【インタビュー】河口恭吾、様々な物語や背景が詰まった20周年の集大成アルバム『No Rain No Flower』
昨年11月にデビュー20周年を迎えたシンガー・ソングライターの河口恭吾が、アルバム『No Rain No Flower』を完成させた。本作には、昨年から発表してきたFLYING KIDS、ISEKI、片岡鶴太郎、川崎鷹也とのコラボレーション楽曲や、本来であれば20年前にシングルとして発表される予定だったという幻の楽曲「Shibuya」をリード曲に据えるなど、様々な物語や背景が詰まった楽曲群を収録。アルバムに書き下ろした楽曲も、これまで河口がとってこなかったアプローチで制作されており、20周年にしてまた新たな扉を開く意欲作になっている。本作リリース後に控えている20周年ライヴ含め、リモート・インタビューで話を聞いた。
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■一個人の気持ちは根本にありつつ
■曲を聴いてくれた方のほうにフォーカスを合わせていた気がします
──昨年の11月にデビュー20周年を迎えて、様々な楽曲を発表してこられましたが、この1年間を振り返ってみるといかがでしょうか。
河口:20周年がまるっとコロナ禍になってしまったんですよね。これまでずっと続けてきたミュージシャンとしての日常をなかなか送れない日々の中で、やっぱりお客さんの前でライヴができるというのは当たり前のことではないんだな、と。そういうことに始まり、世の中が非常事態のときに、自分と社会の接点になっている音楽というもので、どういうメッセージを発信していけばいいだろうかというのは、だいぶ考えながらの日々でしたね。
──そこで考えていたことが、20周年を記念したアルバム『No Rain No Flower』に収録されていると。
河口:そうですね。
──作品の全体像みたいなものを考え始めたのはいつ頃でしたか?
河口:アルバムの全体像というのが、正直なかなか自分の中では見えてこなくてですね。去年の8月に「明日は晴れるだろう」というシングルを出した頃に、20周年のアルバムを作ろうという話は出ていたんですが、コロナ禍でなかなか思うようにいかず。ただ、リリースはコンスタントにしていきたかったですし、いろんなアーティストの方とコラボレーションしたシングルを出していく話はもう決まっていたんですよね。そのコラボを通して本当にたくさん刺激をいただきつつ、自分自身のオリジナル楽曲を同時進行していく日々だったんですよ。だから、アルバムはこういうふうになるんじゃないかなというのは、制作の後半になってこないとわからなかったですね。ただ、先ほどお話しさせていただいたような、コロナ禍での心情というか、世相みたいなものは各楽曲の中に織り込まれている気はします。
──そうですよね。世の中のムードや空気感をすくいあげている楽曲が多い印象はあったんですが、そこは自然とそういう曲が生まれてきたんでしょうか。
河口:意識してそうしたところもありますね。こういう状況で、音楽はどういうふうに機能すればいいんだろうと思ったときに、とどのつまり、平たく言うとエンターテイメントというか。疲弊している方々が聴いていただいたときに喜びを感じたり、ポジティヴな気持ちになっていただけたり、辛い現実から一時逃れられて、音楽の中に思いを馳せていただくとか。そういう作品を作りたいというのは根本にありましたね。自分がいまこういう時期に作る意味があることをやりたいなと思っていました。
──コロナ禍に生きるミュージシャンであり、アーティストの使命というと大袈裟になってしまいますが、そういうものなのかもしれないと思ったところがあったと。
河口:やっぱりシンガソングライターなので、自分の心情みたいなものを20年近く表現してきたんですが、こういう状況になると、一個人の心情ってどれほど意味があるんだろうかということをすごく考えたんですよね。だから、曲や歌詞を書くときに、一個人の気持ちというのは根本にはありつつも、曲を聴いてくれた方のほうにフォーカスを合わせていた気がします。
──今までの作り方とは少し違っていたこともあって、また違うものが見えてきたりもしました?
河口:そこは今回コラボをしようと思ったところとも通じているんですが、新しい言葉やメロディを歌いたいという純粋な欲求みたいなものがあるんですよね。それと同じく、今までと違ったアプローチで、聴いていただいた方の心情みたいな部分を思いながら書くというのも、正直あまり今までなかったことではあるので。そういった意味でも新しい試みができたかなと思います。
▲『No Rain No Flower』
──今回は4組の方々とコラボレーションをされていますけども、どの方と一緒にするのかはすぐに決まりました?
河口:そうですね。決まった順から作業していったんですよ。そのレコーディングが終わったら次の方という感じでした。
──第1弾として発表されたのが、FLYING KIDSを迎えた「マイ・アイデンティティー(feat. FLYING KIDS)」という曲で。
河口:何か関係性がある方にお声がけしたいなと思っていたんですよね。そのなかで、一昨年にライヴでご一緒させていただいていたし、浜崎(貴司)さんは同郷の大先輩というのもあって、今回お願いしました。
──楽曲を作る際に、いろんな話し合いはされたんですか?
河口:曲を書いてくださいませんか?というお願いをしたときに、最近自分が思っていることを浜崎さんにお話ししたら、最後に“それって河口くんのアイデンティティの問題だよね”っておっしゃったんですよね。
──アイデンティティの話となると、かなり濃いお話をされたんですか?
河口:なんか、僕の暮らしの愚痴みたいな感じでしたけどね(笑)。その2週間後ぐらいにこの曲が送られてきたんですが、人間の弱い部分とか、人に見せたくない部分がありありと描かれているのを見たときに、やっぱりソングライターがやるべき仕事ってこういうことだよなって改めて感じました。
──自分を曝け出して楽曲を作るという。
河口:もちろん普段からそういう気持ちで作品を作ってはいるんですけどね。ただ、やろうと思っているけど、なかなかそこを描ききれないところがあって。浜崎さんはそういった心の真ん中をきちんと捉えられるソングライティングができる方なので、こういう曲を書けるように自分も頑張らなければなって思いましたし、この曲をレコーディングしたことで、『No Rain No Flower』というアルバムを作る上でのひとつの指針みたいなものをいただいたような気がして。常に「マイ・アイデンティティー」を見ながら、自分のオリジナル楽曲や他のコラボ曲を作っていった感じもありますね。
──コラボ第2弾はISEKIさんとの「lai・lai・lai(feat. ISEKI)」。ISEKIさんとも過去に共演されていましたが、制作されるときにはどんな話をされたんですか?
河口:詞の内容については、いまの空気感みたいなものを反映させたいというのと、曲に関してはキマグレンの代名詞でもあるEDM+ラテンテイストみたいなものを入れてほしいというのはリクエストさせてもらいました。やっぱりISEKIくんらしさがほしかったので。
──楽曲の空気感としてはとても軽やかですよね。
河口:ISEKIくんのメロディって独特なんですよ。一緒にレコーディングスタジオに入って、歌い方とかもISEKIくんからアドバイスをもらって、彼のメロディのツボがわかったりした瞬間があったので、おもしろかったですね。
──一緒に作業することで見えてくるものってやはり多いですか。
河口:そうですね。同じソングライターとはいえ、それぞれの作り方があるので。そういうのを見れるだけでも楽しいですよね。
──第3弾は、片岡鶴太郎さんが作詞されている「ぬれ椿」。鶴太郎さんとはかなり以前から交友があったそうですね。
河口:13、14年ぐらい前にバラエティ番組でご一緒させていただいたのが最初のご縁でした。それからご飯に誘っていただいたりとか、個展に行かせていただいたりして、あっという間に今という感じですね。この曲は、まず鶴太郎さんに詞を書いていただきました。どんなテーマでもいいので詞を書いていただけませんか?とお伝えして、それに僕が曲をつけさせてもらいました。
──特にテーマをお伝えしたりはしなかったんですね。
河口:いっても鶴太郎さんは作詞家ではないので、シチュエーションを限定するのも酷だなというのもありましたし、お忙しい方なので、そこまで細々したことを頼めないなと思って(笑)。
──届いた歌詞を見ていかがでしたか?
河口:鶴太郎さんは「椿」というタイトルで絵画をたくさん書かれていますし、鶴太郎さんにとって、椿は画家を始めるきっかけになった花というエピソードを知っていたんですよ。その大事なモチーフを、初めて作詞していただいた作品に取り上げられたということに、鶴太郎さんの心意気みたいなものを非常に感じましたし、嬉しかったですね。しかも、歌詞をお願いしてから20分かからないぐらいで送っていただけたので、本当にすごいなと思いました。僕は詞を書くのが遅いので(笑)。
──そして、第4弾は川崎鷹也さんとの「Stay Blue(feat. 川崎鷹也)」。他のミュージシャンの方とは違って、この曲は河口さんが作曲をされていますよね。
河口:川崎さんは、僕がやっているラジオ番組にゲストで来てくれたときにお声がけしました。声がとても素晴らしいアーティストなので、彼の声が最大限活かせるもの、そこに自分も共存できるような楽曲にしたいなと思っていました。
──歌詞は共作ですね。
河口:基本線は僕が書かせてもらって、2番は川崎さんに書いてもらいました。僕と川崎さんは20歳ぐらい年齢が違うんですが、ギターを持って歌うソングライターというところで、20年前の自分を川崎さんに勝手に重ねているような節が、自分自身にあって。そういう意味でも、“Stay Blue=いつまでも青春のままで”というテーマを選びました。
──川崎さんとも同郷ですよね。それもあってより近く感じたりされます?
河口:そこもありますね。でも、川崎さんのほうがソングライティングのスキルは格段に高いですから。僕はあの年齢のときにああいう曲は絶対に書けていなかったですからね。素晴らしいなと思います。
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