【インタビュー】TAKURO(GLAY)、「今の俺は傷付いた人の心の受け皿側になろうとしている」

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■このアルバムの意味を本当に教えてくれるのは、たぶん何年も後

──ところでGLAYは今後、ヴェネツィア以外にもラテン圏に展開していくご予定なのですか?

TAKURO:行かないと思うけど、どうなるか分からないので一応準備はしておきます(笑)。今回はナイロン弦のガットギターを弾いているんだけど、前にメンバー皆でスペインに行った時は、北海道に通じるものを感じて。日本で言ったら演歌的というか、スパニッシュギターに哀愁を感じたんだろうけど。M5「Pray for Ukraine」とかもそうだし、M8「Bercy」は、1920年代のパリの小さな公園で、それを俯瞰で見ている絵を頭の中で描いて曲をつくっていったね。

──M4「When I Comb Her Hair」は、ビブラフォンのような音色がスペイシーかつ懐かしい響きに聴こえます。

TAKURO:あれは娘が5歳ぐらいの時に、髪をとかしてあげていた時のイメージなんだよね。俺は思ったね、「これ以上の幸せはないな」と。人生紆余曲折あって、結婚して子どもが生まれて、男の子も女の子も両方かわいいと思うんだけど、父親が娘の髪を梳かすという行為の美しさに感動した。自分でしていることなんだけど、それを上から見ているような視点が同時にあって。そんな写真が実際に残っているわけではないんだけどね。それは俺の個人的などうこうではなく、ある種の平和の象徴、幸せの象徴というのはこういった形なんじゃないかな。決して大袈裟なものではない、その絵こそがね。当然、思春期になるともう娘はそんなことをさせてはくれないし、その僅かな時間の、僅かな幸せの記憶があれば人は充分に前を向いて歩けるんだ、と。たとえその人が今いないとしても。そういう一枚の絵、そんなイメージから曲を書いたんだよね。

──些細なことのようでいて、その記憶があれば、その後の人生何があっても生き抜いていける、というぐらい大切なものなんですよね。

TAKURO:うん。俺は人の悲しみについて小さい頃からずっと考えていたんだけど、うちのばあちゃんが戦争体験者で。

──よくTAKUROさんが話題になさり、想いを曲にもされているお祖母様ですね。美味しい目玉焼きをつくってくださった……。

TAKURO:戦時中に一番下の子を亡くしていて、俺の親父である息子は38歳で亡くなっているわけだよね。俺からしたら、そんな悲しみ耐えられないんじゃないか?と思うんだけど、優しいおばあちゃんとして生きたわけで。そのことから俺は子どもの頃から「悲しみって何だろう?」「耐えられるものなのだろうか?」と、ずっと考えているんだよね。聴いているだけで胸が詰まるような体験をしていても、人は逞しく、人に優しく生きていけるんだ。その秘密は何だろう?と。それは自分の中の解けない問いであり続けていた。でも、この曲を書く時に思ったのは、「そういう悲しい別れの事実はあるけれども、その前に些細なことの積み重ねがたくさんあって、寂しくなったらその一つ一つを思い出せばいいんじゃないか?」ってこと。愛する人を亡くしたら「もう私は死んでしまいたい」って思うかもしれないけど、いい思い出がいくつかあれば、それを思い出すだけで「明日一日だけ生きてみよう」とか、じゃあ明後日も、あと一週間、いやあと一年生きられるとか。大袈裟に言うなら人生はそういうもので出来ているのかもしれないな、って。だからこそうちのばあちゃんは寿命をまっとうできたんだろうと思う。悲しみはたくさんあっても、それ以外の喜びや、温かい想い出で人は生きていけるんじゃないか? それを「When I Comb Her Hair」では思うんだよね。そんな素晴らしい瞬間が、誰にもあるんじゃないかな?

──それにしても、TAKUROさんがそんな幼い頃から、悲しみについて深く考えておられたとは……。それが数々の名曲を生み出してこられた源泉ではないでしょうか? 

TAKURO:名曲は才能じゃない(笑)?

──才能があるのはもちろん、言うまでもないことですよ(笑)。 

TAKURO:あはは! それは分からない。メンバーが気持ちよく演奏できる曲ができれば、
何でもいいんだよね。

──とにかく今回は、悲しみをも乗り越える糧となるような、小さな幸せ、心震えた場面を
音楽に封じ込めたんですね。

TAKURO:俺はそういうタイプの作曲家なんだね、きっと。もちろん「このドラマに何かを充ててくれ」というオファーに応えることもできなくはないんだけど、やっぱり純粋なものは心の奥底から湧き水みたいに勝手に出てくる。音楽的な質はさておき、そのほうが作業に熱が入っちゃうよね。やっぱり“出どころ”がしっかりしているから。

──アルバムパッケージに封入されるレコーディングドキュメントを拝見しましたが、TAKUROさんは終始生き生きとして楽しそうでしたもんね。

TAKURO:英語でのコミュニケーションは問題なく取れるんだけど、曲の説明はキツかったなぁ。俺が本当に言いたいのはこういった話で、それを分かってもらうために、さっきのばあちゃんの話とかをするんだけど、英語に直すのが本当に難しくて。でもジョンは、「When I Comb Her Hair」は何も説明してないの「これ、娘さんの歌?」って、タイトルだけですぐ分かってくれた。


──すごい! さすがですね。

TAKURO:「いいパートナーになったんだな」と感じる瞬間ではあったね。インストだから詞で説明しているわけでもないので、曲のタイトルなんてイメージしかないし、解釈が難しかっただろうけど。「Early Summer」についても、「だったら、初夏のこの音を入れたほうがいいんじゃない?」とか言って、虫の声を入れてみたりとか。

──鳥のさえずりとかも聴こえますよね。

TAKURO:そうそう。ああいったところに関しては、ジョンは天才的に仕事が早かった。

──Eru Matsumotoさんのチェロも素晴らしかったですが、元々ロサンゼルスのコミュニティーで親交があった方だそうですね。

TAKURO:そうそう。関係者がエルちゃんのマネージメントをしていて、去年知り合ったんだけども。今年グラミー獲ったということで、ロスでお祝いの食事をして。今回お願いをしたら快諾していただけて。

──実際にレコーディングでご一緒してみて、演奏はいかがでしたか? 

TAKURO:圧倒的な才能、いわゆるギフトを授かった人を前にすると感動しかないんだよね。現役時代のイチローのプレイをもし観たなら、こんな感じだったんだろうな、と。そういう意味では、今の大谷(翔平)くんを観ているような感じかな。「すげぇ!」っていう。

──規格外の才能に圧倒される、という感覚でしょうか。

TAKURO:そう、規格外の。少し意地悪な言い方だけど、音楽家の間には、絶対に渡れない深い河があるんですよ。努力だけではどうにもならない、超えられない河が。しかも、その向こう側にいる人たちは、才能がある上に努力するんだよね。

──益々差が開きますね。

TAKURO:イチローも然り、エルちゃんにはそれがある。安い言葉で言うなら「これが世界か」という表現になるんだけど、ちょっと違うんだよね。もっとスピリチュアルな、もっと運命的なものというか。この業界に入った瞬間から、その河の存在を俺はずっと感じている。そして、誰にどう慰められようと、俺とHISASHIの間には太くて長い河があるので。

──そうお聞きするたびに、何をおっしゃってるんでしょう?といつも思っているのです
が。

TAKURO:……って言われるんだけど。それは俺が見聞きした、俺なりの知識の、俺なりの世界の中での話で、他の人には他の人の意見があるんだけどね。でもその河は埋まらないから、違うところで頑張るしかないよね。

──とにかく、そのような規格外の圧倒的な才能を持ったEruさんを、今作では迎えて。

TAKURO:一発目の音で「なるほどなぁ」と。前人未到の、時速180㎞で投げるみたいな感じだよね。そういう体験ができて良かった。

──ダナさんの歌声も限りなく繊細で、物語が浮かび上がってくるようで、素敵でした。

TAKURO:キャリアが浅い人だと、想像はできても実感として“時が流れていない”ので、ダナぐらいの年齢の人じゃないとあのモノローグ的な歌は歌えなかっただろうね。

──やはりここでも、重要なのは時間なんですね。ピンポイントで何か大変な経験をした、というだけではない、長く生きてきて刻まれる年輪がないと出せない奥行き、というか。

TAKURO:大人になることの何がいいか?って、譬え話をするなら……まずは小学生の時は校区があって、中学になると校区が広がって、高校になるとそれも入り混じっていき、そうやって少しずつ自分の世界が広がっていくのが成長だとしたら、大人になってからは、無限の広大な海に放り出されるようなもので。そこを泳ぎ切っているシンガー、アーティストには、技術の他に、何か支持される理由がまたあるんだよ。ダナもそうで、大事な経験をしてきて、例えば俺の歌に寄り添う優しさ、包容力があった。ジョンもダナも、ベーシストのリーも、皆俺よりかなり上の先輩たちだから、毎日素晴らしい音楽学校に行ってるようなニュアンスもあったんだよね。

──今お話に出たリーさんは、70代後半だったんですよね。

TAKURO:リーは、レコーディングが終わった後「明日ジム・ケルトナーの誕生日会に行かなきゃいけないんだよな」と言っていて。ケルトナーはジョン・レノンの『ジョンの魂』で叩いているドラマーなんだけど、「まだやってんのかい?!」と俺は驚いて。78歳が80歳のドラマーの誕生日会へ行ってベースを弾くって、なんて夢のある世界なんだ!と。「ああなりたいな」と思う人ばっかりだったよ。

──『Journey without a map』の時には、レスポールギターを相棒にジャズクラブでふらりとギグをする老後の理想を語っていらっしゃいましたが、今作で年配の先輩たちと関わったことで、そのヴィジョンは更新されましたか?

TAKURO:思ったより元気だな、と思ったけどね(笑)。70代後半でこんな感じなのかって。ブルースマンとして、ジャズマンとしては『Journey without a map』のような感じでできたらいいな、とは思うけど。それはプレイヤーとして、フィジカルな部分でね。でも同時に今回「こういう音楽をつくろう」と思った自分でありたいな、とは思う。このアルバムの意味を本当に教えてくれるのは、たぶん何年も後だと思うんだよね。『UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY』が20年後にああいうライブツアーとして実現したのか。今までも、例えば『HEAVY GAUGE』のリバイバルツアーもしたけど、『UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY』ほどに反響が大きくて、自分の中でも「この時代にハマッた!」と思う仕事って、なかなかないんだよね。それは「Only One,Only You」という曲の力もあるし、『UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY』が元々持っていた可能性が眠っていただけで、メンバーも歳を重ねて円熟味を増したからこそ、それを引き出すことができた。そういう本当に幸せな瞬間であり、一つずつ人生の意味を解いていく、みたいな感じがあって。だから、今はまだ分からないことがたくさんあるんだけども、『The Sound Of Life』の制作にまつわる今回の自分の一連の行動に関しては、きっといつか、俺が困った時とか悩んだ時に何か答えをくれるんだろうなぁという予感は、とてもする。


──以前行った別のインタビューで、「一日に必ず一つは未来のためになることをするようにしている」とTAKUROさんがおっしゃっていたのが印象に残っているんです。2001年にリリースしたアルバム『ONE LOVE』を光とするなら、影として対を成す『UNITY』をほぼ同時につくっておくことも実はそうで、今回の『The Sound Of Life』もそうなのではないか?と感じます。

TAKURO:前に言ったのはたぶん、例えばジムに行くとか英語の授業を受けるとか、一日一個未来のためになる何かをする、要するに“ダラダラしない”ってことだったと思うんだけど。たしかに、その解釈もあるね。『UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY』をあの時につくっておく。このアルバムをつくっておく。その時々にハネないかもしれないけど、「自分がいつか本当に困ったらこの袋開けなさい」みたいな(笑)。そんな予感のするアルバムではあるね。

──話が少し逸れるかもしれませんが、『UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY』のツアーでは若い学生コーラスの皆さんが参加していて、その歌声と懸命に歌唱する姿は大きな感動に繋がっていました。GLAYの皆さんはエネルギーを得たでしょうし、彼ら彼女らは、今後の人生の糧となるものすごく大きな経験を得たわけですよね。未来へとバトンを繋ぐ、TAKUROさんの人生観を象徴するようなキャスティングと言えるでしょうか。

TAKURO:質を求めるのであれば、例えば普段から教会とかで歌っていたり、ゴスペルチームに入っていたりするような、もっとキャリアのあるゴスペルクワイアを用意することはできたんだけど。“深くて長い河”を泳ぎ切れるものが一つだけあるとしたら、それは若さ。若さだけは、どんな才能の前にも圧倒的な輝きをもって立ちはだかるし、50年築き上げた何かをやすやすと飛び越えていく力がある。言語化もできなければ数値化もできないけど、それは一連の『UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY』ツアーですごく強く感じた。俺たちがどんなに何かを願おうと、何か世の中を憂えようと、未来を真っ直ぐ見る瞳の純度に敵わないよね。キャリアの長い人たちは理屈っぽくなるし、先に頭で考えてやってしまう。そうでないとかつてのスウィングができない、他の技術で補わないとクオリティを保てなくなるのも当然だし。もっと言うと、若さの象徴で言うなら、生まれたばかりの赤ん坊の産声。『ドラえもん』でも描かれていたけれど、あれほど美しい音楽はたぶん無いと思う。「オギャー!」を譜面で書き起こして、あれが究極の美しい音楽だとしたら、そこにちょっとした経験が加わっていって、だけどまだ大人になる前の10代、20代前半のあの輝きは強いから。もし迷っている人がいるとしたら、自分の若さ、強さを信じていいと思うよ。

──いろいろと幅広く深いお話を伺うことができました。最後の質問ですが、『The Sound Of Life』はライヴで表現される可能性ってあるんですか?

TAKURO:えっ、どうなんだろう? 皆寝るじゃん(笑)。というかむしろ「眠れ!」なんだけど。


──何らかの形での生演奏は聴いてみたいです。

TAKURO:演奏している俺が寝てしまう(笑)。このアルバムが活きる場所というのがあると思う。例えばリラクゼーションやマッサージの施設で流れるとか(※ラフィネグループとのコラボレーションが実現)。ホールとかライヴハウスでのワンマンは考えづらいかな。ただ、何かしらのプラスアルファで生演奏をしている、というのはアリだけども。例えばフェスのチルタイムとか。バンドの転換の時に演奏するのはいいのかな?と思うよ。

──星空とか森とか、すごく合いそうですよね。

TAKURO:少なくとも俺たちのほうを観て聴くものではない気がする。もっと違う何かを目に映しながら、もしくは目を瞑りながらのほうがより深く理解できるんじゃないかな?この間息子にプラネタリウムに誘われて一緒に行ったんだけど、今のプラネタリウムって、ワインとかを飲みながら横になって観られるんだよね。その星空とこのアルバムはとても親和性が高いだろうなぁ、流れていてくれたらうれしいなぁと思います。 

取材・文◎大前多恵
写真◎田中和子

TAKURO 3rd SOLO ALBUM『The Sound Of Life』

発売日:2022年12月14日(水)
配信:https://orcd.co/tsol
特設サイト:https://www.glay.co.jp/feature/TSOL

商品形態/価格/品番:
【CD+Blu-ray】5,500円(税込) / PCCN.00052
【CD ONLY】 2,750円(税込) / PCCN.00053

[収録曲]
1. Sound of Rain
2. Letter from S
3. Red Sky
4. When I Comb Her Hair
5. Pray for Ukraine
6. Ice on the Trees
7. A Man Has No Place
8. Bercy
9. Early Summer
10. In the Twilight of Life (featuring Donna De Lory)

[Blu-ray収録内容]
・「Red Sky』 Music Video

・Visual of「The Sound Of Life」
1. Sound of Rain
2. Letter from S
3. Red Sky
4. When I Comb Her Hair
5. Pray for Ukraine
6. Ice on the Trees
7. A Man Has No Place
8. Bercy
9. Early Summer
10. In the Twilight of Life (featuring Donna De Lory)

・「The Sound Of Life」 Documentary & Interview 
レコーディング、Music Videoのドキュメント映像に加えて、レコーディングミュージシャンによるインタビュー映像を収録 (約58分)

【先着予約購入特典】
G-DIRECT:香り付きカレンダー(ポストカードサイズ)
Amazon.co.jp:メガジャケ(24cm×24cm)
上記他全国CDショップ・ネットショッピングサイト:オリジナルポストカード
※特典は数に限りがございますので、発売前でも特典は終了する可能性がございます。
※一部お取扱いのない店舗等もございますので、詳しくは対象店舗およびネットショッピングサイトへお問い合わせ下さい。

TAKURO「The Sound Of Life」発売記念プラネタリウム&トークショー

日程:2023年1月6日(金)、10日(火)
時間:1回目 開場18:00/開演18:30、2回目 開場20:00/開演20:30
場所:コニカミノルタプラネタリウム天空 in 東京スカイツリータウン®
東京都墨田区押上1丁目1番2号東京スカイツリータウン・イーストヤード7階
https://planetarium.konicaminolta.jp/tenku/

【チケット販売】
ローチケ1次受付:受付期間:12月12日(月)15:00〜12月14日(水)23:00
https://l-tike.com/st1/takuro-thesoundoflife
※お申込、公演詳細は受付サイトよりご確認ください。

チケット料金:
指定席:4500円(税込)
三日月シート:11,000円(税込) ※ペアシート。チケット1枚で2名様ご入場可能。
年齢制限:未就学児入場不可。

※開催施設への本企画のお問い合わせはご遠慮ください。

◆TAKURO 3rd SOLO ALBUM「The Sound Of Life」特設サイト
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