【インタビュー】vistlip、これからの自分たちを見据えて完成したアルバム『M.E.T.A.』

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■みんな、もっと欲張りになって掴んでいこうよ

──コロナ禍で葛藤したり、模索したミュージシャンは多いと思います。vistlipの場合はどんなふうに気持ちを切り替えたんでしょうか?

智:vistlip自体がどうなのかはわからないけど、いろいろなものを我慢しなきゃいけない時代になって、バンドでいうと、ファンからしたら当然続けていってほしいからどんな形でも何かしたい、けどバンド側からしたら今までの形にも捉われるし、申し訳ないって気持ちも出てきちゃったりする。例えば、いろんな形での配信とかもそうだと思うんですけど。うまく言えないけどそういう世の中の傾向があるような気がしていて、もっと発信する方が貪欲になってもいいんじゃないかって。その代わり楽しませてあげればいいんですよ。だから、みんなも遠慮なんかしないでもっと求めなよっていう気持ちがありますね。

──忖度しないでほしいということ?

智:そう。疲れてるだろうからとか、遠慮はいらない。

瑠伊:そうだね。

智:ライブのアンコールでも、もっと求めてメンバーを引っ張り出していいんだよって思いますし。みんな、もっと欲張りになって掴んでいこうよってことです。占いの箇所は実際、僕が手の平にホクロがあったんですよ。でも、消えかかっている。それは占いで言うと安定しちゃったからなんだって。運とかポテンシャルが備わっちゃったってことらしい。

瑠伊:もう必要ないってこと?

智:そう。それが悔しいなと思った。自分がもっと欲張りにならなかったからかなって。そんな経緯もあってこの歌詞を書いたんです。

──瑠伊さんはvistlipを続けるモチベーションをどう保ちました?

瑠伊:もちろん動けなかった時期はすごくモヤモヤしましたけど、「どうしよう」とか「もう出来ないかもしれない」とは思わなかったですね。基本的にポジティブ思考なので、活動が止まっていた時期は今までやってこなかったアプローチの曲が書けたし、そういう時間も自分たちの糧になっているので振り返ると良かったなと思います。多少、動けるようになった今は悔しさがバネになって爆発力があるので、ムリに気持ちをアゲたわけではなくプラスに捉えていますね。

──コロナ禍以前から、そういう考え方ですか?

瑠伊:そうですね。生まれた時からポジティブにやらせてもらっているというか(笑)、そう考えた方が僕は楽なんですよ。

──プラスに考えるコツってあります?

瑠伊:無理やり、いいところを見つけるみたいな。物事にはいい面と悪い面が絶対にあるので、プラスの方にフォーカスを当てるだけですね。

──そういう性格が楽曲にも現れている気がします。

瑠伊:そうかもしれないですね。

──今の話に通じるかもしれないけれど、「STAR TREK」にはどんなイメージがありましたか?

瑠伊:この曲は最近書いたんですよ。アルバムを作ることが決まってから2回選曲会があって、2回目の前に智から「どストレートで明るくてキャッチーで荒々しい曲を作ってほしい」ってリクエストがあって、急ピッチで書いたのが功を奏した曲です。パンクバンドのちょっとクレージーな感じを意識して作りましたね。

──突き抜けたポップさがある曲ですもんね。タイトルを「STAR TREK」にした理由も教えてください。

智:デモの仮タイトルが“TREK”だったんですけど、僕が書きたかったテーマである“困難な旅”に合ってるなって。海外だとあまりかっこいい意味で使うことはないらしいんですが、“星への旅”というイメージで「STAR TREK」にしました。突き抜けた明るさがある曲だけど、歌詞は暗いんですよね。
──そ、そうなんですか?

智:インタビューしてくれる方たちは気づかないので、うまく隠せてるんだなってニヤニヤしてます(笑)。荒く歌っているのは悲しさや頭がおかしくなっちゃった感じを表現したかったからなんです。サウンドが弾けているからこそ自分の表現したいことを書けましたね。

──なるほど。この曲ではYuhさんがギターソロで早弾きしていますが、今作ではあまり早弾きしていないですよね。

瑠伊:そうですね。ギターソロ以外の部分は打ち込みで何となくフレーズを入れていたんですが、触発されてギターソロを思いついたみたいで、ピッタリのフレーズを弾いてくれたなって。

──ここまでは瑠伊さんが書いた曲を中心に質問してきましたが、大人になることを歌った「ENTRY MODEL」という曲も収録されていますね。ピアノをフィーチャリングしたサウンドも新しいし、歌詞も大人になる切なさを歌っているようで実は否定してない部分もあるのかなって。

智:大人にならないってずっと言っていたのに、気がついたら大人になってるなって気付いちゃって。だからこそカッコいい大人にならなきゃいけないみたいな思いがあるんです。

──冒頭の“ある日、突然霞み出すヴィジョン。 明確だったのが幻みたいに。 ”という2行には共鳴しました。10代の頃に明確だったものが月日を重ねるにつれ薄れていく感覚ってありますよね。

智:昔は“こうなってああなって”って描いたものを目指すんだけど、だんだん、そうじゃなくなっていくでしょ。「こうしないといけないんだな」とか。

瑠伊:そうだね。

──歌詞はストレートなものが増えたという印象を受けましたが。

智:曲によりますけどね。何曲かは堅い文学を意識しているんだけど、こういうストレートな歌詞もアリだなって感じですね。

──他のメンバーが書いた曲で刺激的だったものは?

瑠伊:僕は「BGM「METAFICTION」」のデモを聴いた時は「カッケー!」って思いましたね。それとMaster Editionに収録されている「ID:ID」。デモの段階ではTohyaっぽい曲だなと思ったんですが、最終的な仕上がりで異彩を放つ曲になったなって。ライブでかなり映えると思います。

智:「ID:ID」は自分の心理というか、ホントはこう思ってるんだっていうのをぶつけた歌詞になっています。「甘やかしてほしいなぁ。甘えたいなぁ」って。「甘えてんじゃねーよ」って言葉にイラッとした日があったんです(笑)。甘えて何が悪いって。

瑠伊:貪欲ですね(笑)。

智:貪欲はある意味このアルバムのテーマになっているかもしれない。例えばファンに「甘えるんじゃないよ」って言われたら「いや、あなたに甘えないで誰に甘えるんだ」って。

──(笑)そう返されたら言い返せないかもしれない。

智:そんなことを考えた日があって、「人間ってなんで甘えちゃいけないんだろう?」って思った時に書けた歌詞ですね。共感してもらえるんじゃないかと思います。

──海さんは今回、対照的な2曲を書いていますね。「Act」はアクティブだけど、「無音」はダークで痛いというか。

智:海の曲も大人っぽいですね。リリックビデオを制作したんですけど、「無音」はツインボーカルにしたいねって話して具現化した曲なんです。海がボーカリストとして満足しているかはわからないですけれど、レコーディングではかなり苦戦してましたね。



──メインボーカルとラップというパターンがこれまでは多かったけれど、まさにツインボーカルで掛け合いになってますもんね。

智:実はハモりも全部、海なんですよ。気合いが入っているので、ぜひ聴いてあげてほしいですね。

瑠伊:Yuhが書いた曲も驚きましたけどね。

智:.「RED LIST」ね。

瑠伊:智がデモの段階で「この曲は絶対に良くなるよ」って言っていて、レコーディングしてみたら、こんな壮大な曲なんだってびっくりしました。1人1人の音が入ると曲が活きて、アルバムの締め括りにふさわしい曲になりましたね。ライブでも世界観で持っていけるインパクトがあると思います。レコーディングもこの曲、最後だったもんね。

智:そうだね。

──仮想空間のエンディング的ポジションですか?

智:そうですね。Master Editionにしか収録されていないんですが、本当のエンディング。「STAR TREK」までは仮想空間の中でいろいろな世界を見ているんだけど、リアルな答えを「RED LIST」で突きつけてこの世界が終わるみたいなイメージです。

──「RED LIST」にはどんな意味を込めているんですか?

智:絶滅危惧種を載せているリストのことを“RED LIST”っていうんですよ。僕らもそれぞれたった一人しかいない絶滅危惧種なんだよって。加えてメタバースって肉体からの解放を掲げていたりするんですけど、それに対する疑問だったり、いろいろ一人の人間として考えた上で最後に答えを出した感じですね。

──いろいろな角度からの楽しみ方ができますね。最後はインスト「PW:ReAct 」で締められる構成になっていて。

智:仮想空間から帰ってくるイメージですね。旅をして答えを出して、現実に帰ってこの世界で生きるという意味ではlipperの最後に日常的な風景を歌った「Sunday」を収録しているので、3タイプ聴いてくれたら、全てが味わえるっていう。

──「Sunday」はシティポップ風な味付けですね。

瑠伊:これも「"TOXIC"」と同じ時期に作った曲ですね。昔のアース・ウインド&ファイアーみたいに裏打ちで休符バリバリのノリのいいベースを弾きたくて作ったんです。数年前、SIDの明希先輩に「もっと休符を勉強しなさい」って言われたことがあったんですけど、当時の自分は音の隙間を埋めて弾き倒すスタイルだったので、ずっとその言葉が頭にあって。で、今回思いきって休符を打ち出したらどうだろうって挑戦してみたんです。先輩のおかげでできた曲です。

智:はははは。確かに明希さんイズムが出てますね。

瑠伊:アルバム全体に出ているかもしれない。

──歌詞は休日の朝の食卓をイメージしたんですか?

智:前から気になっていた恋愛観を書いた曲です。男性が疑われて女のコに「何もないから」って言ったとして、でも、女のコからしたら「手を出さないなんて、そのコのことがすごく大切なんだね」って思うっていう。そういうテーマはvistlipの場合、曲がうまくハマらないと書けないんだけど、この曲は日常を描くのにちょうどよかった。最後のサビでは女性が気づいたことに対して“この世界で1番あなたを愛してる証拠。”って書いていて、この曲は女性目線だけど、男性もそう感じることもあるだろうし、男女問わず受けとってほしい曲ですね。

──今回のアルバムは、情景がくっきり浮かぶ歌詞が増えた気がします。

智:歌詞に合う声を探して当てていくっていうテーマはあったかな。そのためにもしっかり感情が出せるフレーズがよかったんですよね。「こういうふうに歌いたいから、こういう歌詞にしよう」って。

──久しぶりのアルバムを楽しみに待っていた人は多いと思います。どんな気持ちを込めて届けた作品でしょうか?

瑠伊:手応え十分なアルバムになったので「存分に楽しんでください」としか言えないかな。vistlipとしての新しさ、新鮮さもすごくあって、それでいて以前とかけ離れているわけではないから、すんなり受け入れられると思うんです。最初から最後までワクワクしていられるアルバム。

──実際、いっきに聴けてしまうポテンシャルと魅力がありますね。

智:いっきに聴ける理由のひとつとして、今回、なるべく1曲1曲を短くするよう心がけたんですよ。

瑠伊:全曲聴いて50分弱だもんね。

智:今まで重たくなっていたところが軽くなっている。僕的にはその日の気持ちに合わせて曲を選んで聴いたりとか、1曲、1曲、バラバラでも聴ける曲が揃っていると思うんですよ。もちろん歌詞を読み解きたい人はそうしてもらっていいし、世界観に浸ることもできるんですけど、サウンドを変えたのは溶け込むような音にしたかったからなんですよね。

瑠伊:確かに。

智:「BGM「METAFICTION」」は仮想世界の入り口みたいな作り方ですけど、その日の自分のBGMみたいな楽しみ方もできるのかなって。

──東名阪のツアー<vistlip ONE MAN LIVE TOUR 「META TOXIC」>で、アルバムの曲たちがどんな見せ方で演奏されるかも楽しみです。

智:アルバムを作り始める時から曲に絡む演出を考えてましたからね。

瑠伊:できる、できないはあると思いますけど。

智:そう。会場によって規制はあると思うけど、アルバムの世界をちゃんと仮想空間としてお届けできるようにしたいですね。



──違う世界に足を踏み入れるような感覚になれるような。

智:そう、そう。そんなふうな作り方ができたらなと思ってます。しっかりエンタメを取り入れて終わったら日常に帰ってもらうみたいなイメージですね。

──これまでよりショーアップされたステージングになるわけですね。

智:そうですね。瑠伊と話していたのはLill(智と瑠伊のユニット)でやっていたことをやっとバンドにフィードバック出来るねって。

瑠伊:うん。あっちではミュージカルみたいな事をやったりもしていたので。

智:台詞があるわけじゃないけれど、vistlipに合う形を考えた上で実現させたいと思っています。

瑠伊:ちょうど今朝、スタッフを含めたグループLINEに智から各楽曲に対する演出が細かく送られてきて、「楽しそう!」ってワクワクしましたね。メンバーもそう思うんだから、きっと楽しいはずです。

智:やるからにはしっかりした内容でお届けしたいですね。

取材・文◎山本弘子

『M.E.T.A.』

2022年3月30日(水)リリース

■【Master Edition】(CD+DVD/初回生産限定)
MJSA-01339~40
¥5,940(税込)

[CD]
1.PW:Invitation
2.BGM「METAFICTION」
3."TOXIC"
4.CRACK&MARBLE CITY
5.ENTRY MODEL
6.Act
7.無音
8.ID:ID [Extend Song]
9.蟻とブレーメン
10.アンサンブル
11.STAR TREK
12.RED LIST [Extend Song]
13.PW:ReAct
[DVD]
1.BGM「METAFICTION」MV
2.メイキング映像[Master Edition ver.]
3.収録曲「無音」リリックビデオ
[初回特典]
・トレーディングカード(全10種ランダム)
・3形態連動購入特典全員サービス応募券&特典抽選券

※ヴィジュアルブックレット(28P)&スリーブケースの豪華コレクション仕様。

■【vister】(CD+DVD)
MJSA-01341~2
¥3,960(税込)

[CD]
1.PW:Invitation
2.BGM「METAFICTION」
3."TOXIC"
4.CRACK&MARBLE CITY
5.ENTRY MODEL
6.Act
7.無音
8.蟻とブレーメン
9.アンサンブル
10.STAR TREK
11.PW:ReAct
[DVD]
1.BGM「METAFICTION」MV
2.メイキング映像[LONG vister ver.]
3.オフショットフォトギャラリー
[初回特典]
・トレーディングカード(全10種ランダム)
・3形態連動購入特典全員サービス応募券&特典抽選券

■【lipper】(CD)
MJSA-01343
¥3,300(税込)
[CD]
1.PW:Invitation
2.BGM「METAFICTION」
3."TOXIC"
4.CRACK&MARBLE CITY
5.ENTRY MODEL
6.Act
7.無音
8.蟻とブレーメン
9.アンサンブル
10.STAR TREK
11.PW:ReAct
12.Sunday
・トレーディングカード(全10種ランダム)
・3形態連動購入特典全員サービス応募券&特典抽選券

発売元:マーベラス
販売元:ソニー・ミュージックマーケティング

<vistlip ONE MAN LIVE TOUR「META TOXIC」>

2022年4月21日(木) 名古屋
2022年4月28日(木) 大阪
2022年5月6日(金) 東京

◆vistlip オフィシャルサイト
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