【インタビュー】近石涼、過去・現在・未来を一望できる集大成であり初めの一歩『Chamaleon』
自分を、日常を、世界を、命がけでまっすぐに見つめるシンガーソングライターは決して廃れはしない。音楽の流行がどう移り変わろうとも。近石涼、神戸出身、25歳。十代から注目されたその存在は、年を重ねてさらに広がりを増し、ついに世に問うインディーズ・デビューアルバム。先行配信曲「ライブハウスブレイバー」「兄弟II」「ハンドクラフトラジオ」を収めた『Chamaleon』は彼の過去、現在、未来を一望できる集大成であり、初めの一歩。アルバムについて、楽曲について、生き方について、未来について。静かな確信をもって語るインタビュー、2か月ぶりのBARKS登場だ。
■器用ならもっと器用な曲を作ると思うんですが
■不器用だからこうなってるんじゃないかなと思います
――前回のインタビュー(https://www.barks.jp/news/?id=1000208388)で、アルバムについて「変幻自在な存在になれたらという思いを込めて作っているところ」と話したのは、主に音楽的なバリエーションのことですか。
近石涼(以下、近石):サウンド面もそうですけど、「ライブハウスブレイバー」みたいに毒を吐く曲もあれば、「room 501」「ノスタルジークラムジー」のような、一聴しただけでどういう意味合いの言葉なのかちょっとわかりづらい感じのものもあります。使っているコード進行も作り方もまったく違いますし、それってやりすぎると自分が見えなくなりそうなところなんですけど、やっぱり僕は「どっちの自分も自分」という考えがあったので、まとめる時に、『Chameleon』という名前にしたいと思って。
――なるほど。
近石:たとえば大学時代に7つぐらいサークルに入っていて、どこの団体に所属しても自分は変わらないのに、たとえばアカペラサークルだったらすごい人気者だけど、フットサルサークルだったら輪の外にいるみたいな、そういうことがけっこうあって。でもみんなきっと、多かれ少なかれそういうことがあって、そのたびに自分の態度が変わったり、何かしら演技しながら生きている気がして、そういうところをも全部肯定できるように、器用なようで不器用な部分をアルバムに落とし込めたらいいなと思って、こういう形にしました。カメレオンって案外繊細な生き物で、そういうところも気に入ったというか、もっと器用ならもっと器用な曲を作ると思うんですが、不器用だからこうなってるんじゃないかなと思います。でもそれは間違いじゃないと信じてやっているので。
――逆に起用だと思われるでしょう。7つもサークルに入ったり、これだけバラエティに富んだ曲を作ったりすると、「いろいろできてすごいね」みたいな。
近石:ライブではギターとピアノを両方弾いて、そういう器用なところはあるとは思っていますけど、器用貧乏というか、そのぶん何かを失っている部分もありそうだし。でもそれを悪いととらえずにプラスにとらえていきたいから、こういうアルバムに仕上がったんじゃないかと思います。
――ストレンジカメレオンですね。ピロウズ風に言うと。
近石:そう、もともと『ストレンジカメレオン』にしようと思ったんですよ(笑)。でもやりすぎかなと思って、『Chameleon』ぐらいで伝わるところに伝わったらいいなと。
――アルバムで初登場する新曲が、直前の先行配信曲「最低条件」を入れると、「room 501」「ノスタルジークラムジー」の3曲。「クラムジー」って、不器用っていう意味じゃなかったでしたっけ。
近石:いろんな訳し方があるんですけど、僕は「成長痛」という意味で使っています。小さい頃にサッカーをやっていて急に体が思うように動かなくなったりする症状があって、その意味合いで付けました。でもいろんな意味合いがあるんで、その人にとってのクラムジーであって全然いいんです。
――「ノスタルジークラムジー」は自分の中で、成長痛と重ね合わせるエピソードがあった?
近石:そうですね。実はこの曲がアルバムのテーマに一番沿っているような気がします。
――何があったんですか?
近石:昔読んでた漫画があって、久しぶりに読んだ時に書こうと思った曲なんです。
――ちなみに何の漫画ですか?
近石:『おやすみプンプン』という、『ソラニン』を描いた浅野いにおさんの一番ダークなというか、ご本人が「自分が一番描きたいものを描いた」という作品です。鬱漫画という通称が付いてるくらいヘヴィな内容なんです。兄が持っていたものを小さい頃に読んでいて、当時は意味がよくわかってなかったんですが、久しぶりに読んだ時に、昔の自分を思い出して。兄の引き出しからこっそり漫画を出して読んでいたあの頃の自分を“引き出しの隙間に落とされる”という歌詞で表しているんです。
――ああ。なるほど。
近石:漫画の内容も、少年がいろんな人間関係を経て大人になっていくというストーリーだから、ストーリー的にも自分を照らし合わせやすかったというか、そういう曲になっています。
――あの頃、漫画をこっそり読んでいた頃の自分と、今の自分と。基本は変わってないですか。
近石:えー、何でしょう。奥にあるものは変わってない気はするんですけど、さっき話したように、関わる人間によって変わるというか、関わる人間との年数が増えて行くほど、そういう自分になっていくのかなと思っています。もともと自由奔放な性格だったんですよ。兄とは年が離れているので可愛がってもらったし。でも学校でそういう奴は、出る杭は打たれるというか、仲間外れとか、そんなにエグイことはなかったですけど、ケンカして泣いて帰ってきたりとか、そういうところから「周りに合わせる」ことを覚えて、それって自分の性格形成にすごい関わっているなと思います。それが良くも悪くも今の自分を作っている気はするので、変わったと言えば変わったけど、変わらない部分もあるなぁと思ったりします。
――この曲、サウンド的にはボサノバっぽい感覚が取り入れられていて、良い意味で歌詞とアンバランスなところが魅力ですね。
近石:もともとボサノバっぽい音楽が好きで、僕のデモの時点ですでにこういう感じだったんです。ボサノバって懐かしいというか、ノスタルジーなイメージがあるので、そういう曲にしようと思ったんですけど、BPMをいじっていて、間違ってドラムを張り付けちゃったら、一番が終わった瞬間に「ドッタンドッタン!」ってなって(笑)。でも引っかかりがほしかったから、「これ面白いぞ」と思ってアレンジを進めていきました。
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