【インタビュー】近田春夫×イリア(ジューシィ・フルーツ)、レジェンド達の裏話

ポスト

■「絶対ヒットさせなきゃ!」みたいな気は全然なかった

──「ロックンロールが大好きで」にはイリアさんがギターで参加されていますよね。

イリア:いきなり連絡をいただいたような……。

近田:さっきお話しした通りハルヲフォンのオリジナルギタリストの小林克己が参加してないんで、活躍中でライブをするときはギターなしのキーボードトリオでやれるようにアレンジをしてあるんですけども、特に「ロックンロールが大好きで」はやっぱりエレキギター中心の曲にしたかったんですよ。で、「誰かいいやついないかな」って3人で相談してく中で「イリアさんにやってもらおうよ」って話になって。

イリア:高木さんと恒田さんにもすっごくご縁があって、わたし、高木さんのおかげで近田さんのバックをやるようになったんですよ。いいんですか? そんな話しても。

──ぜひお願いします。

イリア:ガールズを脱退して、わたしはもうバンドをやるつもりもなく、普通に就職しようかなと思ってたんです。ちょうど近田さんもハルヲフォンを解散した年で、高木さんが「お遊びでバンドやろうよ」って誘ってくれて、たまたまセッションバンドっていう名前のバンドを月イチでライブするぐらいの感じでやってたんですけど、そのうち「近田さんが会いたがってる」って言われて事務所の方にお会いして、「ソロでやるからバックバンドをやってくれないか」と言われて、やってみようかなと思ったという経緯です。それがBEEFで、のちにジューシィ・フルーツとしてデビューするバンドですね。それから恒田さんともなんだかんだでずっとつながってて。

近田:今は恒田のほうが深いよね。

イリア:しょっちゅう会いますね。私は彼と鼓絆(COHAN)っていう和太鼓のグループをやってて、そこにギターで呼ばれたのに和太鼓も叩くようになっちゃったんですけど(笑)。家が近いこともあって、いろいろやってます。

近田:なんか縁があるんだよね。あと、やっぱりイリアさんのギターって独特なんだよ。聴いた瞬間に「この人の音だ」ってわかるものがあるっていう。僕らは昔から知ってるから「絶対合うよね」っていうことでお願いしたんですけど、結果、ソロもサイドギターもバシッと決まって、すばらしい出来になりました。

イリア:楽しいレコーディングでした。BEEFのときからずっと近田さんはわたしにとってはプロデューサーっていう感じなので、とりあえずスタジオに入ってアドバイスをいだたこうと思ってたんです。音色とか弾き方もけっこうアドバイスしてもらって。

近田:そんなに言ったっけ? お任せだったような気がするんだけど。

イリア:(笑)。待ってる間にフレーズを考えたりは自分でしましたけど、「『太陽にほえろ』のリフを入れよう」とか。近田さんってギタリストじゃないのに、ギターにすごく思い入れが強いようにわたしには見えるんですよ。

近田:エレキには強いよ、俺は。

イリア:だからしょっちゅうエアギターで説明してくれる(笑)。それがまた的確なんですよね。

近田:僕ね、全然ギター弾けないんですよ。なんだけど、ギタリストの気持ちになって考えるのは好きなの。本当に弾けるかどうかはわかんないけど、(イリアは)僕の気持ちを汲んで応えてくれるから。

イリア:「クィィィ~ン!」とかやってますよね。エアギター、口エレキでだいたい伝わるから。

近田:そうそう。口がいちばん伝わるんだよ。


──エレキギターに思い入れがあるのは、やっぱり60年代にベンチャーズなどのロックンロールに衝撃を受けたからですか?

近田:自分はキーボードプレイヤーなんで、ハモンドオルガンとか好きな音色もいっぱいあるんだけど、まぁ世代的なものもあるのかもしれないけど、ロック=エレキみたいなところがあるよね。やっぱりエレキがガーンと鳴ってくんないと。イリアさんもガーンと鳴らしてくれるから。その男らしさがね。

イリア:はい。よく男前って言われます。男の人がほとんどのバンドの中に入ってもやっていけたのは、この性格が幸いしたのかなとは思います。

近田:常に仕切ってたからね。

イリア:仕切ってないですよ(笑)!

近田:つまりリーダー向きの人なんですよ。

イリア:えー? 自分は全然そう思わないです。

近田:慕ってるもん、若いメンバーが。

──ジューシィの2曲も、特に「大恋愛時代」の掛け合いとか、ユーモアいっぱいで楽しくて、さすがだなと思いました。

イリア:せっかく男女のボーカルがいるから、そのよさは利用したいですよね。掛け合いとか役割分担は常に取り入れたいと思っているので。

──言葉選びにユーモアがあり、かつ心が温かくなるというか。

近田:そうなんだよ。やっぱり昔と今のイリアさんが違うのはさ、円満な結婚をされて、お子さんを育て上げて、その中で歌う“やっぱり あなたが 好き”っていうのはね、あれ旦那さんに対してですよね?

イリア:あー……。

近田:あれがなんだかエロくてね(笑)。エロいっていうか想像力を刺激して、すごく頭に残るんですよ。

イリア:でも言葉の面白さを植えつけてくれたのは近田さんですよ。ジューシィのときから、言葉遊び的な面白い曲をいっぱい書いてくれたので、それを歌ってきて、自然に引き継いじゃってますよね。

近田:最初の出会い方のせいもあるよね。この人、まったく歌なんてうたってなかったんだから。

イリア:そうですよー。近田さんがレコード会社を移籍してリリースができなかったから、バックバンドが先に出すって話になって、メンバーも名前も替えて、急きょ歌わされたんですから。

近田:当時のディレクターと「僕が歌えないからインストでやります?」「ギターの子きれいだから、あの子に歌わせりゃいいじゃん」「それもそうだね」って話してさ(笑)。

イリア:軽い! だから「ジェニーはご機嫌ななめ」はあんな声しか出なかったんです。

近田:そもそも女の子の声域がよくわかんないまま作った曲だし、リフの関係でキーを変えにくいんですよ。イリアさんの地声でも出せる音程なんだけど、ちょっと高いんだよね。で、完全にファルセットにするにはちょっと低い。その中途半端なところがちょうどよかったっていう。

イリア:レコーディングの前日に「明日どうしようかなー」って思ってお風呂で鼻歌でうたってて、「これでいいか」と思ってスタジオで歌ったら「いいねいいね!」って(笑)。

近田:全体にそういう感じ。遊んでたよね。

イリア:「絶対ヒットさせなきゃ!」みたいな気は全然なかったですよね。


──いいなー。そうして作った「ジェニーはご機嫌ななめ」が37万枚でしょう。

イリア:世の中わかんないもんだなって思いましたよ。

近田:いい時代だったんだろうね。

イリア:そうですね。楽しかったですよ、だから。

近田:そこから今日までずっと歌いながらギターっていうスタイルで。

イリア:今日は珍しくミニスカート穿いてきましたけど、日常生活ではほとんど穿かないんですよ。ステージではやっぱり、ギターを弾きながらハイヒールとミニスカート、というのはキープしたいなと。

──お話をうかがって、それぞれの曲もアルバム全体も、昔からのつかず離れずのお付き合いが生んだものであることがよくわかりました。

近田:そうだね。クリエイションの竹田和夫なんかもね、70年代初めに内田裕也さんを通じて知り合って、しょっちゅう一緒にツアーしたりしてたんですよ。イリアさんとは40年ちょっとぐらいだけど、竹田とは50年ぐらいの付き合いだから。クリエイションもジューシィも、わりと僕よりも恒田がずっと仲がよくてね。彼は人脈豊富だよね。

──高木貴司さんと恒田義見さんがこのアルバムの立役者なんですね。最後に10月16日に開催される古希(70歳)記念イベント<近田春夫 & ageHa Present B.P.M. Syndicate>のことも話していただけますか?

近田:あ、宣伝してもいいんですか? 本当は9月11日にやる予定で、緊急事態宣言が延長されちゃったんでいったんバラして延期したんですけど、ありがたいことにほとんどのメンバーは集結してくれることになりました。小泉今日子さんが「Fade Out」を歌ってくれるんで、イリアさんにもバックでギターを弾いていただくことになってます。

イリア:はい。男前にやれと言われております。

──「Fade Out」は僕も好きです。いい曲ですよね。

イリア:いい曲ですよね。

近田:自分で言うのもなんだけど、いい曲だよね(笑)。ジューシィに作ってたような曲とは全然違ってね。僕は時代時代でけっこう作り方変えちゃうから。

──それが近田さんのすごいところです。出演者にはラッパーもDJもいるし。

近田:そうとう網羅してると思いますよ。ヒップホップからトランス、テクノ。今回集結してくれる人は僕が2000年代以降、いわゆる四つ打ちをやるようになってからの人が多いですね。大貫憲章なんかは竹田和夫と同じぐらい古いけどね。(高木)完ちゃんとか(藤原)ヒロシとかYOU(THE ROCK☆)ちゃんとかジョニオ(高橋盾)とか、懐かしさどうこうよりも、今も元気でやれてる人ばっかりなのがいいかなと。

──イリアさんも何か告知事項がありましたら。

イリア:10月3日に二子玉川のGemini Theaterというライブハウスで、RED WARRIORSのダイアモンド☆ユカイさんとシャケさんが一緒にやってるDiamond Shakeっていうユニットと2マンライブをやります。すでにソールドアウトしているんですけど、もし緊急事態宣言が解除されたらキャパ増やすかもしれないので、一応。

近田:あと宣伝ついでで、こないだ『筒美京平 ヒットメーカーの秘密』(文春新書)という本を出したんですよ。おかげさまで売れ行き好調だし、自分で言うのもなんだけど、けっこう面白い本なんで、よろしくお願いします。こうして並べてみるとつながりがないね、僕(笑)。

──ないようであると思いますが、イリアさんはどう評価されますか?

イリア:近田さんって頭もいいし回転も早いし、すごい人だと思うんですけど、根っこには人を楽しませようとか、何かいたずらして笑わせちゃえとか、そういう精神を昔から感じるんですよね。だからまわりを愉快にさせて惹きつけるんじゃないかと。わたしの中では、いくつになっても「お茶目ないたずらっ子」っていうイメージです。

近田:70になってこれだからね(笑)。

取材・文◎高岡洋詞

近田春夫 イベント情報

<B.P.M. Syndicate>近田春夫の音楽活動50周年と70歳を迎えた古希を祝うイベント

■開催日時
2021. 10/16(sat)
OPEN 23:00 ‒ CLOSE 6:00
■会場 : 新木場 ageHa
■料金
当日 4,500円
前売チケット ¥3,800 (10/15まで販売)
配信チケット ¥2,000 (アーカイブで1週間視聴可能、購入者限定特典映像もあり)

■ラインナップ
LIVE :
小泉今日子
高木完
イリア
YOU THE ROCK★
LUNASUN (近田春夫&OMB)
THE HENTAI GANG
(HENTAICAMERAMAN♡ & YOU THE ROCK★ & ゆるふわギャング)

TALK SESSION :
藤原ヒロシ

DJ :
TSUYOSHI SUZUKI
大貫憲章 / KENSHO ONUKI (KENROCKS)
JUN TAKAHASHI (UNDERCOVER)

MC :
ブライアン・バートン・ルイス

and many more!!

『筒美京平 大ヒットメーカーの秘密』

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166613250


ジューシィ・フルーツ イベント情報

<SETAGAYA ROCK Fes>
■出演
・Diamond Shake
・ジューシィ・フルーツ

日時:2021年10月3日(日) 開場15:30 開演16:30
料金:前売 6,000円/当日 6,500円
場所:二子玉川 GEMINI Theater

◆Diamond Shake
レッド・ウォーリァーズのダイアモンド☆ユカイと木暮“shake”武彦の新バンド
Member
ダイアモンド☆ユカイ(Vo, AG, Harp)
木暮“shake”武彦(EG, Cho) 
Dr.kyOn(Key, Cho)
平石一成(EB, Cho)
大島治彦(Dr, Cho)

この記事をポスト

この記事の関連情報