【ライブレポート】GLAY、30周年アリーナツアーで示す“未来完了進行形”のバンド像

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<GLAY. 30th Anniversary ARENA TOUR>と銘打たれていることで、GLAY30年間の集大成的ツアーとなると想像した人が少なからずいたかもしれない。だが、2024年このBARKSのインタビューでHISASHI(G)も語っていた通り、今回のGLAYの全国ツアーは、アニバーサリーイヤーにありがちなベスト的な内容にはならなかった。

◆ライブ写真

“30th Anniversary”よりも2024年10月発表の17thアルバム『Back To The Pops』(以下『BTTP』)を優先したというか、「レコ発ツアーなんだから収録曲を演奏するのが当たり前でしょ?」と言わんばかりのライブであった。これはまずもってGLAYらしいことだったと思う。『BTTP』収録の全14曲の内、12曲を披露。セットリスト全24曲中の半数が『BTTP』からである。ライブバンドとして真っ当と言えば真っ当。それ自体が30年間このスタンスでやり続けてきたことを雄弁に語っているようであった。


だからと言って、過度にレコ発ツアーを強調していたかと言えばそうではない。「SOUL LOVE」「口唇」「誘惑」「Winter, again」といったGLAYを代表する1990年代のナンバーをしっかりと入れ込んでいる。そればかりか、2000年代の「天使のわけまえ」「ASHES-1969-」「紅と黒のMATADORA」、2010年代の「Eternally」「疾走れ! ミライ」と満遍ない。無論、敢えて各時代から選んだということではなく、結果的にこうなったのだろうが、これもまた言外にGLAYの30周年を表す選曲だったようにも思う。


1990年代の大ブレイク期を経て2000年代のGLAYがあり、そこを超えてきたからこそ2010年代を迎え、それらの地続きに2020年代、即ち『BTTP』にも至ったのである。“Back”とあるので勢い懐古的とも受け止められることもあったかもしれないが、『BTTP』は決してノスタルジックだけではなく、メンバーの雑多なバックボーンをあまねく注ぎ込み、2020年代半ばの音に仕上げたものだ。雑多なバックボーンを現代にまとめ上げる行為自体が2020年代的との見方も出来るかもしれない。いずれにしても、今回の『BTTP』のタイトルを冠したアリーナツアーは、GLAYの最新モデルとそこに至るまでの課程が表れたセットリストであり、GLAY楽曲の膨大なアーカイブこそが30年をかけて築き上げたGLAYの牙城であると示しているかのようでもあった。

その具体例を挙げれば、まずオープニングである。「なんて野蛮にECSTASY」からSEを挟んで「天使のわけまえ」「ASHES-1969-」と続くセクションからいきなり、前述した“地続き”を感じることができた。ヘヴィメタルの要素に加え、アルバムに収録された清塚信也客演のピアノを差っ引いたとしても、スリリングなバンドアンサンブルが特徴の「なんて野蛮にECSTASY」。それこそ、このセクションのあとに続いた「春を愛する人」や「SOUL LOVE」での親しみやすさ、あるいは、優美かつ流麗なメロディラインを持つ「海峡の街にて」や「さよならはやさしく」とは趣を異にする楽曲である。


『BTTP』収録曲の中で「ライブでは案外置きどころが難しいのではなかろうか?」と勝手に心配したところもあった。しかし、そこから続く「天使のわけまえ」「ASHES-1969-」を耳にした時、事前に少しでも心配したことを叱責されたような気すらした。「なんて野蛮にECSTASY」の緊張感溢れる楽曲はGLAYにとって異質でも何でもなく、何ならさらに深淵な世界観を持つ楽曲が多数存在する。しかも、上記2曲の初出は前述の通り、それぞれ2004年、2007年だ。凡そ20年も前からバンドに備わっていたものである(それを失念していたつもりはなかったが、思いが至らなかったのは筆者の不徳の致すところ。反省いたします)。誂えたかのように最新曲と約20年前の楽曲をセットにしてライブの冒頭を飾れるのは、これもまたGLAYが30年間、活動を継続してきたことの証左。バンドの大きさ、懐の深さを示すには十分過ぎるオープニングであった。

GLAYの牙城を感じた箇所はまだある。「Buddy」「シェア」を経て「BRIGHTEN UP」から「口唇」「紅と黒のMATADORA」へと繋げた中盤だ。アウトロで♪ラララララ……ヘイ!♪と観客にシンガロングを促す「Buddy」。親しみやすいメロディラインでありながらもギターのカッティングに所謂シティポップの匂いがある「シェア」。そして、ローファイなシンセの音色が否応なしに1980年代を感じさせる「BRIGHTEN UP」。こうして文章にしてみると余計にひとつのバンドがやっていると思えないほどの多様性である。『BTTP』という作品自体がバラエティに富んでいるからそれは当然のこととは言え、こうしてライブで堂々と披露する姿を目の当たりにすると、どこか清々しさが感じられた。バラエティ豊か何だと言うのはこちらの勝手で、そこには“らしさ”も“らしくない”もない。音楽が好き、バンドが好きという気持ちだけが浮き彫りになったようなセクションであった。


しかも、その新曲群から、GLAYが初めてシングルチャート1位を獲得した「口唇」、TAKUROがつま弾くスパニッシュなギターが印象的な「紅と黒のMATADORA」と時代を遡れるというのは、これまたやはり30年選手だけに許された離れ業であろう。とりわけカットアウトされる「BRIGHTEN UP」のアウトロから、間髪入れずに「口唇」へと繋げた箇所はこの日の白眉として推したいシーンだった。ポップな楽曲からエッジの効いたサウンド、妖艶な空気感へと連ね、違和感なくパフォーマンス出来るというのは、まさに《For 30 years we've been looking for~》(※「BRIGHTEN UP」の歌詞)という姿勢で音楽に向き合ってきたバンドだからなのだ。それを確信させられた一幕であった。

最新曲と過去曲とを比較してやや小難しく分析してしまったが、この日全体を振り返ると、会場は開放的でフレンドリーな空気に包まれていたことをしっかり記しておきたい。シンガロングとコール&レスポンス──つまりオーディエンスが歌うことを促す場面がいつもより少し多かったように思う。前述した「Buddy」の他、「SOUL LOVE」や「誘惑」などライブで演奏されればいつも観客にマイクが向けられるものは当然として、「whodunit-GLAY × JAY(ENHYPEN)-」の中盤での《The Harder They Come/The Harder They Fall》の箇所でコール&レスポンスがあったのは意外だった。

また、これはこの原稿を書く段階で当日速記していたノートを見て気付いたのだが、「天使のわけまえ」と「ASHES-1969-」とのアウトロでも観客の歌声を求めていたことも思い出した。いずれもキャッチーなメロディがないわけではないが、元々シンガロング、コール&レスポンスを想定したタイプではないと個人的には思う。「whodunit-GLAY × JAY(ENHYPEN)-」であれば、サビの《Who Done It/Life Is Comedy Comedy/Who Done It/Life Is Tragedy Tragedy》でオーディエンスにマイクが向けられるのは分からなくはないものの、《The Harder~》の箇所を観客が歌うのは似合わないと言わないまでも、ジャストフィットとは言い難い。「天使のわけまえ」と「ASHES-1969-」に至っては、音源にも観客の歌唱に似合う箇所があったのかと思って聴き直してみたが、「ASHES-1969-」には辛うじてそれらしきところがあるものの、少なくとも皆が明朗に歌うタイプではない気がする。「天使のわけまえ」の音源では皆で歌うような雰囲気を感じられなかった。


しかしながら、この日、TERUが観客も歌うように促したのはなぜだろか。本人に訊かないと実のところは分からないが、その意図を汲み取るのは容易だろう。オーディエンスは文字通り“Buddy=相棒”なのだ(※BuddyはGLAYファンの呼称)。“Buddy”が歌い踊ってこそのライブとも言えるし、“Buddy”の声がなければライブは成立しないと言ってもよかろう。この日はシューティングライブで、各処に設置されていたカメラのためステージのメンバーが客席から死角に入ってしまうことを想定して、TERUはこんなことも言っていた。「見えづらいかもしれないけど、俺たちが動いてちゃんと見えるようにします」。シンガロングとコール&レスポンスを促したことにも、GLAYらしいホスピタリティが貫かれていたのは間違いない。

デビューから2025年までの30年間を表現したライブではあったと先に述べたが、しっかりとその先のGLAYを予見させるシーンもあった。現在完了形だけではなく、未来完了進行形も示した……といった感じだろうか。“Buddy”への歓待は本編後も続いた。「Back Home With Mrs.Snowman」を終え、アンコールを待つ間、ステージ上のスクリーンには『ONE PIECE』の作者、尾田栄一郎氏が描いた30周年のキービジュアルを使用した「BRIGHTEN UP」のMVが流れる。SNSでその存在は予告されていたが、ほとんどのオーディエンスがフルサイズを見るのは初めてだった様子で、皆、食い入るように映像を見つめている。シャープなアニメーションに時折感嘆の声も漏れていたし、放映後は拍手も起こった。


さらには、4月にベストアルバムが発売されることも正式発表された。2作同時リリースで、タイトルは『DRIVE 1993~2009-GLAY complete BEST』『DRIVE 2010~2026-GLAY complete BEST』。ジャケットは尾田氏による新たなキービジュアルを使用している。これにもまたオーディエンスから歓声が上がったし、“収録楽曲はファン投票で決定!”との告知も大きな拍手をもって迎えられた。これらのサプライズは“せっかくライブに来てくれた“Buddy”を手ぶらで返すわけにはいかない” といったところだっただろう。

お土産はそれだけではなかった。アンコールのラスト、この日のライブの最後の最後に演奏された「ANSWER」は最高のサプライズであり、“Buddy”への大きなプレゼントとなったであろう。2006年に氷室京介を迎え、GLAY feat. KYOSUKE HIMURO名義で発表されたシングル曲。ライブでは、同年8月の<KYOSUKE HIMURO+GLAY 2006 at AJINOMOTO-STADIUM SWING ADDICTION>で披露された他、その後のGLAY、ヒムロックのツアーでそれぞれ一度だけ演奏されたと聞いている。両雄がステージに立たないと音源通りに再現できないわけで、それだけになかなかライブで聴くことができないレアな楽曲となっていたように思う。そんな楽曲がメンバー4人でリアレンジしたニューバージョンで披露されたのだ。4月発売予定のベスト盤にも収録される予定だという。このように新たなバージョンを制作していたことは、GLAYが同じ場所に留まっていないことの何よりの証しである。バンドはすでに『BTTP』の位置にはおらず、さらに進んだ時間軸にいることを演奏で示してくれた。確かな未来を“Buddy”に見せてくれる。これもまた何ともGLAYらしいものだと感じるところでもあった。

取材・文◎帆苅智之
写真◎岡田裕介、田辺佳子

セットリスト

01.なんて野蛮にECSTASY
02.天使のわけまえ
03. ASHES-1969-
04.春を愛する人
05.SOUL LOVE
06.海峡の街にて
07.さよならはやさしく
08.Buddy
09.シェア
10.BRIGHTEN UP
11.口唇
12.紅と黒のMATADORA
13.Beautiful like you
14.Eternally
15.whodunit-GLAY × JAY(ENHYPEN)-
16.Romance Rose
17.会心ノ一撃
18.誘惑
19.V.
20.疾走れ! ミライ
21.Back Home With Mrs.Snowman
encore
en1.Winter,again
en2.生きてく強さ
en3.ANSWER

GLAY 30周年記念ベストアルバム 2タイトル

・DRIVE 1993~2009-GLAY complete BEST
・DRIVE 2010~2026-GLAY complete BEST

【収録楽曲ファン投票特設サイト】
https://www.glay.co.jp/feature/30th_bestalbum_vote
期限:1/19(日)19:00〜1/31(金)23:59
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