【インタビュー】ケンイシイ、「Art of Operationでは、いかに音楽的な面白さ、ひねり、普段観れないところを入れていくか、それを意識している」
ケンイシイがオペレーター/ナヴィゲイターを務めている「Art of Operation」は、“オペレーションの極意”という言葉通り、DJのオペレーションを徹底的に解剖するスタイルでお届けする全く新しいDJライブストリーミングだ。毎月、生で、素晴らしいDJのオペレーションを観せてきたケンイシイ。昨晩本人から発表が合った通り、11月には10年振りとなるライブも行うという彼に、その真意を聞いてみよう。
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■自分のプレイを継続できるいいチャンスでもあったし
■普段通りやりたいことをやれるのがArt of Operation
──このコロナ禍はどんな生活をしていましたか?
ケンイシイ 地味な生活ですよ(笑)。最初の数ヶ月間、DJの現場はほとんどなくて、プレイする側もお客さんも去年1年間は手探り状態でした。今年は少しづつやってきてはいるけれど……お客さんも100%戻ってきてないし、まだ本調子じゃない感じがします。ある意味、こういう状況でも来てくれるお客さんは熱があるから、やっていて楽しいし、一回一回のプレイを大切にしていますね。
──肌感としては何割くらい戻ってきている感じですか?
ケンイシイ 海外が全くないし、ショーという意味だと半分ない感じ。プラス、日本でのプレイも以前のように多くはないので……半分以下くらいの気持ちですね。DJって毎週毎週プレイすることで、ここはよかった、ここはそうじゃなかった、と積み重ねで良くなっていくんです。今は一回やって1ヶ月空くというパターンがあるので、自分自身、“感”が完全に戻ってきてないというか。
──DJプレイがないときは楽曲制作を?
ケンイシイ そうですね。自分がもともとプロデューサーとして出てきたのもあるし、昔から音楽を作ること自体が好きで時間があれば制作していたいタイプなんです。なので、イベントや出演がなくなった分、新しいソフトウェアや機材を取り入れてみたり、これまでやってなかったことをトライしてみたり、エンジニアリング的なことをネットで調べて勉強してみたり……そういう意味では“学びの時間”にはなったかな。
あとは横のつながりでシングル/EPをいろいろなところから出してますが、その数もかなり多くなって……できるだけできた時間を有効利用しようと、最初の時点で気持ちを変えてましたからそこはプラスになったのかな。
──そんな中、DJライブストリーミング「Art Of Operation」はどんな形で始まったのですか?
ケンイシイ MUSIC/SLASHのボス・光晴(谷田光晴/株式会社SPOON代表取締役)くんに声をかけられたのが最初です。もともと僕のイベントでVJをやってくれていて、そこからたびたび、「いつかやるんでそのときには……」と“匂わせ”をされていて(笑)。何をやるんだろう?と思ってたら、たまたま去年スタートで、「こういうことをやります、始めるにあたり、ケンイシイを軸に行きたいと思っていた」と、すごく熱い話があって。毎週やってるからこそ落ちない腕もあったりするので、自分のプレイを継続できるいいチャンスでもあったし、コンセプトもまったく妥協しなくていい、普段通りやりたいことをやってくれということだったので、そこがフィットしましたね。
──お客さんもいないし、雰囲気も違うし、クラブでやるときとは状況が違いますよね? やりにくいですか、やりやすいですか?
ケンイシイ 最初は、来るべきところで反応が来ないとか、だいぶ違和感がありました。通常DJプレイは、会場だったら観客を盛り上げるための展開がかなりの割合を占めているけど、そこはちょっと減りました。例えばここぞというときに長いドラムブレイクを作って、ワーッとさせることが、配信の場合必ずしも必要ではない。とはいえクラブの代わりとして観ている人も多いと思うので、自分だったら今クラブでこういうプレイをするよ、というものをメインにしながら、選曲は普段お客さんの前でプレイするよりはちょっと自分が“プレイしたいもの”によっている感じですね。
──より個人的な選曲でしょうか?
ケンイシイ そっちによってますね。あとは曲を作り続けていたので、新しい曲を披露する場にもなっています。
──クラブではなかなか観ることができないケンイシイのプレイが、配信だと観れる?
ケンイシイ そう、この場でしかできないことをやりたい。クラブ的なものを求めている人は、選曲や曲の良さ、ノリの良さじゃなくて、あの大きい音に包まれているということ自体が第一なわけで、その代わりにはなれない。だからいかに音楽的な面白さ、ひねり、普段観れないところを入れていくかは、意識しているところですね。
■テクノらしいテクノを
■シーンにしっかりキープしたい
──DJプレイ中に“観え方”的に気をつけていることはありますか?
ケンイシイ 長くやっているのであります。というか、初期のころにDJするときの観せ方は考えましたね。人のプレイを観る、ここはかっこいい/かっこ悪い、ここは自分でもイケそうだ、そんなことを、90年代に意識してたことが、今までズーっと続いている感じかな。
──ちなみにそのときに参考にした人は?
ケンイシイ デリック・メイやジェフ・ミルズ……やっぱり自分が好きなDJたちですよね。真似できるかできないかでいうと、例えばデリックはあの観た目/ガタイがあって、それに音楽が繋がっているので、真似できない(笑)。音と顔、表情と全部つながっている部分があったりしますよね? そんな中で例えばヨーロッパ人DJだったら、アメリカ人DJだったら、アジア人DJだったらどうなのか、いろいろ観て、自分だったらどういう観せ方がいいのか……あとは無理してない、観せてない感じ。顔が真顔なのに、無理して手だけグルングルン盛り上がっているDJは嫌だなとか(笑)。そういうのを積み上げていって、今がある感じなのかな。
──Art Of Operation的に見栄えがいいと思うDJはいますか?
ケンイシイ Art Of Operationってことだと、よりの映像、表情もそうだけど、手捌き指捌きを観たいと思ってる。なので、そこの動きの美しい人。ノブやフェーダーをキチンといじる人と言ってもいいのかな。DJやること自体は難しいことじゃなくなってきてるけど、それよりも職人技的な部分を持っている人を観せたい。佇まいもそうだけど、例えば音を消して観ても、この人何か面白いことをやってそうだ、と思わせる人とか。
──ケンイシイが観たいものが、これからのArt Of Operationの方向性でもある?
ケンイシイ 基本的にはそこですね。あとはいわゆるテクノらしいテクノを、シーンにしっかりキープしたいという思いもあります。テクノもいろいろなスタイルがあって、それ自体はいいことだけど、もともと自分たちがやってきたテクノ=王道のテクノをしっかり打ち出したい。
──近々Art Of Operationでライブをやるそうですが、どんな内容になりますか?
ケンイシイ コロナになって目標が見えづらくなっている中で、一回そういうところまでやってみたいというのがあって。その気が熟して近いうちにできるかなと。しかも毎月やってきたArt Of Operationという枠の中で。集大成的な部分をライブで出せると思っています。
──ちなみにライブは何年ぶりに?
ケンイシイ 分からないくらいやってなかったから調べてみたんですよ。そしたらたぶん10年ぶり。なので、絶賛悩み中でもあって……。10年の間にいろいろなもの、自分の音楽も変わってるし、作り方、鳴らし方、アレンジの仕方、それに何より機材をはじめテクニカルを取り巻く部分がだいぶ変わってるので、どこを残して、どこを新しくするか……課題でありそこが面白い部分でもあるけど、どう組みわせていくか。単純に曲を決めてセット作ってというところじゃない部分の課題が多くて、久しぶりに自分、頑張ってるなと(笑)。
──しかも生配信なんですよね。
ケンイシイ そこはArt Of Operationの売りにしたいところですから。空気感、緊張感……そこがひとつのこだわりでもある。ゲストに来てもらってるけど、ゲストのプレイを観ると普段ない緊張感があるんですよ。クラブだと前のDJがプレイしているときは、他の人と談笑していたりして、DJプレイを直接観ずに盛り上がってるな、と感じるくらい。Art Of Operationでは自分も同じスタジオにいて、ここすごいな、ここ面白いなと集中してフルセット観ているわけ。近しい人間によると、顔が硬くなってて、いつもとだいぶ違うと(笑)。クラブだとたとえ最初で失敗しても、取り返せる瞬間があるけど、Art Of Operationでは失敗しづらい気持ちがあります。
──今後、他の人のライブも見れる可能性がありますか?
ケンイシイ Art Of Operation運営側としては基本DJの所作の美しさを追いたいというテーマがありますが、テクノってDJセットの間に入ってくるライブもあるわけで、自分としてはそういうのをやってる人たちを呼んでみたいですね。
──最後の質問ですが、コロナ後のクラブシーンについてどう考えていますか?
ケンイシイ アメリカ/ヨーロッパは何ヶ月か先を行っていて、それを見ていると、むしろ前よりも現場は盛り上がっている。まずはそれを期待したい部分はあります。アメリカ/ヨーロッパみたいに全くできない期間があって、できるようになってワーッとなっているけど、日本は一年くらい半分できて半分できないという状況が続いていた。日本の場合はじわじわ元に戻っていくのかなと。自分としては戻ってきてほしいし、とはいえ、世界的にストリーム文化は根付いたと思うので、これはこれでズーッと続いていくものだと思っています。家にいる人用に楽しめる何か、クラブ行ける人は行ってください、という感じなのかな。ストリームは、踊るより音楽を楽しむ方向へ、役割が多少変わっていくんじゃないかと思ってます。
<Art Of Operation - KEN ISHII Exclusive Live Set ->
チケット:https://eplus.jp/kenishii-ms/
◆ MUSIC/SLASH オフィシャルサイト
◆ ケンイシイ オフィシャルサイト
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