【コラム】AI、ドラマ『カムカム』の枠を超えて感動を呼ぶ「アルデバラン」の歌詞に深い時代性と強い共感

11月1日に東京・東京国際フォーラム ホールAで開催された20周年ツアーのファイナル公演＜AI 20周年記念TOUR “IT’S ALL ME” FINAL 〜AI Birthday Special〜＞で聴いた新曲「アルデバラン」(作詞・作曲：森山直太朗)は、ライブから2週間以上経った現在も、豊かな感動とともに強く記憶に残っている。

◆AI 動画 / 画像

懐かしさと壮大なスケールを共存させたメロディ、ソウル、R＆B、ゴスペルのテイストを織り交ぜたアレンジも素晴らしいが、その中心にあるのはやはり、森山直太朗が紡ぎ出す歌詞。特に“笑って笑って 愛しい人 / 不穏な未来に 手を叩いて / 君と君の大切な人が幸せであるそのために”というフレーズが観客に手渡された場面は、この記念すべきコンサートのハイライトの一つだったと言っていいだろう。

11月10日には、「アルデバラン」のライブ映像が公開 。視聴者からは「AIが歌うとなんでこんなに届くんだろう??って不思議なくらい歌詞が胸に響く」「最初の「君と…」から鳥肌が止まりません。心に響く歌詞で泣けます」「聞けば聞くほど、寄り添ってくれる歌と気付きました」といったコメントが寄せられた。


NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』主題歌として大きな話題を呼んでいる「アルデバラン」。放送スタート後、毎回、歌詞検索サイトでランキング1位を獲得するなど、ドラマとの親和性の高い歌詞に注目が集まっている。特に印象的だったのが『カムカムエヴリバディ』第8話での楽曲の使われ方だ。お見合いすることになった橘安子(上白石萌音)が、雉真稔(松村北斗)に会うために大阪に行く。岡山に戻る列車のなかで、涙を浮かべる安子と“君と私は仲良くなれるかな この世界が終わるその前に”という歌詞が重なる──軍靴の足音が近づくなか、心を寄せ合う安子と稔の心境と「アルデバラン」のメッセージが強く結びついたこの場面は、放送直後から凄まじいまでの反響を呼び起こした。

戦前、戦後、令和まで100年を描く『カムカムエヴリバディ』の主題歌「アルデバラン」の歌詞は、ライブ映像に寄せられたコメントからもわかるように、楽曲が浸透するにつれて良い意味でドラマの枠を超え、多くのリスナーの心に寄り添っている。その背景には、現在の社会の状況もあるはず。大切な人といつ会えなくなるかわからない。先行きは見通せないし、不安なこともたくさんある。でも、だからこそ、“愛しい人”には笑っていてほしいし、幸せであってほしい。そんな祈りにも似た思いが、「アルデバラン」の歌詞には込められているのだ。

「会えない時の静寂が / 永遠にも思える夜 / その孤独に互いの愛を知るの」という歌詞も強く心に残る。コロナ禍に覆われたこの2年間のことを振り返りながらこのフレーズを聴くことで、癒しや救いにも通じる感情を覚える人も多いのではないだろうか。


「アルデバラン」の歌詞は、AI自身にとっても多くの気づきに満ちていたという。この曲のリリース時のインタビューで彼女は、こう語っている。

「自分で歌詞を書くときは、私だけの感情にならないように意識してるところがあるんです。なので「アルデバラン」の“私だってそうよ”みたいな歌詞は、自分ではたぶん書かないんですよ。“ペテンな時代に 負けないように”や“その孤独に互いの愛を知るの”も絶対に私からは出てこない言葉で。でも、歌詞を読むと“本当にそうだな！”っていう感じがすごくあったんです」──AI

彼女自身が強く共感し、心の底からの実感を込めて歌っているからこそ、この曲の歌詞は多くのリスナーに届き、それぞれの人生や日常に彩りを与えているのだ。

『カムカムエヴリバディ』の物語が進むにつれて、「アルデバラン」の奥深いメッセージはさらに広がっていくはず。現代を生きるすべての人に寄り添い、力を与えてくれる、本当に豊かな歌だと思う。

取材・文◎森朋之