【インタビュー】TAKUYA、「AARON『Vacation』は人生後半のベスト盤」
数年もの制作期間を経て、ついにAARONのニューアルバム『Vacation』がデジタルリリースされた。おしゃれであり繊細であり、最新鋭でありながら攻撃性を感じさせないスタイリッシュなサウンドが7曲散りばめられている。
AARONは、今の時勢にフィットするような「休日感のある音楽、想像力のある無限の空間を旅する、バケーションのような音楽を作りたかった」と語っているが、この作品を全面的にプロデュースし最高品質の高みまで昇華させているのは、TAKUYAのプロデュース・ワークだ。
JUDY AND MARYのギタリストとして名を馳せるTAKUYAだが、バンド活動とともに数多くのアーティストへの楽曲提供やプロデュース業をこなし、様々なアングルから音楽を俯瞰しながら鋭い嗅覚をもって狙った作品を紡ぎ出す、圧倒的なスキルを放つミュージシャンでもある。『Vacation』は、どのような作品作りを通して生まれたのか。プロデューサーTAKUYAに話を聞いた。
──佐久間正英さんの遺志をついでAARONのプロデュースに携わったと聞いていますが、どのような経緯だったのですか?
TAKUYA:<a-nation 2012>にAARONが出たとき、佐久間さんがバックバンドのバンマスを務めていたんですけど、その時にはすでに佐久間さんの脳に癌が進行していて「もう手の感覚が無くておかしい状態で演れる自信がまったくないから、TAKUYA参加してくれないか」「もしもの時に俺がいなくなったらお願いしたい」って。僕とツインギターだったんですけど、あんなに焦っている佐久間さんは見たことがないというくらい大変そうな時期だったんです。佐久間さんはAARONの日本語版のプロデュースをしていたんだけど、その後を引き継いだ形です。
──なぜ佐久間さんはTAKUYAさんに白羽の矢を立てたのでしょう。
TAKUYA:僕以外にできる人はいないでしょうから。佐久間系列というか、特に晩年は佐久間さんから信用されていたし、多分一番弟子だと思ってくれていたと思う。亡くなったときもいち早く連絡をしてくださったし。
──ギタリストからプロデューサーへは自然に移行していったのですか?
TAKUYA:そもそもプロデューサーって何やる人?みたいなところからですよね。JUDY AND MARYの2ndアルバムで佐久間さんと仕事するようになって、彼をすごいなって思ったんです。あの人はマルチなミュージシャンで全部の楽器ができたし、仕事は早いわ正確だわ「神か」ってくらいほんとにすごかった。そういうのを見てて僕もいつの間にか憧れるようになった。作詞作曲はしていたし、もちろんバンドでアレンジも考えたりしてたんですけど、だんだん音楽全体に興味が沸くようになって、自分でもソロをやったりしてね。そこから「人の曲を書いて欲しい」とか、ギタリストじゃない仕事がだんだん増えていって、プロデューサー業っていうのを始めました。
──佐久間さんの存在が大きな影響を与えたんですね。
TAKUYA:最初はやり方もわかんないし、「今日から俺、プロデューサー」って言った日からプロデューサーなんですよね。一番最初にプロデュースしたのは僕が作詞作曲した猿岩石のシングルで、ビクタースタジオで記者会見とかもやったんですけど、やり方も分からないし自信もないから、プロデューサーの立場で佐久間さんをベースやギターで雇うっていう(笑)。それでちょっと手伝ってもらってね。
──プロデューサーと一言で言っても、メンタルケアに重きを置く人、サウンド自体に手を尽くす人、ヒットへの方程式を重んじる人…様々なアプローチがありますよね。
TAKUYA:どうだろう、よく「どんなギタリストを目指したんですか」とか訊かれるんですけど、最近の僕の答えは「どのギタリストにも被らないように、誰の真似もしないようにしてた」なんですね。プロデューサーも別に誰みたいなのじゃなくて、自分なんだと思います。JUDY AND MARYの最後の頃には「頼ってしまうから、佐久間さんと一緒にいては佐久間さんを超えられないな」と佐久間離れをしたんですね。なのでJUDY AND MARY最後のアルバムは佐久間さんなしで僕がプロデュースして、その辺から10年くらいは佐久間さんと関わらなかったと思います。その間、海外に暮らしたり、佐久間正英がどういう仕事をしてたのかっていうのを、JUDY AND MARYのアルバムを聴き直して勉強しました。
──ほう。
TAKUYA:いったい何を僕らに足していたんだろう、僕らのバンドにどういうふうに接してたんだろうなっていうのを、記憶とCDの音を参考にして勉強しました。実は、JUDY AND MARY時代は周りにザ・ビートルズ好きなミュージシャンが多すぎるから、僕は聴かないようにしてたんですよ。被るとイヤなので。解散した後は、プロデューサーとしてザ・ビートルズは学んでおかないと思い、ジョージ・マーティンの仕事ぶりとかレコーディングの歴史を含め、やっと聴きだしたんですよね。
──学ぶことはいっぱいありました?
TAKUYA:それはたくさん。ザ・ビートルズのレコードの歴史っていうのは、そのままレコーディングスタジオの機材の進化の歴史でもあるので、すごい勉強になるかな。
──そんな中、今作『Vacation』でAARONはTAKUYAさんに何を求めていたのでしょうか。
TAKUYA:以前、日本語バージョンの楽曲を日本で制作する際に、最初に僕が「こういうのがいいんじゃないかな」と提案していて、AARONもそれでいきたいといったところから始まっているんです。7年くらい前だけど大阪と東京でツアーもやったし。その時にAARONの台湾の楽曲も演奏したけど、コールドプレイやエド・シーランのカバーもやったりして、なるほどねとだんだん分かってくる。今作は日本での活動だけど、そもそも日本市場を意識するなんて時代でもないし「だったら英語の曲でもいいんじゃない?」って。そもそも僕もAARONも仮歌は英語で作っているし、万人に届けられる国境のないものにしたいというコンセプトですね。
AARON
──もともとAARONから「こんな歌が歌いたい」という具体的なリクエストは?
TAKUYA:ないですね。僕と彼の付き合いの中で作っていくっていうか「彼にどんな洋服を着せたらいいだろう」みたいな感じ。超イケメンのアイドルがいい年齢の男性に変わっていく時だから、成長したカッコいい音楽を作り上げたいなと思いました。
──楽曲作りに関してはどのように?
TAKUYA:6年前かな、北京で作曲家が集まるキャンプがあって1週間くらい参加したんです。何人かでチームを組んでコライトするんですけど、台湾や中国、いろんなアジアから来た作家と仲良くなったりして、そのとき作った曲がこのアルバムにも1曲入っているんです。それは香港の人と作ったやつ。その後、気の合う劉偉徳(ビクター・ラウ)にAARONを紹介したんですよ。ビクターってもともと台湾で歌手としてデビューしていてめちゃくちゃ歌がうまいんです。いわゆるシンガーソングライターなんだけど、英語も喋れてトラックも作れる。プロデューサーでもありスタジオも持っているんですよね。で、AARONともすごい気が合って、AARONが彼からボイトレを受けるようになってね、その流れからAARONの歌のレコーディングは全部ビクターに任せることになった。歌の先生の役割をしているビクターのジャッジで録ることで、プロデューサーの僕もびっくりするくらいAARONの歌が上手くなったんですよ。
──色んな人の才能が絡み合っているんですね。
TAKUYA:台湾の別のプロデューサーとか、今回いろんな人とコライトしています。AARONというアジアの大スターですから、みなさん喜んで参加してくれるんですよね。
──出来上がった時の手応え、その質感はどうでしたか。
TAKUYA:僕の人生後半のベスト盤じゃないかなと思ってますよ。良く出来過ぎだとも思うし、10~20年くらいして「過去の作品でどれか一番よかったですか」って聞かれたら、この『Vacation』(AARON)か『THE POWER SOURCE』(JUDY AND MARY)か悩むなーっていう感じ。
──それはスゴイ。
TAKUYA:実は2年前くらいにバックトラックはほぼ全部出来てたんですよ。本当だったら去年か一昨年くらいにはワールドツアーやろうねって話だったんですけど、それが新型コロナウイルスによって何もかもがストップし、AARONも台湾から出られなくなってしまった。逆に腰を据えて歌に向き合える時間ができたことがラッキーだったと思う。
──なるほど。いろんなケミストリーが作用しているんですね。
TAKUYA:アジア中の作曲コンペに何度も参加して、デキる腕利きと出会っているので、出来上がりのトラックを聴いてすごく良いチームでやれたなって思います。1曲目「Do u think of me」はJerryCというウルトラ有名な…それこそ「CANON ROCK」を作ってYouTube1億再生とかで有名になった台湾のヒットメーカー/プロデューサーとのコライトですね。
──色んな出会いが音楽に結びつく。
TAKUYA:そうですね。今回は日本と台湾の融合のクリエイトチームですけど、世界中にクリエイティブの仲間を広げていって、今は一緒に作れる国際的な仲間がたくさんいます。そういう仕事あれば受けますよ(笑)。
──そのつながりこそ、何よりの財産ですね。
TAKUYA:日本人のいちばんの問題は言葉ですよね。アジアのイケてるミュージシャン/クリエイターはみんな英語ができるんです。その壁があるでしょうけど、多少言葉ができなくても異国の誰も知らないキャンプみたいなのに1週間飛び込んでいけるかっていうところかな。
──TAKUYAさんは、もともとそういう性格だったんですか?
TAKUYA:そうですね。アウェイ上等で、もともとJUDY AND MARYも後から入っているし、困難なことほどおもしろいと思っている。
──今作に関しては、ぜひライブもやりたいですね。
TAKUYA:ライブはやると思います。まだ未定ですけど、絶対やろうっていう話はしてるんです。
──作品は英詞ですし、ワールドワイドな活動が期待されることと思います。
TAKUYA:欧米の人たちに向けて作ったわけではないけれど、世界中に住んでいるチャイニーズ/アジア系の人には刺さるんじゃないかなって思います。そういう層にうまく届かないかなと思って作りました。特に宣伝とかしているわけでもないし、こればっかりはわかりませんけど、1年後でも5年後でもどこかの国で「知らない間にこの曲が流行ってますよ」みたいなことがあるといいですね。もうほんとに完璧じゃないかなと思っているんで。
──どんなきっかけでバズるかわからない時代ですから、ほんと楽しみです。
TAKUYA:あとね、日本だとどうしてもJUDY AND MARYっぽいJ-POPものの仕事を頼まれる事が多くて、そういうことばっかりやってる人なのかなって思われがちなんです。もちろんそれもいいんですけど、一方で今回のアルバムは「僕は、違う引き出しでも音楽を作れるんです」といういい名刺にもなったかな。
──TAKUYAの知らなかった側面に、びっくりするかもしれないですね。
TAKUYA:イギリスやLAでコライトした作品ストックもあるし、コロナ禍が収まったら世界中のクリエイターとの制作活動をもっと積極的にやろうと思っています。逆に日本の作家がすごい興味を持ってくれて、台湾の作曲キャンプを紹介したりと、そういう流れが強まっているのも楽しみですよね。BTSが世界的に売れている状況ですけど、アジアのムーブメントって近隣諸国から欧米まで繋がっていくと思う。良くも悪くも日本だけがガラパゴス状態ですけど、国境とかって時代じゃないし、アジアンヒットみたいなの生まれてくるだろうし。
──クラウド上の音楽が世界中を自由自在に飛び越えていく時代ですもんね。
TAKUYA:世界の人が一瞬のあいだに音楽の歴史をいっぺんに聞いてる状態になっていて、エルヴィス・プレスリーもザ・ビートルズもマイケル・ジャクソンもヴァン・ヘイレンもザ・ローリング・ストーンズも全部今日知ったみたいな世界。すごいミュージシャンもいっぱい出てくるだろうし、ものすごいことになるだろうって予感がしています。そういう人たちに「TAKUYAさんはすごい」って言われながら死んでいきたいな(笑)。
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『Vacation』は新型コロナウイルスが世の中を脅かす前にレコーディングされており、長期間のボーカルレコーディングを経て、コロナ禍の2021年11月に登場となった。そんな『Vacation』は、AARONにとってとても不思議な作品でもあるという。
「バケーションの意味はコロナの前と後で大きな違いがあって、この世を生きる人たちにとってとても難しく貴重なものになってます。この『Vacation』はこの変化を記録した作品なのです。同時に、世界中の全ての物事に対する定義と見る目は、時間と共に変わっていくことを皆さんに伝えている作品でもあります」──AARON
そしてAARONは、この作品を通して「頑固一徹になるのではなく、偏見も執着心もなくしたほうがいい」とも語っている。それはいつも自由自在に生きているTAKUYAの世界に対する考え方でもあるようだ。「TAKUYAさんは世界中を飛び回って色々な文化に触れ、経験を重ねています。とても自由な魂を持っているところが、TAKUYAさんの魅力だと思います」と、TAKUYAへのリスペクトとともに『Vacation』が持つ柔軟性と先進性を生み出した真相を語ってくれた。
取材・文◎烏丸哲也(JMN統括編集長)
AARON『Vacation』
1. Do u think of me
作詞:Victor Lau 作曲・編曲:TAKUYA, JerryC, Victor Lau
2. Vacation
作詞:Victor Lau 作曲・編曲:TAKUYA, Victor Lau
3. Get 2 U
作詞:Victor Lau, AARON 作曲・編曲:TAKUYA, Victor Lau
4. Who Do You Think You Are
作詞:Victor Lau 作曲:TAKUYA, Nash Overstreet 編曲:TAKUYA
5. I'll be on mars
作詞:Mayu Wakisaka 作曲:TAKUYA, Kenichi Takemoto 編曲:Paul Ballard
6. Waiting in Line
作詞:Victor Lau 作曲:TAKUYA, Victor Lau, Kenichi Takemoto 編曲:Victor Lau
7. Celebrate
作詞:Alex York 作曲:TAKUYA, Cousin 編曲 Paul Ballard
◆『Vacation』配信リスト
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