【インタビュー】牧島 輝(さぐぱん)、「僕の歌がそばにあることで、僕を近くに感じてくれたら」

ポスト

■自分が頑張ってきたことや、僕のために頑張ってくれた人を否定したくない

──楽曲についてのお話を聞かせてください。まずは1曲目の「かくれんぼっち」。こちらはボカロPでもあるぷすさんが作曲ということで、その色が強く感じられました。やはり世代的にボカロ文化に影響を受けているのですか?

牧島:ボカロはど真ん中世代ですね。中学生のときにめちゃくちゃ好きでアルバムも買いました。いちばん好きだったのは……誰だったかな〜? パッと思い出せないんですけど、それこそ米津玄師さんがやっていたハチの曲もめちゃくちゃ聴いていましたし、ニコニコ動画もガラケーで見ていましたね。



──そうだったんですね。とても難しい曲だと思うのですが、実際に歌ってみていかがでしたか?

牧島:難しいですね。どこで息継ぎをしたらいいんだろうって(笑)。レコーディングも大変でした。曲の難しさはもちろんなんですけど、ぷすさんがいらっしゃって緊張してしまったんです。肩もガッチガチで、首が埋まるんじゃないかってくらい上がっていました。でもかっこいい曲だったので、歌っていて楽しかったですね。

──「Deep Silence」は心地よいハネたリズムと内省的な歌詞が印象的でした。

牧島:歌詞が好きなんですよね。サビが「どうせ〜」で始まるなんて、投げやりで捻くれているじゃないですか。ミュージックビデオも撮影したのですが、やりきれなさで暗い気持ちになっている自分と、でも本当はこうしたいんだという意思のある自分の“二面性”みたいなものを出せたらいいなと思って監督と作り上げました。


──3曲目は“さぐぱん”名義での第一弾シングルとなった「夏は過ぎ去って」。どことなくシティポップの香りがする曲ですが、こちらは作詞にも挑戦していますね。

牧島:リリース時期(2021年8月27日)に合わせて、“夏の終わりを思い出すような曲”にしようっていう話になりました。でも、僕は8月生まれだから誕生日はいつも夏休みで、学校でみんなに祝ってもらったことがないんです。さらには夏の恋の記憶もない。「え、マジでどうしよう!? 思い出がない!」って(笑)。最終的には“誰かにとっての夏の終わり”を想像して書きました。例えば、抽象的な歌詞を書く人もいると思うんですけど、僕にはそれができないんです。説明がつかないと言葉にできないというか……。ちょっと話が逸れてしまうのですが、僕は絵を描くとき、描きたいものを頭に思い浮かべてから描き始めるんですね。だけど画力が足りず再現しきれないことが多くて、苛立つことがあるんです。僕と同じく絵を描く知り合いにそのことを話したら、彼は「線を描いたら、その線が生きて動き出す」って言って。天才ですよね(笑)。たぶん、そういう人が抽象的な歌詞を書けるんでしょうね。僕はイメージができないと、言葉にすることもできない。だから自分の体験ではないけれども、景色が浮かぶようにかけたらいいなと思って作詞しました。



──ミュージックビデオではイラストも手がけていらっしゃいますが、そのときに浮かんだ情景を絵に描き起こしたのでしょうか?

牧島:そうですね。3〜4分の曲を1枚の絵にするのは難しかったのですが、懐かしさのある可愛い絵にしました。

──「水槽世界」もシティポップ路線の楽曲ですよね。

牧島:すごく好きな曲のひとつです。アルバムの候補曲をいただいたとき、早い段階で決まりましたね。うまく説明はできないんですけど、好みの曲だったんです。

──「セーブとリセットを繰り返してさ 望んだ結果までやり直せたなら」というフレーズがとても印象的でした。

牧島:いいですよね。リアルと向き合っていて、すてきな歌詞を書かれる方だと思いました。

──ちょっと話は逸れるのですが、もしセーブとリセットができるなら、やり直したいことはありますか?

牧島:え〜〜〜もう一回はやりたくないなぁ(笑)。この気持ちのまま過去に戻れたらって思うこともあるんですけど、どうせ舞台をやりたいだろうし、これまで経験したことやしんどい稽古をもう一度やらなければいけないのはいやだな、と。そんなにやり直したいことはないですね。

──そうなんですね! これまで積み上げてきたことを大切にしているからこそ、そう感じるのかもしれないですね。とても素敵なことだと思います。

牧島:面倒くさいだけですよ(笑)。でも……そうですね、これまで自分が頑張ってきたことや、僕のために頑張ってくれた人を否定したくないんです。……とか言いつつ、もし戻れるなら、競馬や宝くじの結果をめっちゃメモしておくんでしょうけど(笑)。

──ダメなやつじゃないですか!(笑) 楽曲の話に戻しますね。5曲目は「アネモネ」。こちらも作詞をしていますが、“さぐぱん”名義です。これは何か意図があって変えているのですか?

牧島:もう“さぐぱん”になっていたので、単にタイミングの問題です。いまでも自分で書いた歌詞を見るのは恥ずかしいです。自分で体験したことじゃないから妙にリアリティーがなくて……。



──ご自身で作詞した曲と、他の方が作詞した曲では、歌うときの気持ちに違いがありますか?

牧島:他の人が作詞した曲の方がずっと歌いやすいです。それは僕が役者だからでしょうね。役者は頂いた台本でお芝居をする仕事。僕は、誰かが考えてくれた作品に向き合う時間が好きなんです。誰かが一生懸命に描いた世界を理解し、表現することが好きだから、自分で作詞した曲よりも歌いやすいのかもしれません。

──そうなんですね。だとすると、作詞に挑戦したのはかなり大きな出来事だったのではないでしょうか。

牧島:僕は文章を書くのが苦手だし、作詞の才能もないと感じていたから、歌詞を書こうなんて思ってもみませんでした。そんな中、「夏は過ぎ去って」をいただいたとき、歌詞に「逗子」の地名が入っていたんです。でも、僕には逗子に関する思い出がなにもなく、全然ピンとこなくって……(笑)。さすがにわからなすぎたので、せっかくだから自分で書いてみようか、という流れになりました。

◆インタビュー(3)へ
この記事をポスト

この記事の関連情報