【インタビュー】近田春夫×イリア(ジューシィ・フルーツ)、レジェンド達の裏話

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東京・世田谷区で2010年に発足、class with Battle Cryや西城秀樹などをリリースしてきたレコーディングスタジオ/レーベルBattle Cry Soundが、9月15日にコンピレーションアルバム『レジェンド達のララバイ』を発売した。

◆インタビュー動画

本作にはクリエイション、近田春夫&ハルヲフォン、ジューシィ・フルーツと、1970~80年代から今も現役で活躍する3バンドが参加。それぞれ未音源化の2曲ずつを同スタジオで新録した。しかも、高音質アナログレコードで、同梱のエムカードで各音源のデータと30分超の特典映像をストリーミング、ダウンロードできるという仕様である。

現在の音楽制作はパソコンを使用して自宅スタジオで仕上げるのが主流な中、今回はトップレベルのレコーディングスタジオに各バンドが集まり、昔ながらのスタイルでバンドメンバーが切磋琢磨しながら作り出した作品達が詰め込まれている。

当時を知る同世代の音楽ファンから、若い世代の本物の音を求めている音楽ファンにもぜひ聴いていただきたい音楽がこの『レジェンド達のララバイ』である。

同アルバム実現の経緯を聞くべく“レジェンド達”から近田春夫とイリア(ジューシィ・フルーツ)の二人にインタビュー。制作にまつわるこぼれ話から往年の愉快なエピソードまで、話題は多岐に及んだ。

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■「昔の名前で出ている」ところに意味がある

──『レジェンド達のララバイ』は、どういう経緯でできたアルバムなんでしょうか?

イリア:アルバムを企画したメンバーに、クリエイションの高木貴司(Dr)がいたんですよ。……あ、呼び捨てしちゃった(笑)。

近田:いいんじゃん?

イリア:呼び捨てしちゃうぐらいの古い付き合いなんですよ。

近田:高木貴司は昔、ロッキーズというバンドにいてね。

イリア:わたしがガールズというバンドをやってたか、やる前か。そのぐらいからの知り合いなんです。頻繁に会うわけじゃないけど、なんとなくずっと近くにはいるっていうゆるい関係が続いていて。近田さんもそんな感じでしたよね。

近田:昔は今と違って、東京でロックバンドをやってる人の絶対的な人数が少なかったんですよ。だから、それこそクリエイションなんかもそうなんだけど、別に深い付き合いはなくても、友達の友達は友達みたいな感じでお互い楽屋に遊びに行ったりしててね。

イリア:だいたいが友達の友達でした。たぶん高木貴司と彼のブレーンの企画で、昔からやってて今も現役のバンドを集めてコンピレーションアルバムを作ることになって、わたしたちジューシィ・フルーツにもお声がかかったんです。ジューシィは1980年にデビューして1984年に解散したんですけど、10年ぐらい前からまた復活して、今も活動しているということで。

──クリエイションもハルヲフォンも一度解散していますよね。

近田:ハルヲフォンは1979年に一回解散して、それからも連絡は取り合ってたんだけど、2016~2017年ぐらいかな。手塚眞監督が『星くず兄弟の新たな伝説』(※近田の原案で1985年に作られた映画『星くず兄弟の伝説』のリブート版。2018年公開)を撮るっていうんで、イベントがらみでライブをやってくれないかっていう話が、監督とずっと付き合いがあった高木英一(B)経由で来たんですよ。僕は2008年にガンになってからライブは控えてたんだけど、ちょうどその話があったのが2017年の寛解したときでね。まだ体力に不安があったんで、半年間とにかく練習をして、ライブがうまくいったら続ける、ダメだったらそこで終わる、というような取り決めを3人でしたんですよ。結果はうまくいったんだけど、100%の自信はなかったし、ギターの小林克己が参加しなかったのもあって、「活躍中」って別の名前でライブ活動を始めたんです。

──そのときは近田春夫&ハルヲフォンを名乗らなかったと。

近田:で、そこそこちゃんとライブもしてたんですけども、今年の2月に大阪のライブハウスでクラスターが発生して、ライブハウスも一斉に自粛を始めちゃったじゃないですか。活躍中は2月25日に運よくライブをやれたけど、その翌日から自粛が始まったし、ハルヲフォンの前に一緒にゴジラっていうバンドをやってたアラン・メリルがニューヨークでコロナに感染して、3月29日に亡くなっちゃったこともあって、よけい用心深くなっちゃって、ギグも全部キャンセルしたわけです。


──コロナ禍のあおりがモロに直撃したんですね。

近田:バンドって毎週スタジオで練習しないと性能が落ちちゃうんだけど、貸しスタジオって防音機能があるところだから、もともと換気が悪いんだよね。しかも機材は使い回しだし、いくら消毒しててもやっぱり怖いってんで、リハもやめちゃって。それで「どうしようかな」ってウダウダ思ってたときにアルバムに参加してほしいって連絡があって。メンバー3人で相談して「いいよ」って返事したんですけども、高木貴司が言うには、ジューシィ・フルーツにしてもクリエイションにしても「昔の名前で出ている」ところに意味があると。僕らは活躍中っていうんだけど、「そこをなんとか近田春夫&ハルヲフォンに変えてくんねえかな」って言われて(笑)、メンバーに話したら意外にもあっさり「いいよ」って言うから、名前を変えてレコーディングしました。長くなりましたけども、そういう経緯でございます。

イリア:さっき近田さん、2017年に寛解って言ってましたよね。その年の11月にジューシィがわたしとトシ(高木利夫)の還暦ライブっていうのをやって、出演をお願いしたんですけど、ちょうどタイミングがよかったんですね。

近田:ジューシィ・フルーツのライブに出て久しぶりに歌ったんだけど、リハーサルのときから「俺、絶対昔より歌うまくなってんな」って思ってさ。そしたらジューシィのディレクターをやってたビクターの川口(法博)さんがツカツカッと寄ってきて「近田さん、いいっすね~。アルバム出しましょうよ」って調子のいいことを言うんだよ。リップサービスだろうと思って「曲を用意してくれればやるよ。俺がアイドルみたいに歌うだけでいいんなら」って答えたら、川口さんは本当にコンペやなんかで60曲ぐらい集めてくれたもんだから、引っ込みがつかなくなっちゃって(笑)。それで38年ぶりに『超冗談だから』(2018年)っていうソロアルバムを出したんですよ。

イリア:38年ぶり! ジューシィは『BITTERSWEET』(2013年)が34年ぶりでした(笑)。

近田:ジューシィのライブに呼ばれて「俺、歌うまくなってんな」って思ったことも、今回レコーディングしてもいいかなって思ったひとつのきっかけでしたね。ただハルヲフォンはわりとソロボーカルが少なくて、コーラスが多いんですよ。なんで今回はあんまり歌のうまさを生かせなかったね。

イリア:残念でしたね(笑)。


近田:ジューシィもコーラス多いよね。

イリア:コーラスのない曲はないですね。全員ソロでリードボーカル取れるぐらいの感じなので。それは近田さんがプロデュースしてくれてたころからのコンセプトですよね。

近田:だいたいハルヲフォンのころからコーラスをやるのが好きだったんだよ。恒田義見(Dr)なんか特に好きだから。

イリア:BEEFっていう近田さんのバックバンドでも、けっこうコーラスやってました。

近田:コーラスってね、楽しいんだよね。

イリア:わたしも好き。

近田:うまくいったときにね、楽器のアンサンブルとはまた違ううれしさがあってさ。楽器演奏しながらハモるとさ、すごく楽しいよね。

イリア:でもわたし忙しいんですよ。カッティングしながら歌うだけじゃなくてリードギターも弾くしね。足でエフェクターも踏んでるから、いろいろ大変で(笑)。

──ジューシィ・フルーツは今回の『レジェンド達のララバイ』で、「ツルピカ☆キラリン」と「大恋愛時代」、ハルヲフォンは「ロックンロールが大好きで」「愛のその」と2曲ずつ演奏されていますね。

イリア:「ツルピカ☆キラリン」は何年か前に作って、ライブでけっこう好評だったんです。タイトルで男性の歌と思わせておいて、いざ聴いたら女性が好きな人のために自分を磨く歌だっていう。“tsuru tsuru”とか“doki doki”とか“fuwa fuwa”とか、オノマトペをたっぷり盛り込んでます。『BITTERSWEET』のときも候補に上がってて、選曲もれしちゃったんですけど、いつか形にしたいなとは思ってました。「大恋愛時代」はもうちょっと新しい曲で、ライブでやったらノリがよかったので入れようと。この曲は「ビート・タイム」(1980年の1stアルバム『Drink!』収録)っていう曲がありましたでしょ。それが元になってるんです。リズムの感じとか。

近田:あ、そうなんだ。こっちの「ロックンロールが大好きで」はね、ハルヲフォンが解散した後だったかな、他のアーティストにプレゼンして落ちちゃった曲なんですよ。

イリア:この曲、昔から歌ってましたよね。

近田:やってないよ。

イリア:ステージではやってないけど、ジューシィのメンバーの前で鼻歌でうたってなかった?

近田:やってたかもしれないけど、覚えてないよ(笑)。

イリア:トシが言ってるの。「あの曲、近田さんいっつも歌ってたよな」って。たぶんBEEFのころか、ジューシィのプロデュースしてたころに作られたんじゃない?

近田:そうかもしれない。頭の“ロックンロールが大好きで 瞳のつぶらな娘”っていうのがさ、ものすごく田舎臭いじゃない(笑)。それを高木英一が気に入って、「あれは絶対レコードにしたほうがいい」って言うから、ちょっとメロディとか作り変えて、今回やりました。もう1曲の「愛のその」は活躍中になってから作ったんですけど、昔ディスコなんか行くとさ、シャカタクとか、ずっとインストゥルメンタルでサビだけ歌詞がついてる曲がよくあったじゃない。聴いてる人はそこだけ覚えてて、あとはわりとなんでもいいみたいな。あの方式は作るのが楽でいいなと思ったのと、意外と面白いかなっていうことで、サビだけ詞を入れたんですよ。

──そのサビの歌詞も面白いですね。

近田:日本語ってさ、イントネーションとか切り方が変だと違う意味に聞こえるじゃないですか。「あいのその」って聞くと布施明さんの「愛の園」みたいなイメージを持つと思うんだけど、これは「愛のその」、連体詞の「その」なんですよ。歌詞カード上では“愛のその言葉が”“胸にいまいましく”なんだけど、わざと変なところで切るから「なんか変だな」って思うような譜割に、わざとしたっていう。ちょっとしたいたずらですね。

──「愛のその」は「ロックンロールが大好きで」とは対照的な打ち込み曲で、編曲とギターはビブラトーンズ時代の同僚・窪田晴男さん。コーラスには鈴木さえ子さんと伊藤絵里子さんが参加しています。

近田:「ロックンロールが大好きで」が生演奏一発録りだから、もう1曲は正反対に徹底してアレンジした打ち込みでやろうって話になったときに、窪田晴男にお願いすることにしたんです。昔、人種熱とかビブラトーンズで一緒に活動してて、ひょんなことから大ゲンカしちゃってしばらく会わなかったりもしたんだけども、その後仲直りしてね。仕事を頼んだこともあるけど、自分のレコーディングでどうしても一回、窪田とやりたいっていう気持ちがずっとあったんですよ。

──強い思いがあったんですね。

近田:恒田と高木も同意してくれたし、窪田も二つ返事で引き受けてくれたんで、いっさい口を挟まずに完全に任せて、ここで初めて音を聴いたんですけども、思っていた以上に気持ちを汲んでくれて、すごくいい感じにできました。窪田が「絶対に女性コーラスがほしい」って言い出して、じゃあってことで、恒田がさえ子と絵里子に連絡をとってくれたんだけど、さえ子とはシネマをやるより前からの付き合いだし、絵里子も昔はファンみたいな子だったし、そのころからつかず離れずな感じでずっと仲よくしてきたんです。二人ともそれぞれお忙しいと思うんだけど、時間を割いて参加してくれました。

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