いい音爆音アワー vol.127「Hipgnosisの世界」
いい音爆音アワー vol.127「Hipgnosisの世界」
2022年5月18日(水)@ニュー風知空知
面白いレコード・ジャケットといえば、真っ先に思い浮かぶのが“Hipgnosis”の一連の作品です。ヒプノシスは英国のデザイン制作会社。70年代からPink Floyd、Genesis、10cc、Led Zeppelin、Wingsをはじめ多くのアーティストに、大胆かつ繊細で、機知に富んだジャケット・デザインを提供し、レコード・ジャケットをアートの領域にまで高め、かつ売上にも大きく貢献した、素晴らしいクリエイター集団です。中心人物のストーム・トーガソン(Storm Thorgerson)がPink Floydの創設メンバー、ロジャー・ウォーターズ、シド・バレットと学生時代からの仲間だったことがきっかけで、この道に入ったのですが、彼も、相棒のオーブリー・パウエル(Aubrey Powell)も、大学で映像を学び、グラフィックデザインについては素人でした。
それが却って、常識を破るにはよかったのでしょう。Pink Floydの5thアルバム『Atom Heart Mother(原子心母)』(1970)は、グループ名やタイトルがなく、レコード会社のロゴすらなく、ただ牛がいるだけという奇抜で画期的なジャケットで、レコード会社は当然のように猛反対しましたが、結果はそのインパクトが、売上とともにバンドの名声を大きく引き上げ、ヒプノシスへの評価も大いに高めたのでした。
その作風はシュールレアリズムだと言われます。ありえないものが、日常の顔をしてそこにある、といった趣向が多く、時にグロテスクであったり、エロティックだったりするのですが、重要なのは、そこに常にユーモア精神が息づいていること。だからポップであり、人々を惹きつけるのだと思います。
ヒプノシス自体は1983年に解散しますが、その後もトーガソンは、2013年に亡くなるまで、精力的にデザイン業を続け、私たちを楽しませてくれました。ほんの僅かですが、彼らの名作をピックアップしました。ほんとはぜひLPを手に取って、じっくり味わってもらいたいです。
ふくおかとも彦 [いい音研究所]
セットリスト
- ①T. Rex「Cosmic Dancer」シンプルでいいジャケットだが、ヒプノシスらしさはまだ…。
- ②Stackridge「Grande Piano」きれいな色使いが印象的。見開きをフルに使ったデザインがヒプノシス的。
- ③Caravan「Stuck in a Hole」部分的に透明人間になるスーツは何の役に立つんだろう?
- ④Yes「Don't Kill The Whale(クジラに愛を)」アートワークが気に入らなくてトマトをぶつけたという曰く付きのジャケット。
- ⑤Mike Oldfield「Blue Night」ロジャー・ディーンとヒプノシスのストーム・トーガソンが唯一コラボしたという作品。
- ⑥Genesis「Dance on a Volcano」4作をヒプノシスが担当するも一貫性なし。
- ⑦Peter Gabriel「Intruder」タイトルがないのでジャケットのモチーフで呼ばれるアルバム『Car』、『Scratch』、『Melt』。
- ⑧Brand X「Nobody Goes to Sweden」ジャケットにストーリーがある。
- ⑨10cc「Rock 'n' Roll Lullaby」凝ったデザインが多い。特にこのアルバム、実は……
- ⑩松任谷由実「時をかける少女」ヒプノシスが手掛けた唯一の日本人アーティスト。
- ⑪The Alan Parsons Project「I Wouldn't Want to Be Like You」背景は合成の写真ではなく、実際にある風景。さて、どこでしょう?
- ⑫Led Zeppelin「Fool in the Rain」知らないおじさんが写ってるだけなんだけど、ジャケットが6種類♪
- ⑬Wings「Listen to What the Man Said(あの娘におせっかい)」ヒプノシス・テイストが徹底していなかったのはポールがおせっかいだったから?
- ⑭The Cranberries「Animal Instinct」このバンドにはちょっと唐突過ぎたかな。
- ⑮Pink Floyd「On the Turning Away(現実との差異)」CGじゃないよ!700台の鉄製のベッドをビーチに並べた。ジャケット制作費は家一軒相当。その凄みはちゃんと伝わる。