【インタビュー】MAY'S「自由な羽根の伸ばし方が合っているのが20年続いた一番の理由かな」
■新しい一歩を踏み出すために何が必要なのかと考えたら
■やっぱりそれは原点である“曲作り”だったんです
――MAY'Sにとって約2年ぶりにリリースされる新曲「One More Dance」は、“20年”というワードが歌詞にあり、公式コメントには音楽が鳴る場所や理由に対する感謝が書かれていました。様々な思いを内包した楽曲だと思うのですが、どういう発想から制作が始まったのでしょう。
河井:本当にいろいろな思いが詰まっているんですよね。説明するのが過去いち難しい楽曲だなと思っていて。
片桐:そうなんだよね。ほんとにいっぱい入ってる(笑)。今年が結成20周年という節目の1年であることと、あとはコロナの影響ですね。2、3年ぐらい前から20周年に向けて曲作りをしてはいたんですけど、コロナ禍に入って活動がほぼすべて急にストップしてしまって。その状況下で、自分たちとしてもどういうふうにしたら自分たちやお客さんの音楽や気持ち、モチベーションを保てるんだろう……と悩んで、その結論が出ないまま結成20周年を迎えて。どんなに待ってほしくても、時間は流れていくんだなとあらためて思ったんですよね。
――もっと万全の状態でアニバーサリーイヤーを迎えていたら……とはどうしたって思ってしまいますよね。
片桐:コロナ禍はそういう厳しさもたくさん痛感したんです。そういう日々のなかで、人生の半分以上MAY'Sをやってきて、これからもどんどんまたMAY'Sとしての人生を歩んでいく。このタイミングで新しい一歩を踏み出すために、何がいちばん必要なのかなと考えたらやっぱりそれは原点である“曲作り”だったんです。
――それこそおふたりが会話をするきっかけが、授業の課題の楽曲制作だったんですものね。
片桐:自分たちが作った曲を発信することが、何よりいちばんのリスタートになると思ったんですよね。コロナ禍で何度も心が折れそうになったけれど、それでももう一度踏み出したいという決意を固めたり、お世話になっていたライヴハウスの閉店、イベントの中止があったり……。できないことがたくさんあっても頑張って踏ん張って、そしたら音楽を愛する人たちの気持ちが、しっかり存在していることも鮮明に見えてきたんです。だから“音楽”に対するすべての思いが乗せられるような作品を作れたら、それが20周年という節目の年に、わたしたちがファンのみんなに届けられるいちばん伝えたいメッセージになるんじゃないかなと思ったんです。
河井:ダンスボーカルグループではないのになぜタイトルを“One More Dance”にしたかというと、“One More Sing”にしてしまうと歌詞に描かれているストーリーがヴォーカリストである舞子のものとして映っちゃうなと思ったんです。それに音楽は歌だけではないので、“Dance”という表現はすごく合っているなと思います。
片桐:タイトルをつけるのはいつも純ちゃんなんです。この曲の歌詞もわたしが書いているけれどテーマ出しをしていくのはふたりだし、この歌詞にも純ちゃんの出してくれたワードを盛り込んでいるので、ほぼ共作みたいなものなんですよね。20年の間にどんどんそういう作り方が増えてきたんです。
――トラックはメロディなどに90年代テイストを感じさせつつ、懐メロになっていないところに先ほどおっしゃっていた“新しいもの好き”の手腕が光ります。
河井:昔と今のハイブリッドな感じは、ブルーノ・マーズとかがすごくうまいなとはずっと思っていて。最近は90年代の質感がドライな感じや、ごちゃごちゃしていないミニマルな音を取り入れたアレンジが多い印象があったので、僕らも結成初期の頃を思い出して、バックトゥーベーシックなマインドで制作に入っていきました。
――トラックと片桐さんの声との相性もすごくいいですが、それは制作の段階から意識していらっしゃるのでしょうか?
河井:楽曲提供の時はその人の声を頭において作っていくんですけど、MAY'Sではほとんどないですね。舞子は器用だし、ヴォーカリストとしてのプライドを刺激するような、型からちょっとはみ出たぐらいのものを渡すようにしています。そのほうが本人も楽しいかなと思うんですよね。舞子はどんなトラックでも歌ってくれるんです。
片桐:この20年、純ちゃんのトラックに飽きたことがないんです。だから今回も“おっ、今までとはちょっと違うアプローチで、クールなかっこいい曲作ってきたな~!”と思いましたね。わたしは純ちゃんとは逆で、新しいものや情報を追いかける習性があんまりなくて。でも許容する器はものすごく大きいんです(笑)。だから楽曲に対しても自分の好き嫌いより、“純ちゃんは最近こういう感じにハマってるんだな”と刺激になったり、ヴォーカリストとして新しい挑戦ができる喜びが大きいんですよね。
――ヴォーカリストとして、つねにチャレンジをしていきたいと。
片桐:“自分にできない歌い方がある”ということがすごいストレスなんです(笑)。こういう曲を作りたい、こういう歌を歌ってほしいという要望に対して120%で応えられるヴォーカリストでありたいというのが、私にとっては音楽を語る上でいちばん強い部分なんですよね。感情を前面に出す歌い方が今までの自分の強みでもあったんですけど、今回は楽曲の持つクールさを引き出すために敢えて表現しすぎず、聴いた後にメッセージだけがちゃんと残っていく曲にしたかったんです。新しい挑戦ではあったけど、レコーディングは早く終わったよね?
河井:そうだね、早かった。
片桐:だから昔できなかったことができるようになってるんだなと思いましたね。ヴォーカリストとしてものすごくテンションが上がった曲でした。
――お話を伺っていて、おふたりとも表現力を伸ばしていくことに貪欲なんだなと感じました。
片桐:戦略的なことを考えると、おそらくジャンルの幅はもっと絞ったほうがいいんです(笑)。自分でもそう思うときがあるんですけど……でも唯一わたしたちふたりが自由に羽根を伸ばしていきたいのが曲作りなんですよね。“今こういうことをやりたい”と思ったら、やっぱりそっちに行っちゃうんです。その羽根の伸ばし方が合っていることが、20年続いた一番の理由なのかもしれないなと思います。
――音楽をやるうえでこれだけのベストパートナーに出会えたことは、本当に幸運ですね。出席番号が隣同士なのもそうですが、民謡の家元の片桐さんと、ギタリストの河井さんが、DTM学科で出会うというのもなかなかないだろうなと思いますし。
片桐:そうなんですよ。やっぱりわたしは育ってきた環境の影響から“指導は自分が尊敬している人にしてもらいたい”という気持ちがあったので、どこの誰とも知らない人に歌を教わりたくなくて……18歳なので尖っていたんでしょうね(笑)。自分で曲作りができたら自分が歌いたい歌を歌えるようになると思って、ヴォーカル学科ではなくDTM学科に入ったんです。
――そこにいたのが河井さんだったと。
片桐:ずっとバンドでギターをやっていて、そのバンドでデビューを目指していた純ちゃんと前後の座席で仲良くなって、気が付いたら純ちゃんのバンドが解散して、すごく途方に暮れていたので“なんか一緒にやる?”と声を掛けて。今思うと“今のスキルにプラスしてDTMができたらいいな”と思っているふたりだったから良かったのかも。20年ずっと走り抜けてきて、20周年を迎えた年に自分たちが出会った頃のような空気感を持った曲が流行っていて……。だからこそ「One More Dance」はいろんな世代の人にキャッチしてもらいやすい曲にもなったし、わたしたちも自分勝手に音楽をしたからこそいろいろな意味が込められたんだと思います。
河井:でも本当、この20年は悔しいくらいにあっという間だったよね。振り返ってみると結構のんびりマイペースに活動してきたので、もっとたくさんいろいろやっときゃよかったなあと思ったりもして(笑)。
――(笑)。だからこの先にもやりたいことがたくさん生まれるんでしょうね。
河井:うん、そうですね。
――12月にも新曲がリリースされることが発表されていますが、こちらはどのような曲でしょうか?
河井:結構ハートフルな曲になりそうですね。「One More Dance」とは真逆かもしれない。
片桐:そうだね。今後また詳細が発表されていくので、楽しみにしていただければと思います。この先もいろいろなことを企んでいるので虎視眈々と準備中です。自分たちの原点である楽曲制作に力を入れて、来年の21周年を迎えたいなと思っているんです。
――来年はデビュー15周年なので、おめでたいモードが続きますね。
片桐:あ、本当だ! 自分たちが何周年なのか把握しきれてないですね(笑)。今、すごく曲作りが楽しくて。来年はたくさん新曲を聴いていただけるんじゃないかな。
河井:僕が順調すぎるくらい曲ができているせいで、今は舞子の前に新曲が歌詞待ちで整列をしている状態です(笑)。
片桐:あははは。まあこれもいつものことなので(笑)。純ちゃんは“こういう感じの曲にハマってるんだよね”と言っていたら、そのあと全然違う曲を作り始めたりするんです。デビューする前に2人で、ただただ曲作りをしていたときのような感覚で今曲作りができていて。コロナの影響でまだまだライヴが満足に開催できない状況ではあるんですけど、曲作りをしているとポジティヴな気持ちになれるんです。自分たちはそういうふたりなんだなと最近すごく噛み締めていますね。
取材・文:沖さやこ
リリース情報
FMH-150 / FROG MUSIC
2022.11.9 Release
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