【インタビュー】SUGIZO × HATAKEN、鬼才の交流が生んだアート作品「“今、ここ”が最重要の音楽」
■モジュラーの啓蒙はいいですよ
■だってとっても平和だもん
──アンビエントミュージック・アルバム『The Voyage to The Higher Self』の魅力がよくわかりました。
SUGIZO:同時に、BARKSの読者にモジュラーシンセという楽器とカルチャーがどれだけ素晴らしいかを伝えたい。現にHATAKENさんはずっとそれをやられているから。
HATAKEN:モジュラーシンセって、モジュールごとになっていて全部バラバラで、それぞれひとつだけでは音も出ないものが、それぞれをつなぐことで始めて機能したり、音を鳴らすことができるようになる。どういうふうに音が出るかを自分がデザインしていくんです。そこには必ず人間が介在しなきゃいけなくて、アイデアがなければ音も生まれてこないんですね。同じモジュールでも誰がどう触るかによって生まれてくるものが違う。その人のセンス、パッチングの哲学、クセ…全部がその人の鏡になって表れてくるんですよ。それがモジュラーシンセの魅力なんです。
──その人の鏡?
HATAKEN:“今日はこういうパッチング” “これだな”とクリアな気持ちで演奏していると、瞑想にも通じるような、今、自分の心がどうなってるかを映し出すんです。無駄なパッチングをして、ある音がずっと鳴っていると、自分の心の中で嫌だったことに気が付かないでずっと放置していたことに気が付く。いつまでも気持ちが整理されないままだったことが、そのまま鏡のようなんです。機材として難しいから面白いとか、新しいのが出たから興味深いとかじゃなくて、単純にLFO・VCOのピッチを変えるだけでもすごく深い。使った人によって全然結果が違ってきて、可能性がたくさんある。
──非常に有機的なものなんですね。
HATAKEN:よく誤解されて「モジュラーシンセは何でもできるんですか?」って訊かれるんですけど、やりにくいです。でも自分がやりたいものが何なのかが分かってくる。音楽を漠然とやっている人たちも、やっていくうちに自分がどんな音楽や音が好きなのかに気付く。音楽を作ることに辿り着かなくても、モジュールをパッチングしてパズルするだけで人生が豊かになるんじゃないかとも思います。
──なるほど。
HATAKEN:スタジオエンジニアにとっては新しい可能性があります。PCに負荷をかけなくても、ひとつひとつがマイクを積んでいるのでパワフルな機械なんです。そういう意味では、これからスタジオを助ける機械になっていくと思うので、導入を考えたらいいと思いますよ。一般の人たちにはぜひ怖がらずに触ってもらって、どんなものか興味を持ってもらえたら嬉しいですね。間違ってつないでも壊れないから。
SUGIZO:壊れることはないけど、スピーカーがぶっ飛ぶ可能性はある(笑)。あと、うまく鳴らないと自分の心がへこたれていく(笑)。
HATAKEN:ははは。いろいろな角度で魅力は語れると思うんですけど、面白いと思います。たくさんなくちゃいけないものでもなくて、ほんのちょっとあるだけでも魅力がわかると思いますから。
SUGIZO:僕はモジュラーの壁に憧れますけどね。でも少しだけでも事足りちゃってるんですよね。
HATAKEN:僕も憧れて壁を作りましたけど、使っているのは一部だけ(笑)。罪悪感があるから電源だけ入れてやろうかみたいな。全部使い切った状態の音楽ってどうなるんだろうとは思いますね。
SUGIZO:ひとつの音楽にはなかなか必要ないですよね。松武秀樹さんや冨田勲さんの昔のモーグのモジュラーに憧れていたりしたので、現代版としてコンパクトにここまで使い勝手がよくなったと思うと素晴らしいカルチャーだと思いますよ。
HATAKEN:昔はシンプルなものでもこれだけ必要だったわけですけど、大きいパネルで大きくやっていると、精神性や出音に影響しますよね。
SUGIZO:やっぱり音が強力でしょ? 松武さんの音を何度も目の当たりにして、デカいモーグじゃないとあのバチーンていう音が出てこないのかな…とは思ってはいたけど、ユーロラックでもやり方によってはできるんだよね。
HATAKEN:そう。思い込みっていうのは常に書き換えられていくのだと思います。僕もアナログシンセ大好きだったので、「モーグの時代はハンダに使っている容量も違うし、いいものを使ってるし、接触面積が広いから電気の流れが何ミクロンというICチップを通ってるものとは違う。それが昔と今の音の違いだよ」と、ベテランシンセ修理士の人にも教えてもらって信じていました。けれど、最近のデジタルの音もそれに負けない魅力的な音もあるので、やっぱり自分の耳で確認してもらいたいなと思いますし、自分で音を出してみたり、人の音を聴くことで違ってきたりするんですよね。
SUGIZO:モジュラー話はすぐに長くなりますね。話が止まらない。モジュラーの啓蒙はいいですよ。だってとっても平和だもん。
HATAKEN:僕がやっていた連載コラムのタイトルも『Patch the world for peace』っていう世界の国々をモジュールに見立ててそれぞれの良い点をつないでいって、全体でひとつのシステムをつくろうよみたいなコンセプトなんです。モジュラーはそうなるんじゃないかって勝手にこじつけているんですけどね。
取材・文◎烏丸哲也 (JMN統括編集長)
撮影◎田辺佳子
■デュオ初のオリジナルアルバム『The Voyage to The Higher Self』
※2022年1月26日(水)FC先行リリース
【CD (SHM-CD)】SPTC-1010 ¥3,300(税込)
1. Muladhara [ムーラダーラ]
2. Svadhisthana [スヴァディスターナ]
3. Manipura [マニプーラ]
4. Anahata [アナーハタ]
5. Visuddha [ヴィシュッダ]
6. Ajna [アージュニャー]
7. Sahasrara [サハスラーラ]
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