【インタビュー】SUGIZO × HATAKEN、鬼才の交流が生んだアート作品「“今、ここ”が最重要の音楽」
非常に肌触りの心地よいアンビエントミュージックアルバム『The Voyage to The Higher Self』が産み落とされた。SUGIZOとモジュラーシンセ奏者HATAKENというふたりの鬼才が交流したことによって、ある種偶発的に…おそらくは運命の手繰り寄せによる必然的な相互作用によるアート作品だ。
◆SUGIZO × HATAKEN 動画 / 画像
音を慈しみ、その音に誘われるように心の共鳴をさらなるサウンドで重ね合い、ときに溶け込みときに反発しながら、オーガニックな流れの中でサウンドスケープを描いていく…そんな『The Voyage to The Higher Self』には、譜面はもちろんテンポもキーも設定されず、ただただ鼓動に身を任せるように熱量を運ぶ作品となった。
ふたりの鬼才がどのような会話を重ねれば、このような色彩が描かれるのか。7つのチャクラに呼応した7作品は、どのように命を授かり産み落とされたのか。ふたりに話を聞いた。なお、この作品の最重要楽器“モジュラーシンセ”については、その歴史とカルチャーを解説したコラム“モジュラーシンセってなに?”をご参照いただきたい。
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■ふたりの精神性が共振すると
■なぜかオーガニックなものになる
──そもそも、ふたりの出会いは?
SUGIZO:僕がHATAKENさんに注目していたんです。昔から僕はシンセファンですけど、近年その熱が大きくなり、ブームもあってモジュラーにもずっぽりハマったんです。それで<Modular Cafe>というモジュラーのマニア/オタクの方々がみんなで演奏を披露しあうサロンのようなものに通うようになったんですね。ひとり5~15分くらいモジュラーの独奏を披露するんですけど、そこには必ずHATAKENさんが出演されていたわけです。モジュラーにハマっていくと、HATAKENさんに注目せざるを得ないんですよ。
──その活動はSUGIZOの極めてプライベートな側面ですか?
SUGIZO:自分の趣味嗜好というのもありますけど、学びたかったんです。自分の学習の場所が欲しかった。とにかくHATAKENさんのモジュラー演奏がすごく音楽的で素晴らしくて、「良かったら一緒にコラボしてもらえませんか」とお話ししたんです。
──HATAKENさんは話しかけられてどうでしたか?
HATAKEN:ある時、突然<Modular Cafe>にSUGIZOさんが現れたんですよ。明らかにオーラ…雰囲気が違っていて、“<Modular Cafe>にこのような方がいてもいいんでしょうか”と思いました(笑)。周りも“えー? まさか!?”っていう雰囲気がありながらも、すぐ溶け込めていましたよね。そのイベントでお会いすることが続いて、コラボの話をもらいました。最初は激しい音のノイズなどを得意とする友達を紹介したほうがいいんじゃないかとも思っていたんですけど、モジュラーシンセの魅力を伝える<Tokyo Festival of Modular>という僕主催のイベントで共演することが決まり、そのリハーサルの時点で“音の世界の雰囲気が合うな” “すごくうまくいく”って思いました。それからずっと、安心して演奏できる感じで。
──シンパシーを感じたのはどういう点だったのですか?
HATAKEN:僕が勝手に感じているのは、SUGIZOさんのアルバム『愛と調和』とか、世界観の中にあるようなスピリチュアルな部分ですね。精神世界みたいなもののバックボーンに共通項がいっぱいあるんです。今作でも音のキャッチボールの中で自然に“何が必要かな”と考え、相手に確認なく音をカットしたり入れたりしても受け入れてくれて、自然に展開していったんですね。
──調和してますね。
HATAKEN:時間は割と短かったけれど、必然的な時間のタイミングでできました。タイトルや曲名もコンセプトがあったわけではなく、「このコロナ禍に必要な音を奏でたいよね」って言っていただけなんですけど、後から「チャクラがすっぽりはまる」とSUGIZOさんから提案があったんです。
──コンセプト先行じゃないことに逆にびっくりしました。
SUGIZO:コンセプチュアルなものもそれはそれで面白いし、それこそ僕の永遠のフェイバリットである世界最高峰ロック作品『ジギー・スターダスト』が50周年を迎えるわけで、コンセプトありきのものは大好きですよ。ただ今回は、本当にフィーリングや、感触、手触りありき。HATAKENさんと音を出すと精神性のところでつながれるんですよね。お互い音楽オタクで機材マニアだし、楽器・演奏・プログラムにしても相当フェチでね、音楽アプローチはエレクトロニクスを駆使しているのに、即興で音を出し合ってふたりの精神性が共振すると、なぜかオーガニックなもの…大地、大自然、宇宙とか空、海を想起させるものになると自負しています。
──即興というヒューマンな要素だからかな。
SUGIZO:もともと、アナログシンセって僕にとってオーガニックなんです。一般的にシンセサイザーや電子音楽は人工的、デジタル的なイメージがありますけど、シンセ界の総本山である冨田勲先生も「そもそも電気というのは宇宙にあまねく存在する自然のものだ」と、電子音楽は本来とてもオーガニックなものであると仰っていましたよね。HATAKENさんと一緒に音楽をやっていると、それを細胞レベルで体感することができるんです。
──出会いのタイミングも、コロナ禍という世の事象によってつながったもの?
HATAKEN:僕の感覚からすると、1stアルバムとしてはいいタイミングでした。“最後のアルバム”になってもいいぐらいの完成度の高いものになった。コロナ禍の時代にあわせて、僕らが感じたものが結晶化したってことだと思うんです。
SUGIZO:ちょうど出会って5年…多分いい周期だった。
──楽曲が完成した瞬間は、お互いにどのように認知・納得するのですか?
SUGIZO:そもそも最初のコラボは、2016年に発売したアルバム『音』の楽曲をHATAKENさんにMIXしてもらったことなんです。そのときは1曲お願いしたんですけど「どういう方向が良いですか?」って何パターンもリミックスしてくれたんですね。リリースしたのは1曲ですけど、そのどれもが素晴らしく、まさに僕が本当に求めている音楽性だったので、いずれこれらをまとめて作品化したいと思っていたんです。なので今回のアルバムは「あのリミックスを再利用しましょう」だったのに、HATAKENさん…無くしちゃってた(笑)。
HATAKEN:PCが立ち上がらなくて使えなくなっちゃった(笑)。
SUGIZO:それで一からやり直すことになったんです。音作りの第一歩は、僕の既存の楽曲をHATAKENさんにリミックスしてもらうことで。
──まず、SUGIZOの楽曲をHATAKENさんがバラしたそうですね。
HATAKEN:先のリミックスも意識しながら作ったら「もっと原型を留めないようにバラバラにしてほしい」って。
──なぜもっとバラバラに?
SUGIZO:リミックス作品を作るつもりじゃなかったから。結果、1980~1990年代にDJやトラックメイカーたちがやってきたサンプリングミュージックの作り方に近いアプローチになりましたね。過去の僕の作品からいいところをサンプリングしてもらって、まったく新しい音楽に再構築し直したわけで、その最も重要なプロセスをHATAKENさんが担ってくれた。
HATAKEN:僕がまずリミックスしてSUGIZOさんが再構築して、また何かあったら僕が手を加え、そのあたりでだいたい完成していくのが見えていました。最後、SUGIZOさんが仕上げることで、さらに違うものに生まれ変わっていったものがいっぱいありましたよ。原型がありながらも違うものにも聴こえるような不思議な感じもあって。
SUGIZO:HATAKENさんの第2弾リミックス群がベーシックにあって、そこに僕が音を足したり引いたりメロディを乗せたりハーモニーを入れたりして、新たな“作曲”によって全く新しい音楽になった。そのリミックスからとてもインスパイアされてチャクラとの関連という発想が初めてが降りてきた。そこで初めてアルバムのコンセプトが生まれたんだよね。
──楽曲がチャクラと対になったことで、さらに音が変わっていきましたか?
SUGIZO:それまで不明瞭で曖昧な、いい意味でフィーリングだけでやってきたものが、チャクラというコンセプトが見えた瞬間にバチッとピントが合った。途端にまた導かれたよね。
HATAKEN:そうです。合わせる場所が分かった感じでした。いっぺんに7曲全部できあがったんじゃなくて、順番にできあがっていくので、出来次第少しずつ送っていったんですけど、その曲順がほとんどそのままアルバムの曲順になったんです。そこに疑問も持たなかったので“そういうことなんだな”って思えてしまった。今改めてオーディエンスとしてこの作品を聴いてみると、チャクラの言わんとしていることが、そのまま明瞭に分かりやすいアルバムになっていることに気付きました。役割を果たせるものというか、聴いて心に寄り添う音になっているかなと思います。アンビエントミュージックとしては究極のものだし、意識を合わせればチャクラというものを理解し、心に共鳴できるような聴き方ができる音楽が作れたんじゃないかなと思います。
──素晴らしいところに帰着したんですね。
SUGIZO:聴くたびに“しまったリバーブが多かった~”とか、“もうちょっとドライにしたら、テクスチャーが更にリアルになったかな”とか無念の気持ちはありますけど、それでも僕はLUNA SEAツアー中のホテルでもずっと聴いてます。できたものをずっと聴いているのは初めてかな。気持ちいいから聴くんで、自分が作ったものを聴きたいって思うのは、30年やってきて初めてですね。
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