェスティバルホール 開場18:00/開演19:00
4月8日(土)大阪・フェスティバルホール 開場16:00/開演17:00
4月11日(火)東京・東京ガーデンシアター 開場18:00/開演19:00
4月12日(水)東京・東京ガーデンシアター 開場18:00/開演19:00
4月14日(金)東京・東京ガーデンシアター 開場18:00/開演19:00
4月15日(土)東京・東京ガーデンシアター 開場16:00/開演17:00
4月16日(日)東京・東京ガーデンシアター 開場16:00/開演17:00
4月18日(火)愛知・愛知県芸術劇場 開場18:00/開演19:00
4月19日(水)愛知・愛知県芸術劇場 開場18:00/開演19:00
4月20日(木)愛知・愛知県芸術劇場 開場18:00/開演19:00

チケット料金(税込):
GOLD 51,000円(グッズ付き)
BOX席 36,000円(大阪のみ)
S席 26,000円
A席 21,000円
※未就学児(6歳未満)入場不可
詳細、注意事項等はオフィシャルサイトでご確認ください。

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