【インタビュー】岸田教団&THE明星ロケッツ「人間味のあるグルーブをみんな求めている」

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2021年にメジャーデビュー11周年を迎えた岸田教団&THE明星ロケッツが、彼らにとって初となるベストアルバム『異世界転生したらベストアルバムでした。』をリリースした。

同作はこれまで彼らが手がけてきたアニメ主題歌を網羅したDisc Aと過去曲9曲を新録したトラックを収録したDisc Bの2枚組という豪華仕様。さらに、これまでの岸田教団&THE明星ロケッツを総括すると同時に、今後の彼らを予感させる作品であることも注目といえる。岸田教団の過去と現在、そして未来についてリーダーの岸田(B)とシンガーのichigoにじっくりと話を聞いた。


──10月20日、岸田教団&THE明星ロケッツ史上初のベストアルバム『異世界転生したらベストアルバムでした。』がリリースされました。

岸田:僕らは2021年にメジャーデビュー11年を迎えまして、急にアーカイブをしようという気持ちになったんです。これを作ってから次にいきたかったんですよね。やりたいことがあって、それをやる前段階としてベストを作って、そこで今後の岸田教団& THE明星ロケッツを少し予感させるものにしたいなと思ったんです。それで、過去曲を録り直したトラックも入れることにしました。

──いつもながら、やりたいことが明確ですね。今作は2枚組で、Disc Aはこれまで手掛けてきたアニメ主題歌のオリジナル音源と「HIGHSCHOOL OF THE DEAD」の再録トラックが収録されています。2010年にデビューされたときに、沢山のアニメ曲を作っていくことになるという予感はありましたか?

岸田:全くなかったです。少し経ってからも頃合いのいいところで、いかにいい感じに軟着陸してアニメから離脱しようかなと思っていました。だって、続くわけがないと思っていたから。グチャッと着陸して消えてしまうんじゃなくて、上手いこと軟着陸してやっていければいいなと思っていました。

ichigo:私も全く思っていなかったです。デビューしたときも岸田から「メジャーデビューの話がきているんですけど、どうします?」という話がきて、「…しとこうか」みたいな(笑)。それくらいな感じだったんです(笑)。

岸田:一応メンバーみんなの意向を聞いておこうと思ったんで(笑)。


ichigo(Vo)

ichigo:元々私は高校生のときからバンドをやっていて、メジャーデビューが目標だったんですね。子供の頃にやっているバンドというのはあまり深く考えずにメジャーデビューが夢じゃないですか。私は本当になにも考えていなくて、20代半ばくらいになって、「あれあれ?デビューできないじゃない。これは、どうしようかしら?」と思っていたときに、岸田教団&THE明星ロケッツをやるようになって。地元のバンドで活動していた頃は、お客さんは腕を組んでライブを観ている…みたいな。ライブハウスのちょっと端のほうが人で混んでて、真ん中にはいなかったりして、つまらないなと思っていたんです。このバンドに入るまではそういう感じだったけど、同人のイベントに岸田教団&THE明星ロケッツで初めて出たんですね。会場が川崎CLUB CITTA’だと聞いていたけど、当時はCLUB CITTA’の規模がわかっていないわけですよ。いってみたら1,000人のお客さんでパンパンで、みんなが「オイ! オイ!」いっている状態だったという。もう、ビックリして(笑)。ただ、そのときは、ライブは大失敗して終わったんだよね?

岸田:そう。

ichigo:それで、このままというのはあまりにあまりだし、もう1度チャンスがあるなら出させてもらおうよといって翌年も出させてもらえることになって。そうしたら、いいライブができたし、お客さんもアマチュアのバンドでは考えられないテンション感で、そういうライブは初めてだったから、すごく楽しかったんですね。でも、まさかそこからメジャーデビューとは思っていなかった。メジャーデビューという話をされたときも「いこうよ」と応えたけど、そこから先のことはほぼなにも考えていなかったんです。だから、こんなに沢山アニメの曲をやらせてもらうことなって、岸田教団&THE明星ロケッツが10年以上もメジャーシーンでも続くとは夢にも思っていなかったです。

──デビュー当時は、そうだったんですね。実際10年にわたって沢山のアニメ曲を手がけるというのは大変なことだと思います。

岸田:そうですね。毎回結果を出して一定の実績を作らないと、普通に次の人に変わってしまうので。

──長く続けるにはアニメというものを理解していることやいい曲が書けることは大前提で、さらにそのときそのときの時代性を入れていく必要があると思います。今回のベストアルバムを聴いて岸田教団&THE明星ロケッツが、そこをしっかり押さえてきたことをあらためて感じました。


岸田(B、G)

岸田:そう。僕らはずっと同じだと思われがちですけど、意外とそのときそのときで違っているんです。時代性は、結構意識していますね。時代性の芯になる部分を活かすようにするし、時代性はリズムに出るのでリズムの細かい組み方を考えたりする。表面上のわかりやすい変化みたいなものは、それ程大事ではなかったりするんですよ。今この世の中で発売されていておかしくない音楽を作らないといけないという意識で取り組んでいます。

ichigo:岸田は、時代を代表するヒット曲がすごく好きだよね?

岸田:うん。

ichigo:着目している部分が表面ではなくて、リズムの部分だったりするから。

岸田:そう。リズムが重要で、上物のアレンジとかメロディーを見ているわけじゃない。

──その辺りは、本当にさすがです。たとえば、「Blood and Emotions」はEDM感がありつつモロなEDMではないんですよね。

岸田:当時はEDMがすごく流行っていたから、1回くらいはやっておこうかなと思って(笑)。でも、モロにやるのはつまらないから、EDMのエッセンスを入れるという方向性で作りました。「Blood and Emotions」は、結構がんばりましたね。当時はあまり慣れていなかったので、久しぶりに真面目に打ち込みをやりました(笑)。

──少し香らせるというのは、実はEDMであればEDMをかなり聴いていないと無理だと思います。聴きかじっただけだと、そのままになってしまいますよね。

岸田:たしかに。実際あの頃は、かなりEDMを聴いていました。だから、EDMのここを押さえれば自分達の個性とEDM感を融合できるというのがわかったんです。そういう作り方だったから、「Blood and Emotions」を作るのはすごく楽しかった。


はやぴ~(G)

──他にも「シリウス」は、当時流行っていたエモロックの匂いがあります。

岸田:ブリング・ミー・ホライズンとかね。その辺りをイメージして「シリウス」を書いたけど、これは岸田教団&THE明星ロケッツがやることじゃないなと思って、1回でやめました。

──個人的には爽やかな岸田教団&THE明星ロケッツを味わえる「シリウス」も、すごくいいなと思います。さらに、「nameless story」と「暁のカレイドブラッド」は、ここ1~2年のロックならではの圧倒的な疾走感を活かしています。

岸田:そう、今のタイム感は、これくらいの速さだなと思って作りました。僕は昔から世の中の音楽のタイム感はタルいと思っていたんです。それで、自分よりも10~20才年上の人に何度もテンポが遅いといって、そのたびにヒドい目に遭ってきた。メチャクチャ偉い人に、遅いのでなんとかなりませんかと言ったことが何度もありますよ。本当に誰もが知っているビッグネームにも臆せず言ってきたんです。僕はもう何年も前から、こういうタイム感になるだろうと思っていたし、こうなってほしかった。だから、今は時代に合わせるというよりも自然に生きていけるので、気分が楽になりました。

──岸田さんも、岸田さんのタイム感を形にできるメンバーの皆さんもさすがです。

岸田:ちなみに、「nameless story」と「暁のカレイドブラッド」のみっちゃんのドラムはノン・エディットで、そのまま活かしました。一撃です。


みっちゃん(Dr)

──やりますね。ichigoさんの歌も「nameless story」や「暁のカレイドブラッド」のように圧を保ったまま畳みかける歌は本当にレベルが高いと思います。

ichigo:そこに関しては、ここ近年は英語の感覚に近づけています。英語の歌の練習をした後にレコーディングすると、すごく子音が出しやすかったり、言葉を乗せやすかったりするんですよ。最近はライブとかでもだいぶ意識できるようになったんですけど、英語って音がいい感じに硬くて引っかかりがあるから、速い曲でも引っかけることでリズムを出せるんです。それは、ここ数年は意識していますね。あと、速い曲は難しくて、油断すると逆に走っちゃったりするんですよ。ブレスできる場所がなかったりするし。

──わかります。今回のDisc Aを聴いて、ichigoさんはこの11年でシンガーとして大きく進化されたことを感じました。

ichigo:そうですかねぇ。シンガーとしての成長というよりは、アスリートに近い感じで取り組んでいるなと思います。もう考えなくていいから。考えないといけないことは、考えることが好きな岸田とはやぴ~(G)が考えとけと思っているから(笑)。私は2人が考えてやってほしいと言われたことを常に実現できることが大事かなと思っています。そういう意味で、アスリートっぽいんですよね。

岸田:でも、今の話を台無しにすることを言いますけど、ichigoさんが10年にわたって進化したという話が出たじゃないですか。でも、ichigoさんはたぶん元々できたんですよ。やれと言われなかっただけだと思う。

ichigo:うん、そうだと思う。

岸田:みんな、こういう歌を歌いたい、こういう演奏をしたいと思ってがんばっているから(笑)。

ichigo:でも新しいことができるようにならないとつまらないから。だから、新しいことに挑戦したいという気持ちは常にあって、これをやりなさいと言われて拒否することもないです。

──職人気質といえますね。話を時代の変化に戻しますが、また時代が変わって岸田さんにとってヌルいタイム感の音楽が主流になったらどうされますか?

岸田:今のところロックやポピュラー・ミュージックの歴史上、タイム感が遅くなったことはないんですよ。BPM(楽曲のテンポ)が落ちたことはあっても、体感の速度感がそれまでよりも遅くなったことは一度もない。速く鳴り続けているんです。だって、僕の中で今の最速はヒップホップですから。実際のテンポではなくて、ノリのタイム感。

──おおっ、鋭いことを言われますね。

岸田:なんならヒップホップに引っ張られて、他のジャンルのタイム感も速くなりつつある。EDMも速いけど、一番速いのはやっぱりヒップホップかな。彼らは実際にBPMを速くする限界を超えて、体感さえ速ければBPMは遅くてもいいから、いかに体感を速くするかを考えて作っているんだと思う。だから、もう過去最速くらいの速さになっていますよね。そんなふうに時代は常に速くなる方向に進んでいるので、僕が時代に着いていけなくなる日は、速さが理解できなくなる日だと思います。

──体感が常に速くなってきているというのは、たしかにそうだと思います。それにしても岸田さんは深く音楽を分析されていて、岸田教団&THE明星ロケッツが11年にわたってアニメ曲を作ってきたことも頷けます。

岸田:なぜ、そうできたかということも、僕は理由がわかっています。僕は時代というのはヌルッと変わると思っているんですよ。ドラスティックな出来事があって一気に変わるわけではない。これまで第一線にいたアーティストが少しずつ後退していったり、仕事を頼まれていた人が頼まれなくなったり、最初の頃はよくわからない音楽だと言われていた若い世代が作った音楽がいつの間にかカッコいいと言われるようになったりというふうに、ヌルヌルッと変わっていく。だから、油断しているとマジで自分は人からいっさい批判されないまま、いつの間にか時代遅れになってしまうんです。時代というのは、いついかなるときでもこっちで意識して見ていないと知らない間に変わってしまう。それは、常に感じています。

ichigo:私は音を変えられるわけじゃないから、自分で変えられる部分は少ないんですよね。そういう中で私が思っているのは、ここまでの話で出たように岸田はリズムに対してシビアだし、最近の岸田教団&THE明星ロケッツの曲は言葉が詰まっている歌が多いから、それに対応していかないといけないということだけです。今回のアルバムの再録曲をレコーディングするときに、岸田にしっかりやれと言われて歌ったので、今までで一番リズム面は厳しかった。本当に、できるまで歌いました。

──ボーカルはリズム楽器の側面もありますよね。再録の話が出たことですし、続いて『異世界転生したらベストアルバムでした。』のDisc Bについて話しましょう。こちらは、過去曲からセレクトした楽曲をあらためてレコーディングしたトラックが収められています。まず、選曲はどうやって決めましたか?

岸田: NBCユニバーサルさんに再度移籍するので、忖度を多分に効かせつつという(笑)。

ichigo:NBCユニバーサル時代に出していたアルバムから、ちょっと多めの選曲になっております(笑)。



岸田:自分的に悔いが残っている曲を中心に拾ったという感じですね。そもそもこういう企画をやりたいと言いだした理由が、僕は定期的に自分のバンドの音楽の勢いやパワー感が落ちていないかチェックしているんです。見え方とかの部分ではなくて、純粋にバンドで鳴らしている音の部分の話です。勢いやパワー感が落ちるほどポップになっていくんですけど、岸田教団&THE明星ロケッツはちょっとポップになり過ぎたなと思って。「nameless story」(2020年1月)を出した頃は特にそうで、ポップだし、キレもいいし、出来もよくて好きだけど、これはこれで終わりだなと思ったんです。これじゃない道を探すためには、落ちている勢いや昔持っていたある種の粗暴さ、凶暴さみたいなものを取り戻す必要があった。でも、取り戻そうと思って取り戻せるものではないじゃないですか。そのためには粗暴さや凶暴さがあった頃の曲を録り直せばいいんですよ。そうすれば、必然的に前と比べますよね。それで、これじゃダメだなと思うところは直しますよね。それを繰り返していくと、なにがあれば当時と近い感じになるのか、そして当時よりもよくなるのかが見える。それを、1回しっかりやりたかったんです。

ichigo:私は、基本的に再録は好きなんですよ。だって、カラオケって楽しいじゃないですか。それは知っている曲を歌うからで、いつもは初めて聴く曲をレコーディングするから大変なんです。歌い込んできている曲をレコーディングできるというのはすごく嬉しいことだから、そもそも再録は好きなんですよね。ただ、オリジナルのニュアンスを残さないといけないというのがあって、それが私にとって気持ちがいいことだけではないんです。たとえば、今はピョンと飛べるところでも昔は助走をつけないと飛べなかったところとかがあって、ピョンと飛びたいけど、それだと岸田に「おいっ」と言われるんです。なので、飛べるけど、昔みたいにあえて助走をつけて飛ぶ…みたいな作業をしないといけなかったから再録は楽しいけど、気持ちいいだけではなかったです。気持ちいいと、気持ちよくないの半々くらいな感じでした。

──やはりichigoさんは、すごいです。楽に飛べるのに、あえて助走をつけて…というのはかなり難しいことのような気がします。

ichigo:難しいです。今回わりと印象的だったのは「HIGHSCHOOL OF THE DEAD」を歌っているときに、あの曲はすごく難しい曲だから意気込んで歌うんですけど、そうすると違うんですよ。岸田に、「もっと力を抜けないか」とか「もうちょっとナメた態度で歌ってほしい」とか言われるという(笑)。

岸田:だって、当時のichigoさん、そんなに本気じゃなかったでしょう…みたいな(笑)。

ichigo:う、うん(笑)。それで、なるほどと思うけど、今の自分はそんなにナメていないわけですよ。どうしようかなと思って、ポケットに手を突っ込んで、ちょっと重心を後ろにして歌ったら、「今のよかった」と言われました(笑)。

岸田:本当に、よかったんです(笑)。でも、姿勢で声は変わるわけだから、間違っていないと思う。


──プレイヤーというのは熟成した最新の自分の姿を見せたくなるものですが、楽曲の世界観を重視したというのは本当にさすがです。しっかりとした目的意識を持って取組んだことで、Disc Bの再録トラックはオリジナルの魅力を保ったまま、より研ぎ澄まされた仕上がりになっていますね。

岸田:僕も、そう思っています。僕の中でバンドというのは最初に得た勢いみたいなものでカタパルトからバーンと飛んでいって、勢いがなくなったら墜落するようなイメージなんですよ。僕は前々からそれがすごく嫌で、音楽というのはそういうものではなくて、バンドの勢いとかにも理由があると思っていたんです。若い頃はなにも知らずに全力でやっていたけど、いろんなことを知ったり、工夫をしたりすることが積み重なって、自分達がなりたかった自分達になった結果、本当に一番最初に夢見た姿ではなくなっているという。それが本当に嫌で、僕は岸田教団&THE明星ロケッツは、そうしたくないんです。だから、最近はまたドラスティックに変えようと思っている時期ですね。

──それが冒頭に言った、次にやりたいことですね。

岸田:そう。再録というと、今のライブの空気感をパッケージしましたということが多いじゃないですか。僕は今自分達がやっているライブではなくて、むしろこれから自分達がやりたいライブをパッケージしたかったんです。具体的にいうとね、今まで同期とかクリックとかをちゃんと入れてJ-POPバンドらしく、J-POPのアニソンとか同人といった様々なものに配慮したライブをしていたけど、飽きました(笑)。音楽というのは結局体感だと思うんですよ。弾いた人がなにを感じたかということしか大事じゃないと考えたときに、僕らがメチャクチャ音楽的な知識が豊富で、あらゆるコードを使えて、音階とかも全部把握できる、それこそ音大を出ているようなメンバーが揃っていれば正統的な音楽を極められるんですよね。

ichigo:そうだね。でも、私達は…。

岸田:そうじゃない。その代わりじゃないけど、正統的な音楽にはないエネルギーだったり、突破力みたいなものを持っているわけですよ。ちゃんとした理屈とは違う理屈で動いているものにも、そこにはそれなりの理屈があると思う。それがポピュラー・ミュージックとかロックバンドの世界だと思っていて、自分達はこっち側の存在なのに、その反対側のよさを採り入れ続けるとバランスが変わっていきますよね。50:50くらいまでならいいかなと思っていたけど、いつの間にか70~80くらい、ちゃんとしているほうに寄っていたんです。だって楽だし、キッチリできるし、安心感があって、お客さん達も悪いと感じることがないし、破綻しないし…というふうに、もう悪いことはなにもないんですよ。でも、それがよくないんですよね、たぶん。




──それで、バランスを修正したくなったんですね。たしかに、今作のDisc Bを聴いて、より生々しいグルーブを活かしていることを感じましたし、そういうアプローチが昨今の旬のような気もします。

岸田:そう。キッチリしたグルーブは、もうみんな聴き飽きているんですよ。そんなものはいくらでもあるし、誰でもできるから。そういうものではなくて、人間味のあるグルーブをみんな求めているし、僕はそれがカッコいいと思っているんです。サウンドも一時期のバキバキのドンシャリよりもミッドに寄ってきているし。そういうものを今回の再録トラックには詰め込んだつもりです。

ichigo:ここから後5年、10年バンドをやっていくためには個性がどうしても必要になってくると思うんですよね。だって、40代のロックバンドなんて、ここでしか見れないものを見せないとやっていけないだろうから。で、今私達はツアーをしていて2本終わったところなんですけど、岸田が言った新しさを打ち出そうとしているんです。具体的にいうと、ライブ当日にいきなりクリックを外されました(笑)。

──ええっ、マジですか?

ichigo:はい(笑)。楽器の聴こえ方でピッチの取り方は変わってしまうので、最近はライブのときはイヤモニにドラムとクリック、それにガイドを薄っすら返してもらって、あとはザックリ聴こえてくるギターとベースで歌うというのに慣れようとしていたんですね。そこにきて、いきなりクリックを外されたから、えっヒドいと思って(笑)。そういうライブのやり方は大成功するか、大失敗するかのどっちかで、曲によっては大失敗しているんです。ギターはうるさいしドラムはうるさいしで、あまりやりたくなかったけど、やらざるを得ないことになっています(笑)。だからこそ、今まであまりしていなかったメンバーとのステージ上でのコミュニケーションみたいなものがどうしても必要になってきて、それはいいことなんじゃないかなと思っています。

岸田:クリックを外すというのはライブのゲネプロが終わった後に、急に僕が言いだしたんです。ゲネプロが終わった瞬間に「これは違うな」「つまらないな」と思って、みっちゃんのところに歩いていって、「このまま当日を迎えるなら、俺は同期ありでは演奏しないですよ」といったら外してくれました(笑)。

ichigo:脅すなよ(笑)。

岸田:クリックを外して1本目のライブをしたときは、とんでもなかったです。まず、やっぱり歌の音程は合わないですよね。次に、曲のテンポが速いし、曲中で揺れる。でも、すごく楽しかったんです。なにより、それまでは合わせようとして演奏していたけど、僕は合わせようとしているものは合わないと思っているんですよ。音程を当てようとしたものは当たらないし、リズムも合わせようとしたものは合わない。勝手に合わないといけないんです。それぞれが持っているリズムがあって、それがバンドで合流したときに合っているというのが1本目のライブで出たんです。でも、さすがにライブが終わった後PAさんが青い顔をしてきて、「岸田さん、曲によってとんでもないことになっているから」と言いました(笑)。ichigoさんは本当に自分の声が聴こえない曲があったみたいなんですよね。というのは、みっちゃんがクリックがないことで楽しくなっちゃって、史上最高の音量でぶっ叩いたんです(笑)。

ichigo:もうね、私はハイハットの音しか聴こえなかった(笑)。イヤモニ、壊れたかと思った(笑)。はやぴ~は、キーを間違えたままソロを弾いたりするし(笑)。もうちょっと自分の音、聴けよっていう(笑)。その中で、私はガイドなしで歌わないといけないわけですよ。

岸田:そういう失敗を経て、2本目からドラムの周りにアクリル板を立てようということになりました(笑)。

──大変なところも多々あるかと思いますが、昔ながらのスタイルを採っているという話を聞くとワクワクします。ということは10月28日に控えているZepp Diver Cityのツアー・ファイナルも、新しい形でライブをされるんですね?

岸田:します。アクリル板を立てて、みっちゃんの音が全体を侵食しないようにしながら、ろくに同期も入っていないような荒々しいライブをやります。最近の岸田教団&THE明星ロケッツはなんかおとなしくなって、つまらないなと思っている人はぜひ来てほしいですね。きっと満足してもらえると思います。

ichigo:『異世界転生したらベストアルバムでした。』を作って、その後のリハからできるようになったことがいくつかあるんです。これはわりと毎年言っているなと思いますけど、できるようになったことが常にあるというのは幸せだなと思うんですよ。今回は自分の体感でリズムを取ったり、メンバーとコミュニケーションを取ったりすることですよね。それを大きいステージで見せられたらいいなと思っています。今の自分達のライブは今までとはまた違ったよさを楽しんでもらえると思っていて、音楽を聴きにくるというよりはバンドを見にくる感覚で来てほしいですね。動物園にいくみたいな気持ちで来てもらえばと思います(笑)。

岸田:元々、僕らは動物園と評されていたからね。久しぶりに見たら、なんか動物園度があがってる…みたいな(笑)。

ichigo:そうそう(笑)。あと、今回のツアーは久しぶりの有観客ライブで、1本目の大阪の日は本当に嬉しかった。メンバー全員ウワッて浮足立ったし、私も最後に嬉しくて泣いちゃいました。名古屋も嬉しかったし、東京でも久しぶりに皆さんと会えることをすごく楽しみにしています。

取材・文◎村上孝之


『異世界転生したらベストアルバムでした。』

2021年10月20日発売
通常盤 CD2枚 GNCA-1603 価格:¥4,000+税
初回限定盤 CD2枚+特典Blu-ray1枚 GNCA-1602 価格:¥6,500+税
あにばーさる限定盤 CD2枚+特典Blu-ray1枚+グッズ GNCT-0026 価格:¥8,500+税
Disc A
1.HIGHSCHOOL OF THE DEAD
2.ストライク・ザ・ブラッド
3.GATE~それは暁のように~
4.GATEⅡ~世界を超えて~
5.天鏡のアルデラミン
6.Blood on the EDGE
7.ストレイ
8.シリウス
9.Blood and Emotions
10.nameless story
11.暁のカレイドブラッド
12.HIGHSCHOOL OF THE DEAD [2021] ※再レコーディング音源

Disc B
1.ナイトウォッチ ※再レコーディング音源
2.POPSENSE ※再レコーディング音源
3.ワールド・エンド・エコノミカ ※再レコーディング音源
4.over planet ※再レコーディング音源
5.ハンゲツトウゲ ※再レコーディング音源
6.another ※再レコーディング音源
7.Hack&Slash ※再レコーディング音源
8.希望の歌 ※再レコーディング音源
9.Reboot:RAVEN ※再レコーディング音源

Blu-ray(初回限定盤、あにばーさる限定盤共通)
・HIGHSCHOOL OF THE DEAD[2021]MUSIC VIDEO
・岸田教団&THE明星ロケッツZeppDiverCity 配信ゴリラライブ映像
 1.Hack on the world
 2.セブンスワールド
 3.Colorful
 4.暁を映して
 5.GATE II~世界を超えて~
 6.GATE~それは暁のように~
 7.HIGHSCHOOL OF THE DEAD
 8.Losers
 9.夢は時空を越えて
 10.Super Sonic Speed Star
 11.YU-MU
 12.ラストリモート
 13.DesireDrive
 14.明星ロケット
 15.nameless story
 16.星空ロジック


▲通常盤


▲初回限定盤


▲あにばーさる限定盤

◆た岸田教団&THE明星ロケッツ・オフィシャルサイト
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