【インタビュー】moon drop、様々な曲で手を繋ぐ描写が印象的なアルバム『この掌がまだ君を覚えている』
三重県伊勢市を拠点としながら着々と活動を重ねてきたmoon drop。恋愛を様々な角度から描写している歌詞と強力なバンドサウンドの融合が、1stフルアルバム『この掌がまだ君を覚えている』で存分に発揮されている。SUNNY氏をプロデューサーに迎えたことによって広がった豊かなサウンドアレンジも大きな聴きどころだ。公式プロフィールで打ち出している「愛だの恋だのラブソングだけを歌い続けるバンド」という姿勢も再確認させてくれる本作について浜口飛雄也(Vo/Gt)、坂知哉(Ba/Cho)が語る。
■普段ぼーっとしている中で
■一番心が動く瞬間が恋愛なんです
――どのようなアルバムにしたいと思っていました?
浜口飛雄也(以下、浜口):毎回そうなんですけど1枚を通してのコンセプトはなかったです。書きたい曲をどんどん書いていって、メンバーが納得したものから仕上げていきました。
――メンバーが納得しないと完成に至らないんですね?
浜口:はい。
――激しいダメ出しをするんですか?
坂知哉(以下、坂):そんなに厳しいことは言わないですけど(笑)。でも、メンバーの誰かが納得しなかったら無しになることもあります。
浜口:メンバーがいろいろ言ってくれるのは、ありがたいです。
――コンセプトはなかったようですが、「ラブソングを歌い続けている」というこれまでの軌跡は、バンドとしての一貫したコンセプトのようなものになっていますよね?
浜口:そうですね。でも、それも「ラブソングしか書かない」というこだわりでもなくて。僕は普段いろいろ考えながら過ごしているタイプの人間ではなくて、普段ぼーっとしている中で一番心が動く瞬間が恋愛なんです。その結果、できる曲がラブソングになっていっているんですよね。自分の中から出た素直な感情をこれからも歌っていきたいと思っています。
――楽曲制作については、「作詞作曲に関して0から1にする作業を浜口さん、バンドサウンドとして1から70くらいのものにまとめる作業を浜口さんと坂さんがメインとなって行っている」という情報を事前にお聞きしているんですけど。
浜口:ほとんどの曲は僕が1コーラスくらいを弾き語りでみんなに聴いてもらって、そこで1次審査があるわけです(笑)。それを気に入ってもらえたら展開とかについて知哉と相談しながら決めています。
▲浜口飛雄也(Vo/Gt)
――2人の音楽のルーツは、どの辺りなんですか?
浜口:僕は中学生の時にお姉ちゃんの車の中で聴いたback numberです。「西藤公園」を聴いた時に衝撃を受けてバンドに興味を持つようになりました。その前から音楽に興味はあったんですけど、バンドにのめり込むきっかけとなったのはそこでしたね。back numberもラブソングをたくさん歌っているので、その影響はあるのかもしれないです。
――back numberは、サウンド面は実はものすごくエネルギッシュ。ロックの要素がかなり強いですよね。
浜口:そうなんですよね。ライブ映像を観た時、「めっちゃ叫ぶなあ」って思ったことがあります。僕らもライブハウスでずっとやってきたバンドですから、「ライブ感」みたいなことはこれからも出していきたいですね。
――昔のフォーク的なテイストもmoon dropから感じるんですけど、そういう音楽は聴いていましたか?
浜口:「懐かしい雰囲気を感じる」っていうのは、よく言われます。90年代的な雰囲気は自分でも感じますね。意識しているわけではないんですけど、何かしらの形で僕に染みついているものがあるんだと思います。
――坂さんは、どういう音楽がルーツですか?
坂:中学生の時に聴いたマキシマム ザ ホルモンです。ラブソングを歌うバンドだったら、高校生の時に出会ったクリープハイプ。
――ホルモンが好きだったということは、上ちゃんのベースのスラップとかも影響を受けました?
坂:はい。めちゃめちゃ好きで、バンドスコアを買ってスラップの練習をしていました。ホルモンの影響でレッド・ホット・チリ・ペッパーズやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン、リンプ・ビズキットとかも聴くようになりました。
――結構ラウド系を通っているんですね?
坂:そうですね。
――そういうベーシストがmoon dropにどういう経緯で加入することになったんでしょう?
坂:僕は2018年に途中加入したんですけど、もともと別のバンドをやっていたんです。moon dropと何度も対バンしたことがあって、「こういう音楽もやりたい」と思っていたんですよね。
――加入前にやっていたバンドはラウド系?
坂:ラウド系というより、ちょっとブルース、ロックンロールっぽい感じのバンドでした。
▲坂知哉(Ba/Cho)
――moon dropを外から見ていた時期もあるわけですが、どういうところに魅力を感じていました?
坂:曲の良さ、飛雄也の声の良さ。あと、ライブですね。「ロックバンドのライブ」っていう感じがしました。
浜口:照れますね(笑)。
坂:当時、コンビニの夜勤をしていたんですけど、夜勤明けで「新しい曲できた」って送られてきたのをよく覚えています。「花」っていう曲で、それを聴いて「めっちゃいい!」って思ったんです。サビがめっちゃ耳に残ったというか。
浜口:僕も「花」を送った時に「めっちゃいい!」って言ってくれたのを覚えています。嬉しかったですよ。
坂:対バンする時に「あの曲やってくれ」ってよく言っていたんですけど、全然やってくれなくて。
浜口:たしかに(笑)。
――(笑)。そういう繋がりがもともとあって、ベースのメンバーを探すことになった時に声をかけたわけですね?
浜口:はい。ギターの琢聖と「知哉いいよな?」っていう話をして、加入してもらうことになりました。
――では、最新アルバムのお話に移りましょう。「オレンジ」と「ex.ガールフレンド」以外は、ここ1年くらいの間で生まれた曲ですよね?
浜口:はい。「オレンジ」と「ex.ガールフレンド」はライブでずっとやってきて、単純に自分達も好きな2曲ということで、今回のアルバムのために改めてレコーディングしました。
――先ほども少しお話した通り、今回のアルバムはラブソングのみで構成された作品ですよね。まず、「水色とセーラー服」「ラストラブレター」「四月が君をさらってしまう前に」とか、学生時代の恋愛が様々な形で描写されているのが印象的です。
浜口:実体験ばかりを描いてきたんですけど、今回は「曲を書く」というよりも「物語を書く」っていうイメージのものが多いです。その内の1つが「水色とセーラー服」ですね。
――誰かから聞いた恋愛事情が曲になることもあります?
浜口:あります。
――坂さんがうっかり話したこととか?
坂:それは今のところないです(笑)。
浜口:メンバーのことは曲にしないです(笑)。「水色とセーラー服」は、僕の中で浮かんだストーリーです。
――バンドサウンドがすごく力強いですよね。ギターがメロディアスなフレーズを連発しているのも、大きな聴きどころです。
浜口:あらかた出来上がった段階の曲に対して、ギターの琢聖に思うがままに弾いてもらっています。
――ギターソロが印象的な曲も多いですよね。ベースソロを入れたくなったりもします?
坂:ギターソロを削ってまでベースソロを弾くのは出しゃばり過ぎなのかなと(笑)。やりたいなと思うことはありますけど。
――サウンドと各曲のストーリーが、絶妙に融合していると思います。例えば「ラストラブレター」は、《人を好きになるってことって 最高に最悪だな》と歌っていますけど、恋をしたことによって気持ちが安定しない状態がすごくイメージできる曲です。
坂:この曲、形になるまでめっちゃ難しかったんです。尺が長い曲でもあるんですけど、聴いていて飽きないものにしたかったので。
――プロデューサーのSUNNYさんとも、いろいろ相談しました?
浜口:はい。「こっちのコードの方がいいんじゃない?」とかいろいろアドバイスもいただいて、発見がいろいろありましたね。僕はそんなにコードを知っている方ではないので、「こんな響きがあったんだ!」って、たくさん教えていただきました。
坂:自分たちでは思いつかないようなことがめっちゃありました。「ここからここに転調できるんだ?」っていうのとかもありましたから。
――学校を卒業する時期のことを描いた「四月が君をさらってしまう前に」は、とても瑞々しいですね。
浜口:アルバムを出す時期が決まっていたので、それに合わせて作りました。こういう作り方をすると、俯瞰して歌詞の恋愛像を描けるような感じもありましたね。自分に合っている作り方だという気がして、それは今回の制作の中での良い発見でした。
坂:新しい作り方をするようになっているのを僕も感じましたね。
浜口:他の曲も季節を描いているものが多かったというのもあって、アルバムのリリース時期に合わせて春っぽいものも欲しくなったんですよね。こういう作り方を今後にも活かせたらいいなと思っています。
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