【ライブレポート】Qaijff、オーケストラコンサートで魅せた“変わらないまま変わってきた生き様”
「生きててよかった……! みんなと出会えてよかったなー!」と、コンサート終盤に安堵の表情で思わず本音をこぼした森彩乃(Vo,Pf)。その飾らない言葉を聞いて、リーダーの内田旭彦(B,Syn)も同じく満面の笑みを浮かべ、観ているこちら側も最高にしあわせな気持ちにさせられたのだった。
◆ライブ写真
ピアノロックバンドのQaijffが、12月24日(金)に自身初のオーケストラコンサート<Qaijff Orchestra Concert「live my city Q 2021」>を愛知・名古屋 三井住友海上しらかわホールで開催した。
約1年前、森の母校である名古屋音楽大学とオーケストラコラボレーションを実現させたQaijff。2021年1月にその模様が『live my city Q』としてYouTubeで公開され、コロナ禍での果敢なチャレンジと演奏の素晴らしさによって大きな反響を呼んだ。
今回の<Qaijff Orchestra Concert「live my city Q 2021」>はそれをより磨き上げた一夜限りのコンサートで、前回が無観客で収録を行なった配信だったのに対し、今回はメンバーが本当にやりたかった念願の有観客および生で見せる公演となる。さらに、スペシャルゲストとして、多くのCM音楽ほか、南こうせつ、谷山浩子、椎名林檎、宇多田ヒカルといったさまざまなアーティストの編曲・プロデュースを手がける音楽家、斎藤ネコを迎え、引き続き名音の在学生、そして卒業生&講師陣も加わった名古屋音楽大学オーケストラも出演。サポートドラムには、中村佳穂BANDやmahinaで活躍する深谷雄一が参加した。
チケットも見事完売となり、会場には多くのお客さんが集まった。しらかわホールは天井がとても高く、豊潤な響きを生み出すシューボックス型の空間が印象的。バルコニー席を配した贅沢な作りでそこはかとなく温かみを感じさせ、楽器や機材が並べられたステージの上方には舞台照明と吊りマイクが見え、客席の上方にはシャンデリアがやわらかな明かりを放っている。そんなクラシックホールの様式に倣って、この日は入場時にプログラムを配布。2部構成での実施、セットリストなどが前もって伝えられていた点も、ロック&ポップスのライブではなかなか見られない試みで面白い。
開演時刻になると、名古屋音楽大学オーケストラの面々が舞台に現れ、深谷はアクリル板で囲われた最後方の位置に、スペシャルゲストの斎藤は指揮者のポジションに就いた。斎藤の手振りに乗せて各楽器が音を紡ぎ始め、やがて暗転。青白い光やストリングスの瑞々しい音色が映える中、髪をショートにして朱色のドレスに白のインナーを合わせた森、グレーのセットアップ姿の内田が登場し、いよいよ総勢49名の出演者(斎藤+オケメンバーの多くはマスクを着用)が揃う。第1部はイントロで高らかにブラスが響く「Salvia」からスタートしたのだが、いきなり迫力満点のオーケストラの鳴りに度肝を抜かれる。やっぱり生で大編成の合奏を耳にするのは格別の味わいで、重厚なアンサンブルに全身を包まれるような感覚がたまらない。森の歌とグランドピアノを引き立てたり、サビの“届け”でまたハッとさせられたりと、ダイナミックさも緩急も前回の配信時よりクオリティが数段上がっていた。
最初のMCでは、「こんなにもクリスマスイブというものを待ち望んだことは、これまでの人生でなかったです。今夜は集まってくれてありがとうございます!」と森が挨拶し、バックを務める名古屋音楽大学オーケストラを紹介。「1年越しにようやくみんなを前に生でこの音を届けられる」とも話し、続いては「こだまして」へ。原曲のピアノリフを管弦楽器が担うアレンジ、深谷の刻む重たい4つ打ちビートが新鮮で、バンドのテイストを残しつつオーケストラの重厚感を融合させた、独特のバランスで成り立つサウンドがどんどんクセになってくる。ロックとクラシックを掛け合わせたような豊かな音の連なりで場内が満たされる一方、曲によってモーグシンセを使う内田の低音コントロールも絶妙だ。
新曲の「通り過ぎていく」、そして「meaning of me」では、森がグランドピアノから離れ、ステージ前方中央に置かれたスタンドマイクで歌うなど、ピアノなしのパフォーマンスがあったのも特別だった。何もかもが急速に消費される世の中でどう生きたいのを自問するような「通り過ぎていく」以降、Qaijffならではの世界観、やり切れない想いに言及した歌はいっそう深く存在感を放ち出す。“生きてることに意味が欲しい”と強く望む「meaning of me」はまさにこのバンドを象徴する、人間らしい感情のせめぎ合いととことん対峙したナンバーで、楽曲の持つ熱量をパワフルなオーケストラの鳴りによってさらにキラキラと増幅させた斎藤の編曲も素晴らしく、まるでステージに光が降り注いでいるみたいに神々しい。ゴスペル調で聴かせた前回を経て、1年後にまったく異なるアレンジで仕上げてきた。
そんなアレンジの変化について、「今回は初めての試みとして、プログラムを事前にお配りしました。クラシックだと普通のことですけど、もしかしてネタバレ?って思っちゃう方もいらっしゃるかな。でも、これだけ違ってたら大丈夫ですよね(笑)」と森が確認すると、「イントロが始まっても、きっと何の曲だかすぐにはわからないもんね」と内田も付け加える。2人がそう話すとおり、既存曲がまるで新曲に聴こえるほどグレードアップを遂げたおかげで、オーディエンスも常にワクワクしながらコンサートを楽しめていた様子。チューバやコントラバスの低音を効かせた第1部ラストの「自由大飛行」はディズニー映画のようなコミカルなノリさえ感じさせ、“言いたいことも言えないような 窮屈な世界にバイバイ”と歌う躍動ぶりに客席から自然と手拍子が沸き起こっていた。
15分の休憩を挟んで、第2部が開幕。まずは森と内田のみがステージに登場し、地元・愛知をモチーフにした「アイノウ」を2人編成で披露する。流れるようなピアノと情感的な歌、それに寄り添うベースとコーラス。そんなミニマムなスタイルながら、この広いしらかわホールで聴きごたえのある演奏として響かせるさまは、レコード会社や事務所から独立してもバンドがしっかりと立っていることを伝えていた気がしたし、ギターレスバンドのQaijffらしい味わい深いアンサンブルでもあった。
「アイノウ」を終えると、森が“赤いソファーのいつもの喫茶店”の歌詞に触れ、「あれはコメダ珈琲店のことです(笑)」と打ち明けつつ、本公演に向けてのオーケストラアレンジやスコア作りでコメダに通い詰め、朝から晩まで12時間くらい作業していた日々を振り返るシーンも。「歌うのにすごく勇気が必要な曲なんですけど、だからこそ今日この場所で歌いたい」と前置きした「桜通り」では、サックス奏者の山田悠維を呼び込み、アーバンな色合いを添えながら物悲しくもやさしいトーンで届けてくれた。
何も「桜通り」に限った話ではなく、このコンサートを開催する試み自体にも、相当な勇気が必要だったのではないだろうか。誰かに丸投げしたりはせず、すべてのオーケストラアレンジを基本的に自分たちで手がけることを選び、楽譜作成ソフトウェアの使い方や知らなかった楽器の特性なども学びつつスコアを制作し、賛同してくれる仲間を集めてコミュニケーションを育み、入念な事前準備、音の作り込みを重ねてきたQaijff。自主でここまで途方もない挑戦をやってのける、心血を注いで音楽に取り組んでいるバンドはそういない。今回共演を果たした斎藤も「こんなにすごい活動ができてるバンドはいないから、もっと知ってもらいたいよね」とメンバーに話していたという。想像を絶する努力と苦労の果てに実現したのが<live my city Q 2021>で、2人が真摯にがんばってきた結晶なのである。
もうひとつの新曲「だって」は、深谷と斎藤との4人編成でプレイ。ひときわ目と耳を惹いたのが斎藤のバイオリン演奏で、ジャジーなアンサンブルの中、イントロから強烈なビブラートを響かせ、間奏では弓が切れるほどの情熱的なソロを弾きまくる。プログラムには“編曲:その場のノリでいきます。”とクレジットされていたが、この狂気のアレンジに会場は大いに沸き上がり、森も「楽しいー!」、内田も「バイオリンのネコさんは人格が変わるって言ってましたけど、本当ですね(笑)」と嬉しそう。また、“わたしはわたしをやめたくない”“この人生で良かったって歌いたいのさ”と心を曝け出した歌も、譲れないものがちゃんとある“これぞQaijff!”という内容でグッときた。
その後のMCで、斎藤との出会いについて話すQaijff。なんとYouTubeで配信した前回のオーケストラとのコラボ演奏を斎藤がたまたま目にして、「素敵でした。機会があったらごいっしょしましょう」とTwitterでDMを送ってくれたことが、今回の共演に繋がったのだそう。オーケストラが戻っての「変わって」は、そんな思いがけず巡り会えた斎藤が編曲を担当。バンド結成当初からの大切な楽曲を、グロッケンシュピールやハープが際立つ新たなアレンジで聴かせ、変化を恐れず突き進んでいきたいという原点回帰の意志も示してみせる。
「Qaijffを結成して来年で10周年なんですが、今日までいろいろなことがありました。初めてライブをして、スタジオに入りまくるところから始まって。曲を作って、CDを出して、事務所やレコード会社に入って、メジャーデビューをしたけれど、メンバーがまさかの活動休止(ドラムの三輪幸宏が群発頭痛の治療のため、2021年4月に無期限活動休止を発表)になってしまったり、所属していた場所を離れたり。でも、振り返ってみるとどの瞬間も魂を込めて、削って削ってね。自分たちの分身のような曲を、音楽を作ってきたと思います」
「愛を教えてくれた君へ」の演奏前、現在の心境をそう話した森の声に共感を覚えた観客はきっと多かったはず。なぜなら、これまでに披露された「meaning of me」や「自由大飛行」にしても、必死に“なんのために”と生きる意味と向き合い、行ったり来たりする気持ちを歌に残しつつ、キリのない葛藤を何度も何度も繰り返して、泥臭くも自分たちなりの正解を導き出す──そんなどうしようもなく人間味にあふれた、変わらないまま変わってきたQaijffの生き様が大好きだからだ。そして、ひたむきに足掻いた末の答えが強くて美しい、不思議な説得力を宿しているように感じられるからではないだろうか。今回のオーケストラコンサートもやはり、彼らの譲れない信念のもと考えに考え抜いて辿り着いた結果なのだと思う。
コンサートもいよいよクライマックス。「今までもこれからも大切な曲です」と紹介した「愛を教えてくれた君へ」は、フルートやクラリネットの音色が映えるささやかなアンサンブルから徐々に壮大なオーケストラへとドラマティックに展開する、まさに全身全霊を捧げたパフォーマンスが息を呑むほど素晴らしかった。クリスマスイブにぴったりの「snow traveler」になれば、ステージに雪が降っているかのようなプロジェクションマッピングの演出まで加わり、幻想的なムードが一気に高まる。マーチっぽい勇壮なアレンジも意外性があっていい。
さらにスペクタクル演出は続いて、アッパーな「Wonderful Life」を投下。こうなると、さすがにクラシックホールとはいえ、Qaijffのファン“Qaijffy”たちもじっとしてはいられない感じで、ここぞとばかりに客席でハンドクラップを巻き起こす。豪快なオーケストラサウンドを伴って、“ここからはじまりの合図だ”“横に君がいなくても”“何度もはじまるWonderful Life”と躍動する姿に、間違いなくバンドの再生を見た。渾身のアンサンブルからあふれる生命力があまりに眩しすぎて涙。なお、冒頭に書いた森の言葉はこの直後、ナチュラルに飛び出すことになる。
「コロナ禍になって、好きなものを守って貫いて続けていくことは簡単じゃないと感じました」と語る森。ラストに届けた、今年のJリーグYBCルヴァンカップで見事優勝に輝いた名古屋グランパスのオフィシャルサポートソング「ナンバーワン」には、そうした想いも込めたのだという。「私たちは音楽を続けたいし、守りたい。そんなQaijffが好きだからこそ、今日ここに来てくれているんだと思います。みんなも自分の大切なものを、好きなものを守って生きていきましょう!」
その言葉に、“ねぇ やっぱりそうだ 間違いなんかじゃなかった 逆境はよろこびの プロローグだったんだね”“誰にも邪魔できない この気持ちは”と歌う曲に、バンドの今が集約されていた。メンバーをやさしく後押しするような斎藤の指揮、名音オーケストラの熱い演奏も相まって、これからもQaijffの3人の物語を追いかけていきたいと思わされる。そんな最高のエンディングだった。
結成当初からの願いだったオーケストラコンサートを大成功に収め、2021年の活動はこれにて終了。レコード会社や事務所を離れて独立しても、信頼できる仲間たちとともにこんなにも大胆な挑戦ができて、自分たちの想像以上の成果を生み出しながら素晴らしい活動ができている。そんな最高の近況報告(「2022年は新しい曲をいっぱい届けたい」とのこと!)も兼ねた、奇跡のような一夜だった。
生きていることに自分たちで意味を付けたQaijff。素晴らしい人生はきっとここから。
■終演後コメント
森彩乃:
言葉にできない想いでいっぱいです。本当の感動って、やっぱり表現するのが難しいものなんだなというか。なんて伝えればいいかわからないくらい、終わってもずっと心がハイな状態なんですよね。この興奮はまだしばらく冷めなさそうです。コンサート前日も遠足前の子供みたいに眠れなくて、もしかしたらそれも続くかもしれない(笑)。そのくらい楽しかったです!
最後の曲の前のMCは何も用意していなかったんですけど、「生きててよかった……!」っていう言葉が心の底から出てきた感じでしたね。生きていて、音楽をやっていてよかった。その気持ちが大爆発しました。
内田旭彦:
森が言ってくれたのとほぼ同じです。音楽的な感動を、やりながらすごく味わえました。
あとは、やっぱり当日に至るまで本当にいろいろあったんですよ。バンドのこともそうだし、開催に向けても紆余曲折があったので、ラストの「ナンバーワン」を演奏しているときは、無事にいい形で終われてよかったなと。正直、ホッとしましたね。お弁当の手配から、照明さんや音響さんなど信頼できるスタッフを集めて、会場の方との打ち合わせまで、もろもろ自分たちでやってきた中、関わってくれた人たち、支えてくれた人たちが、みんな楽しそうに演奏したり仕事したりしてくれたのがとても嬉しかったです。
斎藤ネコ:パワフルなQaijff×名古屋音楽大学のみなさま、この素晴らしいコンサートで共演させていただいてよかったなあ、と思っております。
このパワフルな音楽が日本全国、そして世界に伝わる事を願っております。
また誘って下さい。
取材・文◎田山雄士
写真◎瀬能啓太
セットリスト
1.Salvia
2.こだまして
3.通り過ぎていく
4.meaning of me
5.自由大飛行
第2部
6.アイノウ
7.桜通り
8.だって
9.変わって
10.愛を教えてくれた君へ
11.snow traveler
12.Wonderful Life
13.ナンバーワン
◆Qaijff オフィシャルサイト
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