【インタビュー】HilcrhymeとTOC、アルバム2枚同時発売とツアー同時開催の意図「今、ものすごくいい精神状態」

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Hilcrhymeがアルバム『SELFISH』を、ソロ名義のTOCがアルバム『FOOLISH』を、9月28日に2作同時リリースした。加えて、それぞれのアルバムを携えたツアーを全国6ヵ所で同時開催することも決定している。「こんなに我儘(SELFISH)でこんなに無謀で愚か(FOOLISH)なアーティストは俺だけだ」とは本人のコメントだ。

◆ HilcrhymeとTOC 画像 / 動画

Hilcrhymeの11枚目となるオリジナルアルバムには、MBSドラマシャワー『先輩、断じて恋では!』エンディング主題歌「あと数センチ」、TVアニメ『ピーター・グリルと賢者の時間 Super Extra』エンディングテーマ「コイゴコロ」など全9曲を収録。一方、TOC名義で2013年にソロデビューしてから通算5枚目となるオリジナルアルバムには全5曲が収録された。メジャーフィールドの存在感とアプローチを形にしてきたHilcrhyme、Bボーイのスタンスとヒップホップの自意識を強く押し出してきたTOC。対を成すような2枚のアルバムだが、いずれもテーマカラーとして緑色のバンダナがCDジャケットに用いられているなど、二面性と共通項を示すようなデザインが印象的な仕上がりだ。

Hilcrhymeのアルバム『SELFISH』と、TOCのアルバム『FOOLISH』の、2枚同時リリース。そして、Hilcrhyme名義のツアーと、TOC名義のツアーの、同時開催。ラッパー・TOCの仕掛ける前代未聞のプランには、ただただ驚かされるだけだが、真に驚くべきは、ここまで書くか?というほどにTOCの内面をさらけ出したリリックと、現代最高レベルのラップ作品としての娯楽性の高さ。仲間を守り、家族を愛し、音楽にすべてを賭け、「今が一番幸せ」と言い切るTOCの最新語録を聞こう。

   ◆   ◆   ◆

■Hilcrhymeの半生を書いていったら
■今までにないものができていって

──Hilcrhyme名義とTOC名義のアルバム2枚同時リリース、2ツアー同時開催。とんでもないこと、やっちゃいますね。

TOC:これができたらカッコいいなという、初期衝動はそれだったんですけど、それをスタッフに伝えると、まずツアーの日程を決めますよね。それからハコ(会場)を押さえる。ハコを押さえたら、もう後戻りができない。“やらなければいけない、絶対に”という追い込み方からスタートしました。

──まずは理想を語って、それを実現していくと。

TOC:そうです。ツアーは同じ土地で2DAYSやるけど、1日目と2日目で名義が違うというのは、俺が知る限りあんまり聞いたことがないので、カッコいいなと思ったんですね。二面性をずっと歌ってきてるわけだから、それをわかりやすくしたかったんです。



▲Hilcrhyme

──HilcrhymeとTOCソロの二面性を、さらに鮮明に出すということですね。

TOC:それを鮮明に出すには、ダブルツアーかなと。1日目と2日目でまったく違うものを見せようということです。TOCは、Hilcrhymeが一人になったタイミングで、一回ちょっと活動自体を考えたんですね。“こっちはどうしよう?”って。でも絶対やめないほうがいいという直感と、周りの声があって。どっちも一人だけど、「続けたほうがいい」とスタッフみんながそんな感じでした。俺も、こっち(Hilcrhyme)に起きた出来事で、こっち(TOC)が瓦解するのはかわいそうだなとも思うし、その流れに抗いたかったというのもあります。

──逆に言うと、二つを同時に進行させても喰い合わないというか、どっちも強くなった、とも言えるんじゃないですか。

TOC:そう見せられればいいなと思って作ってたんですけど。満足いく2枚になりました。

──ここから2枚の中身を掘っていこうと思うんですけど、話のとっかかりとして、制作の初期段階でスランプに陥ったという話を聞いていて。

TOC:はい。

──それって、アルバムの内容にも大きく影響していることですか。

TOC:めちゃくちゃ影響してます。去年10月ぐらいに、同時リリースと同時ツアーを考えて、ツアーを(2022年の)秋から冬にかけて組むから、リリースが夏の終わりぐらいで、それを目指して作る予定だったんですけど……今年4月ぐらいまで1曲もできなくて。毎日スタジオに行って、毎日何も進まないという、地獄みたいな日々が続いて。“なんでかな?”と思ったら……Hilcrhymeからまず手掛けていったんですけど、年イチでずっとリリースしてきて、書きたいテーマが枯渇しちゃったんですね。たとえばタイアップとか書き下ろしとか言われると、テーマを与えられるからすらすらできるんですけど、ゼロから作るメッセージみたいなものが、まったく浮かばなくなっちゃって。

──それはかなりヤバいですね。

TOC:初めてのことで、超苦しかったし、焦りました。リリースの時期は決まってるけど、何も進まないという日々が続いて、山籠もりしたりとか、環境を変えてみたりもしたんですけど、それでも全然駄目。“俺はなんて駄目な奴なんだ”ってどんどん自虐的になっていくし、情けないし。となっていった時に、“この気持ちを書いてみよう”と思ったんです。この、超苦しんでる、いろいろあった人で、中堅で、なんとか爪痕を残そうと、十何年頑張ってきた、それは僕から見たら頑張ってるようにも見えるし、しがみついてるようにも見えるし、でも自分を表現したがってるようにも見えるし、恐れてるようにも、希望を持ってるようにも見える。Hilcrhymeを俯瞰で見た時に、“こいつを書いてみよう”と。そこから、もう書けなくなっている、限界を迎えている、その限界を突破してみようというメッセージが出てきて、「限界突破」という曲ができたんです。

──これが本当に突破口になった曲だった。

TOC:そうです。これが最初にできた曲で、そこから一気に進みました。もう、本当に限界だったんですよ。


▲TOC

──何だったんでしょうね。十数年、毎年曲を書き続け、出し続けている、勤続疲労というか。

TOC:多作なんですよ。リリースしすぎてる、と言ってもいいくらいしてるから、その反動というか、時期的なものでもあったと思うんですけど、マジで書くことなくなっちゃって。でも今の自分を書いてみたら、ペンが進んだから、とことんこのアルバムは、自分を切り取ってみようと思って、「父の心得」とか「十二月一日」とか、自分の半生、Hilcrhymeの半生を書いていったら、だいぶ今までにないものができて。それで『SELFISH』というタイトルを思いつきました。自分勝手というか、わがままに曲を書いてみた、という感じです。

──はい。なるほど。

TOC:そこで『SELFISH』というタイトルが決まって、TOCのアルバムは対になる構図にしたかったので、似たような語呂で、『FOOLISH』がいいなという感じです。4月から一気にバババッと、すべて出来ていった感じですね。

──実際に音を聴いて、納得しましたけど、見事に対になってますね。

TOC:これが理想だったんですよ。緑のカラーも含めて。カラーテーマは絶対に設けたかったんですよね。一つの軸みたいなものがあれば、掛け違わないというか、ホールとライブハウスでまったく違う見せ方をしたいんだけど、共通している部分がどこかしらにあるのが理想で、歌詞の中で同じラインを使ったり、緑というテーマカラーを共通させたり、ファンのみなさんに、どっちも楽しんでもらえることを考えた上で、カラーコードは必要だったので。どこかに緑を入れてきたり、髪を緑にしたり、そういう楽しみ方をしてほしくて。

──今も、髪に緑、入ってますね。

TOC:そうです。そのために、ですね。

──緑というのは、カラーテーマでもあるし、曲名としても、『FOOLISH』のほうに「MIDORI」という曲が入っていて。この曲の歌詞がちょっと謎めいた感じで、ミドリという女性のようだけど、どんな女性かよくわからないんですよね。人間ぽくないというか。

TOC:これは、女性に見立てて、ヒップホップに対する愛を歌ってます。

──ああ! そうか。

TOC:緑のテーマカラーを思いついて、TOCの曲を作っている時に……BUZZER BEATSというトラックメイカーからトラックが届いて、ちょっとレゲエっぽいし、オールドスクールな感じもするし、いいトラックだから、何か暗喩できる曲にしたいなと思って、「MIDORI」にしました。ミドリという女は実在しないです(笑)。ヒップホップに対する愛、自分なりの愛を歌った曲です。ジャンルにはもうこだわってないんですけど、やっぱり、ヒップホップへの愛がすごく強いので、それを見せたかったんです。



──やっとわかりました。

TOC:それと、この1年間は、我欲との向かい合いみたいな感じだったんですよ。自分を良く見せたい、強く見せたい、ほめられたい、売れたいとか、我欲を持ってやってきたわけなんですけど、この2枚を作り終えた時に、ふわーっと我欲が溶けて……今、ものすごくいい精神状態ですね。焦らずにアーティスト活動が、初めてできている感覚で、めっちゃ幸せです。多幸感に溢れてます。

──伝わります。

TOC:この2枚を作って、“何をそんなにおびえてたんだろう” “なんでこんなに自分を良く見せたがっていたんだろう”って思いました。ラッパーとしてもっと称賛を浴びたい、売れたい、ほめられたいとか、そういうものが完全になくなって、すごく幸せなんですよね。今、一番興味があることは、共有する喜びとか、ファンの人にどれだけ喜んでもらえるかとか、そっちのほうになってますね。

◆インタビュー【2】へ
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