【インタビュー】シキドロップ、こぼれおちるものに耳を澄ましながら前進する「残響」

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■全部が大事なのに、どうしてもこぼれ落ちてしまうものがある

平牧:何かが悪いとか誰かが間違っているとか、あるいは合っているとか、今はそんなに価値があるものではないと思っていて、それよりも今は、明日も生きるということを選ばなきゃいけない。状況はそこまで差し迫ったものだと思うので、だからこそ音楽をやめてしまう人もいるわけだし、それでも夢を目指している人は、何かを捨てなきゃいけないこともあるだろうし。それがいいとか悪いとかではなく、美学でもなく、誰にも決められないことだと思うんですけど、そういう時代の中でこの歌がお守りのようにそこにあったら素敵だな、という思いもありました。

──うん。よくわかります。

平牧:僕の作る歌はずっとそうですけど、何かを提示しているだけで、「こうしよう」ではなく、「あなたはどう思う?」という歌なんですよね。

──でも、この曲の主人公は、最後に《こんな思いをしてまで 夢路を行くの》という歌詞を残して、何かを捨ててでも夢を選んでゆくんですよね。

平牧:実はその歌詞は、最後に付け足してあげたんです。その前の段落の、《バイバイ 君という光線》で終わらせようと思っていたんですけど、やっぱり歌として成立させたかったというのはありますね。「この人はなぜ、そこまでして夢を選ぶのか?」という、歌の落としどころとして、わかりやすいものを提示したかったというのはあります。「残響」の主人公は、ここまで年齢を重ねてきて、《大事な物が増え過ぎたね 気づけば長旅をして来た》と思っている。年齢を重ねて、守るものが増えてくると、強くなるという人もいると思うんですけど、僕は逆に弱くなると思うんですね。「残響」ではそっちの主人公を描きたくて、夢路という人生の旅を続けてきて、あれもこれも大事で、選べなくなってしまって、でも何かを選ばなければいけない時に、腕に抱えきれなくて、何かをすれば何かがこぼれ落ちてしまう。たぶん《バイバイ 君という光線》というのも、選んだわけではなく、こぼれ落ちてしまったのかなと思うんですね。

──ああ! なるほど。

平牧:全部が大事なものなのに、どうしてもこぼれ落ちてしまうものがある。そういう不条理を、怒りとして描くのではなく、この主人公は、スッと背を向けて歩いていく。バックにはゴッホが描いた星空がある、みたいなイメージなんですね。

──確かにこの歌には、「星月夜」がよく似合う気がする。

平牧:ゴッホの描く星空は、涙でにじんでいるように僕には見えるんですね。「夜のカフェテラス」とか。その「こぼれ落ちる」ということも、意識する人も、無意識の人もいるでしょうけど、僕もその中の一人で、コロナになってライブを中止せざるをえなくなったり、制限された活動の中で、何かを選んでいかなきゃいけない。それを「仕方ない」のひとことで感情を押し殺して、きれいに生きて行けるのか?というと、難しいと思うし、きれいな曲では終われないという感情がにじみ出た曲だなと思います。

──そうですね。まさに。

平牧:別に、この曲を聴いてもやもやしてほしいわけではないですけど、意味を考えてほしいんですよね。さっきの話みたいに、たとえば星の寿命が尽きて、超新星爆発が起きても、僕らがそれを知るのはずっとあとのことだし、大事なものを大事な時に、うまく扱えないことは本当に多いと思っていて。だからもしも今、この曲を聴く人たちのそばに大事なものがあるのなら、今一度その明るさに目を向けて、手の中の大事なものを慈しんでみましょうみたいな、そんなきれいな歌詞ではないですけど、インタビューできれいに言うならそういうメッセージですかね。それと、「自分もそうなりたい」という願いもあるので、それを歌詞にぶつけている感じはあります。それこそゴッホのように、絵の具をぶつけるように、歌詞を書いている節はありますね。

──今後のシキドロップの進む道を指し示す、大事な曲になったと思います。そしてもう一つ、大きなトピックとして、イラストレーターの「革蝉」さんがジャケットを手掛けている。初ですよね?

宇野:初です。革蝉さんも初だし、シキドロップがsakiyamaさん以外のイラストレーターの方と何かやるのも初ですね。今まで、sakiyamaさんとだけやらせていただいていて、ものすごく仲良くなって、チーム・シキドロップのようになっていたんですけど。

平牧:僕の中で革蝉さんは、sakiyamaさんと同時期ぐらいからずっと注目していたイラストレーターさんで、SNSでみつけたんですけど、その頃はお仕事が忙しくて、DMをクローズしていたんですよ。同時期にsakiyamaさんとご縁ができて、ご依頼させていただくことになるんですけど、このままずっと一緒にやっていて、sakiyamaさんがお忙しい時にはシキドロップの作品が出せないということもあるかもしれないし、今後のことを考えて選択肢を広げていきたいねという話をした時に、「そういえば革蝉さんのDMってまだクローズされてるのかな」と思って、見たら、開いてたんですよ。それでマネージャーさんに速攻連絡を取ってもらって、ご縁ができたという感じです。

▲シキドロップ/「残響」

宇野:もともとシキドロップが最初にミュージックビデオを作る時に、世界観に合う方々を何人か挙げさせてもらった時に、革蝉さんとsakiyamaさんの名前があったんだよね。念願の、という感じです。

平牧:めちゃくちゃうれしいです。

──革蝉さんの絵の、どんなところが好きなんですか。

平牧:僕の解釈ですけど、革蝉さんの絵のファンタジー性や、毒づいた中にも、生命に対する願いをすごく感じるんですね。sakiyamaさんはすべてがアンチテーゼという感じで、デザイン的にも洗練されているところが好きなんですけど、今回はコロナ禍だからこそ、歌詞の内容がけっこうリアルなので、せめて絵ぐらいはファンタジックに、ひそかな願いが込められているほうが素敵なのかなということをずっと考えていて、タイミングよく革蝉さんとご縁ができたので、お願いさせてもらいました。

宇野:ジャケット、めちゃめちゃかっこいいです。

平牧:まさに「残響」だよね。アーティストって、すごいなと思う。

宇野:言われなくても、そう思っちゃう。Zoomでやり取りさせてもらった時に、ああしたいこうしたいということを、1時間ちょっとぐらいお話して、出てきたものがこれで、まさに僕らの思っている通りの感じだった。

平牧:その場でiPadにタッチペンで描いて、見せてくれて。sakiyamaさんもすごいアイディアマンですけど、革蝉さんもすごいアイディアマンで、助けられました。シキドロップは本当に、クリエイターに恵まれていますね。ありがたいです。

──音楽も、絵も、楽しみながらも考えさせられる。一歩先へいざなってくれる感じが、シキドロップには常にある。今後の展開が待ち遠しいです。

平牧:ありがとうございます。今後もいろいろ出していく予定なので、楽しみにしていてほしいなと思います。

取材・文◎宮本英夫

デジタルシングル「残響」

2021年9月15日(水)配信スタート
[収録曲]
1. 残響
2. 残響(Instrumental)

Artist:shikidrop
Vocal:Yuto Uno
Lyrics & Music:Jin Hiramaki
Arrangement:Yuto Uno
Jacket Illustration:革蝉

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