【ライヴレポート】THE NOVEMBERS、ツアー<歓喜天>完遂「いつもここがはじまり」
THE NOVEMBERSが7月11日、Zepp Hanedaにて全国7都市ツアー<Tour2022 –歓喜天–>のファイナル公演を開催した。同公演のオフィシャルレポートをお届けしたい。
◆THE NOVEMBERS 画像
手元に一枚の紙がある。このツアー全公演でライブ終演後に配られていた、かなり立派な質感の印刷物だ。そこにはセットリストに沿った順番で、一曲ごと、印象的な歌詞の一節が綴られている。たとえばこんなふうに。
“きみはいつも いまがはじまり、そうさ きみはいつもここが はじまりさ”
“過去はくれてやる ありったけを全部”
それぞれ「Rainbow」「New York」(ともに最新作『At The Beginning』収録)からの抜粋。これだけを切り取れば、今がすべて、過去など無意味と言い切るリアリストの姿が見えてくるようだ。では、このライブが最新曲オンリー、昔の回想などなかったと言えないのはなぜだろう。久々すぎて溜息の出る、メランコリックな名曲がいくつも聴けた理由とは。
THE NOVEMBERS、3年ぶりの全国ツアー<歓喜天>ファイナル。会場Zepp Hanedaの椅子席はほぼ満員で、集まる男女の多くが楠本まきの漫画から飛び出してきたような装いだったのは印象深い。つい耽美系ゴシックの末裔と呼びたくなるが、それはこの時代に正しい捉え方だろうか。1曲目「ANGELS」から響き渡る力強いメロディ、後半はオーケストラのように膨らんでいく幸福なサウンドスケープに飲み込まれながら、否、と強く感じる。
4曲目、小林がアコギを持つ「最近あなたの暮らしはどう」も印象的な一曲だ。タイトルも含めて飾りのないフォーク系の歌もので、どこか線の細いインディ系ギターロックだったデビュー当時の残像が伝わってくる。もっとも、演奏も歌唱も当時の百倍くらい丁寧なので、L'Arc-en-Cielの影響もちゃんとあったのだと今さら気づいたりする。
わかりにくい話をしている。ゴシックなのに力強く、線の細いインディ系でもロックスターが好き。だがこれらは実際にTHE NOVEMBERSを構築してきた要素である。さらにはインダストリアルやダークサイケの轟音も取り込み、近年はダンスビートに乗ってエレクトロニカに急接近。これだけをかいつまめば、どんな音楽性か理解しろと言うほうが難しい。
だから、まずは落ち着いて確かめ合おう。前半を歌でじっくり聴かせ、中盤からどんどんダンサブル&ハードになっていったこのツアーの構成は、バンドがどんな道を辿って今の姿になったかを伝えるひとつの集大成だったのだと思う。ただ過去曲を並べるのではなく、「Close To Me」(2019年『Angels』収録)の歌詞になった気持ちを込めて。その抜粋は──“昨日までの全部を 両手に抱えて 花に変えられたら 羽に変えられたら”
音楽性の変化に従い、まずは演奏力が飛躍した。複雑なシーケンスを同期させつつ、生バンドの迫力を失わない4人の完璧なプレイ。もちろん一朝一夕のことではなく、近年の完成度には毎回背筋が伸びる思いだったけれど、今回のファイナルは跳躍力のレベルが違っていた。シリアスな緊張感もプロ意識もあるが、ちょっとしたミスも笑って許容しあう余裕と安定がある。集中しながらも肩の力は抜けている。大量のエフェクターを操りながら、何度もふわりと飛び跳ねているケンゴマツモト(G)の佇まいがそれを象徴していた。
最も変わったのは小林祐介(Vo, G)だ。おそらくBOOM BOOM SATELLITES中野雅之との新バンド、THE SPELLBOUNDからのフィードバックが相当に大きい。隙のない歌唱力、楽曲の世界観を語り尽くす表現力、バンドと観客を天国へと導いていく牽引力。ハンドマイクになった「New York」以降はもはや彼の独壇場で、「楽園」から「KANEDA」のカバー、そのまま「BAD DREAM」になだれ込む瞬間は気持ちよすぎて何度も意識が遠のく。ビートに導かれて身体ごと投げ出したくなる剥き出しのエネルギー。目の前には、両手を高く掲げて舞い踊る、神々しいまでのロックスターがいた。
なんだかもう、完全に覚醒した生き物を見ているようだった。数々の先人の影響を引きずりながら時間をかけて作り上げたバンドのオリジナリティが、生々しい肉体を持つ個体として現れた感じだ。小林祐介は顔であるが、ケンゴと高松浩史(B)、吉木諒祐(Dr)の3人がいないと当然成立しない。轟音の中でまったく乱れないその呼吸の美しさ。ノイズに不快感はなく、むしろどんどん綺麗なものに近づいていく実感だけがあった。そういえば、ラスト手前、「いこうよ」(2016年『Hallelujah』収録)から抜粋されていた歌詞は以下である。
“愛なき世界を爆音で震わせる 君の何かが変わる”
最後に新曲がひとつ。どこか初期に近いメロウな歌もので、聞き取れた歌詞の中には“僕を確かめて 嵐の中 抱き合うように”との一節もあった。これまた、タフな時代にどうやって愛し合うのかをテーマにした内容だろう。歌詞の抜粋を何度も読み返して気づくのは、THE NOVEMBERSはずっとそれを歌ってきたバンドだということ。逃げず、否定もせず、誠実に気持ちを積み重ね、よりよい今日を生きようとする人々の歌。それをずっと作ってきたし、これからも続けていくのだと確かめ合った1時間半。なんて美しい着地点かと思う。
そのうえで、冒頭の“いつもここがはじまり”に戻るのである。この終演後に発表されたのは新たなワンマンライブ。11月10日に恵比寿リキッドルームで行われるデビュー15周年企画だった。そのタイトルは<Beyond The Novembers -20221110->。集大成のあとに始まる超越宣言なのだから、本当に凄いものが見られると思う。予感というより予言として書いておきます。
取材・文◎石井恵梨子
撮影◎鳥居洋介/西村理佐
■<Tour2022 -歓喜天–>7月11日(月)@Zepp Haneda セットリスト
02. きれいな海へ
03. 美しい火
04. 最近あなたの暮らしはどう
05. GIFT
06. Hallelujah
07. Close To Me
08. 再生の朝
09. Rainbow
10. New York
11. 楽園
12. KANEDA ※芸能山城組COVER
13. BAD DREAM
14. 黒い虹
15. いこうよ
16. ※新曲/タイトル未定
■デビュー15周年記念ワンマン<Beyond The Novembers -20221110->
open18:00 / start19:00
▼チケット
・オールスタンディング ¥5,000(税込・D代別)
・中高生学割チケット ¥2,200(税込・D代別 ※チケットぴあのみの取り扱い / 枚数限定 / 当日学生証の提示が必要)
※電子チケットのみ
※購入時に同行者含め個人情報の入力が必要
※小学生以下入場不可(中学生以上のご入場はチケットが必要)
一般発売:8月6日(土)10:00より各種プレイガイドにて
【オフィシャルHP先行受付(抽選 ※通常チケットのみ)】
7月11日(月)21:00〜7月18日(月)23:59
https://w.pia.jp/t/thenovembers/
(問)SMASH 03-3444-6751
※公演開催におけるガイドライン https://smash-jpn.com/guideline
■THE NOVEMBERS新グッズ
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