【インタビュー】ザ・モアイズユー、蓄積された時間が音へ昇華する1stフルアルバム『Storage time』
大阪出身の3ピース・ロック・バンド、ザ・モアイズユーが2021年8月18日に1stフルアルバム『Storage time』をリリースした。2020年の4ヶ月連続配信シングルを経て、CDとしては約2年半ぶりの作品となる今作は、「秒針に振れて」から「Afterglow」まで、曲ごとに世界観を表現する巧みな演奏力と、歌の魅力を堪能できる聴き応えのあるアルバムとなっている。これまでにないチャレンジをして、バンドが今できるすべてを詰め込んだという13曲について、メンバーの3人に話を訊いた。
◆ ◆ ◆
■1つ1つの出来事を自分たちの中にためていって、
■1つの作品にしていく
──1stフルアルバム『Storage time』リリースから1ヶ月ほど経ちますが、反響や手応えはいかがですか?
本多真央(Vo.Gt):SNS上でも褒めていただいたり、結構反響はありますね。「秒針に振れて」のMVもいろんな方に観ていただいているようで、個人的にはちょっとホッとしてます。
以登田豪(Ba.Cho):全曲シングルで出せるんちゃうかっていうぐらいの曲を集めていたので、それなりに自信もあったんですけど、SNSで良い反響を見ることができたので僕もホッとしたところはありますね。今できることを最大限詰め込んだアルバムになってます。
オザキリョウ(Dr):自分たちが作ったアルバムの満足度でいえば、今出せることのMAXは出せたんじゃないかなっていう達成感はあります。
──アルバムには2020年に4ヶ月連続配信リリースした4曲も含まれていますが、この間、どんな流れでフルアルバム完成に至ったのでしょうか。
本多:フルアルバムを出そうという話は前からあったので、それを見越した上での4ヶ月連続配信リリースだったんです。その4曲を作った上で、残りのアルバム曲の制作期間に入ったんですけど、4曲が持っている力と、そこでカバーしていない音楽の幅を残りの新曲たちで広げて行って、1枚の作品を作ろうと思いました。
──タイトルの『Storage time』はどんな意味合いでつけたんですか?
本多:“蓄積時間”という言葉の意味があるんですけど、自分たちが1曲1曲作ってきたことを振り返ると、音楽をやっていて良い時もあれば悪いときもあって、楽しい思い出も悔しい思い出も存在するんです。ただ、どちらにしてもそういう思い出や感情1つ1つが存在してくれることによって、音楽の種となって楽曲が生まれていると思うんです。僕たちはそういう1つ1つの出来事をちゃんと自分たちの中にためていって、1つの作品にしていくべきだと思って『Storage time』と名付けました。
▲ザ・モアイズユー/『Storage time』
──「秒針に振れて」から「Afterglow」まで1枚通して聴いたときに、ストーリー性も感じながら聴くことができました。曲を書いている本多さん、以登田さんは曲に関して摺合わせみたいなことはしていたのでしょうか。
本多:いや、全然してないです(笑)。各々好きな曲を作って、デモ段階でアルバム候補曲が70曲ぐらいあったんですよ。そこから13曲を選んだので、とりあえず作って良い曲を引っ張ってきた感じです。
──それこそ、蓄積された曲の種が70曲あったわけですね。コロナ禍でリモートでのやり取りも多かったのではないかと思いますが、どのように完成させていったのですか?
本多:基本的に僕と以登田が作詞作曲をするので、まず先に作詞作曲者がギター、ベース、ドラムを全部打ち込みでワンコーラス作ってみて、それをメンバーに送って聴かせてからみんなでアレンジを加えていきました。ただいかんせん70曲あったので、その中からどれが良いかを絞って、それをみんなでアレンジして、さらにそこから絞っていきました。
──13曲って結構なボリュームですよね。サブスクで1曲ずつ聴くことが多い今、フルアルバムとしてどう1枚聴かせようと思っていましたか。
本多:確かに、サブスクもありますし、フルアルバムを1から順番に聴いていく人はそこまで多くないのかもしれないですけど、やっぱり自分は昔からCDでアルバムを頭から聴いていくのが好きっていうのがあるので。まず、そういう聴き方をする人たちを想定した上で曲順を組んでいきました。ただ、1曲目から13曲目までの道のりで飽きさせないようにどういう展開をしていくか、曲順はめちゃくちゃ悩みましたね。結果、上手いことパズルを組み合わせられたのかなって思っています。
以登田:初めてのフルアルバムなので、手探り状態だったんですけど、いざ自分が聴くときにどう感じるかも考えました。今までだったらサビが3回来るみたいな王道な構成の曲の作り方もあったんですけど、今回は「いいことばかりじゃないけれど、」っていう、今までにない2分ぐらいしかない曲も入れているんです。フルアルバムで聴いたときに、それぐらいのちょっと気軽に聴けるような曲もあった方が全体的な締まりが良くなるんじゃないかっていうことも考えました。
──フルアルバムだからこそ、良い意味で箸休め的な曲も作れたわけですね。オザキさんはフルアルバムとしての聴かせ方はどう意識していましたか。
オザキ:今回のアルバムに関しては、やっぱり僕たちがアーティストである以上、新しいチャレンジ的なものを聴かせたいという気持ちが第一にありました。その新しいチャレンジを曲の中でどう聴かせていくのかを色々話しながら作った13曲が集まっています。もともと各々がシンプルなものが好きだから、歌を大事に考えているし、そこの部分はなるべく外さないようにしています。ただ、どこかで「今までと違うな」って思ってもらいたいというのがあったので、それが伝わればいいかなっていうのが、僕自身のアルバムを通してのメッセージになっています。
──オザキさんご自身が特に今回チャレンジした部分を曲で挙げると?
オザキ:色々あるんですけど、1番顕著にわかりやすいのは「MUSIC!!」ですね。
──「MUSIC!!」は3曲目ですが、前半の2曲からガラッと雰囲気が変わって明るい曲ですね。バンドとしても新境地な曲でしょうか。
本多:ザ・モアイズユーの中では、今までで一番ポップに振り切った曲ですね。バンドとして今まで手の届いていない部分だし、どうせなら思いっきりポップにやりたかったのでブラス隊も入れて、3ピースバンドらしからぬアレンジにできたと思っています。
──これまでは3人の力だけでやろう、みたいなこだわりもあった?
以登田:そうですね。演奏するのが3人ですし、まずはそこをしっかりやろうということで前作までは3人の音しか入れてなかったんですけど、今回はその先に行こうという話はしていて、「挑戦」をコンセプトにしていたので。キーボードを入れたり、パーカッション系の音を入れたり、新しい僕らを聴かせることができていると思います。
オザキ:本多が言ったように、今までのザ・モアイズユーはこんなに明るいポップな感じはなかったですね。そういう意味ではポジティブになれる明るい曲を作れてよかったと思っています。色んな要素を取り込んだというのもあるんですけど、大きい場所でライブをやっている姿も想像して作っています。
──「MUSIC!!」のおおらかで明るいアレンジとは対照的に、その前の「秒針に振れて」と「すれ違い」は緻密なアレンジが施された曲に聴こえます。まず「秒針に振れて」は以登田さんによる曲ですが、以登田さんはアルバムを通して結構悲しみのある歌詞を書いてますよね。
以登田:僕はそもそも曲を作るときに、恋愛面とか上手くいってないことが曲になることが多いので、今回のアルバムでもそっちが多くなった感じですね。
──さきほど話に出た「いいことばかりじゃないけれど、」はその反動なのか、急に悟ったようにも聴こえます。
以登田:はははは(笑)。僕はこういうちょっと幸せ感のある曲を全然作ってこなかったので、今回は悲しい方面じゃなくて明るい曲も作ってみようと思いました。
──本多さんは「秒針に振れて」をどんな思いで歌っていますか?
本多:何よりもやっぱり歌の力がある曲だと思います。初めて聴かせてもらったときから、すごく切ない曲だなという思いがあったので、以登田が歌詞に込めた切なさ、曲に詰まっている空気をいかにブーストさせるかを自分なりに落とし込むかというのはむずかしい部分でもありました。歌詞がレコーディングの歌入れ直前にできたので、そこから自分の中に取り入れて表現するスピード感は大変だったという記憶がありますね。
──アレンジには繊細な演奏が求められたのではないですか。
本多:タイトルにかけて、時計を表現したいなと思っていたので、それに合わせて冒頭も時計の音で始まったりとか、ギターのバッキングの音も、聴き方によってはちょっと時計の音に聴こえるように工夫しています。
オザキ:ドラムのハイハットの刻む音も時計の音に近くしたかったので、なるべく手首で上手いことコントロールしたという意味では、繊細な演奏だったと思います。
──時計の音を別の音で入れることもできたと思うんですけど、そこは人力の演奏で表現することにこだわった?
オザキ:デジタルの方がちゃんとしてるしキレイかもしれないですけど、やっぱり人間が叩くから人間味があるというか。聴いてもらうのは人間なので、そこは自分が叩くドラムの音で聴いてほしいなって考えてましたね。
──ハイハットの刻みで言うと、「すれ違い」でも印象に残りました。
オザキ:オープンとクローズのキレみたいなところは大事にしたいなというのは「すれ違い」のデモの段階で思っていたので、たぶんそこは意識して演奏したと思います。
──疾走感のあるダンスチューンですけどガレージサウンドっぽい音でもあって、アルバムの中でもアレンジの面白さが際立ってると思います。
本多:この曲は、イントロが2つあるというか。頭に入っているイントロがもう1回、2番のサビ前で出てくるアレンジは、僕的にすごく気に入っていて、面白いアレンジだと思っています。
以登田:この曲は、僕自身が恋愛で自分からあんまり行けないけど望むだけ望んでるようなタイプの人間なので、そういう男の「なんとかしたいけどできない気持ち」を歌にしたいなと思って書きました。ただそれだけじゃなくて、曲としてはノリやすくすることで、そのギャップも面白い曲だと思います。
──メロディに対する言葉の乗せ方がすごく気持ち良いですけど、そこは意識していましたか?
以登田:そこはだいぶ意識しました。サビとかも韻を踏んでいたり、2番のAメロでちょっと詰める感じの言葉にしたり、後ろの演奏との絡みもだいぶ意識してました。
◆インタビュー(2)
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