【ライヴレポート】清春、BorisのAtsuoが綴る<LIVE AT 新宿LOFT 25TH>という解放セレモニー「歴史に残したい」
清春が自身の誕生日である10月30日、恵比寿ガーデンホールにて恒例の<The Birthday>を開催した。有観客によるリアルライヴの開催は自身約1年ぶり。コロナ禍では<A NEW MY TERRITORY>にて精力的なストリーミングパフォーマンスを繰り広げていた清春の生身のステージは、やはり想像を超える高い熱量とひりつく緊張感に溢れたものだった。
◆清春 画像
なお、翌日10月31日の<LIVE AT 新宿LOFT 25TH>を含め、連続開催されたこの二夜は、清春と公私ともに親交が深いBorisのAtsuoに執筆を務めてもらった。スタイルを共有するアーティストとして、コロナ禍を駆け抜けてきた同じミュージシャンとして、独自の視点で綴られたレポートをお届けしたい。先ごろ公開した<The Birthday>に続く<LIVE AT 新宿LOFT 25TH>は“解放”がテーマ。
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2022年10月31日、東京の老舗ライヴハウス・新宿LOFTが、コロナ制限”解放”のセレモニーを清春と共に行なった。25年前に黒夢がLOFTをフルに埋めた同日。ポストパンデミックに向け、ソロの清春が同じく550人フルキャパシティーでの公演を実施する。
LOFTプロジェクトが起こしたこのアクションは、音楽シーンを牽引していく、とても象徴的で力強いものだと言える。LOFTプロジェクト社長の加藤梅造氏はパンデミック初期からライヴハウスの現状を語り、その悲惨さと、政府の文化に対する理解の無さを伝えてきた。文字通り文化を守り継承していく矢面に立って、この2年半を歩んできた。先日の対談(清春 × Boris Atsuo × 原田文植(医学博士) × 加藤梅造によるコロナ禍ライブ規制/ライブのあり方を徹底トークするニコ生番組)でも、メディアから槍玉に挙げられたライヴハウスの経験、それを通過してきた現在の言葉で、熱い思いが語られた。LOFTプロジェクトがポストコロナへ向かう禊として、この夜のオファーが梅造氏から清春へ行なわれ、実現となった公演が<LIVE AT 新宿LOFT 25TH>だ。
何処に所属するでもなく、メジャーフィールドに居ながら、一貫して自立/独立した姿勢を貫く清春。彼が続けてきたスタンスがあるからこそ、可能であったこの夜のセレモニー。そして満員の新宿LOFT。久しぶりに見る、このすし詰め状態のライヴハウス。日本の停滞したコロナ対策の現状に大きく踏み込んだ風景である。会場側からは大まかな制限解除がアナウンスされるのみで、マスクの着用、歓声に関して具体的なルール付けはない。そこに参加している1人ひとりが、自分事として、自立したいち個人として、そこに参加している。私の隣ではLOFTプロジェクトの社長・加藤梅造氏が「こんな光景を見せられたら、泣きそうですね。2年半がんばってきて良かった」と涙ぐんでいる。
開演を告げるSEが鳴り、メンバーが登場。また昨日と違う楽器編成で、ギターにyotsu、パーカッションに辻コースケを配し、今夜も新しい試みが行なわれる。
清春が登場すると、ステージへ向かって詰め寄るオーディエンス。場内の熱が一気に上がり、混乱した空気が全体を覆う。フロアで転倒した人を見た清春は、直ぐさまショウを中断。一時袖に去るとスタッフによる安全確認が行なわれた。先日の韓国での将棋倒し事故がよぎる場面でもあったが、無事安全が確認されて、清春がもう一度登場するやライヴは「JUDIE」からスタート。会場がまた一気に熱を帯びる。辻のアグレッシブなパーカッションとyotsuの熱いカッティングがオーディエンスをプッシュ。この日の意図を知るオーディエンスは、リミットもなしに清春の歌を謳歌、大いに盛り上がる。続く「EMILY」は、昨晩とはまるで違う発声で目の前のオーディエンスに直接届けられた。新たな編成によって、この場所で新しい領域を開いていく。後押しするのはオーディエンス、“解放”のアナウンスに集う同志たちだ。
「錯覚リフレイン」「凌辱」「My Love」と立て続けのロックチューンで前半から飛ばしていく。このライヴハウスにぴったりな「Lyrical」をオーディエンスと歌い、満足そうに「楽しいじゃん」と口にした清春。自身がライヴハウスという場で育ってきたことを公言している彼は、その大切さ、サポートする姿勢をパンデミック以降さらに強くしている。そしてこの光景を前に「良かったね、梅造さん」とステージから加藤氏に語り掛けた。
「罪滅ぼし野ばら」を終え、シェイカーからインターバルにあたる即興演奏へなだれ込んでいくステージは、辻とyotsuの2人がお互いの引き出しをどんどん開け、スリリングな演奏の応酬が繰り広げられた。
伝道師のような出立ち/衣装に変えた清春が再び登場し、名曲「TWILIGHT」へ。個人的に清春楽曲の中でも一番好きと言えるこの曲。初めて聴いたのは2019年、赤羽のReNYのこけら落とし公演だった。生で体験した名前も知らないこの曲が強烈に印象に残った。あの突き刺さる感覚は未だに忘れられない。当時はまだ所謂バンド編成で、その後ベースレスの編成となり、パンデミック以降は配信現場で様々なメンバー編成の実験が続き、そのすべてが今に至る礎となっている。「TWILIGHT」がライヴで披露される度に様々な表情を見せ、歩んできた道のりが集約されて聴こえてくるのだ。続いての曲もアルバム『夜、カルメンの詩集』から「アモーレ」。しっとりとした楽曲ながらオーディエンスとともに歌い合うなど、どんなスタイルの楽曲でも会場が生き物のように一体化する。
「wanderer」で再びギアを上げると、熱いパーカッションに煽られ、会場のボルテージが一気に高まる。「歴史に残したい」と清春が形容するほど、解放された会場の一体感。パンデミック以降、やっと戻ってきた熱がある。「ベロニカ」「バラ色の夢」「眠れる天使」、そして本編の終わりは「あの詩を歌って」。久しぶりに披露されるこの曲では、もともと清春のファンだったというスチールカメラマンが高い位置に登り、何度もシャッターを切る。清春とオーディエンスが作り上げる風景を写真に収めていく。ステージからの逆光、“あの詩を歌って”と歌いながら皆が手を掲げ、天に伸びる沢山の腕のシルエットが壮観だった。
会場からのコールに応えて、再び姿を現した清春は「皆さんが素晴らしいと思いました」解放の夜を讃える。前日の<The Birthday>に続いて、弾き語りパートへ。「輪廻」「Sherry」とコードを確認しながら、「ギターの弾けない時に作った歌」だと話して、歌う。さらに「NOTHING」「NITE&DAY」、純度100%清春の空間だ。ここ数年はバンドという形態も解体し、よりオーガニックでインプロヴィゼーションも含む一期一会なプレイスタイルになってきているが、その究極がこの独演と言えるだろう。リハーサルをしないことでも有名な清春は、ありのままでステージに上がり、“今”という時間とインプロヴァイズする。生きる純度を上げる為に誰とも待ち合わせはしない。それは所謂ミュージシャンやアーティストにとって容易いことではない。現代では商品としての音楽のクオリティを担保する為に、シーケンスや同期も積極的に使用されるし、音楽/作品の純度や一瞬の煌めきよりも、再現性や商品としてのクオリティの高さが優先されているのが現状と言えるだろう。そのような風潮に迎合することなく、自身の表現を貫き、このたどたどしくも誰も眼を離すことの出来ない弾き語りに辿り着いた。自分の好きなだけブレスもする、好きなだけ声も伸ばして、好きなだけオーディエンスの顔も見ている。
yotsuと辻が再びステージに上がり、パンデミック以降にリリースされた「ガイア」「アウトサイダー」と駆け抜ける。新宿LOFTで25年前の今日にも演奏された曲「少年」では、自身の声もフルに解放して限界まで叫ぶ。この曲が背負った意味が、アーティストを内側から壊すほどのエネルギーを放出する。フロアを照明で照らし、オーディエンスの顔や会場を見据え、この夜を確認した清春。
「Thank You 新宿。We are Rockn' Roll」──清春
最終曲「下劣」は、前日の<The Birthday>の始まりの曲。2日間のショウにおいては、この曲の意味も、響きも、オーディエンスとの一体感も、全く別物。常に蠢いている巨大な生き物のようだ。去り際、「新宿LOFT」「愛してます」「新宿LOFT」「みんなも愛してます」とコールした清春。それに対する会場のレスポンスと一体感は、25年を経て、これまで培ってきた、育んできた呼吸だ。こうして新宿LOFT解放の夜は幕を閉じた。
突出した発言ばかりが取り上げられがちだが、彼は決してポリティカルな活動に傾倒しているわけではない。アーティストとして、今を生きる1人の人間として、当たり前の“生きる”という態度を貫いているだけなのだ。彼がひとり、ビビッドに生きようとする時に、それを観たものは”生きざるを得ない”状況へ巻き込まれ、そういう場が立ち上がる。この夜を経て、パンデミック以前に戻るわけではない。LOFTが新しくスタートする。人があらためて“生きる”を謳歌する、そんな当たり前の世界を新しく立ち上げていく。“生きる”を解放する清春が、その扉を開ける適任として選ばれ、ポストコロナへの切っ先として、彼とLOFTプロジェクトの行動があったことをここに記しておきたい。
取材・文◎Atsuo (Boris)
撮影◎森好弘/石井麻木
■<清春『LIVE AT 新宿LOFT 25TH』>2022年10月31日(月)@新宿LOFT SETLIST
02. EMILY
03. 錯覚リフレイン
04. 凌辱
05. my love
06. lyrical
07. 罪滅ぼし野ばら
08. TWILIGHT
09. アモーレ
10. wanderer
11. ベロニカ
12. バラ色の夢
13. 眠れる天使
14. あの詩を歌って
encore
15. ガイア
16. アウトサイダー
17. 少年
18. 下劣
■<NEW YEAR COUNTDOWN>
open22:00 / start23:00
(問) ZOOM:052-290-0909
▼チケット
一斉発売:12/3(土) 10:00
https://kiyoharu.tokyo/
■<Toshihiko Imai「ETERNAL DANCE」LDH kitchen THE TOKYO HANEDA>
2022年12月23日(金) LDH kitchen THE TOKYO HANEDA
open18:00 / start19:00
馬場俊英 × 今井俊彦
guest:神佐澄人(pf)
Ticket:https://tiget.net/events/216584
official site:https://fan.pia.jp/babatoshihide
▼第二夜 nobody knows love
2022年12月24日(土) LDH kitchen THE TOKYO HANEDA
open17:30 / start18:30
清春 × 今井俊彦
guest:DURAN(G), Robin Dupuy(Vc)
Ticket:後日発表
official site:https://kiyoharu.tokyo
▼第三夜 sleep sheep strangers
2022年12月25日(日) LDH kitchen THE TOKYO HANEDA
open17:00 / start18:00
高野 哲 × 今井俊彦
guest:吉田トオル(pf), 三輪紫乃(vn)
Ticket:https://t.livepocket.jp/e/eternal_dance
official site:https://www.afro-skull.com
(問)LDH Kitchen THE TOKYO HANEDA 03-5579-7461
https://www.ldhkitchen-thetokyohaneda.jp/
【今井俊彦 (イマイトシヒコ)】
日本の写真家・映像作家。東京都生まれ。主にロックを中心とするミュージシャンを被写体としたアルバムジャケット、ライブ写真、映像作品も数多く手掛ける。近年、個展『nobody knows me』の開催と共に写真集『Last waltz』を上梓。
https://toshihiko-imai.com
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