【人間椅子連載】ナザレス通信Vol.78「味」

12月上旬から弘前の実家にいます。雪が積もっているので、自転車やバイクに乗ることができず、移動はもっぱらバスです。このバス、良い意味でのんびりしていて、なかなか味があります。

ある日のこと、バスがいつもと違う道を走るので、工事で迂回しているのかなと思っていたら、不安になったお客さんが「運転手さん、これ○○○行きですよ」と声をかける一幕がありました。運転手さんは5秒くらい考えて、「あっ、間違えました。すいません」と謝り、ぐるっと回って普段のコースを何事もなかったかのように走り直します。お客さんもよくある事だと平然としているので、何だか連帯感みたいなものを感じて嬉しくなってしまいました。またある日などは、運転手さんが「めやぐだ（迷惑かけた）」と降りるお客さんに謝っていたので様子を見ていたら、両替機が壊れたせいで、みんな多めに運賃を払って降りていたのでした。「なもなも（何も問題ない）」と笑って降りていく姿に、何だかホッとしました。弘前はまだICカードが使えないので「だら（小銭）」をたくさん持って乗らなくてはなりませんが、あくまでアナログにこだわる姿勢に好感が持てます。バス停が雪に埋もれていたり、何だったら目印の全くないバス停もたくさんあったりする、とてもゆるいバス会社ですが、それでよしとする、あまりきちんとしていない土地柄が好きです。


ハードロックも雑な方が味があって好みです。ばっちり合った演奏はむしろつまらなく、ちょっとずれているくらいがカッコいいと感じます。人間椅子がカバーしている「針の山」の原曲、BUDGIEの「Breadfan」は、歌の合間の決めフレーズのリズムが毎回微妙に違っていて、時に背中がよじれそうになりますが、そこがたまらない萌えポイントです。中間部前のフレーズなど三人バラバラで、もはや誰が正解なのか判然としませんが、つまりは全く合っていないのが正解なのであって、それにグダグダ言うのは野暮というものです。人間椅子を含めて、最近の録音はクリックを聞いてするのでリズムが安定していますが、走ったり溜まったりする楽しみが減って少し残念です。その点IRON MAIDENはそれをしていないようで、スタジオ盤でもライブ感があってものすごく力強い演奏です。特に、3rdアルバム「The Number Of The Beast」に収録されている「Hallowed Be Thy Name」のイントロにはグッときます。カーンと鐘が鳴る部分の溜まり具合がたまりません。中間部の決めフレーズの走り加減も絶妙です。人間椅子もクリック無しの録音を目指して精進したいと思います。


いつも時刻表よりかなり遅れて着く弘前のバスですが、その日はどうしたことか正確にやって来ました。どうせ遅れるとたかをくくってゆっくり歩いていた自分は、慌てて走って雪に滑って思い切り転んでしまいました。両手をべたっとついて転ぶなんて、小学生以来じゃないでしょうか？恥ずかしいやら痛いやらで3秒くらいじっとして動けませんでした。その短い間に、あぁ、雪で転ぶなんて、自分もすっかり東京の人間になってしまったなぁと残念に思うと同時に、早く雪から逃れて東京に帰りてぇ！と心の中で叫んでいました。




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