【インタビュー】近石涼、「自分らしさなんて捨てられれば」は人生観をそのまま映し出した勇気と励ましのメッセージ

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神戸が生んだ新進シンガーソングライター近石涼が、そのキャリアの重要な分岐点になりそうな新曲をリリースした。「自分らしさなんて捨てられれば」は、彼の人生観をそのまま映し出した勇気と励ましのメッセージ、熱気あふれるバンドサウンド、細部にはトリッキーな音楽的技巧をも盛り込んだ自信作だ。昨年12月にデビューアルバム『Chameleon』をリリース後、1月に地元・神戸で初ワンマンを、4月には初の全国ツアーを成功させた彼が、この歌に込めた思い、そして次に向かう目標とは? 静かな語り口の中に熱い情熱を秘めた男の、まっすぐな言葉を聞こう。

■「自分らしさなんて捨てられれば」は
■湘南乃風の影響がめっちゃある気がします


――この間終えたばかりの、全国7か所のツアー。振り返るとどんな思いがありますか。

近石涼:ツアーというものは人生初めてだったので、すごく新鮮だったし、どこもあたたかかったです。お客さんや会場の雰囲気が土地土地によって違っていて、でもどこに行っても自分を出さないといけないので、今までにない経験ができて、かなり成長できたかなと思います。『Chameleon』というアルバムはバンドサウンドが多い中で、大阪と神戸以外は弾き語りでやったんですけど、バンドでやる曲を弾き語りでも聴かせる能力というか、今までしてこなかったことにも取り組んで、それもいい経験になったと思いますし、会場ごとにいろいろな出会いがあったので、ツアーを回れて良かったなと思っています。

――その、ツアー中にリリースされた新曲「自分らしさなんて捨てられれば」。これはもうツアーの中で歌っていた?

近石:リリース日の次の日の神戸と、岡山でやりました。

――どうでした? 初めて人前で歌ってみて。

近石:初披露で、しかもバンドで初披露というのは慣れていないので不安もあったんですけど、もともとバンドサウンドを想定して書いた曲なので、思ったよりできたなと思います。「新曲が一番良かったです」と言ってもらえたりしたので。バンドで映える曲になったと思うんですけど、その次の日の岡山では弾き語りだったんですよ。

――あら。それはちょっと落差がありそうな。

近石:でも前の日のバンドの演奏があったぶん、弾き語りもイメージがしやすくて、リズムが変わるところをこうやってギターに落とし込めばいいんやなとか、思ったよりもうまくできました。作った時は、「この曲、音源は良いけど、ライブであんまりできなかったらどうしよう」と思っていたんですけど、全然ライブのほうが良い感じに、熱量を持って歌えるようになっているので、ライブを重ねていくのが楽しみな1曲ですね。演奏だけに集中するところから、一歩飛び出した時に、この曲はもっと力を発揮する曲になると思いました。特に後半の展開がめまぐるしく変わっていく感じは、歌っていて楽しいし、バンドメンバーの掛け声もあって、バンドとしてもっと良い演奏ができると思います。さらに言うと、お客さんが声を出せるようになると、もっと良くなると思います。


――間違いないですね。

近石:もともとライブで盛り上がる曲を書きたかったんです。というのは、1月に神戸VARIT.で、初めてバンドでやったワンマンを終えたあとに作った曲なので。曲のアイディアは元からあったんですけど、作ったのはそのあとで、「バンドで持っていける曲」を書きたかったんですけど、実際ライブでやるまでわからなかったので。それがつかめた時はうれしかったですね。

――演奏はすごくライブ感ありますよね。あとこの曲は構成が面白くて、前半と後半が全然違うじゃないですか。一番と二番はA→B→サビの展開かと思ったら、後半はそこからはみ出して、言い方はわからないけどCとかDとかがどんどん出てくる。

近石:その言い方で言うと、Fメロまであります(笑)。

――それって元々、頭にあったんですか。

近石:それは2,3年前に<eo Music Try 19/20>というオーディションを受けた時に、審査員の方のアドバイスで、ABサビ→ABサビ→Cメロみたいなテンプレートがある中で、最近はその形にとらわれない曲がたくさんあるから「そういうものをもっと自由に書いてごらん」という言葉をいただいた時に、「確かにそうやな」と思って、それ以降はわりとABサビの次にすぐCとか、サビに行かずにCとか、そういうことを意識して書くようにしていたんですけど。最近はそれすらテンプレート化してきた中で、4,5分の曲の中にもっと言葉を入れようと思うと、今まで通りの形では書けなくて、ABサビの形を後半からぶっ壊してやろうということは考えていました。でもこの曲は、構成の面で言うと…僕は中学生の時に、湘南乃風がめちゃくちゃ好きやったんですけど、その影響がめっちゃある気がします。

――おお。そうですか。

近石:湘南乃風は4人で歌っているので全部違うメロディなんです。「純恋歌」も「恋しぐれ」も、「また新しいメロディが出てきた!」みたいな感じで、最後の大サビではHUN-KUNがきれいに歌ってみたいな、曲は長いけどすごい展開がある曲が多い。「別に同じメロディを出さなくてもいいんだ」というか、審査員の方に言葉をもらった時に、「そういえば湘南乃風もそうだな」と思って、じゃあどうやって展開していくか?ということを自分の中から出てくる言葉のリズムに乗せて付け足していきました。



――なるほど。謎が解けた気がする。

近石:本当は、最後のサビでバンド全員が歌う熱量をイメージして書いたので、いつかメンバーにお願いして、歌わせたいなと思っています。めっちゃ早口なんで大変ですけど(笑)。

――面白いです。レゲエやヒップホップのメロディというか、フロウの違いを楽曲の参考にしているのが。

近石:それを一人でやっています(笑)。

――違う角度から言うと、後半の、言葉をどんどん畳みかけてスピードアップしていく部分は、それだけ言いたいことがたくさんあった、ということですよね。

近石:それもあります。それと、ライブを想定すると、飽きさせたくないということもちょっと思ったりしました。盛り上がって一回落として、また盛り上がって落として、まだ行くんか?みたいなところで、盛り上がったところでまだ行き切れなかった人をさらいたい、というか。

――ああそうか。誰一人置いていかない曲。素晴らしい。

近石:そういうイメージがありました。実はこれ、『兄弟II』という曲を以前に作った時期に、「自分らしさなんて捨てられれば楽だろうね」というフレーズが既にあったんですよ。SNSを見ていて、こいつ大丈夫かな?みたいな、そういう友達がいて。でもヘタな言葉をかけることはできないし、自分のことをすごく応援してくれている人で、じゃあ僕に何ができるか?と思った時に…。

――つまり、具体的に、救ってあげたい人が目の前にいた。

近石:そうです。ただ、この曲を作ろうと思った理由はその人ですが、悩んでる人はほかにもたくさんいるし、その人も含めて一緒に元気づけられないか?と思って。その人を救おうと思って書いた曲が違う人を救ってもいいと思うし、そういう気持ちで書いたので、曲の最後の方は「どうにか救われてくれ!」みたいに言葉をたくさん詰め込んだから、何回も聴いてほしいなと思っています。届いてるかどうかわからないけど、僕ができることは、こうやって歌を作って、出して、どうにか届けることやと思っているんで。そんな動機で書きました。

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